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更新日:2022/11/28 Mon 19:04:54
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セブンスカラー
セブンスカラー
魔龍少女へと変身した龍香の姿を見て、天願はたじろぐ。
「その姿は……!!」
「黒衣さん、下がってて。もう、大丈夫だから。」
「な、なんだかよく分かんないけど、任せたわ!」
龍香は黒衣を下がらせると、天願へ向き直る。明らかに動揺している様子の天願に龍香はドンっと地面を蹴って向かう。
轟音と共に踏み込まれた電光石火の踏み込みは一瞬で彼女との距離をゼロにする。
「速っ──」
「はァッ!」
龍香は思い切り“タイラントアックス”を振るう。振るわれた戦斧の刃ではなく峰の部分が天願に炸裂する。
ドンっと鈍い音と共に今まで感じたこともない痛烈な衝撃が天願を襲う。
「うっ」
呻く彼女に続けて龍香は返す刀でまたもや打ち据える。よろめく彼女に龍香は飛び上がって思い切りドロップキックをお見舞いする。
「きゃあああ!!」
吹き飛ばされて地面を転がる彼女を見ながら龍香はカノープスに触れる。
《一点突破!トライセラカラー!》
その言葉と共に龍香のドレスの紫のラインは青となり、左肩に剣竜の頭蓋を模した装甲が装着され、掘削機“ホーンパーフォレイター”を構える。
「たぁぁぁぁっ!!」
龍香は走り出すと同時に掘削機を構えて突撃する。
「くっ」
天願が慌てて斧で受け止めようとするが、龍香の暴走機関車が如き突撃は彼女を防御ごと易々と吹き飛ばす。
《縦横走破!ヴェロキカラー!》
次の瞬間には水色のラインに、両脚部を逆関節の獣脚に変貌させ、尻尾を生やした龍香が目にも止まらぬ速さで天願に迫る。
彼女が迎撃で振るう斧を跳躍してかわすと龍香は彼女を思い切り蹴り付けて上空へと跳躍する。
「この……!」
《一天万衆!プテラカラー!》
今度は黄色のラインに変わり翼を生やし、龍香が構えた弩弓“フェザーバリスタ”から痛烈な一射が放たれる。
《まずいっ!》
“天願のカノープス”が叫ぶと同時に天願はそれを防御するが、その一射は彼女を数歩後退させる。
《百発百中!スピノカラー!》
さらに赤のラインに変わったドレスを纏う龍香は振動波発射銃“フォノンシューター”を構えて落下しながら天願に銃弾を放つ。
放たれた銃弾は彼女だけでなく、その周りに着弾して土埃を舞い上げ、彼女から視界を奪う。
「うっ、視界が…!」
《雲水行脚!プレシオカラー!》
舞い上がった土煙を切り裂き、鞭“プレシオウィップ”が天願の腕に巻き付く。
猛烈な力で引っ張られ、引き寄せられたその先にはオレンジのラインのドレスに身を包んだ龍香の姿があった。
天願を十分引き寄せた龍香は再びカノープスに触れ、ドレスのオレンジのラインが黄緑色へと変化する。
《絶対防御!アンキロカラー!》
戦鎚“ヘヴィプレッシャー”を構えた龍香は引き寄せた勢いそのまま向かってくる天願を戦鎚を振るって大きく上へとカチ上げる。
「ぐぇっっ…!?」
打ち上げられた彼女を追うように龍香は再びカノープスに触れて紫のラインの“ティラノカラー”に戻ると高く跳び上がる。
「行くよカノープスっ!」
《おうよっ!》
龍香は戦斧“タイラントアックス”を構えると紫に輝くその刃をそのまま天願に振り下ろす。
紫の軌跡を描きながら振るわれたその一撃は天願に痛烈な音と共に炸裂する。
「《タイラントトラッシュ!!》」
「ぐっ、あぁっ!!?」
龍香が振るう必殺技を受けた天願は墜落し、地面へと激突すると同時に変身が解けて地面に倒れる。
《ぐっ、うぅ……!おのれ…!》
天願と分離し、同じく地面に倒れるニセカノープスが呻く。龍香も地面へと着地する。
「……久しぶりだけど、意外と覚えているモンだね。」
《当然だ。俺達は相棒だからな。》
多少なりともブランクがあるはずなのにそういったものを一切感じさせない息の合ったコンビネーションを見せた二人は互いに笑ってそう言うと、表情を引き締めて天願に向き直る。
「……もう終わりだよ。天願さん。」
倒れて呻く彼女に龍香はそう言い放った。
「その姿は……!!」
「黒衣さん、下がってて。もう、大丈夫だから。」
「な、なんだかよく分かんないけど、任せたわ!」
龍香は黒衣を下がらせると、天願へ向き直る。明らかに動揺している様子の天願に龍香はドンっと地面を蹴って向かう。
轟音と共に踏み込まれた電光石火の踏み込みは一瞬で彼女との距離をゼロにする。
「速っ──」
「はァッ!」
龍香は思い切り“タイラントアックス”を振るう。振るわれた戦斧の刃ではなく峰の部分が天願に炸裂する。
ドンっと鈍い音と共に今まで感じたこともない痛烈な衝撃が天願を襲う。
「うっ」
呻く彼女に続けて龍香は返す刀でまたもや打ち据える。よろめく彼女に龍香は飛び上がって思い切りドロップキックをお見舞いする。
「きゃあああ!!」
吹き飛ばされて地面を転がる彼女を見ながら龍香はカノープスに触れる。
《一点突破!トライセラカラー!》
その言葉と共に龍香のドレスの紫のラインは青となり、左肩に剣竜の頭蓋を模した装甲が装着され、掘削機“ホーンパーフォレイター”を構える。
「たぁぁぁぁっ!!」
龍香は走り出すと同時に掘削機を構えて突撃する。
「くっ」
天願が慌てて斧で受け止めようとするが、龍香の暴走機関車が如き突撃は彼女を防御ごと易々と吹き飛ばす。
《縦横走破!ヴェロキカラー!》
次の瞬間には水色のラインに、両脚部を逆関節の獣脚に変貌させ、尻尾を生やした龍香が目にも止まらぬ速さで天願に迫る。
彼女が迎撃で振るう斧を跳躍してかわすと龍香は彼女を思い切り蹴り付けて上空へと跳躍する。
「この……!」
《一天万衆!プテラカラー!》
今度は黄色のラインに変わり翼を生やし、龍香が構えた弩弓“フェザーバリスタ”から痛烈な一射が放たれる。
《まずいっ!》
“天願のカノープス”が叫ぶと同時に天願はそれを防御するが、その一射は彼女を数歩後退させる。
《百発百中!スピノカラー!》
さらに赤のラインに変わったドレスを纏う龍香は振動波発射銃“フォノンシューター”を構えて落下しながら天願に銃弾を放つ。
放たれた銃弾は彼女だけでなく、その周りに着弾して土埃を舞い上げ、彼女から視界を奪う。
「うっ、視界が…!」
《雲水行脚!プレシオカラー!》
舞い上がった土煙を切り裂き、鞭“プレシオウィップ”が天願の腕に巻き付く。
猛烈な力で引っ張られ、引き寄せられたその先にはオレンジのラインのドレスに身を包んだ龍香の姿があった。
天願を十分引き寄せた龍香は再びカノープスに触れ、ドレスのオレンジのラインが黄緑色へと変化する。
《絶対防御!アンキロカラー!》
戦鎚“ヘヴィプレッシャー”を構えた龍香は引き寄せた勢いそのまま向かってくる天願を戦鎚を振るって大きく上へとカチ上げる。
「ぐぇっっ…!?」
打ち上げられた彼女を追うように龍香は再びカノープスに触れて紫のラインの“ティラノカラー”に戻ると高く跳び上がる。
「行くよカノープスっ!」
《おうよっ!》
龍香は戦斧“タイラントアックス”を構えると紫に輝くその刃をそのまま天願に振り下ろす。
紫の軌跡を描きながら振るわれたその一撃は天願に痛烈な音と共に炸裂する。
「《タイラントトラッシュ!!》」
「ぐっ、あぁっ!!?」
龍香が振るう必殺技を受けた天願は墜落し、地面へと激突すると同時に変身が解けて地面に倒れる。
《ぐっ、うぅ……!おのれ…!》
天願と分離し、同じく地面に倒れるニセカノープスが呻く。龍香も地面へと着地する。
「……久しぶりだけど、意外と覚えているモンだね。」
《当然だ。俺達は相棒だからな。》
多少なりともブランクがあるはずなのにそういったものを一切感じさせない息の合ったコンビネーションを見せた二人は互いに笑ってそう言うと、表情を引き締めて天願に向き直る。
「……もう終わりだよ。天願さん。」
倒れて呻く彼女に龍香はそう言い放った。
シャドウアナザーアンコの剣とエフィと赤羽の剣が火花を散らしながらぶつかり合う。
「あはっはっはっ!やるじゃない!」
笑いながら剣を、さらには肥大化し、鳥の脚のように変貌した左腕を振るう彼女の攻撃を二人は避けると同時に反撃に移る。
「フッ!」
「“ブリッツ”っ!」
赤羽は炸裂弾“椿”を、エフィが雷を放つが、アンコは盾のようなものを取り出すとその攻撃を防ぐ。
「ハハァっ、残念ね。そんな攻撃は効かないわ!」
「──なら、これはどうかしら。貴方にはこれを使っても良さそうね!」
次の瞬間エフィの手には白いレイピアのような武器が握られていた。
エフィはレイピア“ナイチンゲイル”を構えると、アンコへと突っ込む。
「おおう!正面から!」
アンコも負けじと手を剣へと変貌させて、彼女と打ち合う。互いに高速で振るう斬撃がぶつかり合う。
周囲のあちこちで剣同士がぶつかり合う火花が散る中、徐々にエフィの握る白いレイピアが紅く染まり始める。
(!刃が紅く?)
その変化に気づくと同時にこのまま打ち合うのはマズイと直感したアンコは剣を大振りにして自分の体勢を崩してまで仕切り直すように斬り払いを振るう。
(?何故自分の体勢を崩して?)
自ら隙を晒すような行為にエフィが疑問を覚えたその瞬間。
彼女の肘の部分から鋭い爪を備えた新たな腕が飛び出てくる。
「なっ」
「貰ったァッ!」
不意の一撃にエフィの反応が一瞬遅れる。だがその一瞬が致命的だった。アンコの繰り出した必殺の一撃が彼女を切り裂こうと目の前まで迫ったその時。
「でぇぇぇぇいっ!!」
彼女と攻撃の間に割り込んだ赤羽が刀を盾にしながら身体全体をぶつけるようにしてその攻撃を受け止める。
「お?」
「っ、ありがとう助かったわ。」
「別に、なんて事ないわ!」
アンコの手にザックリと刀がめり込む。血が溢れるが、特に気にした様子もなく彼女は今度は右腕を剣に変化させると“そのまま赤羽に向けて突き出す。”
突き出された刃は自らの掌を貫通し、赤羽へと向かう。寸前で気づいた赤羽が咄嗟に身を捻って避けようとするが間に合わず、左肩の装甲を破壊しながら剣は彼女を切り裂く。
「おっ、あぁっ……!!?」
左肩に走る灼熱の痛みに思わず赤羽が呻く。
「自分の掌ごと…!」
「あっはっはっはっ!これくらいの事で驚かないでよぉ。それじゃあすぐ死んじゃうよぉ〜!!」
自らの肉体を傷つけることすら躊躇わない先の読めない奇天烈な攻撃を仕掛ける彼女を警戒し、睨むエフィにアンコが迫る。
「三枚下ろしだぁ〜!!」
アンコが左腕の怪物のような鋭い爪を備えた手を振り下ろすと同時にエフィが紅く染まったレイピアを振るう。
次の瞬間振るわれたレイピアは先程とは打って変わって紅い軌跡を描きながらアンコの掌を切り裂く。
「おぉ…?」
「ふっ!」
さらに振るわれる斬撃をアンコは剣で受け止めるが、その剣に紅いレイピアが食い込む。
危険を感じたアンコは咄嗟に剣を解除し、大きく後ろへ下がる。
「痛いなぁ…!」
「…一気に決める!」
エフィが一気に迫るが、接近されてはまずいとアンコは遠距離から巨大な手を伸ばす。それは途中から枝分かれするように分裂を繰り返し、気づけば百は越えようかと言う拳がエフィへと迫る。
「…!!」
エフィは剣を振るい、腕を切り裂いていくが切られた先からその腕は再生し、際限ない攻撃にエフィは徐々に追い詰められる。
「くっ!面倒!」
「はははっ!このまま数で潰して…!」
アンコがニヤリと笑みを浮かべたその瞬間。彼女に向かって数百は越えようかという数の赤羽がアンコへと襲い掛かる。
「多っ!?」
アンコは慌てて腕の何割かを迫り来る赤羽達へ向ける。迫る腕が赤羽に当たるが、当たった赤羽はブゥンとブレると消失する。
「幻か!!」
何処かにいる本体を狙い、アンコが腕を振り回す。振り回す度に攻撃が当てられた赤羽の幻達は消えていく。
そしてとうとうアンコの攻撃によって最後の赤羽を残し、全員が消滅する。
「ははぁっ!アンタが本体ね!」
アンコが多数の腕を振り下ろし、赤羽を叩き潰そうとしたその瞬間。
「燃える夕暮れ、今ここに!アーベント!!」
その声が聞こえたその瞬間アンコの腕が一瞬の内に数百の斬撃で斬り刻まれ、赤い血飛沫と共にべチャリと地面に落ちる。
「なっ」
アンコが振り返ると、そこにはもう片方の手に橙色の刃を持ったエフィがいた。
「気を取られたわね。お陰でこの技を発動出来たわ。」
二振りの剣を持ったエフィが迫る。アンコはすぐさま右腕の剣を構える。
(さっきはビックリしたけど…今度はそうはいかない。)
アンコにはまだ奥の手があった。切断された左腕の切り口が盾のような形へと変貌する。
(さぁ、さっきの斬撃を放ちなさい。あらゆる攻撃を跳ね返すこの“アイギスノ盾”でそれを跳ね返してジ•エンドよ。)
アンコがほくそ笑む。彼女の脅威の動体視力はエフィの筋肉の動きを正確に読み取り、攻撃のタイミングを正確に予測する。
そして彼女が橙色の剣を構えたのを見たアンコは口角を釣り上げる。
「今だッ!」
エフィの攻撃に対してアンコが盾を構えようとしたその瞬間。
彼女の身体に衝撃が走る。見れば彼女の身体から生えるようにして刀が突き刺さっていた。
「なっ」
信じられない、とでも言いたげにアンコが後ろへと視線を向ける。するとスゥーと背景から滲み出るように赤羽がその姿を見せる。
「と、う、めいか…!?」
アンコがさっきまでの赤羽がいたところに目をやると、その視線の先にいた赤羽は一瞬揺らいだかと思うと消滅する。
「今よ!!」
不意の一撃によって完全に体勢が崩れた彼女にエフィは神速もかくや、と言わんばかりのスピードで近づくと、その二振りの剣を同時に振るう。
「これで、おしまいよ!」
「ば、ばかなっ、これで…!?」
振るわれた一撃は見事にアンコを捉え、彼女の身体が真っ黒に染まったかと思うと砂のように崩れて消滅する。
「……ふぅ。」
エフィが一息つくと、赤羽が彼女へ声をかける。
「やったわね。」
「えぇ……ところで、その肩の傷は大丈夫なの?」
赤羽の左肩は肌が露出し、痛々しい傷が見える。赤羽はその傷を一瞥し、軽く動かすと。
「……ちょっと痛むけど問題ないわ。」
そう言う赤羽にエフィは氷を精製すると手渡す。
「……見てるこっちが痛いから傷口を冷やしといて。」
「悪いわね。」
エフィから氷を受け取った赤羽は座り込むと氷を布で包み、それを傷口へ押し当てる。
それを見たエフィが立ち去ろうとすると、赤羽が声をかける。
「後から行くから。今は任せたわ。」
赤羽の言葉にエフィは腕を上げて返すと、その場を後にした。
「あはっはっはっ!やるじゃない!」
笑いながら剣を、さらには肥大化し、鳥の脚のように変貌した左腕を振るう彼女の攻撃を二人は避けると同時に反撃に移る。
「フッ!」
「“ブリッツ”っ!」
赤羽は炸裂弾“椿”を、エフィが雷を放つが、アンコは盾のようなものを取り出すとその攻撃を防ぐ。
「ハハァっ、残念ね。そんな攻撃は効かないわ!」
「──なら、これはどうかしら。貴方にはこれを使っても良さそうね!」
次の瞬間エフィの手には白いレイピアのような武器が握られていた。
エフィはレイピア“ナイチンゲイル”を構えると、アンコへと突っ込む。
「おおう!正面から!」
アンコも負けじと手を剣へと変貌させて、彼女と打ち合う。互いに高速で振るう斬撃がぶつかり合う。
周囲のあちこちで剣同士がぶつかり合う火花が散る中、徐々にエフィの握る白いレイピアが紅く染まり始める。
(!刃が紅く?)
その変化に気づくと同時にこのまま打ち合うのはマズイと直感したアンコは剣を大振りにして自分の体勢を崩してまで仕切り直すように斬り払いを振るう。
(?何故自分の体勢を崩して?)
