けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

イノセント14

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 次の日の講義と講義の合間の休みに、××さんがまたやってきた。
 私たちはいつものように講義室の一番前の席に隣同士で座っていて、また何の起承転結もない他愛もない話をしていた頃だった。
 ××さんと私は目が合って、微笑まれた。
 だけど、すぐに視線は律の方へ向く。私は口を閉じたまま、二人を見ていた。
「りっちゃん、約束のお返事は?」
「あー……うん」
 律は一瞬渋ったような苦笑いをして、また一瞬だけ私を見た。
 なんだよ、何か言ってほしいのかよ。
 私は目配せの意味が結局わからないまま、下を向いてしまった。
「……じゃあ、オッケーしといて」
 ――!
「そう? あの子も喜ぶわ! じゃあそういうことでね」
 ××さんはまた嬉しそうに走って行ってしまった。講義室を出て行ったということは、真っ先にその『理学部の子』に教えに行くのだろうか。
 意中の律と食事ができますよって伝えに行くんだろうか。
 嬉しいだろうなあその子。大好きな律がバレンタインを一緒に過ごしてくれるんだから……。
 未だにモヤモヤする。
 律と私は、数秒間固まったままだった。
 先に沈黙を裂いたのは律だった。
「……これでいいかよ、澪」
「――えっ?」
「……やっぱりなんでもない」
 しっかり聞こえてた。
 これでいいかよって。
 どういう意味だ。
 律は少しだけ顔を染めて、口を尖らせている。
 どういうこと?
 これでいいかって……。
 いいか悪いかの判断なんて、私じゃないだろ?
 私は、嫌だけど。
 でも、嫌だって言ったって何も変わらない。
 そうだよな……。
 お互い『なんでもない』で、なあなあとしてる。
「……律は、その子の名前、まだ知らないんだろ?」
「知らない。理学部の子だとしか聞いてないんだ」
 なんだそりゃ。食事に誘うのに、どうして名乗らないのだろう。
 名前ぐらい知っててもいいんじゃないのか? 逆に名乗らない方が不自然だろう。
 律も相手のことを『理学部の子』としか考えれないじゃないか。どういうことなんだ。
「まあ友達に食事のお誘いを頼むような人だから恥ずかしがり屋なんじゃないか? だから名前も教えないとか」
 私がもし極度の恥ずかしがり屋でも、好きな人には名前を知っていてもらいたいと思うはずだ。
 いやむしろ当日になるまで相手が自分の名前を知らないという状況はどう考えても不可思議だ。
 世の中には私以上の恥ずかしがり屋が存在するのだろうか。
 それこそ名前を好きな人に教えたくないぐらいの恥ずかしがり屋が。
 釈然としないけど、でも今は胸が痛かった。
 律と、律のことが好きな女の子が食事をする。
 しかもバレンタインに。
「まあどうでもいいよ名前なんか。当日になりゃわかることだろ」
 律は不機嫌そうに、次の講義の準備を始めた。
 どうでもいいか。
 その時点で律は、あんまり相手に興味がなさそうだけど……。

 律が相手に興味を持ってない?
 胸の痛みが少しだけ収まったのは、なんでだろう。









 その日の講義が終わった後、講義室から律と並んで出た。
 しかし同時に、廊下で律はまた××さんに呼び止められて連れて行かれてしまった。
 律が連れて行かれた先にいるのは、××さんを含む『律が大学で最初に友達になった数人』のグループだった。
 律はその友達数人に囲まれて、何やら話している。
 私と出会う前に、あの人たちは律と友達になったんだ。
 ……いつからだろう。律が誰かと仲良くしてるのを見て、胸が痛むようになったのは。
 律が私以外の誰かに笑顔を許したり、私が知らない思い出を律が語る時。
 どうしようもなく寂しくて、悲しくなってしまったのはいつからだろう。
 いつからって、初めて律の家に泊まった後ぐらいからかな。
 あの時はまだ、全然こんな口調じゃなかった。
 でも半年ぐらいずっと律の真似をしたりして、口調だけは自信に満ちたようになった。
 それは律の前でしか出せないけれど。でもお互い音楽をやり始めて、もっと距離が近くなって……。
 私は、律しか友達がいないから。
 だから、余計に嫉妬してるのかな。
 律に。
(……馬鹿澪)
 私は爪先で床をトントンと叩いた。
 少しして律が戻ってくると、申し訳なさそうに言った。
「待たせてごめん澪……なんか、みんなにカラオケ誘われた」
「えっ……いつ?」
「いや、今からだけど。それでさ、澪も行かない?」
 カラオケ? 私も行かないかって、冷やかしかよ。
 私が人前でそんな目立ったことできるわけないだろ。律の前ならまだしも……人の視線だって怖いし。
「行かない……」
「……そっか。わかった」
 律はちょっと残念そうな顔をして、友達の元に戻った。
 人前で歌うなんて、怖すぎる。下手な歌歌って目立ちたくなんかない。そ
 れにあのメンバーで行ったって、どう考えても私は浮く。
 そんな気まずい中カラオケに行ったって、皆が歌ってるのを座って聞いてるだけしかできない。
 律は、どうせ行くんだろうな。
 カラオケなんて私以外と何度も行ったことがあるだろうしさ。
 ……まただ。
 またこれだ。
 やめろ、私をもう痛くするな。
 頭の中に、律が私以外の人と仲良くしている姿が再生される。
 楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに……私じゃない誰かと。
 一緒にカラオケ行ったり、お祭りに皆で出かけたりしたんだろうな。
 律ぐらい友達が多いとそれぐらい普通だ。
 普通だって。
 律なら、そんなの普通だって。
 わかってるのに!
 誰かと仲良くしてるのを、考えるのが怖い。
 私の初めての友達。
 そんな律にとって、私は初めての友達じゃないんだ。
 私の知らない律の記憶があるんだ。
 律はもう、私を特別だとは――……。




