日本国陸上自衛隊の多目的ミサイルシステム(Multi-Purpose Missile System)。実在する。
誘導弾全長 |
約2,000mm |
誘導弾直径 |
約160mm |
誘導弾重量 |
約60kg |
誘導方式 |
光ファイバーTVM赤外線画像 |
飛翔高度 |
100m~300m |
最大飛翔速度 |
85m/秒 |
最大有効射程 |
10,000m以上 |
射角 |
20°~90° |
射界 |
0°~360° |
開発 |
防衛省技術研究本部 |
製作 |
川崎重工 |
構成 |
情報処理装置(IPU) 射撃指揮装置(FCU) 地上誘導装置(GGU) 発射機(LAU) 装てん機(LDU) 観測器材(OPU) |
概要
陸上自衛隊で一番の変態装備と言っても問題がないような気がする装備である。
通称「96マルチ」、開発コードはATM-4。
戦車も上陸用舟艇も絶対殺すマンである。
特徴
本装備は、79式対舟艇対戦車誘導弾の後継として開発された。
誘導方式に世界で初めて光ファイバーを介した赤外線画像誘導を使用している。
なんと6輌で1セットを基本に編成されるような大掛かりなシステムであり、73式トラックに搭載されてる情報処理装置(IPU)と装填機(LDU)、高機動車に搭載される観測機材(OPU)、射撃指揮装置(FCU)、地動誘導装置(GGU)、発射機(LAU)で構成される。大掛かりだろ?
そんな本システムの攻撃プロセスを簡略化して紹介しよう。
1:観測員が観測機材で捉えた敵情やら火力調整所やらの前線指揮所からもたらされた目標情報が情報処理装置へ送られる。
2:目標の位置や種別といった情報へと処理。
3:射撃指揮装置へ情報が送られて、自動もしくはオペレーターの任意で目標を決定。
4:設定された目標への射撃命令が地上誘導装置へと送られる。
5:発射機から誘導弾が発射。
だいたいこんな感じである。
多目標対処能力もある。優先順位に沿った個別目標への連続的な攻撃も可能。
フェーズドアレイレーダーを用いた地対空ミサイルなら多目標処理能力を備えた装備もあるんだが、対戦車ミサイルでこれはかなり珍しい方。
流石に1986年から10年も掛けて開発しただけのことはある。諸外国のとは違うのだよ諸外国のとは。
これは射撃指揮装置から複数台の地上誘導装置への発射支持が可能であり、複数目標への同時攻撃が出来るわけで……つまり複数目標への同時攻撃が可能。
6輌編成というのは通常であり、観測機材とか一つに対して複数の射撃指揮装置へ送ることも出来るというわけで。12、24と6の倍数で増やす必要があるわけではない。
ちなみに発射機3基で京都全域をカバーできるらしい。富士教導団が広報で言ってた。
だが……これ新基軸と高性能を詰め込みすぎた結果、トラック2輌に高機動車4輌という大所帯化してしまった。
79式の後継のはずなんだが、もう全く別物の装備になっている。
正直な所、筆者としては地上誘導装置と発射機は一体化させても良かったと思うんだが……。
それすら難しいほどにシステムが巨大化してしまったのだろう。
目的を忘れてこだわりすぎた感がひしひしと伝わってくる。
いくら性能優先とはいえ無理矢理すぎやしないだろうか……
とはいえ、世界最強と言っても過言ではない対戦車装備にはなった。
対戦車ミサイルとしては別格すぎる約60kgという重量だから破壊力がでかい。しかも従来と比べて弾速も高速化されているから戦車や上陸用舟艇は当然として、掃海艇ですら破壊目標に含むことも出来るほどの威力を持った。
これ……タンデム弾頭じゃないんだぜ?
