ノストラダムスの予言に2020年と明記されたものは存在しない。
ノストラダムスの予言として2020年について語られることはある。しかし、それらはいずれも時期の明記されていない予言をこじつけているか、さもなくば単なる偽作に過ぎない。
【画像】 2020 NOSTRADAMUS
新型コロナウイルス
2020年初頭から、
新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)が広まると、
ノストラダムスはそれを予言していたと言い出す手合いが増えた。
しかし、2019年末までの時点で、
2020年に起こるであろう主要な災いとして、何らかの病気の世界的流行を挙げていた解釈者はいなかった。
ジーン・ディクソンとの関連
かつては、何らかの世界的危機が20世紀末から21世紀初頭にかけて訪れることを、当然の前提であるかのように語る解釈者は少なくなかった。
結果、そうした破局の終わる時期として2020年に触れたものもあった。
たとえば、
などがそうだが、2020年に至るまでのシナリオが外れているのだから、当てにならないだろう。
ホーグのような世界大戦のシナリオには、「超能力予言者」として知られたジーン・ディクソンの影響もあったのかもしれない。
2020年初頭にはさっそくTOCANAに、ディクソン予言から「
ハルマゲドンのクライマックスは2020年に起こるだろう」というフレーズを引っ張り出し、滅亡を煽るオカルト記事が掲載された。
しかし、こんなものは文脈を無視したこじつけに過ぎない。ディクソンの実際の予言はこうだった。
「二〇〇五年ころ、事態は急変します。もうひとつの共産主義の怪物が動き出すのです。アメリカもソ連も、もはや大国ではありません。中国は近代化の頂点に達し、本格的な世界制覇に乗りだします。再び一連の戦闘が始まります。戦いは一九年続くでしよう(原文ママ)。この戦争は二〇二〇年ころ、黙示録に記されたハルマゲドンの戦いにおいてクライマックスを迎えるのです」
上記引用文で「再び」とあるのは、ディクソンが2000年までに欧州と
イスラームの戦争が起こるとしており、「核兵器による大虐殺が起こります」とまで明言していたことに対応している。
中国の成長は当たったといえなくもないが、ソ連がまだ存在しているかのように語っているのはおかしいし、アメリカが大国でなくなっているというのも事実に反する。
何より、2005年から19年続く大戦が起こるというのは、完全に外れている。
仮に強引に、「米中貿易摩擦の例えなのだ」といった解釈を適用するとしても、ならば、そこから続く戦争も、貿易戦争の激化にすぎず、戦火を交えると解釈はできないだろう。
【画像】ディクソン『アポカリプス666』
令和の危機
ディクソンの見通しにどの程度影響されたのかは不明だが、かつては
五島勉も、2010年から2020年ごろにアメリカと「ソ連」が没落して中国が世界最大の国になっているという見通しを披露していたことがある。
その五島は、2019年から2020年初頭にかけて、相次いで「令和の危機」を予言したことにされてしまっている。
- 「五島勉曰く『ノストラダムスは令和の危機も予言した』」(『週刊新潮』2019年6月20日号)
- 「緊急直撃 ノストラダムスの大予言著者 五島勉 令和の予言」(『実話ナックルズ』2020年2月号)
だが、これらの見出しは編集部が煽ったものなのか、インタビュー内容そのものは現在の諸問題に対する一般的な警告の域を出るものではなく、「ノストラダムスが令和初頭の西暦〇〇年に人類が危機に直面すると予言した」といったたぐいの話は出てこない。
マヤ暦との関連
しかし、1998年のノストラダムス予言の解釈本では、2020年の解釈は出てこない。事実上、放棄したものと思われる。
2020年に入ってから、マヤ暦の真の終わりを2020年3月20日前後だとする珍説をほじくり返す記事も、以下のように見られる。
似たような記事はフライデーで前年9月に取り上げられていた。
それらの記事ではマヤ暦の終末を2020年とする算定は「フランスの科学者」の計算の結果となっているが、大元のネタの出どころの一つは、自称「元・NASAの科学者」だったシャトランではないかと思われる。
しかし、上で述べたように、その説は、シャトラン自身も20年以上前に事実上放棄していた説である。
真面目に信じる価値はみじんもないだろう。
この点、姉妹サイトにあたるブログのエントリ、
も参照のこと。
戦争の予言
ネットメディアでは例によって、ノストラダムスが2020年を予言していた式のいい加減な報道がみられる。
だが、そのほとんどはノストラダムスと関係のない出どころ不明の予言に過ぎない。
一例を挙げると、TOCANAの記事の題名になっている日付の限定は、「占星術師でもあるノストラダムスは、『地震が起きるのは、水星が逆行する6月18日〜7月12日』と予言している」ということによるという。
だが、ノストラダムスにこんな予言はない。水星の逆行期間に触れた予言はただ一つ、
- 現在よりもしばらく後に、次のような時が(来るのが)分かります。土星は4月7日に方向を転じ始め、8月25日まで続くでしょう。(同様の期間はそれぞれ)木星は6月14日から10月7日まで、火星は4月17日から6月22日まで、金星は4月9日から5月22日まで、水星は2月3日から同27日までです。(水星の逆行は)その後6月1日から同24日までと9月25日から10月16日までにもあります。(アンリ2世への手紙第104節から第105節途中)
だけであり、期間は6月18日から24日までの1週間程度がかろうじて一致するに過ぎない(なお、上記の期間は、
レオヴィッツの暦を引き写したと考えられており、それが正しければ、1606年を予言したものである)。
ミニ氷河期
- 白神じゅりこ「昭和オカルト大復活スペシャル」『実話ナックルズ』vol.6
では、
詩百篇第10巻67番を引き合いに出し、「
『卵より大きな雹』とは『ミニ氷河期』による大寒波によって降るのかもしれない」等とされ、見出しで「
2020年5月 人類滅亡クラスの“氷河期”がやってくる」と煽っている。
これを書いたライターは雪(ゆき)と雹(ひょう)の区別がついていないのではないかと疑いたくなるが、雹が春から夏にかけて降ることは何ら珍しいことではない。俳句で「雹(ひょう)」は夏の季語であり、言うまでもなく立夏は今の暦では5月初旬にあたる。
そして、「卵 雹」でグーグル検索すれば明らかなように、「卵より大きな雹」は世界各地で意外と降っているものである。埼玉県ではカボチャより大きな雹が降ったこともあったらしい。
近年でも、
といった報道がいくつも見つかる(どうでもいいが、テレ朝の「季節外れ」という表現は、本来の季節をいつだと見なしたものなのだろうか)。
卵より大きな雹が降った程度で滅亡するほど人類がヤワなのだとしたら、人類ははるか昔に滅亡していたことだろう。
なお、その詩には「土星は磨羯宮に。木星、水星は金牛宮に、金星も同じく」という星位の指定があるが、少なくともホロスコープソフトの類で検証する限りでは、2020年5月はこれに該当しない。その点からも、きちんとした検証を経て書かれたものとは思えない。
【画像】中川毅『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』
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最終更新:2020年03月17日 21:24