自ら隙を晒すような行為にエフィが疑問を覚えたその瞬間。
彼女の肘の部分から鋭い爪を備えた新たな腕が飛び出てくる。
「なっ」
「貰ったァッ!」
不意の一撃にエフィの反応が一瞬遅れる。だがその一瞬が致命的だった。アンコの繰り出した必殺の一撃が彼女を切り裂こうと目の前まで迫ったその時。
「でぇぇぇぇいっ!!」
彼女と攻撃の間に割り込んだ赤羽が刀を盾にしながら身体全体をぶつけるようにしてその攻撃を受け止める。
「お?」
「っ、ありがとう助かったわ。」
「別に、なんて事ないわ!」
アンコの手にザックリと刀がめり込む。血が溢れるが、特に気にした様子もなく彼女は今度は右腕を剣に変化させると“そのまま赤羽に向けて突き出す。”
突き出された刃は自らの掌を貫通し、赤羽へと向かう。寸前で気づいた赤羽が咄嗟に身を捻って避けようとするが間に合わず、左肩の装甲を破壊しながら剣は彼女を切り裂く。
「おっ、あぁっ……!!?」
左肩に走る灼熱の痛みに思わず赤羽が呻く。
「自分の掌ごと…!」
「あっはっはっはっ!これくらいの事で驚かないでよぉ。それじゃあすぐ死んじゃうよぉ〜!!」
自らの肉体を傷つけることすら躊躇わない先の読めない奇天烈な攻撃を仕掛ける彼女を警戒し、睨むエフィにアンコが迫る。
「三枚下ろしだぁ〜!!」
アンコが左腕の怪物のような鋭い爪を備えた手を振り下ろすと同時にエフィが紅く染まったレイピアを振るう。
次の瞬間振るわれたレイピアは先程とは打って変わって紅い軌跡を描きながらアンコの掌を切り裂く。
「おぉ…?」
「ふっ!」
さらに振るわれる斬撃をアンコは剣で受け止めるが、その剣に紅いレイピアが食い込む。
危険を感じたアンコは咄嗟に剣を解除し、大きく後ろへ下がる。
「痛いなぁ…!」
「…一気に決める!」
エフィが一気に迫るが、接近されてはまずいとアンコは遠距離から巨大な手を伸ばす。それは途中から枝分かれするように分裂を繰り返し、気づけば百は越えようかと言う拳がエフィへと迫る。
「…!!」
エフィは剣を振るい、腕を切り裂いていくが切られた先からその腕は再生し、際限ない攻撃にエフィは徐々に追い詰められる。
「くっ!面倒!」
「はははっ!このまま数で潰して…!」
アンコがニヤリと笑みを浮かべたその瞬間。彼女に向かって数百は越えようかという数の赤羽がアンコへと襲い掛かる。
「多っ!?」
アンコは慌てて腕の何割かを迫り来る赤羽達へ向ける。迫る腕が赤羽に当たるが、当たった赤羽はブゥンとブレると消失する。
「幻か!!」
何処かにいる本体を狙い、アンコが腕を振り回す。振り回す度に攻撃が当てられた赤羽の幻達は消えていく。
そしてとうとうアンコの攻撃によって最後の赤羽を残し、全員が消滅する。
「ははぁっ!アンタが本体ね!」
アンコが多数の腕を振り下ろし、赤羽を叩き潰そうとしたその瞬間。
「燃える夕暮れ、今ここに!アーベント!!」
その声が聞こえたその瞬間アンコの腕が一瞬の内に数百の斬撃で斬り刻まれ、赤い血飛沫と共にべチャリと地面に落ちる。
「なっ」
アンコが振り返ると、そこにはもう片方の手に橙色の刃を持ったエフィがいた。
「気を取られたわね。お陰でこの技を発動出来たわ。」
二振りの剣を持ったエフィが迫る。アンコはすぐさま右腕の剣を構える。
(さっきはビックリしたけど…今度はそうはいかない。)
アンコにはまだ奥の手があった。切断された左腕の切り口が盾のような形へと変貌する。
(さぁ、さっきの斬撃を放ちなさい。あらゆる攻撃を跳ね返すこの“アイギスノ盾”でそれを跳ね返してジ•エンドよ。)
アンコがほくそ笑む。彼女の脅威の動体視力はエフィの筋肉の動きを正確に読み取り、攻撃のタイミングを正確に予測する。
そして彼女が橙色の剣を構えたのを見たアンコは口角を釣り上げる。
「今だッ!」
エフィの攻撃に対してアンコが盾を構えようとしたその瞬間。
彼女の身体に衝撃が走る。見れば彼女の身体から生えるようにして刀が突き刺さっていた。
「なっ」
信じられない、とでも言いたげにアンコが後ろへと視線を向ける。するとスゥーと背景から滲み出るように赤羽がその姿を見せる。
「と、う、めいか…!?」
アンコがさっきまでの赤羽がいたところに目をやると、その視線の先にいた赤羽は一瞬揺らいだかと思うと消滅する。
「今よ!!」
不意の一撃によって完全に体勢が崩れた彼女にエフィは神速もかくや、と言わんばかりのスピードで近づくと、その二振りの剣を同時に振るう。
「これで、おしまいよ!」
「ば、ばかなっ、これで…!?」
振るわれた一撃は見事にアンコを捉え、彼女の身体が真っ黒に染まったかと思うと砂のように崩れて消滅する。
「……ふぅ。」
エフィが一息つくと、赤羽が彼女へ声をかける。
「やったわね。」
「えぇ……ところで、その肩の傷は大丈夫なの?」
赤羽の左肩は肌が露出し、痛々しい傷が見える。赤羽はその傷を一瞥し、軽く動かすと。
「……ちょっと痛むけど問題ないわ。」
そう言う赤羽にエフィは氷を精製すると手渡す。
「……見てるこっちが痛いから傷口を冷やしといて。」
「悪いわね。」
エフィから氷を受け取った赤羽は座り込むと氷を布で包み、それを傷口へ押し当てる。
それを見たエフィが立ち去ろうとすると、赤羽が声をかける。
「後から行くから。今は任せたわ。」
赤羽の言葉にエフィは腕を上げて返すと、その場を後にした。
「いただきまぁ〜すっ!!」
シャドウソブリーヌが涎を垂らしながらデヴァと黒鳥の二人に迫る。
「僕が前を張るから君は援護を!」
「分かった!」
彼女が振るう鋭い爪を前に出たデヴァが剣で受け止める。
黒鳥は背中から翼を拡げ、翔びあがるとソブリーヌに向けて鋭い切先の羽根を放つ。
「おっとぉ。」
彼女のフォークのような形状の先端を持つ尻尾が唸りを上げてその攻撃を弾く。
「くっ。」
さらに上から襲い掛かる尻尾を見たデヴァは斬り払い、後ろへと下がる。
「バミュータントォッ!!」
下がったデヴァと黒鳥に向けてソブリーヌは赤黒い光弾を放つ。
「危ないっ!」
「っ!」
二人は何とかその攻撃を避ける。放たれた光弾は地面に着弾すると爆発するでもなくゴッソリと着弾箇所を削り取る。
その威力に二人は思わずゾッとする。喰らえば確実にタダでは済まない。
そんな二人の焦りと警戒を感じ取ったのかソブリーヌはニヤリと口角を吊り上げる。
「さぁさぁどうする?言っとくけど、当たったら……ちょーーう痛いとだけ言っておくよ!」
ニタニタ笑いながらそう言う彼女を見て、二人は彼女の言う事はハッタリではないと肌で感じる。
「……出し惜しみをする余裕は」
「……無さそうだね。」
二人はそう言うと覚悟を決め、全身に力を漲らせ、叫ぶ。
次の瞬間デヴァの顔はドラゴンのような顔に変わり、手足も強靭な爬虫類のようなものに変化する。
黒鳥も嘴のようなマスクが彼女と一体化し、嘴そのものとなり、蜘蛛の顔を模したような鋭い爪、強靭な尻尾を兼ね備えた怪物へと変貌する。
それを見たソブリーヌは逆に面白そうに笑みを浮かべると。
「へぇっ!良いねぇ……!面白くなってきたヨォ…!」
二人が動く。デヴァが先程とは比べ物にはならない程の電光石火のスピードでソブリーヌに接近する。
それと同時に黒鳥は猛スピードで彼女の背後へと飛翔して回り込む。
挟み撃ちの形となる超速の一撃。常人には目で追うことすら困難な高速の攻撃に対し、ソブリーヌの視線はガッチリと二人を捉えていた。
「一気に決める!」
「ところがどっこい!そうはいかないよぉ!」
ソブリーヌは二人に向けてそれぞれ掌を向ける。そこから赤黒い光弾が放たれる。
「読まれたっ!」
二人はすぐさま回避するが、それを見たソブリーヌはニヤリと笑って避けた黒鳥の方へと迫る。
「いただきまぁす。」
次の瞬間大口を開けた彼女の牙が黒鳥の腕を捉える。ブチブチと肉が裂け、骨が折れる音が聞こえる。
「ぐっ、あぁっ……!!」
「!まずいっ!」
このままでは彼女の右腕が噛みちぎられると判断したデヴァが黒鳥に食らいつくソブリーヌに接近しようとする。
しかし、彼女の尻尾が唸りながらデヴァを弾き飛ばす。
「私の甘美な食事の時間を邪魔しないでくれる?」
尚も腕に食らいつく彼女に対し、黒鳥は痛みに顔を顰めながらも、全身に力を入れる。
次の瞬間バチィッという弾ける音と共にソブリーヌの身体を電流が走る。
「おごごっ!?」
不意の一撃に驚いた彼女は黒鳥から口を離す。
「ぐっ……!」
それを見た彼女は翼を硬質化させると思い切りソブリーヌを叩く。
痛烈な一撃にソブリーヌは吹っ飛ぶが、ダメージが大きかったのか、黒鳥は膝をつく。
「大丈夫か!?」
負傷した黒鳥にデヴァが慌てて駆け寄る。噛まれた箇所はドス黒く変色しており、あまりにも痛々しい傷にデヴァが目を背けると、吹っ飛ばされたソブリーヌが笑いながら立ち上がる。
「はははっ。その子はもう終わりだヨォ。僕様の牙を通して送り込んだエイリータで傷口から感染が広が」
「……ふんっ!!」
ソブリーヌの言葉の途中で、彼女は意を決したように瞳を閉じると歯を食いしばって、左腕の爪で負傷した右腕を斬り落とす。
「なっ」
「ぐぅ……!!おぉ……!!」
溢れる鮮血を片腕で押さえながら呻く彼女を見て、あまりの決断の素早さにソブリーヌも少し呆気に取られる。
「……わぉ。今の僕様の言葉が嘘だったら君、腕切り損だよ?」
「……ご心配どうも。どうせ動かなくて邪魔だった。」
そう言うと黒鳥は失った右腕へと意識を集中させる。次の瞬間彼女の断面から新しい腕が生えてくる。
「ぐぅぅぅ…!はぁっ……!ふぅー!ふぅー…!」
呻き、荒い息を吐きながらも腕を再生させた彼女を見たソブリーヌはニヤリと嗤う。
「へへぇ。君、面白いねぇ!まるで蜥蜴の尻尾みたいだ!君みたいな生き物は初めて見たよ!」
「悪いけど、私一応人間でやらせて貰ってるから…!」
腕は再生したものの、大きく体力を消費した様子の黒鳥が動く。これ以上攻撃を当てさせまいとデヴァも走り出す。
二人は素早く動いてソブリーヌを撹乱しようとするが、彼女の眼はしっかりと二人を捉えている。
「そこっ!!」
ソブリーヌが赤黒い光弾を発射する。放たれた光弾を黒鳥はバレルロールをしながらかわす。だがデヴァは。
「うおおおおおお!!」
青いオーラを放つ剣を構えると、それを振るって光弾を弾く。
「おおっ。弾くのか!」
「最短で詰めるッ!」
剣を構えて突撃してくるデヴァをソブリーヌは両手を上げて迎え撃つ。
剣と爪がぶつかり合い、激しい火花が散る。
「良いねぇ!やるねぇっ!楽しいよ!」
「悪いけどボクは楽しくないかなっ!」
ソブリーヌが爪を突き出すが、デヴァは尻尾で地面を叩いて跳躍してその攻撃を避ける。
「上に!」
ソブリーヌが上に視線を向けた瞬間、黒鳥は両腕から白い糸を発射して彼女を拘束する。
「あぁっ?」
「トドメだ!」
剣を振り上げデヴァが振り下ろそうとする。だが、それを防ぐように飛んできたソブリーヌの尻尾がデヴァに炸裂する。
「ぐおおっ!?」
「惜しかったねぇ。後もうちょっとだったのに。」
地面へと叩きつけられるデヴァ。笑いながら拘束を力づくで解くソブリーヌ見た黒鳥に苦渋の色が浮かぶ。
(…どうする?奴に死角はない。やはり倒すには相打ち覚悟で正面から行くしか…!)
「さぁ、次はどうする?」
ニヤリと嗤うソブリーヌ。そんな彼女を見ながらデヴァは立ち上がる。
(なにか、決定的な隙さえあれば…!)
