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667 :名無し募集中。。。:2012/06/03(日) 02:01:10.16 0


簡素な丸椅子に腰掛けて、子どもたちがぎゃあぎゃあとじゃれ合っている声を背中で聞く。
1年前とは比べられないくらいに騒々しい控え室は、最初こそ違和感を覚えたものの、今ではその声がないと逆に寂しくなってしまうくらいに、身に馴染んだ空間となっていた。

そうして。

「にいがきさん」

左腕にべったりとくっ付いてくるこの後輩の存在も。

弄っていたiPhoneから視線を持ち上げて左を見やると、私の左腕を抱きしめている生田と視線がかち合った。
ただでさえ締りのない口元を更に綻ばせた生田の姿に、このまま溶けてしまうんじゃないかとぼんやり思った。

「なーによー」
「なんでもないですぅ」

うへへって続いただらしない笑い声に目を細める。
できるだけ呆れたように見えるようにわざとらしくため息を吐いたりして、心の中がきゅっと刺激されたのを誤魔化した。


668 :名無し募集中。。。:2012/06/03(日) 02:01:28.25 0


二人きりでのスチール撮影では緊張してぎこちない態度をとる癖に、オフの場面ではやたらと引っ付いてくる生田の行動が私は不思議でならなかった。
普通は仕事っていう口実ができるからこそ引っ付いてくる物だと思うんだけれどと、いつだったか本人に聞いてみたら、ツーショット撮影とオフとでは全然違うんです!と力説された。
よく分からない。

だって私には。
こんな風に引っ付かれる方が撮影とは比べ物にならないくらいに、どきどきと胸が高鳴るから。

少しだけ赤くなった頬に、仕事の時のそれよりも高くなっている気がする体温。
柔らかな肌の感触が服越しに感じられて、彼女の息が素肌に当たる程に近い距離で、本当に温度を感じそうなくらいに熱い熱い、その視線。

自分がそういう意味で好きだと自覚している相手にそんな態度をとられて、平然としていられる程、私は無感情な人間ではないのだ。

私までその熱に溶かされてしまいそうで、不自然にならないように注意しながら視線を逸らした。
逸らした先の目の前にある造り付けの大きな鏡の中で、生田にべったりと引っ付かれている自分と視線が合う。
どことなく赤くなっている自分の頬に眉根が寄って、心底幸せそうに私の左腕を抱きしめる生田の姿に胸の奥がぎゅっとする。
そんな光景を見ていられなくなって、iPhoneに視線を戻したら、左腕を抱きしめる生田の腕の力が強まった。
耳元で聞こえる「にいがきさん」。


669 :名無し募集中。。。:2012/06/03(日) 02:01:46.94 0


熱に浮かされたような甘ったるい声で呼ばれる自分の名前に胸の中がざわりと騒ぐ。
生田はいつだって私に対しては締りのない甘い声を出すのだけれど、今のそれはいつもとは違う、二人きりの時に酷く甘えてくる時に聞くそれで、私は生田に悟られないように小さく喉を鳴らして、出来るだけゆっくりと生田へ視線を投げた。

視界に入った、少しだけかさついた薄い唇が、ゆっくりと動き出す。


「好きです」


濡れた黒目がちな瞳が怖いくらい真剣に、私を射抜く。
溶けそうなくらいに熱い視線が、私の心の温度をじわりじわりと上げていく。

悔しいから、絶対に生田には教えてはやらないけれど、何度言われたか分からない程に聞いた言葉なのに、聞き飽きるくらいに耳に馴染んだそれは、生田から発せられているというだけで、いつも私の胸の中を甘く甘く掻き乱した。
胸を焼く熱を吐き出すように細く息を吐き出して、何でもないように片方の眉をひょいと上げてみせた。

「知ってる」

楽屋での私のいつも通りの声で、いつも通りの言葉を返すと、左腕を抱き締める力がまた少しだけ強まった。
濡れた瞳が更に色を濃くしたような気がして、私はたまらずこくりと唾を飲み込んだ。


670 :名無し募集中。。。:2012/06/03(日) 02:02:10.37 0


生田の赤い舌がかさついた唇を湿らすように、下唇の上をちろりと這って。

「キス、したいです」

密着した私にしか聞こえない声の大きさの熱の篭った声が鼓膜を打つ。

「……今?」
「はいっ」
「……や、無理でしょーが」

ここは楽屋だ。
二人きりで過ごす私の部屋とは違うのだ。
私たちの関係を知らないメンバーの前でそんな事はできないし、例え知ってたとしても、こんな所でそんな事をするわけにはいかない。

バカな事を言わないで、と口を開こうとしたら、生田の表情が見る見るうちにしゅんとしょげていった。
怒られた子犬みたいなその表情に、胸をよぎる罪悪感。そうして。
俯いた事で見える旋毛と、小さな子どもが拗ねた時にそうするように尖った唇に、それ以上の愛おしさが胸の奥をぎゅうと締め付けた。

そんな目で見つめないで。
そんな顔していじけないで。

―――自分だけが我慢していると思ったら、大間違いなんだから。

持っていたiPhoneのカメラを手早く起動する。
左腕を揺らして生田の視線をこちらへ向かせると、iPhoneを持つ右手をぐっと伸ばした。


671 :名無し募集中。。。:2012/06/03(日) 02:02:54.51 0


「はい、撮るよー」

突然の事に戸惑いを隠せないでいる生田をそのままに、私は素早く鏡越しに楽屋の中を見渡した。
ぎゃあぎゃあとじゃれ合う子どもたち。
適当にその相手をしながら、各々自分の時間を過ごす上3人。
いつもの楽屋のいつもの光景。

誰もこっちを見ていない事を確認して、シャッターのアイコンを押したその瞬間。

生田のふっくらした頬に、私は自分の唇を押し付けた。

小さなシャッター音と共に、素早く離れる。
鏡越しに誰も見ていなかったかどうかを再び確認して、手元のiPhoneを操作しながら、ちらりと横目で生田を見やった。

呆けたようにぽかんと口を半開きにしてた生田は、私の視線に気が付くと、すぐにその唇を引き結んで、あれよあれよと言う間に頬を真っ赤に染め上げた。
情けなく垂れ下がった八の字眉に思わず噴き出したら、生田は恥ずかしそうに私の肩口に額を押し付けて顔を臥せてしまった。

自分から要求した事なのに、多分これ以上の事も期待していただろうに。
これでもかと言うくらいに恥ずかしがる生田の仕草に愛しさが込み上げて、胸の奥が甘く甘く締め付けられた。

知らず緩む頬をそのままに、iPhoneをぷちぷち操作して、今さっき撮った写真を画面へ写す。
カメラ目線のまま私にキスされている生田の不自然な真顔に更に頬が揺るんでいく。

隣の生田をちらりと見やり、視界に入る旋毛に頬を寄せて、私は笑みを噛み殺した。


ああ、もう、本当に。
可愛いなあ、もう。


おわり

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最終更新:2012年07月23日 19:00