にもかかわらず爆発反応装甲を貫通した上で、戦車の正面装甲までぶち抜ける破壊力を持つという話があったりする。
少なくとも、爆発反応装甲を含む上部装甲は確実に貫通します。
敵勢力は、日本が島国だから上陸しようとする。
上陸を阻止しようと思ったら、水際防衛を担当する陸自としては、上陸用舟艇が主な目標になる。
上陸用舟艇を破壊しようと思ったら、携行可能である程度破壊力のある大型ミサイルが必要、という事になり、そのために79式対舟艇対戦車誘導弾が生まれたわけだが、第二世代対戦車ミサイルだから問題多数。
特にミサイルの速度と誘導方式が問題で、秒速200mでは最大射程の4kmに着弾するまでには20秒かかる。
しかも、その間射手は目標を捉え続ける必要がある。
更に誘導にミサイル後部のキセノンランプがつく代物だから、ミサイルそのものが放つ光だけでも十分に現在地が暴露される。
20秒もあれば発射地点に反撃もされるし、煙幕張って退避行動だって出来てしまう。
さぁどうしよう。
その答えが96マルチ。
まず射程距離が10kmを超えている。
従来のミサイルが約2kmから4kmなのに比べて、遥か遠くから攻撃できる。
最大の利点。それは、終末誘導における光ファイバーを用いた赤外線画像誘導である。
中間誘導は一般的な慣性誘導であるが、終末誘導は大量の画像転送が可能な光ファイバーを介して送られてくる赤外線画像をモニターしながら、命中まで手動もしくは自動で誘導可能。
だから射撃指揮装置や発射機などを全て敵からの見通し外となる位置に配置可能。
利点はまだある。妨害や欺瞞に強い。
光ファイバーによる有線誘導だから、無線誘導と違って、ECMの影響は受けにくい。
さらに煙幕などを展開しても、画像を見た射手が識別して、車体上部のエンジングリルとか目標のウィークポイントへ正確に誘導できる。
敵方のレーダー波検知器やレーダー検知器といったパッシブ型接近警報装置は完全に役立たずである。
たーだーし。
誘導弾1発約5,000万円也。戦車1両に使うのはもったいなさすぎる価格でございます。
本編でグ帝の戦車にぶっ放してますが……あれがチハと同等だったら当時の価格で大体15万前後、現代換算で1億2千万前後かな? ……うわぁもったいねぇ。
ちなみに
10式戦車はだいたい9.5億円ぐらいと言われてる。
一応補足しておくが、1940年と現在を比べると物価は約1,000倍で年収では約6,000倍。
これは今は機械加工が主流だが、当時はそもそもラインが違う。デジタル化してて精密機器が大量に入ってるというのもあるけど。
1セット当たりの価格も20~27億円と、大量配備が必要な対戦車装備とは思えないような超高価格である。
このため、37セットしか配備されてないまま生産終了。多分もう増えない。と思ったら、令和5年度予算にてまさかの61億円分の96式多目的誘導弾を再調達することが明らかになった。
ちなみに配備されてるのは、第4師団と第5旅団に北部方面対舟艇対戦車部隊の計3部隊のみである。
現在、第2師団の対舟艇対戦車中隊と北部・西部の両方面直轄の対舟艇対戦車隊には、1個対舟艇対戦車隊当たり8セット配備されている。
運用が複雑で調達コストも大きいが、師団長や旅団長の直轄部隊として運用した場合、生残性に優れた精密な火力を集中できるから、沿岸防備における水際撃破の主力、あるいは防御戦闘における対機甲戦闘の主軸として機能し得る装備であることは間違いない。
つまり、価格とシステム規模にさえ目を瞑れば、対戦車火器としては規格外の能力を持っているわけである。
アメリカのヤキマ演習場では、移動目標への最大射程射撃で、米兵を驚かせたんだそうな……
後継システム
ただまぁ、ここまでで書いたとおり、複数台を有線接続する必要があるため、速やかな部隊展開や陣地転換は難しい。
機動力が大事な現代戦においては、運用に工夫が必要になる。
光ファイバー誘導じゃないけど、技本で後継となる小型軽量な多目的誘導弾システムが研究中。
「将来ネットワーク型多目的誘導弾システム」という、米軍で計画中止になったNLOS-LSみたいなやつである。
この次世代誘導弾システムは、高機動車などの運搬性の高い車両に搭載する火器管制装置と、空輸は当然として、空中投下も可能な設置型の遠隔操作式誘導弾ランチャーを
自衛隊のネットワークシステムにリンクさせることで広範囲をすばやくカバーし、高い展開能力をもたせることを目指している。
ミサイルに関しても、多目標の自動索敵と識別や自立誘導能力を付与。
ネットワークを介した戦果確認能力を持たせ得ることを目指すなど、なんとも意欲的なシステムである。
最近は、軍民両用技術(Dual Use Technology)のおかげで、昔よりも性能向上とコスト削減が望めるし、本当に価格高騰しないことを願う。
参考資料
防衛省公式HP各資料 上記の画像元等
陸上自衛隊 車輌・装備ファイル デルタ出版
最新
自衛隊パーフェクトガイド 学研
自衛隊装備年鑑 朝雲新聞社
作中での活躍
空洞山脈へ逃走するグ帝の装甲車両に山の向こうから攻撃したらしいが、具体的な発射位置は不明。
流石に発射密度は薄く、具体的な撃破数こそ不明だが確実に撃破していった(
空洞山脈の戦い)。
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最終更新:2023年03月13日 11:28