二人がどう攻めようかと攻めあぐねながらも、彼女に視線を向けたその時。
スンスン、と彼女の鼻が何かを嗅ぎつけたかのように動く。
「?」
謎の行動に二人は頭に疑問符を浮かべるが、ソブリーヌの方は二人よりも今彼女の鼻腔を擽る香りの方が気になるようだ。
彼女は鼻をスンスンとさせた後、何かを確信したように目を見開いて大きく笑みを浮かべる。
「この、匂いは…!」
彼女が空を見上げる。すると空間に穴が開き、一人の少女が飛び込んで来る。
それは離れた位置にいる二人にも届く程の甘い匂いを纏い、桃色の長い髪を揺らしながらソブリーヌへと手を構える。
「ソブリーヌ!!……じゃない?そっくりさん?」
少女はソブリーヌを見てどうやらシャドウマンが作り出した幻影とは知らないようで、少し怪訝な顔をしつつも彼女の翳した手から桃色の光が溢れる。
「はははァッ!?フルーグたん!?私を追ってここまで!あはは!何て幸運!眼福かな!」
どうやらソブリーヌはフルーグという少女に熱中しているらしく、二人へ向けていた注意が少女へと向かう。
「えーい!スイート•ラブリ•シャワー!!」
次の瞬間彼女がハートを作るように構えた手から桃色のオーラを纏う光が発射される。
それに対しソブリーヌは避けるでもなく、嬉しそうに両手を拡げて浴びるようにその光を浴びる。
「あアアアッ!!いいっ!全身でッ!全身でフルーグたんを感じているッ!」
気色の悪い笑み浮かべなく浮かべながら光を浴びるソブリーヌ。一方の黒鳥とデヴァはその光を浴びた彼女からこちらへの注意が完全になくなった事に気づく。
「今だっ!」
「お互いの最強技をぶつけるッ!!」
次の瞬間デヴァは剣を構え、黒鳥は電撃を纏い、回転しながら彼女へと突撃する。
「「喰らえっ!!」」
「──あっ。」
二人の攻撃が当たる直前にフルーグの攻撃に夢中になっていたソブリーヌがようやく二人に気づく。
だが、時すでに遅し。二人の繰り出した決死の一撃がソブリーヌに炸裂する。
「あっ……!フルーグたんに夢中で…!!戦ってたの忘れてた…!!」
致命傷を負ったにも関わらず、笑みを浮かべながら彼女はそう言うと後ろへと倒れ、黒い塵となって霧散する。
「……やった?」
「ふぅ……強敵だった……。」
ソブリーヌを撃破し、一息つく二人にフルーグと呼ばれた少女が話しかける。
「貴方達凄いのね!ソブリーヌのそっくりさんを倒すなんて!」
「いや、君が隙を作ってくれたお陰だよ。じゃなきゃこうはいかなかったと思う。」
デヴァがそう言うと、私すごい?とでも言いたげなキラキラした瞳をフルーグは向ける。
「ところで君は、一体?」
突然の乱入者に黒鳥が尋ねると、彼女は胸を張り。
「はいっ!今回の件は“オウマがトキ”にとっても他人事じゃないので力を貸すよう“オーナー”から頼まれたのです!」
「オウマがトキ?」
「あー。あの変な空間の。」
一度行ったことのある黒鳥が納得する中、フルーグはある言葉を告げる。
「えーっと。オーナーさん曰く。このままだとマズイそうです!」
それは、とんでもない爆弾発言だった。
シャドウソブリーヌが涎を垂らしながらデヴァと黒鳥の二人に迫る。
「僕が前を張るから君は援護を!」
「分かった!」
彼女が振るう鋭い爪を前に出たデヴァが剣で受け止める。
黒鳥は背中から翼を拡げ、翔びあがるとソブリーヌに向けて鋭い切先の羽根を放つ。
「おっとぉ。」
彼女のフォークのような形状の先端を持つ尻尾が唸りを上げてその攻撃を弾く。
「くっ。」
さらに上から襲い掛かる尻尾を見たデヴァは斬り払い、後ろへと下がる。
「バミュータントォッ!!」
下がったデヴァと黒鳥に向けてソブリーヌは赤黒い光弾を放つ。
「危ないっ!」
「っ!」
二人は何とかその攻撃を避ける。放たれた光弾は地面に着弾すると爆発するでもなくゴッソリと着弾箇所を削り取る。
その威力に二人は思わずゾッとする。喰らえば確実にタダでは済まない。
そんな二人の焦りと警戒を感じ取ったのかソブリーヌはニヤリと口角を吊り上げる。
「さぁさぁどうする?言っとくけど、当たったら……ちょーーう痛いとだけ言っておくよ!」
ニタニタ笑いながらそう言う彼女を見て、二人は彼女の言う事はハッタリではないと肌で感じる。
「……出し惜しみをする余裕は」
「……無さそうだね。」
二人はそう言うと覚悟を決め、全身に力を漲らせ、叫ぶ。
次の瞬間デヴァの顔はドラゴンのような顔に変わり、手足も強靭な爬虫類のようなものに変化する。
黒鳥も嘴のようなマスクが彼女と一体化し、嘴そのものとなり、蜘蛛の顔を模したような鋭い爪、強靭な尻尾を兼ね備えた怪物へと変貌する。
それを見たソブリーヌは逆に面白そうに笑みを浮かべると。
「へぇっ!良いねぇ……!面白くなってきたヨォ…!」
二人が動く。デヴァが先程とは比べ物にはならない程の電光石火のスピードでソブリーヌに接近する。
それと同時に黒鳥は猛スピードで彼女の背後へと飛翔して回り込む。
挟み撃ちの形となる超速の一撃。常人には目で追うことすら困難な高速の攻撃に対し、ソブリーヌの視線はガッチリと二人を捉えていた。
「一気に決める!」
「ところがどっこい!そうはいかないよぉ!」
ソブリーヌは二人に向けてそれぞれ掌を向ける。そこから赤黒い光弾が放たれる。
「読まれたっ!」
二人はすぐさま回避するが、それを見たソブリーヌはニヤリと笑って避けた黒鳥の方へと迫る。
「いただきまぁす。」
次の瞬間大口を開けた彼女の牙が黒鳥の腕を捉える。ブチブチと肉が裂け、骨が折れる音が聞こえる。
「ぐっ、あぁっ……!!」
「!まずいっ!」
このままでは彼女の右腕が噛みちぎられると判断したデヴァが黒鳥に食らいつくソブリーヌに接近しようとする。
しかし、彼女の尻尾が唸りながらデヴァを弾き飛ばす。
「私の甘美な食事の時間を邪魔しないでくれる?」
尚も腕に食らいつく彼女に対し、黒鳥は痛みに顔を顰めながらも、全身に力を入れる。
次の瞬間バチィッという弾ける音と共にソブリーヌの身体を電流が走る。
「おごごっ!?」
不意の一撃に驚いた彼女は黒鳥から口を離す。
「ぐっ……!」
それを見た彼女は翼を硬質化させると思い切りソブリーヌを叩く。
痛烈な一撃にソブリーヌは吹っ飛ぶが、ダメージが大きかったのか、黒鳥は膝をつく。
「大丈夫か!?」
負傷した黒鳥にデヴァが慌てて駆け寄る。噛まれた箇所はドス黒く変色しており、あまりにも痛々しい傷にデヴァが目を背けると、吹っ飛ばされたソブリーヌが笑いながら立ち上がる。
「はははっ。その子はもう終わりだヨォ。僕様の牙を通して送り込んだエイリータで傷口から感染が広が」
「……ふんっ!!」
ソブリーヌの言葉の途中で、彼女は意を決したように瞳を閉じると歯を食いしばって、左腕の爪で負傷した右腕を斬り落とす。
「なっ」
「ぐぅ……!!おぉ……!!」
溢れる鮮血を片腕で押さえながら呻く彼女を見て、あまりの決断の素早さにソブリーヌも少し呆気に取られる。
「……わぉ。今の僕様の言葉が嘘だったら君、腕切り損だよ?」
「……ご心配どうも。どうせ動かなくて邪魔だった。」
そう言うと黒鳥は失った右腕へと意識を集中させる。次の瞬間彼女の断面から新しい腕が生えてくる。
「ぐぅぅぅ…!はぁっ……!ふぅー!ふぅー…!」
呻き、荒い息を吐きながらも腕を再生させた彼女を見たソブリーヌはニヤリと嗤う。
「へへぇ。君、面白いねぇ!まるで蜥蜴の尻尾みたいだ!君みたいな生き物は初めて見たよ!」
「悪いけど、私一応人間でやらせて貰ってるから…!」
腕は再生したものの、大きく体力を消費した様子の黒鳥が動く。これ以上攻撃を当てさせまいとデヴァも走り出す。
二人は素早く動いてソブリーヌを撹乱しようとするが、彼女の眼はしっかりと二人を捉えている。
「そこっ!!」
ソブリーヌが赤黒い光弾を発射する。放たれた光弾を黒鳥はバレルロールをしながらかわす。だがデヴァは。
「うおおおおおお!!」
青いオーラを放つ剣を構えると、それを振るって光弾を弾く。
「おおっ。弾くのか!」
「最短で詰めるッ!」
剣を構えて突撃してくるデヴァをソブリーヌは両手を上げて迎え撃つ。
剣と爪がぶつかり合い、激しい火花が散る。
「良いねぇ!やるねぇっ!楽しいよ!」
「悪いけどボクは楽しくないかなっ!」
ソブリーヌが爪を突き出すが、デヴァは尻尾で地面を叩いて跳躍してその攻撃を避ける。
「上に!」
ソブリーヌが上に視線を向けた瞬間、黒鳥は両腕から白い糸を発射して彼女を拘束する。
「あぁっ?」
「トドメだ!」
剣を振り上げデヴァが振り下ろそうとする。だが、それを防ぐように飛んできたソブリーヌの尻尾がデヴァに炸裂する。
「ぐおおっ!?」
「惜しかったねぇ。後もうちょっとだったのに。」
地面へと叩きつけられるデヴァ。笑いながら拘束を力づくで解くソブリーヌ見た黒鳥に苦渋の色が浮かぶ。
(…どうする?奴に死角はない。やはり倒すには相打ち覚悟で正面から行くしか…!)
「さぁ、次はどうする?」
ニヤリと嗤うソブリーヌ。そんな彼女を見ながらデヴァは立ち上がる。
(なにか、決定的な隙さえあれば…!)
二人がどう攻めようかと攻めあぐねながらも、彼女に視線を向けたその時。
スンスン、と彼女の鼻が何かを嗅ぎつけたかのように動く。
「?」
謎の行動に二人は頭に疑問符を浮かべるが、ソブリーヌの方は二人よりも今彼女の鼻腔を擽る香りの方が気になるようだ。
彼女は鼻をスンスンとさせた後、何かを確信したように目を見開いて大きく笑みを浮かべる。
「この、匂いは…!」
彼女が空を見上げる。すると空間に穴が開き、一人の少女が飛び込んで来る。
それは離れた位置にいる二人にも届く程の甘い匂いを纏い、桃色の長い髪を揺らしながらソブリーヌへと手を構える。
「ソブリーヌ!!……じゃない?そっくりさん?」
少女はソブリーヌを見てどうやらシャドウマンが作り出した幻影とは知らないようで、少し怪訝な顔をしつつも彼女の翳した手から桃色の光が溢れる。
「はははァッ!?フルーグたん!?私を追ってここまで!あはは!何て幸運!眼福かな!」
どうやらソブリーヌはフルーグという少女に熱中しているらしく、二人へ向けていた注意が少女へと向かう。
「えーい!スイート•ラブリ•シャワー!!」
次の瞬間彼女がハートを作るように構えた手から桃色のオーラを纏う光が発射される。
それに対しソブリーヌは避けるでもなく、嬉しそうに両手を拡げて浴びるようにその光を浴びる。
「あアアアッ!!いいっ!全身でッ!全身でフルーグたんを感じているッ!」
気色の悪い笑み浮かべなく浮かべながら光を浴びるソブリーヌ。一方の黒鳥とデヴァはその光を浴びた彼女からこちらへの注意が完全になくなった事に気づく。
「今だっ!」
「お互いの最強技をぶつけるッ!!」
次の瞬間デヴァは剣を構え、黒鳥は電撃を纏い、回転しながら彼女へと突撃する。
「「喰らえっ!!」」
「──あっ。」
二人の攻撃が当たる直前にフルーグの攻撃に夢中になっていたソブリーヌがようやく二人に気づく。
だが、時すでに遅し。二人の繰り出した決死の一撃がソブリーヌに炸裂する。
「あっ……!フルーグたんに夢中で…!!戦ってたの忘れてた…!!」
致命傷を負ったにも関わらず、笑みを浮かべながら彼女はそう言うと後ろへと倒れ、黒い塵となって霧散する。
「……やった?」
「ふぅ……強敵だった……。」
ソブリーヌを撃破し、一息つく二人にフルーグと呼ばれた少女が話しかける。
「貴方達凄いのね!ソブリーヌのそっくりさんを倒すなんて!」
「いや、君が隙を作ってくれたお陰だよ。じゃなきゃこうはいかなかったと思う。」
デヴァがそう言うと、私すごい?とでも言いたげなキラキラした瞳をフルーグは向ける。
「ところで君は、一体?」
突然の乱入者に黒鳥が尋ねると、彼女は胸を張り。
「はいっ!今回の件は“オウマがトキ”にとっても他人事じゃないので力を貸すよう“オーナー”から頼まれたのです!」
「オウマがトキ?」
「あー。あの変な空間の。」
一度行ったことのある黒鳥が納得する中、フルーグはある言葉を告げる。
「えーっと。オーナーさん曰く。このままだとマズイそうです!」
それは、とんでもない爆弾発言だった。
天を泳ぐ様に身体をくねらせるシャドウしろうねりを見上げながら、のじゃロリ猫とむらサメが構える。
しろうねりはのじゃロリ猫を見やると口を大きく開け、ドス黒いブレスを放つ。
「おおっとっ!」
「どわーっ!!」
二人はそれを横っ飛びに跳躍して避け、さっきまで二人がいたところにブレスが直撃する。見ればその黒いブレスが当たった箇所はドロドロに腐り、落ちて溶けている。
「うーむ。これ喰らったらワシはまだイケるけどお主死ぬな。」
「見りゃ分かるわっ!」
しろうねりの攻撃力にむらサメが戦慄する中、しろうねりは奇妙な唸り声を上げながら猛スピードで二人へと迫る。
「ちょいと失礼するぞ。」
「うおぅ!?」
のじゃロリ猫はむらサメの首根っこを掴むと跳躍してしろうねりの攻撃を避ける。
だが今度は避けた二人に対し、身体をくねらせて、その巨大をぶつけようとする。
「おおっと!」
その攻撃に対しのじゃロリ猫は右腕を大きく異形化させ、巨大な拳にすると向かってくる巨体に対し振るう。
ドォオン!と、凄まじい音が辺りに響く。衝撃で空気が震える中、のじゃロリ猫はニヤリと嗤う。
「流石、“紛い物”とは言えこれくらいはやるか。」
「⬛︎◼︎▪︎■⬛︎■■⬛︎◾︎◼︎■⬛︎■■▪︎!!!」
しろうねりは絶叫すると口を開いて二人へと凄まじい悪臭のする口を大きく開け、二人を喰らおうと向かって来る。
のじゃロリ猫はむらサメを掴んだまま駆け出す。
「よしっ、お主離れておけ。」
「え?ってちょ」
地面へと激突するしろうねりを後ろ目に彼女はむらサメを解放すると同時に指を立てて文字を描くように動かす。
すると彼女の周りに黒い焔の塊が複数個現れたかと思うと、それらがしろうねり目掛けて飛んでいき、着弾と同時に爆発する。
「挨拶代わりにとりあえず一発の。」
のじゃロリ猫がニヤリと嗤う。だが黒焔の爆発を受けたのにも関わらず、しろうねりは何事もなかったように食らいついた地面から顔を上げる。
唸り声を上げると、しろうねりは尻尾をしならせてのじゃロリ猫へと振るう。
だが彼女も横っ飛びに跳んでその一撃をかわす。さらに脚に力を込め、常人では負えない速度へと突入する。目にも止まらぬ速度で彼女はしろうねりの背後へと回る。
しかしギョロギョロとせわしなく動く怪物の六つの瞳はしっかりと彼女の姿を捉えていた。
次の瞬間ギュルンとしろうねりの首が180度回転し、背後の彼女を真正面から見据える。
「うおっ。」
思わずのじゃロリ猫が驚く中、怪物の口が開き、それと連動するように黒い牙状の靄が現れる。
そしてうねりが噛み付く様に口を閉じると同時に靄の牙が彼女に襲いかかる。そのまま牙が炸裂し、血が飛び散る。
「……やって、くれたのォッ!!」
噛まれた箇所から血を流しながらも、のじゃロリ猫は脚に力を込めて思いっきりしろうねりの横っ面を蹴り上げる。
その衝撃は相当なもののようで、口から牙を何本か零し、謎の黒い液体を垂れ流しながらよろめく。
しかし怪物の眼が見開かれ、脚に黒い靄を纏った爪が彼女へと振り下ろされる。
それを見ながらも、のじゃロリ猫が嗤って対応しようとしたその時。
「どっせーい!!」
横から巨大化したむらサメが痛烈なドロップキックを喰らわせる。突然の横槍に怪物はバランスを崩して、攻撃は明後日の方へと飛んでいく。
「ウチを忘れとったんとちゃうかー!?」
「よくやったぞ!」
よろめく怪物に対し、のじゃロリ猫は右腕を異形化させると腕を振るって怪物を殴り飛ばす。
「⬛︎■■⬛︎◼︎▪︎▪︎■◾︎◼︎▪︎▪︎■⬛︎!!」
怪物が悲鳴の様な叫びを上げながらまたもやよろめく。しかし怪物はとぐろを巻く様に身体を回転させると、黒い靄を全身から溢れさせたかと思うとドス黒い竜巻が発生し、二人へと襲いかかる。
「うおおお!?あれに触れたらヤバい気がする!」
「ヤバい気がするじゃなくてヤバいぞ!」
少しでも被弾面積を少なくするべくむらサメは巨大化を解き、のじゃロリ猫は彼女の間に出て印を結ぶ。
「こーいう呪術系はあんまり得意じゃないんじゃがの!」
次の瞬間黒い化け猫が次元を切り裂き、その裂け目から飛び出すと竜巻とぶつかる。
凄まじい衝撃と攻撃の余波が辺りに撒き散らされる。ある種の小さな天変地異さながらの光景にのじゃロリ猫は歯を食い縛り、むらサメも飛ばされまいと踏ん張る。
「うおおおおお!!?」
竜巻と黒猫が激しくぶつかり合うが、ほんの僅かだが、徐々に黒猫が押され始める。
「ちょ、ちょちょっ!?何か押されてないか!?」
「だから言ったじゃろ!ワシ呪術系はそんなに得意じゃないんじゃって!」
「いや、それってアカンやつ…!?」
バキバキと音を立てて黒猫にヒビが入る。このままでは長くは持たないと察したのじゃロリ猫がどうするか、思考を巡らせたその時。
突然上から太陽の様な光と共に凄まじい熱を持った球が降り注ぎ、竜巻を破壊すると、そのまましろうねりに直撃し、その身体を灼く。
「⬛︎◼︎■⬛︎◾︎◼︎▪︎▪︎■■⬛︎◼︎!!?」
引き裂く様な絶叫と共にしろうねりがよろめく中、その光の球に見覚えがあったのじゃロリ猫は空を見上げる。
そこには一人の少女がいた。
「お邪魔だったかしら?」
太陽を模したヘアアクセで茶色の髪を二つに纏めた快活そうな少女がそう言って得意げにのじゃロリ猫にウインクを飛ばす。
