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*原文
Au chef Anglois&sup(){1} à Nymes&sup(){2} trop seiour,
Deuers l'Espaigne&sup(){3} au secours&sup(){4} [[Aenobarbe]]&sup(){5}:
[[Plusieurs>plusieurs]] mourront par&sup(){6} Mars&sup(){7} ouuert ce iour&sup(){8},
Quant&sup(){9} en Artoys&sup(){10} faillir estoille en barbe&sup(){11}.
**異文
(1) Anglois : anglois 1981EB
(2) Nymes : Nismes 1597 1600 1610 1644 1650Ri 1653 1665 1672 1716 1840, Nisme 1627
(3) l'Espaigne 1557U 1557B 1568B 1568C 1568I 1589PV 1590Ro 1597 1611 : l'espaigne 1568A, l'Espagne &italic(){T.A.Eds.}
(4) secours : secous 1568A
(5) Aenobarbe 1557U 1589PV : Ænobarbe &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} : enobarde 1588-89, Areobarbe 1649Ca, Ænobatde 1665)
(6) par : pars 1627
(7) Mars : mars 1628
(8) ce iour : se iour 1611B, seiour 1981EB
(9) Quant 1557U 1557B 1568B 1568C 1568I 1589PV 1590Ro 1627 1772Ri : Quand &italic(){T.A.Eds.}
(10) Artoys : Arrois 1600 1627 1644 1650Ri 1653 1665
(11) barbe : Barbe 1672
*日本語訳
ニームにてイングランドの指導者には過度の逗留が。
アヘノバルブスはスペインの方へと救援に。
多くの者たちがその日に開かれた[[マルス]]によって死ぬだろう。
アルトワで鬚の星が衰える時に。
**訳について
1行目、2行目は省略されている語をどう取るかなどによっていくつかの訳がありうる。当「大事典」では[[ピエール・ブランダムール]]の読み方に従った((Brind’Amour [1993] pp.244-245))。
[[ピーター・ラメジャラー]]は2行目について「(イングランドの指導者が)アヘノバルブスを救いにスペインの方へ」と読んでいる。au secours の直後に de が略されていると見る分には、可能な訳ではある。[[リチャード・シーバース]]の英訳もこちらに近い。
既存の訳についてコメントしておく。
[[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]の構文の理解はおおむね問題はないが、2行目「赤い髪の男はスペインを助けにいき」((大乗 [1975] p.164。以下、この詩の引用は同じページから。))の「髪」は([[ガランシエール>テオフィル・ド・ガランシエール]]=[[ロバーツ>ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳の直訳ではあるが)「鬚」の誤り。また、4行目「アートワーでひげのように星が落下するだろう」は en barbe の訳し方が不適切。それは星を形容しており、「鬚の星」(鬚を生やした星)の意味。
[[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]もおおむね許容範囲内の訳だが、4行目「髭の星がアルトワに降る」((山根 [1988] p.196。以下、この詩の引用は同じページから。))は、「衰える」を「失墜する」の意味に理解すれば「降る」と訳せるかもしれないが、多少意訳しすぎの可能性もある。
*信奉者側の解釈
[[テオフィル・ド・ガランシエール]]は「鬚の星」が彗星のことだろうということしか示していなかった((Garencieres [1672]))。
その後、20世紀までこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]の著書には載っていない。
[[アンドレ・ラモン]]は未来にフランスに現れる名君アンリ5世が「赤鬚」のあだ名で呼ばれることになり、彼がスペインを救いに行くことの予言とした((Lamont [1943] pp.316-317))。
[[エリカ・チータム]]は1973年の時点ではひとことも解釈を付けていなかったが、後の著書では、未来に関する予言で、第三の反キリストに関わる詩かもしれないと解釈した((Chhetham [1973], Cheetham [1990]))。
[[セルジュ・ユタン]]はナポレオン戦争末期の情勢とした((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。
Fontbrune [1939] p.264
なお、[[ピエール・ブランダムール]]によると、海外の解釈者の中には、4行目のアルトワの星に関連し、この詩を19世紀に登場したベルギーのビール「ステラ・アルトワ」と結びつける者がいるらしい。
*同時代的な視点
3行目の「その日開かれたマルス」が「その日戦争が始まる」ことの隠喩であることと、4行目の「鬚の星が衰える」が彗星または流星の隠喩であることは、まず疑いないところだろう。
[[ピエール・ブランダムール]]はアヘノバルブスが海賊艦隊のバルバロッサを指している可能性を指摘した((Brind’Amour [1993] pp.244-245))。
[[ロジェ・プレヴォ]]は1564年頃の出来事と結びつけたが((Prévost [1999] pp.129-130))、この詩の初出は1557年なので、採用することは出来ないだろう。
[[ピーター・ラメジャラー]]は特定できないとした((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。モデルを特定していないのは[[ジャン=ポール・クレベール]]も同じで、そもそも16世紀にイングランドの指導者がニームに滞在した記録自体を見出せないとした((Clébert [2003]))。
#ref(artois.PNG)
【画像】関連地図(アルトワ地方は中心都市アラスで代用)
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*原文
Au chef Anglois&sup(){1} à Nymes&sup(){2} trop seiour,
Deuers l'Espaigne&sup(){3} au secours&sup(){4} [[Aenobarbe]]&sup(){5}:
[[Plusieurs>plusieurs]] mourront par&sup(){6} Mars&sup(){7} ouuert ce iour&sup(){8},
Quant&sup(){9} en Artoys&sup(){10} faillir estoille en [[barbe]]&sup(){11}.
