けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

イノセント6

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だれでも歓迎! 編集
 休憩所で、澪ちゃんに温かいカフェオレを買ってあげた。
 ベンチに座って、静かにそれを飲む澪ちゃん。
 私も隣に座って、澪ちゃんが落ち着いてくれるのを待つ
 。私もジュースを買っていたのでそれを飲んでいたけど、正直ドキドキしていて私のほうが落ち着けなかった。
「……ごめんなさい」
 澪ちゃんが、俯いたままそう言った。
「えっと、何が?」
 謝るような事を澪ちゃんはしていないと思うのだけど。
 澪ちゃんは顔を少しだけ傾けて、私を見た。
 落ち着いたようにも見えるけど、依然として顔は赤い。
「触らないでなんて、言って……私、田井中さんだってわからなくて」

『さ、触らないでください』

 私の中で、その言葉がフラッシュバックして響く。
 確かに、すっごいショックだったけど。
 でも、それは……。
「いいよ別に。澪ちゃんは、私だってわからなかったんだろ?」
 確かにおかしーよな、私の前髪。
 今まで誰にも見せてこなかったけど。
 でも少しでも男っぽく見せるためには仕方がなかったし……普段の私とはかなり違うから、間違えられても仕方ないだろうなあ。
「でも、ごめんなさい」
「いいよいいよ。そんなに気にしてないよ」
 私は首を振った。
「それより、これ……なんかごめん」
 私は澪ちゃんの横においてある袋を指差した。
 もし私がこの本を読みたいなんて言わなければ、澪ちゃんはここに来ることもなかったかもしれないし、男に絡まれることなんてなかったかもしれないのだ。
 私が軽い気持ちでオススメの本を借りたいって言って、約束を破りたくないからここまで澪ちゃんは買いに来た。
 詰まるところ澪ちゃんがこんな思いをしているのは、私の所為なんじゃないかと思ってしまうのだった。
「私がこの本、借りたいなんて言わなきゃよかったかもね」
「そ、そんなこと……」
「だってさー、澪ちゃんってこの本を買うためだけにここに来たんでしょ?」
「買い出しも兼ねて、なんですけど」
「そうなの?」
 なんか気負いして損した。
 でもまたまた共通点発見。
 私もここには買い出しでやってきた。
「毎週ここで買い出しとかしてるの?」
「はい。土曜日に」
「え? 私もだ」
「そうなんですか?」
「うん。まあまだ二回目だけどね。先週の土曜日もここに来たよ」
「私も、です」
 すごい。
 なんで会わなかったんだろう。
「すごいね。なんで会わなかったんだろうね」
「そうですね……」
 澪ちゃんが笑った。

 笑ってくれた。

 その笑顔は、今まで見てきたどんな笑顔よりも。
 私の心を射抜いた。


 私はその勢いのまま、少しだけ畏まって言った。
「あっ、その」
「?」
 澪ちゃんは首を傾げた。

 私はさっきの一瞬を思い出していた。
 やむを得ずそう呼んだんだ。


「……澪」
「――」
「澪って呼んじゃ、駄目、かな?」
 さっき私は、澪ちゃんの彼氏である必要があった。
 澪ちゃんを呼び捨てして、自信満々で強気に出れば、男も引くと思ったし。
 だから、彼氏であることを印象付けるために呼び捨てした。
 でも、それを一瞬だけにしたくなかったんだ。
「嫌なら、別に――」
「はい」
「えっ?」
「……澪で、いいです」
 澪ちゃんは、ずっと恥ずかしそうにしている。
 言ったよな?
 今、いいって言ったよな?
 聞き間違えじゃあない。いいですって言ったんだ。言ったよな? 
 聞き間違いか? いやでも、澪ちゃんがこんなあっさり? いやでも確かに――ってあああ。
 頭が混乱してきたぞ。
 でも。
 ずっと願ってた願いが叶った時とか。
 桜高や、N女子大に受かった時とか。
 そういう類の嬉しさが湧き上がってきた。
 いや、それよりもずっと――。
「ありがとっ! 澪!」
「あ……は、はい」
 澪ちゃんは俯きつつも、笑ってるのがわかった。