それを見たのじゃロリ猫はフッと笑って。
「いいや!助かった!!」
そう言うとよろめくしろうねりに向かってのじゃロリ猫は異形の右腕を構えて走り出す。
「今がチャンス!っちゅー奴やな!!」
それと同時にむらサメも拳を巨大化させ、振りかぶる。
「「いっけぇぇぇぇぇ!!」」
二人の巨大な拳がしろうねりに向けて放たれる。最後の抵抗か、怪物は黒い牙を纏わせる。
拳と牙がぶつかり合う。果たして、二人の拳はバキバキと牙を砕いてしろうねりの顔面に捩じ込まれる。
「⬛︎◻️⬛︎■◾︎◼︎■■⬛︎◾︎◼︎◻️⬛︎……!!」
しろうねりは断末魔の絶叫と共に倒れると、黒い霧となって霧散する。
「やっ、やった……!?」
「やったみたいじゃの。」
強敵を倒した事で二人が一息ついて、それから上を見上げる。
先程二人を援護してくれた少女……ライジングちゃんは親指を立てて二人にサムズアップする。
それに二人が同じように返すと、彼女はフッと笑って消えてしまう。
「あら。行ってもうた。」
「ま、今回は彼奴に感謝じゃの。」
二人はそう言って空を見上げる。彼女のいなくなった空は太陽の光が燦々と輝いていた。
しろうねりはのじゃロリ猫を見やると口を大きく開け、ドス黒いブレスを放つ。
「おおっとっ!」
「どわーっ!!」
二人はそれを横っ飛びに跳躍して避け、さっきまで二人がいたところにブレスが直撃する。見ればその黒いブレスが当たった箇所はドロドロに腐り、落ちて溶けている。
「うーむ。これ喰らったらワシはまだイケるけどお主死ぬな。」
「見りゃ分かるわっ!」
しろうねりの攻撃力にむらサメが戦慄する中、しろうねりは奇妙な唸り声を上げながら猛スピードで二人へと迫る。
「ちょいと失礼するぞ。」
「うおぅ!?」
のじゃロリ猫はむらサメの首根っこを掴むと跳躍してしろうねりの攻撃を避ける。
だが今度は避けた二人に対し、身体をくねらせて、その巨大をぶつけようとする。
「おおっと!」
その攻撃に対しのじゃロリ猫は右腕を大きく異形化させ、巨大な拳にすると向かってくる巨体に対し振るう。
ドォオン!と、凄まじい音が辺りに響く。衝撃で空気が震える中、のじゃロリ猫はニヤリと嗤う。
「流石、“紛い物”とは言えこれくらいはやるか。」
「⬛︎◼︎▪︎■⬛︎■■⬛︎◾︎◼︎■⬛︎■■▪︎!!!」
しろうねりは絶叫すると口を開いて二人へと凄まじい悪臭のする口を大きく開け、二人を喰らおうと向かって来る。
のじゃロリ猫はむらサメを掴んだまま駆け出す。
「よしっ、お主離れておけ。」
「え?ってちょ」
地面へと激突するしろうねりを後ろ目に彼女はむらサメを解放すると同時に指を立てて文字を描くように動かす。
すると彼女の周りに黒い焔の塊が複数個現れたかと思うと、それらがしろうねり目掛けて飛んでいき、着弾と同時に爆発する。
「挨拶代わりにとりあえず一発の。」
のじゃロリ猫がニヤリと嗤う。だが黒焔の爆発を受けたのにも関わらず、しろうねりは何事もなかったように食らいついた地面から顔を上げる。
唸り声を上げると、しろうねりは尻尾をしならせてのじゃロリ猫へと振るう。
だが彼女も横っ飛びに跳んでその一撃をかわす。さらに脚に力を込め、常人では負えない速度へと突入する。目にも止まらぬ速度で彼女はしろうねりの背後へと回る。
しかしギョロギョロとせわしなく動く怪物の六つの瞳はしっかりと彼女の姿を捉えていた。
次の瞬間ギュルンとしろうねりの首が180度回転し、背後の彼女を真正面から見据える。
「うおっ。」
思わずのじゃロリ猫が驚く中、怪物の口が開き、それと連動するように黒い牙状の靄が現れる。
そしてうねりが噛み付く様に口を閉じると同時に靄の牙が彼女に襲いかかる。そのまま牙が炸裂し、血が飛び散る。
「……やって、くれたのォッ!!」
噛まれた箇所から血を流しながらも、のじゃロリ猫は脚に力を込めて思いっきりしろうねりの横っ面を蹴り上げる。
その衝撃は相当なもののようで、口から牙を何本か零し、謎の黒い液体を垂れ流しながらよろめく。
しかし怪物の眼が見開かれ、脚に黒い靄を纏った爪が彼女へと振り下ろされる。
それを見ながらも、のじゃロリ猫が嗤って対応しようとしたその時。
「どっせーい!!」
横から巨大化したむらサメが痛烈なドロップキックを喰らわせる。突然の横槍に怪物はバランスを崩して、攻撃は明後日の方へと飛んでいく。
「ウチを忘れとったんとちゃうかー!?」
「よくやったぞ!」
よろめく怪物に対し、のじゃロリ猫は右腕を異形化させると腕を振るって怪物を殴り飛ばす。
「⬛︎■■⬛︎◼︎▪︎▪︎■◾︎◼︎▪︎▪︎■⬛︎!!」
怪物が悲鳴の様な叫びを上げながらまたもやよろめく。しかし怪物はとぐろを巻く様に身体を回転させると、黒い靄を全身から溢れさせたかと思うとドス黒い竜巻が発生し、二人へと襲いかかる。
「うおおお!?あれに触れたらヤバい気がする!」
「ヤバい気がするじゃなくてヤバいぞ!」
少しでも被弾面積を少なくするべくむらサメは巨大化を解き、のじゃロリ猫は彼女の間に出て印を結ぶ。
「こーいう呪術系はあんまり得意じゃないんじゃがの!」
次の瞬間黒い化け猫が次元を切り裂き、その裂け目から飛び出すと竜巻とぶつかる。
凄まじい衝撃と攻撃の余波が辺りに撒き散らされる。ある種の小さな天変地異さながらの光景にのじゃロリ猫は歯を食い縛り、むらサメも飛ばされまいと踏ん張る。
「うおおおおお!!?」
竜巻と黒猫が激しくぶつかり合うが、ほんの僅かだが、徐々に黒猫が押され始める。
「ちょ、ちょちょっ!?何か押されてないか!?」
「だから言ったじゃろ!ワシ呪術系はそんなに得意じゃないんじゃって!」
「いや、それってアカンやつ…!?」
バキバキと音を立てて黒猫にヒビが入る。このままでは長くは持たないと察したのじゃロリ猫がどうするか、思考を巡らせたその時。
突然上から太陽の様な光と共に凄まじい熱を持った球が降り注ぎ、竜巻を破壊すると、そのまましろうねりに直撃し、その身体を灼く。
「⬛︎◼︎■⬛︎◾︎◼︎▪︎▪︎■■⬛︎◼︎!!?」
引き裂く様な絶叫と共にしろうねりがよろめく中、その光の球に見覚えがあったのじゃロリ猫は空を見上げる。
そこには一人の少女がいた。
「お邪魔だったかしら?」
太陽を模したヘアアクセで茶色の髪を二つに纏めた快活そうな少女がそう言って得意げにのじゃロリ猫にウインクを飛ばす。
それを見たのじゃロリ猫はフッと笑って。
「いいや!助かった!!」
そう言うとよろめくしろうねりに向かってのじゃロリ猫は異形の右腕を構えて走り出す。
「今がチャンス!っちゅー奴やな!!」
それと同時にむらサメも拳を巨大化させ、振りかぶる。
「「いっけぇぇぇぇぇ!!」」
二人の巨大な拳がしろうねりに向けて放たれる。最後の抵抗か、怪物は黒い牙を纏わせる。
拳と牙がぶつかり合う。果たして、二人の拳はバキバキと牙を砕いてしろうねりの顔面に捩じ込まれる。
「⬛︎◻️⬛︎■◾︎◼︎■■⬛︎◾︎◼︎◻️⬛︎……!!」
しろうねりは断末魔の絶叫と共に倒れると、黒い霧となって霧散する。
「やっ、やった……!?」
「やったみたいじゃの。」
強敵を倒した事で二人が一息ついて、それから上を見上げる。
先程二人を援護してくれた少女……ライジングちゃんは親指を立てて二人にサムズアップする。
それに二人が同じように返すと、彼女はフッと笑って消えてしまう。
「あら。行ってもうた。」
「ま、今回は彼奴に感謝じゃの。」
二人はそう言って空を見上げる。彼女のいなくなった空は太陽の光が燦々と輝いていた。
「はァァァァァァァッ!!」
「うおおおおおおおっ!!」
シェーンとシャドウマンは互いに拳と鋏を繰り出し、凄まじい接戦を繰り広げていた。
シャドウマンの突き出した鋏をシェーンは裏拳で叩いて軌道をズラさせると彼女に突き刺すように蹴りを繰り出す。
「!」
しかしシャドウマンもそれを身体を捻って回避する。
「やるねぇっ……コイツは喰らったらヤバそうだ。」
「鍛えてあるからね。」
そう言いながらもシェーンは拳や蹴りを矢継早に繰り出す。
シャドウマンはそれらを鋏状になった両腕で防御する。
「お返しだっ!」
反撃と言わんばかりにシャドウマンが鋏を突き出す。シェーンは極限の集中力で迫り来る鋏が自身に直撃するギリギリまで引き付け、シャドウマンの腕が伸び切るのを待つ。
そしてそれはほんの刹那、一秒にも満たない時間だが、彼女が狙ったタイミングが訪れる。
「今だ!」
シェーンは鋏に手を添えてスナップを加えるように腕を回す。力を受け止めるのでも強引に逸らすでもない、利用して受け流す防御術にシャドウマンの体勢が崩れる。
「オオッ……!?」
体勢が崩れ、隙が生じたシャドマンの脇腹にシェーンはすかさず指を当てる。
その構えを見たシャドマンは思わず声を上げる。
「ちょっ、待てそれはヤバ」
「ふんっ!!」
シェーンが気合いと共に指を折りたたみ、拳をシャドウマンにぶち当てる。接触箇所から全身に広がる衝撃にシャドウマンは思わず黒い液体を吐き出す。
「ごっ、ぶゔぅぅぅう…!?」
よろめくシャドウマンにシェーンはすぐさま追撃に移る。しかし、彼女の眼はギロリとシェーンを捉えていた。
「させるかぁっ!」
彼女がかざした手から伸びた黒い剣のような影がシェーンを掠める。
「!」
シェーンは攻撃を中断し、後退する。シャドウマンはぜぇぜぇと荒い息を吐きながらも彼女を睨む。
「……驚いた。まさか発勁を受けて、すぐに動けるなんて。」
「くっ、くくく……俺様をあまり甘く見るなよ。この程度……なんとも…?」
グラリと揺らぐ彼女。するとその姿が揺れ、少女の姿から黒い靄のような怪物へと一瞬変貌する。
「…?」
「お、おお……?お、俺は、一体?何、を……!?」
何かに苦しむように頭を押さえ、揺らめく彼女にシェーンが攻撃を中断する。
「お、俺?俺、おれ、はぁァッ、あ、あの時死……?」
何やら記憶が混濁している様子のシャドウマンだったが、急にギョロリと目を見開くとシェーンへ、技を放つ構えを見せる。
「お、あ゛ァッ!?オマエ、俺に何をしたぁァッ!??」
「…発勁以外、特に何もしてないが…!」
困惑するシェーンに向けてシャドウマンは全身から黒い刃の様な影を発生させると、それを一つの巨大なドリルの様に纏め、シェーンに向けて放つ。
「消えろォォッ!!」
放たれた一撃が地面を抉り取りながら、シェーンへと迫る。だがシェーンは一切慌てる様子はなく、冷静に迫り来る黒い一撃を見据える。
「……笑止。どれだけ巨大でも闇雲に放った一撃では、隙だらけだ。」
シェーンが右の拳を構える。すると背後にに龍を思わせるような幻影が浮かび上がる。
「乾坤一擲!この一撃でお前を砕く!」
次の瞬間かシェーンの雄叫びと共に繰り出された一撃は龍の形となってシャドウマンの一撃に食らいつく。
一瞬の均衡があった。しかしそれは本当にほんの一瞬で、龍はその顎で技を食い破るとそのままシャドウマンへと向かっていき、大きく口を開けて彼女に食らいつく。
「オ゛ォッ!!?オオオオオオオオオオ!!」
食らいつかれた箇所からビキビキと彼女の身体にヒビが入る。
全身を砕かれるその刹那。シャドウマンの脳裏をある事が過ぎる。
《貴様の運命は我が書き換える。貴様は今から我の僕だ。》
それは恐竜の骨を継ぎ接ぎにしたような鎧を纏った怪物が傷だらけで動けない自分に向けて手を翳す光景。
「そ、うか……!!き、さま……は…!」
次の瞬間龍の形をした一撃が完全にシャドウマンの身体を噛み砕き、文字通り粉砕する。
砕け散り、黒い霧となって消えたシャドマンがいた場所を見つめながら、シェーンは呟く。
「……まずは、一人。」
「うおおおおおおおっ!!」
シェーンとシャドウマンは互いに拳と鋏を繰り出し、凄まじい接戦を繰り広げていた。
シャドウマンの突き出した鋏をシェーンは裏拳で叩いて軌道をズラさせると彼女に突き刺すように蹴りを繰り出す。
「!」
しかしシャドウマンもそれを身体を捻って回避する。
「やるねぇっ……コイツは喰らったらヤバそうだ。」
「鍛えてあるからね。」
そう言いながらもシェーンは拳や蹴りを矢継早に繰り出す。
シャドウマンはそれらを鋏状になった両腕で防御する。
「お返しだっ!」
反撃と言わんばかりにシャドウマンが鋏を突き出す。シェーンは極限の集中力で迫り来る鋏が自身に直撃するギリギリまで引き付け、シャドウマンの腕が伸び切るのを待つ。
そしてそれはほんの刹那、一秒にも満たない時間だが、彼女が狙ったタイミングが訪れる。
「今だ!」
シェーンは鋏に手を添えてスナップを加えるように腕を回す。力を受け止めるのでも強引に逸らすでもない、利用して受け流す防御術にシャドウマンの体勢が崩れる。
「オオッ……!?」
体勢が崩れ、隙が生じたシャドマンの脇腹にシェーンはすかさず指を当てる。
その構えを見たシャドマンは思わず声を上げる。
「ちょっ、待てそれはヤバ」
「ふんっ!!」
シェーンが気合いと共に指を折りたたみ、拳をシャドウマンにぶち当てる。接触箇所から全身に広がる衝撃にシャドウマンは思わず黒い液体を吐き出す。
「ごっ、ぶゔぅぅぅう…!?」
よろめくシャドウマンにシェーンはすぐさま追撃に移る。しかし、彼女の眼はギロリとシェーンを捉えていた。
「させるかぁっ!」
彼女がかざした手から伸びた黒い剣のような影がシェーンを掠める。
「!」
シェーンは攻撃を中断し、後退する。シャドウマンはぜぇぜぇと荒い息を吐きながらも彼女を睨む。
「……驚いた。まさか発勁を受けて、すぐに動けるなんて。」
「くっ、くくく……俺様をあまり甘く見るなよ。この程度……なんとも…?」
グラリと揺らぐ彼女。するとその姿が揺れ、少女の姿から黒い靄のような怪物へと一瞬変貌する。
「…?」
「お、おお……?お、俺は、一体?何、を……!?」
何かに苦しむように頭を押さえ、揺らめく彼女にシェーンが攻撃を中断する。
「お、俺?俺、おれ、はぁァッ、あ、あの時死……?」
何やら記憶が混濁している様子のシャドウマンだったが、急にギョロリと目を見開くとシェーンへ、技を放つ構えを見せる。
「お、あ゛ァッ!?オマエ、俺に何をしたぁァッ!??」
「…発勁以外、特に何もしてないが…!」
困惑するシェーンに向けてシャドウマンは全身から黒い刃の様な影を発生させると、それを一つの巨大なドリルの様に纏め、シェーンに向けて放つ。
「消えろォォッ!!」
放たれた一撃が地面を抉り取りながら、シェーンへと迫る。だがシェーンは一切慌てる様子はなく、冷静に迫り来る黒い一撃を見据える。
「……笑止。どれだけ巨大でも闇雲に放った一撃では、隙だらけだ。」
シェーンが右の拳を構える。すると背後にに龍を思わせるような幻影が浮かび上がる。
「乾坤一擲!この一撃でお前を砕く!」
次の瞬間かシェーンの雄叫びと共に繰り出された一撃は龍の形となってシャドウマンの一撃に食らいつく。
一瞬の均衡があった。しかしそれは本当にほんの一瞬で、龍はその顎で技を食い破るとそのままシャドウマンへと向かっていき、大きく口を開けて彼女に食らいつく。
「オ゛ォッ!!?オオオオオオオオオオ!!」
食らいつかれた箇所からビキビキと彼女の身体にヒビが入る。
全身を砕かれるその刹那。シャドウマンの脳裏をある事が過ぎる。
《貴様の運命は我が書き換える。貴様は今から我の僕だ。》
それは恐竜の骨を継ぎ接ぎにしたような鎧を纏った怪物が傷だらけで動けない自分に向けて手を翳す光景。
「そ、うか……!!き、さま……は…!」
次の瞬間龍の形をした一撃が完全にシャドウマンの身体を噛み砕き、文字通り粉砕する。
砕け散り、黒い霧となって消えたシャドマンがいた場所を見つめながら、シェーンは呟く。
「……まずは、一人。」
ニコニコと笑みを浮かべる姦姦蛇螺を前に雪花は再び“デイブレイク”を纏い、色々な装備を一纏めにした盾のような武装を右腕に装備する。
「あらあら。何ですかその玩具は?」
「舐めた口きけるのも今だけよ。この、お姉ちゃんが作ってくれた武器でアンタを倒す。」
雪花がそう言うと同時に折り畳まれていた刃が展開し、チェーンソーのような装備が飛び出す。
「この複合機能統一強襲兵装“ターゲスアンブルフ”でね!!」
「名前が長いんだよ!!」
飛び出す雪花に向けて姦姦蛇螺が右腕から蛇を繰り出して迎撃する。
「お姉ちゃんのネーミングセンスを馬鹿にする気!?」
そう言いながら藍は武器を振るって蛇を薙ぎ払う。だがそれは織り込み済みだったようで第二撃、三撃と蛇の群れが藍へと向かう。
「雪花ちゃん!右から、次に左から!」
「おうっ!」
女児符号によって攻撃の動きを見極めたきゅーばんが藍に指示を飛ばす。
藍は攻撃を回避、時に斬り払いながら凌ぐと、再びヘアアクセに触れる。
「短期決戦で一気に決める!!“セイヴァー”起動!」
そう叫んだ瞬間藍の纏う“デイブレイク”の装備が緑の発光するラインが走り、飛行ユニットが装着された“デイブレイク•セイヴァー”へと変形する。
「はっ!」
藍が踏み込んで跳躍すると同時に飛行ユニットから光が噴き出し、飛行能力を獲得した彼女の身体は空を泳ぐ。
超高速で飛び回る彼女は姦姦蛇螺の繰り出す攻撃を避けながらあっという間にその懐に潜り込む。
「チィッ、速いッ!」
そう言いながらも姦姦蛇螺は詰められた距離を離すのではなく、逆に雪花へと突っ込む。
「突っ込んできた!?」
予想外の行動にきゅーばんが驚きの声を上げる。だが姦姦蛇螺もヤケになった訳ではない。
(逆にこれだけ近づけば、その刃のリーチじゃ振りにくいでしょ!)
