魔法は一回だけ

魔法は一回だけ (Double Mumbo Jumbo)


「魔法は一回だけ (Double Mumbo Jumbo)」というルールは、ブレイク・スナイダーの『SAVE THE CATの法則』における「黄金のルール」の一つです。


概要

ルールの特徴
  • このルールは、観客が物語を受け入れる際の「不信の停止(suspension of disbelief)」を守るために、ストーリー内で現実離れした要素(魔法や超常現象など)を一つに限定するべきだと述べています
  • このルールを破ると、観客は混乱し、物語の論理性が崩れる可能性があるとされています
「魔法は一回だけ」の具体例
1. スパイダーマン
  • 主人公ピーター・パーカーは遺伝子改良されたクモに噛まれ、超人的な能力を得ます
  • これが物語の「魔法」として機能します
  • しかし、同じ作品内でウィレム・デフォー演じるキャラクターも別の実験によってグリーンゴブリンに変身し、別種の「魔法」が登場します
  • この二つの異なる魔法が存在することで、観客がどちらも信じることが難しくなる可能性があります
2. サイン(Signs)
  • 地球にエイリアンが訪れるという非現実的な設定が物語の核となります
  • さらに、主人公メル・ギブソンの神への信仰心や神の存在というテーマも並行して描かれます
  • これにより、「神」と「エイリアン」という異なる非現実的要素を同時に信じさせる必要があり、観客にとって矛盾や違和感を感じさせる可能性があります

このルールの意義と批判
  • スナイダーによれば、一つの映画で複数の異なる「魔法」を導入すると観客が混乱し、物語への没入感が損なわれるとされています
  • 例えば「エイリアン」と「吸血鬼」の両方を同時に登場させるような設定では、観客の集中力や信憑性が失われやすいと指摘されています
批判と例外
  • 一部の批評家や映画制作者は、このルールに対して批判的です
  • 例えば、『スパイダーマン』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』など、一見このルールを破っている作品でも観客から高い評価を得ている例があります
  • これらは創造性やストーリーテリングの工夫によって成功しており、「Double Mumbo Jumbo」が必ずしも絶対的なルールではないことを示しています
まとめ
  • 「魔法は一回だけ」というルールは、物語の論理性と観客の没入感を維持するために重要な指針ですが、それを破ったとしてもストーリー全体が魅力的であれば成功する可能性もあります
  • 最終的には、このルールをどう活用するかは脚本家や映画制作者次第であり、そのバランス感覚が作品の質を左右します

不信の停止の喪失」との関連性について
不信の停止とその喪失
  • 不信の停止」(suspension of disbelief)は、観客や読者がフィクションを受け入れるために、現実ではあり得ない設定や展開を意識的に受け入れる態度を指します
  • しかし、この不信の停止が破綻すると、読者や観客は物語への没入感を失い、その内容に対して批判的になることがあります
  • これを「不信の停止の喪失」と呼びます
両者の関連性
  • 「魔法は一回だけ」という設定が物語内で適切に扱われていない場合、不信の停止が損なわれる可能性があります
内部論理の破綻
  • 魔法が一度きりしか使えないとされているにもかかわらず、その制約が無視されたり矛盾する描写がある場合、読者は物語世界への信頼感を失います
ご都合主義的展開
  • その一度きりの魔法があまりにも都合よく使われたり、その結果が説得力に欠ける場合も同様です

このような状況では、読者や観客は物語への没入感を失い「不信の停止」が喪失する可能性があります。
したがって「魔法は一回だけ」という設定を成功させるには、その制約が物語全体で一貫して活用され、キャラクターやストーリー展開と整合性を保つことが不可欠です。

例外ルール:『スパイダーマン』において複数回の魔法が許容されている理由


スパイダーマンが複数の「魔法」(非現実的要素)を含みながらも観客から支持を得ている理由は「内部論理」と「テーマの一貫性」によって物語が成立しているためです。
1. 内部論理の確立
  • スパイダーマンシリーズでは、物語の中で提示される非現実的要素が統一されたルールに基づいています
  • たとえば、ピーター・パーカーが遺伝子改良されたクモに噛まれて能力を得る設定や、ヴィランたちが科学技術や実験によって力を得るという展開があります
  • これは「科学技術による変異」という共通の内部論理に基づいており、その一貫性によって、観客は物語世界のルールを自然に受け入れることができます
  • さらに『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、マルチバースという新たな「魔法」が導入されます
  • ですが、この概念もMCU全体で統一された設定に基づいています (例: ドクター・ストレンジの魔術や『ロキ』で提示されたマルチバース理論)
  • これにより、内部論理が破綻することなく物語が展開されました
2. テーマの一貫性
  • スパイダーマンシリーズ全体を通じて描かれる「大いなる力には大いなる責任が伴う」というテーマが、複数の非現実的要素を統合する役割を果たしています
  • ピーター・パーカーは、自分の力を社会や他者のために使おうとする姿勢を持ち続け、このテーマは彼と対峙するヴィランたちにも反映されています
  • ヴィランたちはしばしば力を自己中心的な目的で利用し、その結果として破滅するという構図が描かれます
  • この対比によって、物語全体に統一感が生まれます
  • 『ノー・ウェイ・ホーム』では特に、ピーターが自らの責任と向き合いながら他者を救おうとする姿勢が強調されており、このテーマ性が観客の感情的共鳴を引き起こしています
3. 具体例: マルチバースとキャラクターの統合
  • 『ノー・ウェイ・ホーム』では、過去シリーズのヴィランやスパイダーマン自身(トビー・マグワイア版、アンドリュー・ガーフィールド版)が登場します
  • このような複数の「魔法」を含む展開にもかかわらず、マルチバースという設定が内部論理として機能し、それぞれのキャラクターが「責任」というテーマで結びついているため、観客は違和感なく受け入れることができます

スパイダーマンシリーズでは「内部論理」と「テーマの一貫性」が複数回の「魔法」を支える基盤となっています。
一貫した科学技術やマルチバースの設定による内部論理と「大いなる責任」という普遍的なテーマによって物語全体が統合されているため、多様な非現実的要素を含んでも観客から支持され続けています。

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最終更新:2025年01月31日 00:24