「澪、帰ろうぜ」

 その声で、我に返った。

「えっ……?」
「何? いや、帰ろうぜって」
「……カラオケは?」
「断ってきたよ」
 律はそれがどうしたの? 何か問題でもあるの? と言いたげに目を白黒させる。
 驚いているのはこっちだ。さっきまで行きそうな雰囲気だったじゃないか。
「な、なんで断ったんだよ」
 断ってくれて、ありがとうと素直に言えばいいだろ。
 でもそれはいいことじゃないから。
 私が問うと、律は少しも考えずに即答した。
「だって、澪がいないとつまんないし」
「――」
 律は白い歯を見せて、笑った。
「澪を一人にしたら悲しんじゃうだろうしなー」
「そ、そんなわけ……」
 ある。
「ないだろ……」
 あるけど、ないよと私は答えた。
「まあ仮にそうでも、澪を放って遊びに行くなんてできないよ」
 おい。
 やめろ。
「だったら……」
 言うな、私。



「だったらなんで、食事会には行くんだ」




 律の顔が、また表情を失くした。
 私は自分をなんとか抑えようとしているのに、抑えきれなかった。
 律は、額に手を当てて言った。
「……私のこと好きだって言ってくれる人がいて、その人と食事をするとかは……
 そこに行くのは遊びじゃないし、カラオケとはまた違うだろ」
「でも……」



 私を一人にしたら、悲しんじゃうだろって言ったのは律だろ!
 今まさにそう言ったじゃないか!
 なんでそこまで言ってくれるのに、食事会は断らないんだよ!



 とは叫べなかった。

 私の中の爆発しそうな感情は、廊下という公共の場であることで『目立ちたくない』という反発が働き現れなかった。
 もしここが誰もいない、律と二人っきりの場所だったら、そうやって怒鳴りつけていたかもしれない。
 言えない自分。
 そこに、恐怖がある。
「……第一、行けばいいだろって最初に行ったのは澪じゃん」
 律は目を逸らした。
 あの一言は、本当に軽い気持ちで言ってしまった。
 私はそれを、後悔しているのに。
「そ、そうだけど……」
「……澪は、私に何を言いたいんだよ」
「――」
 律は、悲しいような寂しいような。
 でも怒っているような。
 そんな複雑そうな表情をして。
 私は。
「……ごめん」
「何を謝ってるかわかんねーぞ。ほら、行こうぜ」
 立ち直ったように笑った律。
 私は廊下を歩き出した律に、暗い顔をしてついて行くだけしかできなかった。
 その日も、律の家でセッションして帰った。





 『澪は私に何を言いたいんだよ』――。




 私は律に、何を言いたいんだ。
 もう自分が一番わからないよ。
 こんな気持ちになるの初めてだから、わからないよ。
 律を見てると胸が苦しいのも、律が誰かと仲良くしてるのを見てると苦しいのも。
 律ともっと早く出会いたかったって後悔みたいな気持ちも。
 律がカラオケを断って私といてくれた時の、ほっこりした暖かい気持ちも。
 全部全部、初めてなんだよ!
 だからわからないよ。
 何を言いたいのか。
 この痛みや、暖かさが、いったい何なのか。
 私が一番知りたいよ。
 教えてよ。

 律のことずっと考えてて。
 律のこと考えると胸が一杯になる理由を。

 律が他人と仲良くしてると、また胸が痛い理由も。
 律と一緒にいると、どうしようもなく幸せだって感じる理由も。

 わからないんだ。


 私は律に、何を言いたいのだろう。










 2月9日 晴れ


 澪が最近よくわからない。
 私は澪と一緒が良かったから、カラオケには行かなかった
 そしたら澪は、なんで食事会は断らなかったんだと言ったんだ。
 行けばって最初に言ったのは澪なのに。
 もし少しでも行ってほしくないと思ってくれてるのなら、嬉しいけど。
 でも実際にそれを口に出してくれないのはどうしてなんだろう。

 もしそう言ってくれれば、簡単に断ってくるのに。
 私は澪が、一番大事だって思ってるのに。


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