そう。彼女の狙いはさらなる超至近距離、インファイトに持ち込む事で刃の射程内から外れる事だった。
禍々しい紫色のオーラを滲ませた彼女がカウンターの要領で藍に手痛い反撃を喰らわせようとした、まさにその時。
「織り込み済みよッ!」
次の瞬間“ターゲスアンブルフ”の刃を折り畳み、収納したと同時に握り手の先に掘削機のような丸刃が迫り出し、極悪なグローブのような形態へと変わる。
「なっ」
「オラァァぁぁァッ!!」
藍の一撃が姦姦蛇螺に炸裂し、大きく吹き飛ばす。吹き飛ばされた彼女は岩壁に激突し、もうもうと砂塵が上がる。
「ふんっ。どんなもんよ。」
得意げに雪花は振り返ってきゅーばんにサムズアップをする。
きゅーばんもサムズアップで返そうとして、気づく。
「雪花ちゃん!後ろ!」
「は…?」
雪花が振り返ると、そこには瓦礫を押しのけながら立ち上がる姦姦蛇螺の姿があった。
「しぶといわね…」
再び構える藍。だが一方の姦姦蛇螺は先程の笑みさえ浮かべていた余裕綽々の態度から一変し、大きく目を見開いて仮面のような無表情を浮かべる。
「……馬鹿なガキ共。この私を本気にさせるなんて。」
「御託は良いからさっさとかかって来なさい。こっちは時間がないのよ。」
「そう……なら後悔するがいいわ。」
藍がそう返すとギョロリ、と姦姦蛇螺の黒目が細まり爬虫類のような無機質な目になり、彼女の身体が嫌な音を立てて変形していく。
顔は鱗に覆われて蛇のようになり、チロチロと二つに分かれた舌を突き出す。
髪の毛は逆上がり、七つに分かれてそれぞれが蛇の顔のように纏まっていく。
ドンドン膨れ上がっていく彼女の身体が変形を終えると、そこには六つの腕を持ち、以前の数倍の体格はあろうかと言う大蛇の怪物が現れた。
「あまり、綺麗じゃないからこの形態になるのは嫌なんだけどねぇ……!」
「あまり?だいぶでしょ。」
「雪花ちゃん、それは失礼だよ……」
つっけんどんな発言をぶちかます藍にきゅーばんが小声でツッコむ。だが、それが再開の合図となる。
「消えなクソガキィッ!」
姦姦蛇螺が叫ぶと同時に髪が変貌した七つの蛇が牙を剥いて藍へと襲いかかってくる。
それを見た彼女はすぐさま上空へと飛翔して、その攻撃を避ける。が、空へと逃げた彼女を追いかけるように蛇達が迫る。
「追っかけてくんの!?」
襲いくる蛇たちをかわしながら藍は“ターゲスアンブルフ”を姦姦蛇螺に向ける。
そしてトリガーを押し込むと掘削機の上部についている集合から銃弾が発射される。
「喰らうかぁ!」
しかし放たれた銃弾は姦姦蛇螺が一対の腕を構えて発生させた障壁によって弾かれる。
「バリア持ち!?」
「言ったでしょう!私は本気だってぇッ!!」
姦姦蛇螺は障壁を貼りながら残った四本の腕を構える。すると魔法陣のようなものがいくつか展開したかと思った次の瞬間、高密度に圧縮されたエネルギーの線が高速で藍へと向かって飛んでいく。
「!!」
咄嗟に藍は身体を捻ってかわそうとするがその一撃のあまりの速さに完全避け切る事は出来ず、左腕を掠めてしまう。
「雪花ちゃん!」
「ッの……!!」
体勢を崩しながらも藍は銃弾を発砲するが、姦姦蛇螺の張った障壁はそれらを全て弾く。
「無駄よ無駄無駄。この障壁を突破する事は不可能。」
藍はさらに腰から“シャハル”投擲装甲完徹弾を取り出して投擲する。放たれたそれは障壁に直撃し、爆発する。
しかし爆煙が晴れると、そこには健在と言った様子の姦姦蛇螺の姿が。
「効かないねぇ。」
「チッ。ウザ過ぎでしょそのバリア……」
藍がそう言いながらも着地したその時。ぐらり、と藍の視界が揺れる。
「あ……?」
すぐに頭を振って気を持ち直すが、妙に身体が重い。まるで全身に鉛が纏わりついたかのような倦怠感に藍は苛まれる。
「雪花ちゃん!大丈夫!?何か、辛そうだけど…!」
「……別に、なんでもないわよ。」
虚勢を張る藍を見てニヤニヤと笑いながら姦姦蛇螺が喋り出す。
「嘘おっしゃい。今の貴方は立つのも辛いはずよ。何故なら……掠めたとは言え私の呪術を喰らったんだから。」
「…呪術……?」
一瞬藍の脳裏に自分の腕を掠めたあの黒い閃光が過ぎる。掠めた箇所を見れば、掠めた箇所には妙におどろおどろしい漢字のような模様が浮かび上がっている。
しかもそれは徐々に拡がっており、それと連動するように藍の身体は不調になっていく。
「私の術は強力……その紋様が全身に達した瞬間。貴方の命の炎は消える。」
「そんな……!」
姦姦蛇螺の言葉にきゅーばんが思わず絶句するが、藍は脂汗を滲ませながらも口角を上げる。
「はっ……それってつまり、これが全身に回る前に。」
藍は地面を大きく蹴り、翼の出力を全開にすると、光のような速度で姦姦蛇螺へと向かう。
常人であれば目に見えない速度。しかし姦姦蛇螺は全く慌てる事なく、髪の毛の蛇を飛ばす。
その蛇達は正確に彼女の動きを捉え、追尾する。
「くっ!」
七つの蛇の猛攻に雪花は近づく事すらままならない。さらに姦姦蛇螺は蛇を飛ばして牽制しながらまたもや四本の腕の間に黒いエネルギーを溜め込むと、高速の呪術を発射する。
「ああッ!?」
今度は藍はその一撃を完璧に避ける。しかし蛇の追撃は止まらない。蛇に追いかけられながら、藍は銃弾を放つが全て障壁に弾かれる。
「クソッ、なら回り込んで……!」
藍が再び高速で移動しようとするが、七つの蛇達の間髪入れない攻撃に、藍は避けるので手一杯になる。
相手の行動を阻害し、自分は障壁で身を守りながら一撃必殺技でこちらをじわじわと追い詰める。
隙のない、まさしく絶体絶命の状況に追い込まれ、流石の雪花の額にも冷や汗が伝う。
「コイツ……!」
「おやおやぁっ?さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」
藍の焦りを感じ取ったのか、姦姦蛇螺の攻撃が勢いづく。藍も何とか攻撃をかわしているが、その動きは呪術に蝕まれ、精細を欠いていく。
(マズイ……ふらつく、視界が揺れる……これは、ヤバい)
そしてとうとう彼女は一瞬ふらついて動きが緩慢になる。その一瞬が命取りだった。一つの蛇の一撃が藍に直撃し、彼女はそのまま撃墜される。
「ごっ、ォォッ……!?」
「雪花ちゃん!」
震える脚で何とか立ちあがろうとする彼女に姦姦蛇螺はトドメを刺そうと腕を構える。
何とか気を逸らそうと、きゅーばんはその辺の石を拾い上げるとそれを思い切り投げつける。
投げられたそれは放物線を描いてコツン、と姦姦蛇螺に当たる。
だが彼女は少し煩わしげに眼を細めると。
「そう急かさないで?この金髪のガキを殺したら、次はあなたの番だから。」
彼女はそう言うと再び雪花に向き直る。そして彼女の四本の腕から再び黒い呪術が放たれようとしたその瞬間。
ゴンッッ!!と。
天から降り注いだ剣が姦姦蛇螺の脳天を捉え、その頭を揺らす。不意の一撃に彼女の構えが崩れ、障壁と呪術は宙に霧となって消える。
「お、あぁっ……!?」
「何事!?」
両者にとって予想外過ぎる一撃に、きゅーばんが天を見上げると、そこには銀髪の長い髪をたなびかせ、白銀の翼を広げた紫色の天使を思わせる少女がいた。
「貴方は……!?」
「……何なの貴方はぁっ…!?」
頭を押さえながら姦姦蛇螺が尋ねると、少女は彼女を見下ろしながら、答える。
「……ウリエル。ウルトラガールウリエルよ。」
「ウルトラ……?」
謎の少女、ウリエルの出現に姦姦蛇螺が困惑する中、彼女は静かに尋ねる。
「…けど、良いのかしら?私に注目していて。」
「は?」
「彼女。まだやる気みたいだけど。」
ウリエルの言葉にハッとした姦姦蛇螺が視線を雪花に戻すと同時に、とうとう顔にまで紋様の侵食が及んでいるにも関わらず、武器を構える藍の姿があった。
「“スペクトルリュミエール”最大出力!!」
次の瞬間彼女の飛行ユニットから莫大なエネルギーの光が放たれ、それは翼のように形取る。
「これで決めるッ!!」
次の瞬間藍が光の軌跡を残しながら高速で飛翔する。姦姦蛇螺もすぐに七つの蛇を藍に向けて放つ。
そして動き回る彼女の姿を蛇の一体が捉える。
「取った!!」
そう叫ぶと蛇の口が閉じ、藍に喰らいつく。……だが、その噛まれた藍に手応えはなく、スゥーと空気にでも溶けるように消えてしまう。
それを見た姦姦蛇螺は驚く。
「馬鹿な、確実に捉え……!?」
だが、次の瞬間目の前に拡がる光景に姦姦蛇螺は絶句する。それは、光速で分身を生み出しながらこちらへと迫る藍の姿が見えていたからだ。
(しかも、こいつ!残像が熱も持っているのか!?)
姦姦蛇螺の対象の温度を感じ取り、位置を特定する能力がここに来て裏目に出る。
視覚と温度感知機能が合わさり、まるで高速で熱を持って飛び回る雪花が複数体いるように錯覚してしまったのだ。
「こ、のっ!!」
何とかそれらに目掛けて呪術を放つが、全て虚しく宙を裂くだけで終わる。
攻撃をかわしながら藍は素早く接近していく。だが、姦姦蛇螺もタダでは転ばない。
例え目では追えなくても経験と行動から行動に予測をつけるとその地点に照準を合わせる。
「追えなくても!軌道を読む事くらいは出来る!」
果たして、姦姦蛇螺の狙いは見事藍の進路を補足する。放たれた呪術は狂いなく藍へと向かっていく。
「雪花ちゃん危ないっ!!」
きゅーばんの叫びも虚しく、呪術と藍がぶつかる。直撃の手応えを感じた姦姦蛇螺がニヤリと口角を上げる。
だが藍が強烈に光輝いたこと思うと、呪術を切り裂いて藍が飛び込んでくる。武器を盾代わりにし、防ぎきれなかった衝撃で傷だらけになりながらも、“スペクトルリュミエール”の推進力にモノを言わせて無理矢理突破する。
「ぐっ、障壁を───!?」
「させるかッ!」
次の瞬間“ターゲスアンブルフ”を取り外すと思い切りブン投げる。投げられたそれは姦姦蛇螺の腕に当たり、障壁を精製するのを妨害する。
「なっ」
藍の手甲が青白い光を放ち始める。迫り来る彼女に向けて姦姦蛇螺も迎撃すべく腕を振るう。
「これでトドメだぁ──ッ!!」
「クソガキがぁ──ッ!!」
互いの拳が振るわれる。死力を尽くして繰り出されたその一撃は──姦姦蛇螺の一撃は藍の頬を掠め、藍の繰り出した一撃は彼女の顎を捉えていた。
「お、ぉ……?」
「おああああああああああああ!!」
次の瞬間一際手甲が光輝いたかと思うと、凄じいエネルギーの奔流が拳から迸り、大爆発を起こす。
「………!!」
顔を爆発で灼かれた姦姦蛇螺煙を出しながら白眼を剥くと地響きを立てて倒れる。
それと同時に藍を蝕む紋様の侵食が収まり、スーッと消えていく。
「あっ……」
「雪花ちゃん!」
変身が解除されると同時に膝から力が抜け、倒れそうになる彼女をきゅーばんが慌てて受け止める。
「ふ、ふふん。どんなもんよ。」
「うん!カッコよかったよ…!」
傷で震えながら言う雪花にきゅーばんがそう答える。すると翼をはためかせながら先ほどの少女、ウリエルが降り立つ。
「どうやら勝てたみたいね。」
「あ、さっきの……」
ウリエルに気づいた藍ときゅーばんがそちらに目を向ける。
「助かったわ。正直結構ヤバかったから…。」
雪花の言葉にウリエルは。
「気にしなくていいわ。“知り合い”のよしみよ。」
「……?まぁ、良く分かんないけど。」
藍はそう言うと、きゅーばんの手を借りながらも座り込む。
「悪いけど、私しばらく動けそうにないから。他のとこに援護に行ってあげて。」
「……雪花ちゃん。分かったわ。」
どうやら消耗が激し過ぎたのか座り込む藍にきゅーばんは力強く頷く。
チラとウリエルの方を見れば、彼女も藍にコクリと頷いて返す。
その場から離れていく二人の背中を見た藍は脱力し、パタンと大の字に倒れると微笑んで言う。
「……頼んだわよ。」
「あらあら。何ですかその玩具は?」
「舐めた口きけるのも今だけよ。この、お姉ちゃんが作ってくれた武器でアンタを倒す。」
雪花がそう言うと同時に折り畳まれていた刃が展開し、チェーンソーのような装備が飛び出す。
「この複合機能統一強襲兵装“ターゲスアンブルフ”でね!!」
「名前が長いんだよ!!」
飛び出す雪花に向けて姦姦蛇螺が右腕から蛇を繰り出して迎撃する。
「お姉ちゃんのネーミングセンスを馬鹿にする気!?」
そう言いながら藍は武器を振るって蛇を薙ぎ払う。だがそれは織り込み済みだったようで第二撃、三撃と蛇の群れが藍へと向かう。
「雪花ちゃん!右から、次に左から!」
「おうっ!」
女児符号によって攻撃の動きを見極めたきゅーばんが藍に指示を飛ばす。
藍は攻撃を回避、時に斬り払いながら凌ぐと、再びヘアアクセに触れる。
「短期決戦で一気に決める!!“セイヴァー”起動!」
そう叫んだ瞬間藍の纏う“デイブレイク”の装備が緑の発光するラインが走り、飛行ユニットが装着された“デイブレイク•セイヴァー”へと変形する。
「はっ!」
藍が踏み込んで跳躍すると同時に飛行ユニットから光が噴き出し、飛行能力を獲得した彼女の身体は空を泳ぐ。
超高速で飛び回る彼女は姦姦蛇螺の繰り出す攻撃を避けながらあっという間にその懐に潜り込む。
「チィッ、速いッ!」
そう言いながらも姦姦蛇螺は詰められた距離を離すのではなく、逆に雪花へと突っ込む。
「突っ込んできた!?」
予想外の行動にきゅーばんが驚きの声を上げる。だが姦姦蛇螺もヤケになった訳ではない。
(逆にこれだけ近づけば、その刃のリーチじゃ振りにくいでしょ!)