「じゃあさ」
「はい?」
「澪も、私のこと、律って呼んでよ!」
 私が呼び捨てなら、そうであってほしかった。
 私は、澪と対等になりたかったんだ。
 一人ぼっちだったから寂しいだろうと思って話しかけたとか、私の質だとか、性格とか。
 引っ込み思案で静かな澪と、お調子者で明るい私。
 性格の違いはあったって、そこに価値と程度、身分なんてものはないんだ。
 澪に――田井中さんだなんて、呼んでほしくないよ。
 敬語だって、使ってほしくなんか……。
「えっ、でも……」
「だってさ……まるで私が年上みたいじゃん。同い年だし、友達だし。だから、澪にも――律って、呼んでほしい」
 ああ、もう。
 対等になりたいなんて、格好つけてるだけだ。
 表面上、取り繕ってるだけだ。
 理由を作っておきたかっただけだ。



 本当は。
 澪のその口から。
 澪のその声で。
 ただ、呼んでほしかっただけ。

 私の名前、呼んでほしい。
 それだけで。





「……り、律」










 4月26日 晴れ


 誰かの名前を、呼び捨てで呼ぶことになったのは初めてだ。
 私の名前を、呼び捨てで呼んでくれたのも律が初めて。
 律は、私の初めてをどんどん奪っていく。

 律。

 人の名前を呼び捨てできるって、こんなに嬉しいんだなあ。
 そんなの今までなかった。友達なんて誰もいなくて。
 皆名字で呼んでたし、私も名字で呼ばれていたし。

 それでもよかったけど。それで構わなかったけど。
 でも、呼び捨てって、なんか暖かかった。
 律と距離が、近くなった気がした。

 嬉しかった。
 たかが呼び捨てで、なんでこんなに舞い上がっちゃうんだろう。
 律って呼ぶこと。澪って呼んでもらえることが、こんなにも。

 律のことを思い出すと、胸が詰まる。
 なんだろう、この気持ち。









 澪とメアドを交換した。
 思えば話しかけてもう五日も経つけれど、電話番号もメールアドレスもお互い知らないままだった。
 だから、お互いを呼び捨てにして、澪も敬語をやめた今日という日に初めてそれを交換したのだった。
 嬉しかった。
 夜になって、澪とメールする。
 文面だけだと澪の表情は見えないし、ぎこちない恥ずかしそうな口調もない。
 だけど前よりも会話が成立するようになってきていて、私としては笑わずにはいられなかった。
 澪の心が伝わってきてる、ってのは言いすぎかなあ。
 私は、どうしたんだろう。
 誰かとメアドを交換することなんて今まで何度もあった。
 電話番号を教えてもらうことだって何度もあっただろうさ。
 澪が初めてじゃない。
 私は、今までたくさんの人と仲良くなって、メールもして、電話もしている。
 だけど、こんな気持ちになったのは、初めて、か?
 メアドを交換して。
 家に帰って、その相手からメールが来るのをウキウキしながら待つなんてありえなかったよな。
 別に誰かがメールしてくるのを待つことはあったかもしれないけど、でもこんなにドキドキしながら待つなんて――。
 澪は、今までの誰とも違う。
 私が今まで相手してきた誰とも違う。
 気になってしょうがない。
 頭に澪の顔が浮かんでしょうがないんだよ。
(どうしちまったんだ、私……)
 でも、悪い気はしなかった。