**異文
(1) Anglois : anglois 1981EB
(2) Nymes : Nismes 1597 1600 1610 1644 1650Ri 1653 1665 1672 1716 1840, Nisme 1627
(3) l'Espaigne 1557U 1557B 1568B 1568C 1568I 1589PV 1590Ro 1597 1611 : l'espaigne 1568A, l'Espagne &italic(){T.A.Eds.}
(4) secours : secous 1568A
(5) Aenobarbe 1557U 1589PV : Ænobarbe &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} : enobarde 1588-89, Areobarbe 1649Ca, Ænobatde 1665)
(6) par : pars 1627
(7) Mars : mars 1628
(8) ce iour : se iour 1611B, seiour 1981EB
(9) Quant 1557U 1557B 1568B 1568C 1568I 1589PV 1590Ro 1627 1772Ri : Quand &italic(){T.A.Eds.}
(10) Artoys : Arrois 1600 1627 1644 1650Ri 1653 1665
(11) barbe : Barbe 1672
*日本語訳
ニームにて[[イングランド]]の指導者には過度の逗留が。
アヘノバルブスはスペインの方へと救援に。
多くの者たちがその日に開かれた[[マルス]]によって死ぬだろう。
アルトワで鬚髯 〔ひげ〕 の星が衰える時に。
**訳について
1行目、2行目は省略されている語をどう取るかなどによっていくつかの訳がありうる。当「大事典」では[[ピエール・ブランダムール]]の読み方に従った((Brind’Amour [1993] pp.244-245))。
[[ピーター・ラメジャラー]]は2行目について「(イングランドの指導者が)アヘノバルブスを救いにスペインの方へ」と読んでいる。au secours の直後に de が略されていると見る分には、可能な訳ではある。[[リチャード・シーバース]]の英訳もこちらに近い。
既存の訳についてコメントしておく。
[[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]の構文の理解はおおむね問題はないが、2行目「赤い髪の男はスペインを助けにいき」((大乗 [1975] p.164。以下、この詩の引用は同じページから。))の「髪」は([[ガランシエール>テオフィル・ド・ガランシエール]]=[[ロバーツ>ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳の直訳ではあるが)「鬚」の誤り。また、4行目「アートワーでひげのように星が落下するだろう」は en barbe の訳し方が不適切。それは星を形容しており、「鬚の星」(鬚を生やした星)の意味。
[[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]もおおむね許容範囲内の訳だが、4行目「髭の星がアルトワに降る」((山根 [1988] p.196。以下、この詩の引用は同じページから。))は、「衰える」を「失墜する」の意味に理解すれば「降る」と訳せるかもしれないが、多少意訳しすぎの可能性もある。
*信奉者側の解釈
[[テオフィル・ド・ガランシエール]]は「鬚の星」が彗星のことだろうということしか示していなかった((Garencieres [1672]))。
その後、20世紀までこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]の著書には載っていない。
[[アンドレ・ラモン]]は未来にフランスに現れる名君アンリ5世が「赤鬚」のあだ名で呼ばれることになり、彼がスペインを救いに行くことの予言とした((Lamont [1943] pp.316-317))。
[[エリカ・チータム]]は1973年の時点ではひとことも解釈を付けていなかったが、後の著書では、未来に関する予言で、第三の反キリストに関わる詩かもしれないと解釈した((Chhetham [1973], Cheetham [1990]))。
[[セルジュ・ユタン]]はナポレオン戦争末期の情勢とした((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。
Fontbrune [1939] p.264
なお、[[ピエール・ブランダムール]]によると、海外の解釈者の中には、4行目のアルトワの星に関連し、この詩を19世紀に登場したベルギーのビール「ステラ・アルトワ」と結びつける者がいるらしい。
*同時代的な視点
3行目の「その日開かれたマルス」が「その日戦争が始まる」ことの隠喩であることと、4行目の「鬚の星が衰える」が彗星または流星の隠喩であることは、まず疑いないところだろう。
[[ピエール・ブランダムール]]はアヘノバルブスが海賊艦隊のバルバロッサを指している可能性を指摘した((Brind’Amour [1993] pp.244-245))。
[[ロジェ・プレヴォ]]は1564年頃の出来事と結びつけたが((Prévost [1999] pp.129-130))、この詩の初出は1557年なので、採用することは出来ないだろう。
[[ピーター・ラメジャラー]]は特定できないとした((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。モデルを特定していないのは[[ジャン=ポール・クレベール]]も同じで、そもそも16世紀にイングランドの指導者がニームに滞在した記録自体を見出せないとした((Clébert [2003]))。
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【画像】関連地図(アルトワ地方は中心都市アラスで代用)
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