そう。彼女の狙いはさらなる超至近距離、インファイトに持ち込む事で刃の射程内から外れる事だった。
禍々しい紫色のオーラを滲ませた彼女がカウンターの要領で藍に手痛い反撃を喰らわせようとした、まさにその時。
「織り込み済みよッ!」
次の瞬間“ターゲスアンブルフ”の刃を折り畳み、収納したと同時に握り手の先に掘削機のような丸刃が迫り出し、極悪なグローブのような形態へと変わる。
「なっ」
「オラァァぁぁァッ!!」
藍の一撃が姦姦蛇螺に炸裂し、大きく吹き飛ばす。吹き飛ばされた彼女は岩壁に激突し、もうもうと砂塵が上がる。
「ふんっ。どんなもんよ。」
得意げに雪花は振り返ってきゅーばんにサムズアップをする。
きゅーばんもサムズアップで返そうとして、気づく。
「雪花ちゃん!後ろ!」
「は…?」
雪花が振り返ると、そこには瓦礫を押しのけながら立ち上がる姦姦蛇螺の姿があった。
「しぶといわね…」
再び構える藍。だが一方の姦姦蛇螺は先程の笑みさえ浮かべていた余裕綽々の態度から一変し、大きく目を見開いて仮面のような無表情を浮かべる。
「……馬鹿なガキ共。この私を本気にさせるなんて。」
「御託は良いからさっさとかかって来なさい。こっちは時間がないのよ。」
「そう……なら後悔するがいいわ。」
藍がそう返すとギョロリ、と姦姦蛇螺の黒目が細まり爬虫類のような無機質な目になり、彼女の身体が嫌な音を立てて変形していく。
顔は鱗に覆われて蛇のようになり、チロチロと二つに分かれた舌を突き出す。
髪の毛は逆上がり、七つに分かれてそれぞれが蛇の顔のように纏まっていく。
ドンドン膨れ上がっていく彼女の身体が変形を終えると、そこには六つの腕を持ち、以前の数倍の体格はあろうかと言う大蛇の怪物が現れた。
「あまり、綺麗じゃないからこの形態になるのは嫌なんだけどねぇ……!」
「あまり?だいぶでしょ。」
「雪花ちゃん、それは失礼だよ……」
つっけんどんな発言をぶちかます藍にきゅーばんが小声でツッコむ。だが、それが再開の合図となる。
「消えなクソガキィッ!」
姦姦蛇螺が叫ぶと同時に髪が変貌した七つの蛇が牙を剥いて藍へと襲いかかってくる。
それを見た彼女はすぐさま上空へと飛翔して、その攻撃を避ける。が、空へと逃げた彼女を追いかけるように蛇達が迫る。
「追っかけてくんの!?」
襲いくる蛇たちをかわしながら藍は“ターゲスアンブルフ”を姦姦蛇螺に向ける。
そしてトリガーを押し込むと掘削機の上部についている集合から銃弾が発射される。
「喰らうかぁ!」
しかし放たれた銃弾は姦姦蛇螺が一対の腕を構えて発生させた障壁によって弾かれる。
「バリア持ち!?」
「言ったでしょう!私は本気だってぇッ!!」
姦姦蛇螺は障壁を貼りながら残った四本の腕を構える。すると魔法陣のようなものがいくつか展開したかと思った次の瞬間、高密度に圧縮されたエネルギーの線が高速で藍へと向かって飛んでいく。
「!!」
咄嗟に藍は身体を捻ってかわそうとするがその一撃のあまりの速さに完全避け切る事は出来ず、左腕を掠めてしまう。
「雪花ちゃん!」
「ッの……!!」
体勢を崩しながらも藍は銃弾を発砲するが、姦姦蛇螺の張った障壁はそれらを全て弾く。
「無駄よ無駄無駄。この障壁を突破する事は不可能。」
藍はさらに腰から“シャハル”投擲装甲完徹弾を取り出して投擲する。放たれたそれは障壁に直撃し、爆発する。
しかし爆煙が晴れると、そこには健在と言った様子の姦姦蛇螺の姿が。
「効かないねぇ。」
「チッ。ウザ過ぎでしょそのバリア……」
藍がそう言いながらも着地したその時。ぐらり、と藍の視界が揺れる。
「あ……?」
すぐに頭を振って気を持ち直すが、妙に身体が重い。まるで全身に鉛が纏わりついたかのような倦怠感に藍は苛まれる。
「雪花ちゃん!大丈夫!?何か、辛そうだけど…!」
「……別に、なんでもないわよ。」
虚勢を張る藍を見てニヤニヤと笑いながら姦姦蛇螺が喋り出す。
「嘘おっしゃい。今の貴方は立つのも辛いはずよ。何故なら……掠めたとは言え私の呪術を喰らったんだから。」
「…呪術……?」
一瞬藍の脳裏に自分の腕を掠めたあの黒い閃光が過ぎる。掠めた箇所を見れば、掠めた箇所には妙におどろおどろしい漢字のような模様が浮かび上がっている。
しかもそれは徐々に拡がっており、それと連動するように藍の身体は不調になっていく。
「私の術は強力……その紋様が全身に達した瞬間。貴方の命の炎は消える。」
「そんな……!」
姦姦蛇螺の言葉にきゅーばんが思わず絶句するが、藍は脂汗を滲ませながらも口角を上げる。
「はっ……それってつまり、これが全身に回る前に。」
藍は地面を大きく蹴り、翼の出力を全開にすると、光のような速度で姦姦蛇螺へと向かう。
常人であれば目に見えない速度。しかし姦姦蛇螺は全く慌てる事なく、髪の毛の蛇を飛ばす。
その蛇達は正確に彼女の動きを捉え、追尾する。
「くっ!」
七つの蛇の猛攻に雪花は近づく事すらままならない。さらに姦姦蛇螺は蛇を飛ばして牽制しながらまたもや四本の腕の間に黒いエネルギーを溜め込むと、高速の呪術を発射する。
「ああッ!?」
今度は藍はその一撃を完璧に避ける。しかし蛇の追撃は止まらない。蛇に追いかけられながら、藍は銃弾を放つが全て障壁に弾かれる。
「クソッ、なら回り込んで……!」
藍が再び高速で移動しようとするが、七つの蛇達の間髪入れない攻撃に、藍は避けるので手一杯になる。
相手の行動を阻害し、自分は障壁で身を守りながら一撃必殺技でこちらをじわじわと追い詰める。
隙のない、まさしく絶体絶命の状況に追い込まれ、流石の雪花の額にも冷や汗が伝う。
「コイツ……!」
「おやおやぁっ?さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」
藍の焦りを感じ取ったのか、姦姦蛇螺の攻撃が勢いづく。藍も何とか攻撃をかわしているが、その動きは呪術に蝕まれ、精細を欠いていく。
(マズイ……ふらつく、視界が揺れる……これは、ヤバい)
そしてとうとう彼女は一瞬ふらついて動きが緩慢になる。その一瞬が命取りだった。一つの蛇の一撃が藍に直撃し、彼女はそのまま撃墜される。
「ごっ、ォォッ……!?」
「雪花ちゃん!」
震える脚で何とか立ちあがろうとする彼女に姦姦蛇螺はトドメを刺そうと腕を構える。
何とか気を逸らそうと、きゅーばんはその辺の石を拾い上げるとそれを思い切り投げつける。
投げられたそれは放物線を描いてコツン、と姦姦蛇螺に当たる。
だが彼女は少し煩わしげに眼を細めると。
「そう急かさないで?この金髪のガキを殺したら、次はあなたの番だから。」
彼女はそう言うと再び雪花に向き直る。そして彼女の四本の腕から再び黒い呪術が放たれようとしたその瞬間。
ゴンッッ!!と。
天から降り注いだ剣が姦姦蛇螺の脳天を捉え、その頭を揺らす。不意の一撃に彼女の構えが崩れ、障壁と呪術は宙に霧となって消える。
「お、あぁっ……!?」
「何事!?」
両者にとって予想外過ぎる一撃に、きゅーばんが天を見上げると、そこには銀髪の長い髪をたなびかせ、白銀の翼を広げた紫色の天使を思わせる少女がいた。
「貴方は……!?」
「……何なの貴方はぁっ…!?」
頭を押さえながら姦姦蛇螺が尋ねると、少女は彼女を見下ろしながら、答える。
「……ウリエル。ウルトラガールウリエルよ。」
「ウルトラ……?」
謎の少女、ウリエルの出現に姦姦蛇螺が困惑する中、彼女は静かに尋ねる。
「…けど、良いのかしら?私に注目していて。」
「は?」
「彼女。まだやる気みたいだけど。」
ウリエルの言葉にハッとした姦姦蛇螺が視線を雪花に戻すと同時に、とうとう顔にまで紋様の侵食が及んでいるにも関わらず、武器を構える藍の姿があった。
「“スペクトルリュミエール”最大出力!!」
次の瞬間彼女の飛行ユニットから莫大なエネルギーの光が放たれ、それは翼のように形取る。
「これで決めるッ!!」
次の瞬間藍が光の軌跡を残しながら高速で飛翔する。姦姦蛇螺もすぐに七つの蛇を藍に向けて放つ。
そして動き回る彼女の姿を蛇の一体が捉える。
「取った!!」
そう叫ぶと蛇の口が閉じ、藍に喰らいつく。……だが、その噛まれた藍に手応えはなく、スゥーと空気にでも溶けるように消えてしまう。
それを見た姦姦蛇螺は驚く。
「馬鹿な、確実に捉え……!?」
だが、次の瞬間目の前に拡がる光景に姦姦蛇螺は絶句する。それは、光速で分身を生み出しながらこちらへと迫る藍の姿が見えていたからだ。
(しかも、こいつ!残像が熱も持っているのか!?)
姦姦蛇螺の対象の温度を感じ取り、位置を特定する能力がここに来て裏目に出る。
視覚と温度感知機能が合わさり、まるで高速で熱を持って飛び回る雪花が複数体いるように錯覚してしまったのだ。
「こ、のっ!!」
何とかそれらに目掛けて呪術を放つが、全て虚しく宙を裂くだけで終わる。
攻撃をかわしながら藍は素早く接近していく。だが、姦姦蛇螺もタダでは転ばない。
例え目では追えなくても経験と行動から行動に予測をつけるとその地点に照準を合わせる。
「追えなくても!軌道を読む事くらいは出来る!」
果たして、姦姦蛇螺の狙いは見事藍の進路を補足する。放たれた呪術は狂いなく藍へと向かっていく。
「雪花ちゃん危ないっ!!」
きゅーばんの叫びも虚しく、呪術と藍がぶつかる。直撃の手応えを感じた姦姦蛇螺がニヤリと口角を上げる。
だが藍が強烈に光輝いたこと思うと、呪術を切り裂いて藍が飛び込んでくる。武器を盾代わりにし、防ぎきれなかった衝撃で傷だらけになりながらも、“スペクトルリュミエール”の推進力にモノを言わせて無理矢理突破する。
「ぐっ、障壁を───!?」
「させるかッ!」
次の瞬間“ターゲスアンブルフ”を取り外すと思い切りブン投げる。投げられたそれは姦姦蛇螺の腕に当たり、障壁を精製するのを妨害する。
「なっ」
藍の手甲が青白い光を放ち始める。迫り来る彼女に向けて姦姦蛇螺も迎撃すべく腕を振るう。
「これでトドメだぁ──ッ!!」
「クソガキがぁ──ッ!!」
互いの拳が振るわれる。死力を尽くして繰り出されたその一撃は──姦姦蛇螺の一撃は藍の頬を掠め、藍の繰り出した一撃は彼女の顎を捉えていた。
「お、ぉ……?」
「おああああああああああああ!!」
次の瞬間一際手甲が光輝いたかと思うと、凄じいエネルギーの奔流が拳から迸り、大爆発を起こす。
「………!!」
顔を爆発で灼かれた姦姦蛇螺煙を出しながら白眼を剥くと地響きを立てて倒れる。
それと同時に藍を蝕む紋様の侵食が収まり、スーッと消えていく。
「あっ……」
「雪花ちゃん!」
変身が解除されると同時に膝から力が抜け、倒れそうになる彼女をきゅーばんが慌てて受け止める。
「ふ、ふふん。どんなもんよ。」
「うん!カッコよかったよ…!」
傷で震えながら言う雪花にきゅーばんがそう答える。すると翼をはためかせながら先ほどの少女、ウリエルが降り立つ。
「どうやら勝てたみたいね。」
「あ、さっきの……」
ウリエルに気づいた藍ときゅーばんがそちらに目を向ける。
「助かったわ。正直結構ヤバかったから…。」
雪花の言葉にウリエルは。
「気にしなくていいわ。“知り合い”のよしみよ。」
「……?まぁ、良く分かんないけど。」
藍はそう言うと、きゅーばんの手を借りながらも座り込む。
「悪いけど、私しばらく動けそうにないから。他のとこに援護に行ってあげて。」
「……雪花ちゃん。分かったわ。」
どうやら消耗が激し過ぎたのか座り込む藍にきゅーばんは力強く頷く。
チラとウリエルの方を見れば、彼女も藍にコクリと頷いて返す。
その場から離れていく二人の背中を見た藍は脱力し、パタンと大の字に倒れると微笑んで言う。
「……頼んだわよ。」
各地で激戦が繰り広げられる中、空中にて月乃助とアリックスがぶつかる。
「久しぶりとは言え、中々やるじゃないか!この天才とやり合うとはな!」
「ハッ、人間如きが図に乗るなよ!」
月乃助が複合機能統一突撃銃“エクリスィ•ソラーレ”を構えるとアリックスに向けて発砲する。
その銃弾をアクロバットな飛行で回避しながらアリックスも負けじと翼を拡げ、血の針を月乃助に向けて放つ。
「おおっとぉ!」
月乃助は機械の翼のエンジンを思い切り噴かしてそれを回避しつつ銃を構える。放たれる銃弾は全て回避されるが、月乃助はアリックスの動く軌道をジッと見つめ続ける。
「貴方、美味しそうね!テイスティングしてあげましょうか?」
「ごめん被るよ!痛いのは苦手でね!」
アリックスの軽口と共に放たれた攻撃を月乃助は回りながらかわすと、“エクリフィ•ソラーレ”を連射モードから一射一射が重い榴弾モードに切り替える。
そして狙いを定めると引き金を引く。放たれたそれは軌道を描いて真っ直ぐ高速飛行を続けるアリックスに向かって飛んでいく。
「!」
「君の行動パターンは読み切った!君ならこの軌道で動くとも予想がついた!何も私も考え無しでライフルを撃っていたわけではない!」
放たれた銃弾がアリックスを捉えようとしたその瞬間。シュンッと赤黒い霧となって彼女は霧散し、放たれた銃弾はすり抜けて地上に落ちて爆発する。
「んなっ」
「人間にしちゃ、中々の観察眼だけど。」
霧は月乃助の後ろで再集結して、アリックスがその姿を現す。
「ドラキュリアの私にそれが通じるって思うのは甘い見積もりね?」
アリックス精製した血の槍を構えると、それを振るう。振るわれた一撃を月乃助は咄嗟に逆手で引き抜いた蛇腹剣で受け止める。が、アリックスの常人を超えた人外の膂力で振るわれた一撃を完全に受け止めることは出来ず、思い切り吹き飛ばされる。
「無茶苦茶だな…!」
大きく吹き飛ばされ、体勢が崩れた彼女に追い打ちをかけるようにアリックスは翼を大きく変化させると、それをハサミのように両側面から月乃助に叩き付ける。
「血塗れ翼鋏“ブラム•エール•シゾー”!!」
「うおおっ…!?」
左右から強烈な一撃を叩き込まれた月乃助がよろめいて体勢を崩した彼女にトドメを刺すべく、アリックスは槍の切先を彼女に向ける。
「トドメよ!」
月乃助が体勢を立て直すより先にアリックスの凶刃が彼女に迫る。
防げない一撃に月乃助が思わず青ざめたその瞬間。横から現れた何者かの蹴りが槍の切先を彼女から逸らす。
「何?」
「はっ!」
乱入者はさらに回し蹴りをアリックスに浴びせる。不意の一撃だが、アリックスもすぐに反応して槍を挟んで直撃を避ける。
しかし乱入者はそのまま思い切り蹴り抜き、アリックスを地上へと蹴り飛ばす。
「!!」
蹴り飛ばされたアリックスは翼を拡げ、体勢を立て直すと地面へと着地する。
それを見た乱入者も地上へと降り立つ。
その乱入者は赤と黒の混じった髪をツインテールに纏め、赤と青の目玉がついた角、耳には赤いピアス、紫を基調とした丈の短いドレスを纏った少女の外見をしている。
まだ少し幼さを感じる顔立ちに何処か退廃的な雰囲気を纏った彼女は赤と青のオッドアイを目の前のアリックスに向ける。
「……よく、分からないが、助かったよ。」
そんな彼女の後方に降り立った月乃助がそう言うと彼女はチラと月乃助を一瞥し、またアリックスに向き直る。
一方のアリックスは乱入者を見て、槍を突きつけて言う。
「アンタ……見たところドラキュリアみたいだけど、私をアリックス•ル•カヌレと分かっての狼藉かしら!?名を名乗りなさい!」
アリックスの言葉に少女は少し面倒そうに顔を顰めた後、口を開く。
「…レティシア。レティシア•ノ•グラブジャブンです。」
彼女の言葉にアリックスは目を見開くと、ピキリと青筋を額に浮かべる。
「へぇ……平民階級の“ノ”の分際で高位貴族の“ル”の私に逆らう訳?」
アリックスの怒気の含んだ物言いに乱入者、レティシアははぁとため息をつくと。
「……出来れば、私も関わりたくはないんですけど。見過ごせないので。」
「身の程知らずの下郎が!」
アリックスはそう叫ぶとレティシアに槍を振るう。その槍を身を低くしてかわす。
「ッ!」
かわした彼女にさらに槍を突き出すが、レティシアはそれをかわすと同時に柄の部分を掴み、それに身を乗せながら痛烈な回し蹴りをレティシアにお見舞いする。