 あー、胸痛い。
 こんなに悶えることなかったよなあ。
 澪に会ってから、初めてなことばっかりだ。

 澪とメールする。
 私はロフトの布団に寝転んで、画面を見つめてやり取りした。
 画面の向こうに、澪がいる。


「澪はどうして、N女子大を選んだの?」
「先生に紹介されたんだ。女子大がよくて」
 『だ』にすごい違和感。もともと澪はこういう口調なのかもしれなかった。
 ただ人見知りが激しいから誰構わず敬語を使っちゃうだけで。
 もし澪が日記でも書いていたら、もっと自然体の澪の言葉が書かれてあるかもしれない。
 それこそ『です』というような言葉遣いではなく、もっと普通の言葉遣いで。
「わかる。私も女子大がよかったんだよな。別にこれっていう強い理由があるわけじゃないんだけど」
 桜高を選んだ時と同じだった。
 小学校低学年ぐらいまでは、男の子と一緒に遊んだりすることも多くて、男女の隔たりなんてものは特になかったし。
 だから女子高とか、共学とかどうでもよかったかもしれない。
 でも、女子高の方が楽しいかなというぐらいの理由だったような気もする。
 そんなにちゃんと覚えてはいなかった。
「私は、男の人が苦手で」
 ズキっとした。
 邪推をしてしまったのだ。
 私は手早く返事する。
「もしかして、男と付き合ってて嫌な思いしたとか?」
 自分で質問してて、実は自分が一番そうじゃなかったらいいなと思っていた。
「ううん。男の人と話したことは全然ないよ」
 あまりに普通の返事――いや、男と話したことはないというのは普通か? 
 それでもなんとなく自分の邪推が外れて嬉しかった。
 澪が男と並んでいる姿を想像するだけで、無性に胃の辺りがチクチクしやがるのだ。
 それが外れてホッとしている自分がいる。
「じゃあ、なんで?」
「男の人だけじゃなくて、もう誰と話すのも苦手なんだよ。だから、女子大で、あんまり他人と交流しなさそうな学科がよかったんだ」
 私なんかよりはるかに理由がしっかりしていた。
 あんまり他人と交流しなさそう――。
 確かに私と澪のいる学科は、どちらかといえば自分の独学……他人とのコミュニケーションが重要とまではいかない。
 自分一人で研究したり、授業を聞いてたりテスト受けたりと、一人でいたって何ら差し支えのない学科であるのは確かだった。
 文系学科と割り切ってしまえばそこまでだけど、でも自分の性格と嫌なことをきちんと踏まえて学校を選んでいる澪は、私よりもしっかりしてるなあって思った。
「だから、ずっと一人でいたの?」
 私は、思い出していた。
 入学式で見た澪を。
 それから説明会でも、教室移動でも、講義が終わって帰る時も。
 いつだって澪は一人だった。
 ずっと無表情で。
 それでも、怖いほど涼しい綺麗な顔で――。
 だけど、時折ふっと目を細めて寂しそうにしたり。
 それがたまらなく私の心を揺さぶったり。
「だって、人と極力話したくない」
 澪は、そう返事してきた。
 メールって、不便だ。
 私は、澪の表情が見えない。
 声のトーンも強弱も、全部そこにない。
 だから、怖い。
 話したくない、と返事する澪の顔がわからない。
 笑ってたら、いいんだよ。
 でも、もし悲しそうだったり辛そうな顔でそんなこと言われたら、私は居た堪れない。
 だってその『話したくない』んだ。『ない』は否定だ。
 澪は話したくないと言ってるんだ。
 それが私に対してじゃなくとも。

「私とは、話してくれるのか」

 そう返事を送った。

 純粋な疑問だった。
 人とは極力話したくない――。
 その『人』の中に、私は含まれてないとは言い切れないんだ。
 信じれなくて、ごめん。
 表情が、見えないから。
 疑っちゃうよ。
 ごめん。

 携帯の画面から目を逸らす。
 少しして、バイブする。
 恐る恐る画面を見る。





「律は、特別」



 ――。

 この時ばかりは自分の単純さに、呆れるしかなかった。
 さっきまでちょっとモヤモヤしてたくせにさ。
 その文章を見ただけで、サッとそれが引いてしまった。


「ありがと。私も、澪みたいな奴初めてなんだ」
「どういうところがなの?」


 澪は、私にいろんな初めてをくれたけど。
 それがなぜかって言われるとわからない。
 一人ぼっちに話しかけたのは何度目でもあるけれど、でもここまでずっと一緒にいたいと思える相手に出会えたのは初めてだったし、
 笑ってくれるだけで心を満たしてくれる相手というのも初めてだったし……とにかく、今までの誰とも違うんだ。
 澪のこと考えると、ズキズキしやがるんだよ。
 こんなの初めてなんだよ。
 でもそれを正直に言うのは、恥ずかしくて。
 私は枕を抱き寄せながら返事した。


「わかんないけど、でも私にとっても、澪は特別」


 それから、他愛もない話をした。
 いろんな話をした後に、澪からこんなメールがやってきた。



「明日、律の家に遊びに行きたい」


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