「ぶっ!?」
蹴りが顔に直撃してよろめき、槍を手放した彼女にレティシアは拳のラッシュを叩き込む。
「せいっ!」
そして最後に彼女の繰り出した蹴りがアリックスに炸裂し、大きく吹き飛ばす。
「ごっ、あぁっ……!?」
地面を転がり倒れるアリックス。一方のレティシアは息を切らす事もなく、平然としている。
「…む、強いな……。」
月乃助が思わず感嘆の声を漏らす中、傷だらけで立ち上がったアリックスは髪を掻きむしりながら、怒りの視線をレティシアに向ける。
「ああああ!!“ノ”の分際でよくも私を足蹴にしてくれたわねぇっ!醜く、惨たらしく殺してやる!」
アリックスはそう叫ぶと再び血の槍を精製し、霧となって霧散して消える。
「あ、あの消える一撃はマズイ!気をつけたまえ!」
「……」
月乃助が忠告を飛ばすより先にレティシアは目を閉じて右足を半歩前に出す。するとその右足に赤黒いオーラが纏ったかと思うとそこから赤黒い蝙蝠の翼状の刃へと変わる。
霧となって姿を消したアリックスに対し、レティシアはジッと動かず出方を待つ。
一瞬の静寂。そして次の瞬間レティシアの背後に霧が集まったかと思うとアリックスがその姿を見せ、槍を突き出す。
「死ねぇっ!!」
「……!」
レティシアは槍が突き出されると同時に身を翻して脚を振るう。突き出された槍はレティシアの髪を切り裂き、振り抜かれた脚の刃はアリックスの身体を横一文字に裂いた。
「……哀歌•血別“エレジア=ブラム•セパラシオン”」
「そんな、この、私が……!?」
裂かれた箇所から血を流しながらアリックスは倒れる。
ふぅ、と一息をつく彼女に月乃助は近づくと。
「いやー、助かった!何者かは知らないが随分と強いんだな!おかげで命拾いした!この礼は必ずする!」
月乃助がそうグイグイと話しかけるとレティシアと名乗った少女は先程の態度はどこへやら、急にオドオドし始めて。
「い、いや。この位、その、あ、ぜ、全然大したことじゃありま、せんので……その……」
「いやいや、君がいなければ私は死んでいたかもしれないんだが?この天才がこの若さで亡くなるのは全人類の手痛い損失だからな。君のやった事は誉れある行動と言っても過言では……」
月乃助が彼女の手を取ろうとした瞬間、レティシアは猛烈に目を泳がせて、冷や汗を垂れ流すとしばらくあ、あ、と繰り返すと何やらいっぱいいっぱいとなったらしく。
「お、お気持ちだけで充分です──!!」
そう言うと腰から翼を生やして何処かへと飛び去ってしまった。
凄い速さで小さくなって消えていく少女の姿を見つめながら、月乃助はポツリと呟いた。
「……なんだったんだ?」
「久しぶりとは言え、中々やるじゃないか!この天才とやり合うとはな!」
「ハッ、人間如きが図に乗るなよ!」
月乃助が複合機能統一突撃銃“エクリスィ•ソラーレ”を構えるとアリックスに向けて発砲する。
その銃弾をアクロバットな飛行で回避しながらアリックスも負けじと翼を拡げ、血の針を月乃助に向けて放つ。
「おおっとぉ!」
月乃助は機械の翼のエンジンを思い切り噴かしてそれを回避しつつ銃を構える。放たれる銃弾は全て回避されるが、月乃助はアリックスの動く軌道をジッと見つめ続ける。
「貴方、美味しそうね!テイスティングしてあげましょうか?」
「ごめん被るよ!痛いのは苦手でね!」
アリックスの軽口と共に放たれた攻撃を月乃助は回りながらかわすと、“エクリフィ•ソラーレ”を連射モードから一射一射が重い榴弾モードに切り替える。
そして狙いを定めると引き金を引く。放たれたそれは軌道を描いて真っ直ぐ高速飛行を続けるアリックスに向かって飛んでいく。
「!」
「君の行動パターンは読み切った!君ならこの軌道で動くとも予想がついた!何も私も考え無しでライフルを撃っていたわけではない!」
放たれた銃弾がアリックスを捉えようとしたその瞬間。シュンッと赤黒い霧となって彼女は霧散し、放たれた銃弾はすり抜けて地上に落ちて爆発する。
「んなっ」
「人間にしちゃ、中々の観察眼だけど。」
霧は月乃助の後ろで再集結して、アリックスがその姿を現す。
「ドラキュリアの私にそれが通じるって思うのは甘い見積もりね?」
アリックス精製した血の槍を構えると、それを振るう。振るわれた一撃を月乃助は咄嗟に逆手で引き抜いた蛇腹剣で受け止める。が、アリックスの常人を超えた人外の膂力で振るわれた一撃を完全に受け止めることは出来ず、思い切り吹き飛ばされる。
「無茶苦茶だな…!」
大きく吹き飛ばされ、体勢が崩れた彼女に追い打ちをかけるようにアリックスは翼を大きく変化させると、それをハサミのように両側面から月乃助に叩き付ける。
「血塗れ翼鋏“ブラム•エール•シゾー”!!」
「うおおっ…!?」
左右から強烈な一撃を叩き込まれた月乃助がよろめいて体勢を崩した彼女にトドメを刺すべく、アリックスは槍の切先を彼女に向ける。
「トドメよ!」
月乃助が体勢を立て直すより先にアリックスの凶刃が彼女に迫る。
防げない一撃に月乃助が思わず青ざめたその瞬間。横から現れた何者かの蹴りが槍の切先を彼女から逸らす。
「何?」
「はっ!」
乱入者はさらに回し蹴りをアリックスに浴びせる。不意の一撃だが、アリックスもすぐに反応して槍を挟んで直撃を避ける。
しかし乱入者はそのまま思い切り蹴り抜き、アリックスを地上へと蹴り飛ばす。
「!!」
蹴り飛ばされたアリックスは翼を拡げ、体勢を立て直すと地面へと着地する。
それを見た乱入者も地上へと降り立つ。
その乱入者は赤と黒の混じった髪をツインテールに纏め、赤と青の目玉がついた角、耳には赤いピアス、紫を基調とした丈の短いドレスを纏った少女の外見をしている。
まだ少し幼さを感じる顔立ちに何処か退廃的な雰囲気を纏った彼女は赤と青のオッドアイを目の前のアリックスに向ける。
「……よく、分からないが、助かったよ。」
そんな彼女の後方に降り立った月乃助がそう言うと彼女はチラと月乃助を一瞥し、またアリックスに向き直る。
一方のアリックスは乱入者を見て、槍を突きつけて言う。
「アンタ……見たところドラキュリアみたいだけど、私をアリックス•ル•カヌレと分かっての狼藉かしら!?名を名乗りなさい!」
アリックスの言葉に少女は少し面倒そうに顔を顰めた後、口を開く。
「…レティシア。レティシア•ノ•グラブジャブンです。」
彼女の言葉にアリックスは目を見開くと、ピキリと青筋を額に浮かべる。
「へぇ……平民階級の“ノ”の分際で高位貴族の“ル”の私に逆らう訳?」
アリックスの怒気の含んだ物言いに乱入者、レティシアははぁとため息をつくと。
「……出来れば、私も関わりたくはないんですけど。見過ごせないので。」
「身の程知らずの下郎が!」
アリックスはそう叫ぶとレティシアに槍を振るう。その槍を身を低くしてかわす。
「ッ!」
かわした彼女にさらに槍を突き出すが、レティシアはそれをかわすと同時に柄の部分を掴み、それに身を乗せながら痛烈な回し蹴りをレティシアにお見舞いする。
「ぶっ!?」
蹴りが顔に直撃してよろめき、槍を手放した彼女にレティシアは拳のラッシュを叩き込む。
「せいっ!」
そして最後に彼女の繰り出した蹴りがアリックスに炸裂し、大きく吹き飛ばす。
「ごっ、あぁっ……!?」
地面を転がり倒れるアリックス。一方のレティシアは息を切らす事もなく、平然としている。
「…む、強いな……。」
月乃助が思わず感嘆の声を漏らす中、傷だらけで立ち上がったアリックスは髪を掻きむしりながら、怒りの視線をレティシアに向ける。
「ああああ!!“ノ”の分際でよくも私を足蹴にしてくれたわねぇっ!醜く、惨たらしく殺してやる!」
アリックスはそう叫ぶと再び血の槍を精製し、霧となって霧散して消える。
「あ、あの消える一撃はマズイ!気をつけたまえ!」
「……」
月乃助が忠告を飛ばすより先にレティシアは目を閉じて右足を半歩前に出す。するとその右足に赤黒いオーラが纏ったかと思うとそこから赤黒い蝙蝠の翼状の刃へと変わる。
霧となって姿を消したアリックスに対し、レティシアはジッと動かず出方を待つ。
一瞬の静寂。そして次の瞬間レティシアの背後に霧が集まったかと思うとアリックスがその姿を見せ、槍を突き出す。
「死ねぇっ!!」
「……!」
レティシアは槍が突き出されると同時に身を翻して脚を振るう。突き出された槍はレティシアの髪を切り裂き、振り抜かれた脚の刃はアリックスの身体を横一文字に裂いた。
「……哀歌•血別“エレジア=ブラム•セパラシオン”」
「そんな、この、私が……!?」
裂かれた箇所から血を流しながらアリックスは倒れる。
ふぅ、と一息をつく彼女に月乃助は近づくと。
「いやー、助かった!何者かは知らないが随分と強いんだな!おかげで命拾いした!この礼は必ずする!」
月乃助がそうグイグイと話しかけるとレティシアと名乗った少女は先程の態度はどこへやら、急にオドオドし始めて。
「い、いや。この位、その、あ、ぜ、全然大したことじゃありま、せんので……その……」
「いやいや、君がいなければ私は死んでいたかもしれないんだが?この天才がこの若さで亡くなるのは全人類の手痛い損失だからな。君のやった事は誉れある行動と言っても過言では……」
月乃助が彼女の手を取ろうとした瞬間、レティシアは猛烈に目を泳がせて、冷や汗を垂れ流すとしばらくあ、あ、と繰り返すと何やらいっぱいいっぱいとなったらしく。
「お、お気持ちだけで充分です──!!」
そう言うと腰から翼を生やして何処かへと飛び去ってしまった。
凄い速さで小さくなって消えていく少女の姿を見つめながら、月乃助はポツリと呟いた。
「……なんだったんだ?」
背中から生やした四本の鋭い爪のついた蟲の脚を振り回す大女郎蜘蛛の猛攻に、変身した龍姫、龍斗、龍賢が立ち向かう。
「人間が三人に増えたところで!!」
「ふん。その人間一人に負けた奴が言ったところでね。」
龍姫が杖を振るい、脚を捌きつつ十字の光の刃を飛ばす。飛び上がってそれを避けた彼女に同じく跳び上がっていた龍斗がかんざきのような武器を振るう。
「喰らいやがれ!」
「喰らうか!」
水を纏った一撃を姦姦蛇螺目掛けて振るうが、それに対し姦姦蛇螺は蜘蛛の巣状の網目の障壁を作ってそれを防ぐ。
だが水を纏った一撃は障壁にぶつかると同時に弾け、凄まじい衝撃が彼女を襲い、大きく吹き飛ばす。
「チッ。厄介な。」
吹き飛ばされながらも、空中で体勢を立て直し、ザマス女郎蜘蛛が着地したその瞬間横から武器を構えた龍賢が飛び込んでくる。
「フッ!」
「次から次へと!」
迫り来る彼に、大女郎蜘蛛は指から細い糸を放つと、それをムチのように彼に振るう。
振るわれた糸を龍賢が避けると、地面に四本の線が刻まれる。
「邪魔ザマス!」
「むっ…!」
横薙ぎに振るわれた鞭。細く見えづらい一撃だがその軌道を予測し、見切った龍賢は肘の刃を抜き取ると、糸目掛けて投げつける。
一瞬の拮抗の後、バチンッと音を立てて糸が切り裂かれる。刃も勢いを失って地面に突き刺さるが、龍賢はその隙に懐に潜り込むと剣振るう。
それを大女郎蜘蛛は脚で受け止めるが、ならばと龍賢はその横腹に蹴りを叩き込む。
「おぅ…!」
怯んだその瞬間、龍斗は地面に手を思い切り押し当てる。
「亡海刺毘突!!」
次の瞬間地面を突き破り、噴き上がった水が槍となって大女郎蜘蛛に襲いかかる。
「チィッ!」
大女郎蜘蛛は素早く脚の一本を叩きつけて、その場から離脱する。
それを追いかけるように龍賢が近づき、剣を構える。
「舐めるなよ人間!」
龍賢を囲むように三方向から残った三本の脚が襲い掛かる。だが龍賢は一才の防御の姿勢を取らず大女郎蜘蛛に突っ込む。
「相打ち覚悟か!?」
それを見た彼女が思わず龍賢の行動を邪推するが、彼は。
「いや!防御する必要がないだけだ!」
次の瞬間どこからともなく飛んできた光の十字刃がそれぞれの脚による攻撃を防御する。
「んなっ、」
思わず大女郎蜘蛛が見回すと、そこにはニヤリと笑みを浮かべる龍姫の姿が。
「貴様ッ」
「ハァァッ!!」
龍賢の振るう一撃が炸裂し、大女郎蜘蛛は体勢を崩す。そして龍賢と入れ替わるようにして前に出た龍姫と龍斗が武器を突き出し、大女郎蜘蛛を吹き飛ばす。
「援護、感謝するよ姉さん。」
「ふん。ま、私の力に感謝しなさい。」
「三人で戦うのは初めてだけど、中々やれるもんだな。」
三人はそう言って顔を見合わせる。
痛烈な一撃を受けて地面に転がる大女郎蜘蛛だが、すぐに立ち上がると嗤って余裕の笑みを見せる。
「ははぁ……成る程、確かに中々の連携攻撃…だけど、私に勝つ事は出来ない。」
大女郎蜘蛛がそう言うと、先程三人が傷つけた傷がみるみる内に再生していく。
それを見た龍姫は舌打ちし。
「…チッ、確かに今の私にはプロウフの凍結能力がないからアイツの再生は封じられないわね。」
「…じゃあ、どうすれば?」
龍賢の問いに、龍姫はニヤリと笑って答える。
「確かに、私達じゃどうにもいかないわね。けど、一人だけ私は心当たりがある。だからここまでアイツを飛ばしたのよ。」
龍姫の言葉に二人がハッとする。大女郎蜘蛛が飛ばされた先、そこには天願を倒した龍香の姿があった。
三人と大女郎蜘蛛に気づいた彼女が振り向く。
「お兄ちゃん達?」
「龍香!あんたの剣でコイツを倒すわよ!」
龍姫の言葉に龍香はコクリと頷くと、カノープスに触れる。
《肝胆相照!ティラノカラー•アトロシアス!》
するとさらにドレスは豪華になり、装甲が増した姿“ティラノカラー•アトロシアス”へと変身する。
武器を構える彼女を見て、三人も武器を構える。
「私達も最大技で行くわよ。」
「あぁ。」
「行くぞ!」
武器を構える四人に挟まれ、何かマズイと悟ったのか大女郎蜘蛛の額を冷や汗が伝う。
「ぐっ!舐めるな人間共ッ!」
次の瞬間背中の脚を拡げると巨大な蜘蛛が脚を振り上げ四人へと向かう。
だが、四人は武器を構え、それぞれの最大必殺技を放つ。
「“ブレイジング•バスタード”!!」
「“撃鉄雷龍徹甲弾”!!」
「“葬無死海•絶”!!」
「“征服王ノ侵略聖光刃”!」
放たれた必殺技が大女郎蜘蛛の技とぶつかる。大女郎蜘蛛の一撃はそれらと数瞬ぶつかり合い、拮抗するが、三人の技が蜘蛛を打ち砕き、龍香の必殺技が大女郎蜘蛛に炸裂する。
「オオオオオオオオオオ!!?」
龍香の一撃は大女郎蜘蛛を切り裂き、いとも容易く吹き飛ばす。ボロボロになった大女郎蜘蛛は全身傷だらけになりながらも立ち上がり、手を伸ばす。
「ぐ、うぅ……!な、中々だけど、この、私には…?」
だが、ここで彼女が気づく。──“傷が再生しない。”
「なっ、ば、馬鹿な。何故再生しない──ッ!?」
思わずよろめく彼女に龍香が動こうとしたその瞬間。
「いや、いい龍香。もう決着はついた。」
龍賢がそう言って制する。実際大女郎蜘蛛は傷だらけで戦闘を続行出来るとは思えない。
天願も変身が解除され、どうにもならない。
龍香が剣を下ろすと龍斗が話しかけてくる。
「って言うか龍香。お前変身出来たのか?」
「む、確かに言われてみれば。」
龍賢も龍香の姿を見てようやく気づく。
「うん。実はカノープスが生きてて……って言うか、カノープスはどうやってここまで……」
《あぁ。それはな……》
カノープスが答えようとしたその瞬間、とてつもない熱さを感じる。
「!」
皆が警戒してその熱の元を見れば、風景から漏れ出すようにして空間から焔が噴き出ている。
「これは…!」
そして空間がガラスのように割れると同時に中から拘束された赤毛の少女が現れる。その顔を見た龍香は以前見た時の疑惑が確信に変わる。
「やっぱりアルタイルちゃん!?」
龍香が驚く中、焔が一際大きく輝き、龍香達へと照準を合わせているように蠢く。
「……!」
「チッ……!」
龍姫が防御の構えを取り、焔が放たれようとするその瞬間。
「そうはさせるかぁ──ッ!」
次の瞬間上空から放たれた風の刃が次々とアルタイルの拘束を切断する。
《何ッ》
さらに白い翼をはためかせ、鳥人のような見た目の少年は急降下するとアルタイルを抱えてそこから連れ出す。
「大丈夫なのか?」
「……助かったわ。アルビレオ。」
少年……アルビレオの問いかけにアルタイルは弱々しくも、微笑んで答える。
「アルビレオ!?」
「龍香!久しぶりなのだ!」
またもや数奇な縁に龍香が驚いていると、カノープスが言う。
《ちなみに俺をここまで連れて来たのはアイツだ。たまたま次元の狭間から転がり込んで来た時に鉢合わせしてな。この状態じゃ動けんから助かった。》
「そうだったんだ…。」
龍香がそう呟くと、アルタイルを抱えたアルビレオが近くに降り立つ。
「アルビレオ……ありがとう。カノープスを連れて来てくれて。」
「全然気にしなくていいのだ。こっちもアルタイルを助け出せたし。」
龍香が礼を言うと、アルビレオはニコニコと人懐っこい笑みを浮かべて応える。
「……う。」
ふと耳に入った呻き声に龍香は声の方に振り返る。そこには倒れている天願の姿があった。
「……天願さん。」
龍香は天願に近づいていく。それに気づいた天願は弱々しくも、顔を上げる。そして倒れている天願に向けて手を差し伸ばす。
「龍香……さん。」
「天願さん。……もう、帰ろう?これからの事、私も一緒に考えるから。」
「なん……で、私に、そんな……優しく…してくれるの?」
天願の問いに龍香は。
「それは、だって貴方は私の──」
龍香がそこまで言いかけた次の瞬間。
「龍香!危ないっ!」
突然龍香は龍斗に襟首を掴まれて後ろへと引っ張られる。何事かと龍香が龍斗に振り向こうとしたその時。
「あ──」
バクンッ、と。突然顎が裂けるほど大きく開いたニセカノープスが天願を呑み込む。
「天願さん!?」
《お前っ……!》
さらにカノープスは口を開けると、今度は大女郎蜘蛛に視線を移す。
それを見た大女郎蜘蛛はその意図を察し、顔を青ざめさせる。
「おいっ、馬鹿、やめ──」
次の瞬間カノープスの顎が大女郎蜘蛛を捉え、バギバキと音を立てながら呑み込む。
「ごっ、あぇええっ、がっ、や、あぎゅ、ぐ」
大女郎蜘蛛の潰れるような悲鳴に、思わず龍香とアルビレオは目を背ける。龍賢達も視線を逸らしこそしないが苦虫を噛み潰したような表情になる。
そして、彼女を捕食したニセカノープスははぁ、とため息をつき。
「──使えない。どいつもこいつも使えない。結局最後に頼れるのは己自身、か。」
そう吐き捨てた。
「……アンタ一人で私達に勝つつもり?」
「そう思われているなら随分と舐められたものだ。」
龍姫と龍賢が武器を構える。だが、怪物はククッと笑うと。
「そんな口がいつまで叩けるか見ものだな。」
そう言うとニセカノープスはアルタイルを拘束し、吸収していた焔の塊に手を翳すと、焔は怪物はの身体へと接触する。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「……何をするつもりだ?」
焔は接触した箇所からドンドンと吸収されるように縮んでいき、そして等々完全に消滅する。
焔に灼かれ、所々ひび割れ、赤い光を漏らしながらニセカノープスは笑みをやめない。
「くく、クククク……ここに来るまで随分と苦労した。良さげな餌場を探し、死者を改変で蘇らせ偽りの記憶を植え付け……使えない僕を増やし……莫大なエネルギーと“世界の杭”を探し出したのも……この時のため。」
次の瞬間ギョロリ、とニセカノープスは目を見開いて叫ぶ。
「全ては究極の生命体へと昇華するため!!」
その言葉に何かを感じ取ったのか、龍姫が動く。
「……何か、ヤバい!」
龍姫はそう言うと最大技の十字の刃を繰り出す。そしてそれはそのまま──ニセカノープスに直撃する。
ドォンっという轟音と共に砂塵が舞い上がる。パラパラと舞い上がった石や砂が落ちる音が響く中、ふとアルビレオが呟く。
「……やったのだ?」
そして砂塵が晴れると、そこには傷だらけでボロボロのニセカノープスの姿があった。目に光は無く、ピクリとも動かない。
「………!」
ピシッとヒビ割れるような音が響く。それは目の前のニセカノープスから聞こえてくる。
その音と共にニセカノープスの身体に亀裂が走り、そしてとうとうその全身に亀裂が回る。
すると突然バキンと言う音と共にその背中を突き破り、二枚の翼竜のような翼が生える。
それを合図にニセカノープスは完全に砕け、中から悪魔のような角を生やし、赤いメッシュの入った桃色と長い髪をポニーテールに纏め、黒いドレスに身を包んだ赤い瞳の女性がその姿を現す。
背からは左側に翼を二枚生やし、右腕は龍のような怪物の顔になっており、その異形さを醸し出している。
さらにはその全身から漂う余りにも他者を圧倒する暴力的なオーラに全員が少なからず戦慄を覚える中、その女性が口を開く。
「……待たせたがじゃ。カノープス改め、がじゃロリキメラザウルス。」
鋭い牙を覗かせる口を笑みで歪めて彼女は言う。
「第二ラウンドと洒落込もうじゃないがじゃ。」
「人間が三人に増えたところで!!」
「ふん。その人間一人に負けた奴が言ったところでね。」
龍姫が杖を振るい、脚を捌きつつ十字の光の刃を飛ばす。飛び上がってそれを避けた彼女に同じく跳び上がっていた龍斗がかんざきのような武器を振るう。
「喰らいやがれ!」
「喰らうか!」
水を纏った一撃を姦姦蛇螺目掛けて振るうが、それに対し姦姦蛇螺は蜘蛛の巣状の網目の障壁を作ってそれを防ぐ。
だが水を纏った一撃は障壁にぶつかると同時に弾け、凄まじい衝撃が彼女を襲い、大きく吹き飛ばす。
「チッ。厄介な。」
吹き飛ばされながらも、空中で体勢を立て直し、ザマス女郎蜘蛛が着地したその瞬間横から武器を構えた龍賢が飛び込んでくる。
「フッ!」
「次から次へと!」
迫り来る彼に、大女郎蜘蛛は指から細い糸を放つと、それをムチのように彼に振るう。
振るわれた糸を龍賢が避けると、地面に四本の線が刻まれる。
「邪魔ザマス!」
「むっ…!」
横薙ぎに振るわれた鞭。細く見えづらい一撃だがその軌道を予測し、見切った龍賢は肘の刃を抜き取ると、糸目掛けて投げつける。
一瞬の拮抗の後、バチンッと音を立てて糸が切り裂かれる。刃も勢いを失って地面に突き刺さるが、龍賢はその隙に懐に潜り込むと剣振るう。
それを大女郎蜘蛛は脚で受け止めるが、ならばと龍賢はその横腹に蹴りを叩き込む。
「おぅ…!」
怯んだその瞬間、龍斗は地面に手を思い切り押し当てる。
「亡海刺毘突!!」
次の瞬間地面を突き破り、噴き上がった水が槍となって大女郎蜘蛛に襲いかかる。
「チィッ!」
大女郎蜘蛛は素早く脚の一本を叩きつけて、その場から離脱する。
それを追いかけるように龍賢が近づき、剣を構える。
「舐めるなよ人間!」
龍賢を囲むように三方向から残った三本の脚が襲い掛かる。だが龍賢は一才の防御の姿勢を取らず大女郎蜘蛛に突っ込む。
「相打ち覚悟か!?」
それを見た彼女が思わず龍賢の行動を邪推するが、彼は。
「いや!防御する必要がないだけだ!」
次の瞬間どこからともなく飛んできた光の十字刃がそれぞれの脚による攻撃を防御する。
「んなっ、」
思わず大女郎蜘蛛が見回すと、そこにはニヤリと笑みを浮かべる龍姫の姿が。
「貴様ッ」
「ハァァッ!!」
龍賢の振るう一撃が炸裂し、大女郎蜘蛛は体勢を崩す。そして龍賢と入れ替わるようにして前に出た龍姫と龍斗が武器を突き出し、大女郎蜘蛛を吹き飛ばす。
「援護、感謝するよ姉さん。」
「ふん。ま、私の力に感謝しなさい。」
「三人で戦うのは初めてだけど、中々やれるもんだな。」
三人はそう言って顔を見合わせる。
痛烈な一撃を受けて地面に転がる大女郎蜘蛛だが、すぐに立ち上がると嗤って余裕の笑みを見せる。
「ははぁ……成る程、確かに中々の連携攻撃…だけど、私に勝つ事は出来ない。」
大女郎蜘蛛がそう言うと、先程三人が傷つけた傷がみるみる内に再生していく。
それを見た龍姫は舌打ちし。
「…チッ、確かに今の私にはプロウフの凍結能力がないからアイツの再生は封じられないわね。」
「…じゃあ、どうすれば?」
龍賢の問いに、龍姫はニヤリと笑って答える。
「確かに、私達じゃどうにもいかないわね。けど、一人だけ私は心当たりがある。だからここまでアイツを飛ばしたのよ。」
龍姫の言葉に二人がハッとする。大女郎蜘蛛が飛ばされた先、そこには天願を倒した龍香の姿があった。
三人と大女郎蜘蛛に気づいた彼女が振り向く。
「お兄ちゃん達?」
「龍香!あんたの剣でコイツを倒すわよ!」
龍姫の言葉に龍香はコクリと頷くと、カノープスに触れる。
《肝胆相照!ティラノカラー•アトロシアス!》
するとさらにドレスは豪華になり、装甲が増した姿“ティラノカラー•アトロシアス”へと変身する。
武器を構える彼女を見て、三人も武器を構える。
「私達も最大技で行くわよ。」
「あぁ。」
「行くぞ!」
武器を構える四人に挟まれ、何かマズイと悟ったのか大女郎蜘蛛の額を冷や汗が伝う。
「ぐっ!舐めるな人間共ッ!」
次の瞬間背中の脚を拡げると巨大な蜘蛛が脚を振り上げ四人へと向かう。
だが、四人は武器を構え、それぞれの最大必殺技を放つ。
「“ブレイジング•バスタード”!!」
「“撃鉄雷龍徹甲弾”!!」
「“葬無死海•絶”!!」
「“征服王ノ侵略聖光刃”!」
放たれた必殺技が大女郎蜘蛛の技とぶつかる。大女郎蜘蛛の一撃はそれらと数瞬ぶつかり合い、拮抗するが、三人の技が蜘蛛を打ち砕き、龍香の必殺技が大女郎蜘蛛に炸裂する。
「オオオオオオオオオオ!!?」
龍香の一撃は大女郎蜘蛛を切り裂き、いとも容易く吹き飛ばす。ボロボロになった大女郎蜘蛛は全身傷だらけになりながらも立ち上がり、手を伸ばす。
「ぐ、うぅ……!な、中々だけど、この、私には…?」
だが、ここで彼女が気づく。──“傷が再生しない。”
「なっ、ば、馬鹿な。何故再生しない──ッ!?」
思わずよろめく彼女に龍香が動こうとしたその瞬間。
「いや、いい龍香。もう決着はついた。」
龍賢がそう言って制する。実際大女郎蜘蛛は傷だらけで戦闘を続行出来るとは思えない。
天願も変身が解除され、どうにもならない。
龍香が剣を下ろすと龍斗が話しかけてくる。
「って言うか龍香。お前変身出来たのか?」
「む、確かに言われてみれば。」
龍賢も龍香の姿を見てようやく気づく。
「うん。実はカノープスが生きてて……って言うか、カノープスはどうやってここまで……」
《あぁ。それはな……》
カノープスが答えようとしたその瞬間、とてつもない熱さを感じる。
「!」
皆が警戒してその熱の元を見れば、風景から漏れ出すようにして空間から焔が噴き出ている。
「これは…!」
そして空間がガラスのように割れると同時に中から拘束された赤毛の少女が現れる。その顔を見た龍香は以前見た時の疑惑が確信に変わる。
「やっぱりアルタイルちゃん!?」
龍香が驚く中、焔が一際大きく輝き、龍香達へと照準を合わせているように蠢く。
「……!」
「チッ……!」
龍姫が防御の構えを取り、焔が放たれようとするその瞬間。
「そうはさせるかぁ──ッ!」
次の瞬間上空から放たれた風の刃が次々とアルタイルの拘束を切断する。
《何ッ》
さらに白い翼をはためかせ、鳥人のような見た目の少年は急降下するとアルタイルを抱えてそこから連れ出す。
「大丈夫なのか?」
「……助かったわ。アルビレオ。」
少年……アルビレオの問いかけにアルタイルは弱々しくも、微笑んで答える。
「アルビレオ!?」
「龍香!久しぶりなのだ!」
またもや数奇な縁に龍香が驚いていると、カノープスが言う。
《ちなみに俺をここまで連れて来たのはアイツだ。たまたま次元の狭間から転がり込んで来た時に鉢合わせしてな。この状態じゃ動けんから助かった。》
「そうだったんだ…。」
龍香がそう呟くと、アルタイルを抱えたアルビレオが近くに降り立つ。
「アルビレオ……ありがとう。カノープスを連れて来てくれて。」
「全然気にしなくていいのだ。こっちもアルタイルを助け出せたし。」
龍香が礼を言うと、アルビレオはニコニコと人懐っこい笑みを浮かべて応える。
「……う。」
ふと耳に入った呻き声に龍香は声の方に振り返る。そこには倒れている天願の姿があった。
「……天願さん。」
龍香は天願に近づいていく。それに気づいた天願は弱々しくも、顔を上げる。そして倒れている天願に向けて手を差し伸ばす。
「龍香……さん。」
「天願さん。……もう、帰ろう?これからの事、私も一緒に考えるから。」
「なん……で、私に、そんな……優しく…してくれるの?」
天願の問いに龍香は。
「それは、だって貴方は私の──」
龍香がそこまで言いかけた次の瞬間。
「龍香!危ないっ!」
突然龍香は龍斗に襟首を掴まれて後ろへと引っ張られる。何事かと龍香が龍斗に振り向こうとしたその時。
「あ──」
バクンッ、と。突然顎が裂けるほど大きく開いたニセカノープスが天願を呑み込む。
「天願さん!?」
《お前っ……!》
さらにカノープスは口を開けると、今度は大女郎蜘蛛に視線を移す。
それを見た大女郎蜘蛛はその意図を察し、顔を青ざめさせる。
「おいっ、馬鹿、やめ──」
次の瞬間カノープスの顎が大女郎蜘蛛を捉え、バギバキと音を立てながら呑み込む。
「ごっ、あぇええっ、がっ、や、あぎゅ、ぐ」
大女郎蜘蛛の潰れるような悲鳴に、思わず龍香とアルビレオは目を背ける。龍賢達も視線を逸らしこそしないが苦虫を噛み潰したような表情になる。
そして、彼女を捕食したニセカノープスははぁ、とため息をつき。
「──使えない。どいつもこいつも使えない。結局最後に頼れるのは己自身、か。」
そう吐き捨てた。
「……アンタ一人で私達に勝つつもり?」
「そう思われているなら随分と舐められたものだ。」
龍姫と龍賢が武器を構える。だが、怪物はククッと笑うと。
「そんな口がいつまで叩けるか見ものだな。」
そう言うとニセカノープスはアルタイルを拘束し、吸収していた焔の塊に手を翳すと、焔は怪物はの身体へと接触する。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「……何をするつもりだ?」
焔は接触した箇所からドンドンと吸収されるように縮んでいき、そして等々完全に消滅する。
焔に灼かれ、所々ひび割れ、赤い光を漏らしながらニセカノープスは笑みをやめない。
「くく、クククク……ここに来るまで随分と苦労した。良さげな餌場を探し、死者を改変で蘇らせ偽りの記憶を植え付け……使えない僕を増やし……莫大なエネルギーと“世界の杭”を探し出したのも……この時のため。」
次の瞬間ギョロリ、とニセカノープスは目を見開いて叫ぶ。
「全ては究極の生命体へと昇華するため!!」
その言葉に何かを感じ取ったのか、龍姫が動く。
「……何か、ヤバい!」
龍姫はそう言うと最大技の十字の刃を繰り出す。そしてそれはそのまま──ニセカノープスに直撃する。
ドォンっという轟音と共に砂塵が舞い上がる。パラパラと舞い上がった石や砂が落ちる音が響く中、ふとアルビレオが呟く。
「……やったのだ?」
そして砂塵が晴れると、そこには傷だらけでボロボロのニセカノープスの姿があった。目に光は無く、ピクリとも動かない。
「………!」
ピシッとヒビ割れるような音が響く。それは目の前のニセカノープスから聞こえてくる。
その音と共にニセカノープスの身体に亀裂が走り、そしてとうとうその全身に亀裂が回る。
すると突然バキンと言う音と共にその背中を突き破り、二枚の翼竜のような翼が生える。
それを合図にニセカノープスは完全に砕け、中から悪魔のような角を生やし、赤いメッシュの入った桃色と長い髪をポニーテールに纏め、黒いドレスに身を包んだ赤い瞳の女性がその姿を現す。
背からは左側に翼を二枚生やし、右腕は龍のような怪物の顔になっており、その異形さを醸し出している。
さらにはその全身から漂う余りにも他者を圧倒する暴力的なオーラに全員が少なからず戦慄を覚える中、その女性が口を開く。
「……待たせたがじゃ。カノープス改め、がじゃロリキメラザウルス。」
鋭い牙を覗かせる口を笑みで歪めて彼女は言う。
「第二ラウンドと洒落込もうじゃないがじゃ。」
To be continued……