少年法

登録日:2012/09/14(金) 21:07:36
更新日:2023/12/10 Sun 07:12:59
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少年法は、犯罪や非行をした20歳未満の少年もしくは少女の扱いを定めた法律。
20歳未満なので、大学生が対象になることもある。Wiki籠り諸氏の中には罪を犯しても少年法の適用対象になる人も多いであろう。



◆罪を犯した少年の手続


全てを解説するのは無理なので(余裕で何百ページもの本が書ける)、概要だけを説明しよう。詳細を知りたいなら専門書を読むか弁護士にでも相談してくれ。


●少年審判


罪を犯した少年が見つかったとしよう。
警察や検察の捜査手法は、基本的には大人と同じ(多少は違うところもあるが、ここでは省く)。
通常は最大23日身柄を拘束して警察や検察が捜査を終えたら、地方裁判所か簡易裁判所で起訴されるか、お説教の上で裁判所に送られずに終わることもある。(微罪処分という)

ところが、少年の場合は無実が明らかになった場合を除いて家庭裁判所必ず送られる。

「へっへ、どうせ反省したふりしてごまかせばいいのさ」

と思っていたら甘い。

そもそも、少年審判は「犯罪でなくてもいい」のだ。

この場合は検察官送致して処罰はできないが、

「理屈の上じゃ犯罪じゃないけど、放っておくとまずい」
「こいついずれ重犯罪すんじゃね?」

という奴なら家庭裁判所は「虞犯」扱いで対象にできる*1

そうやって家庭裁判所に送られた少年には、家庭裁判所調査官や少年鑑別所技官による心理テスト等のテスト、生活チェックがまっている。
カウンセラー等の資格者に、反省したふりは簡単には通用しない。

少年審判は非公開で記録も公開されない。
みられるのは審判の関係者や、被害者などほんの一部の人だけ。
検察官は捜査はするが、一部の例外を除いて審判に来ない。
裁判官は真っ黒な法服を着ないで、普通のスーツ姿で審判をする。








◆少年の処分(主なもの)

●実名報道禁止
少年の実名、誰か分かってしまう報道は禁止されている。(少年法61条)
もっとも、成人の事件でも実名報道されないケースは少なくない

●不処分
処分しなくてももう十分反省している、あるいはそもそも少年が無実なら、不処分になる。

●審判不開始
家庭裁判所も、小悪党に時間を割いている余裕はない。
事件が大したことないな、もう十分反省したなって場合には、そもそも審判しないこともある。
家や学校がきっちり叱りつけて少年がしっかり反省しているなら、あまりに事態を大事にするのは逆に更生を邪魔することもあるのだ。

●保護観察
少年が保護司(一般人)の所に月に1回とか2回行って、普段の生活を報告する。サボると少年院行きになることも。
ちなみにこの保護司さん、実費の補助が多少出る以外ほとんど無償で、比較的時間に自由の利きやすい自営業の人たちが善意でやっているボランティア
熱心な保護司さんだと、ほとんど親代わりになって相談に乗ってくれることもあるが、最近はなり手がいなくなって困っているらしい。
少年と共通の話題がある保護司は貴重である。生活や時間に余裕のあるアニヲタの方がもしいたら、保護司に志願してみてはいかがだろうか。

●児童自立支援施設送致
少年院と比べれば開放的な児童自立支援施設(昔の教護院)に送られる。そもそも家出して親が分からない子供などを預かることも多い。

●試験観察
家に戻すのではなく、施設などで保護観察を何ヶ月かやってみた上で、その様子を見て保護観察か少年院行きか決める。

●少年院送致
大人の事件ならまず執行猶予で釈放してもらえる件が、少年だったばかりに少年院に送られる、なんてことは珍しくない。
少年院は刑務所と違って一人一人にきちんと指導するし、「反省不十分」なら、入院期間を延長する。

●検察官送致
世にいう逆送。家庭裁判所から、検察に送って検察に起訴させ、殆ど大人と同様の裁判で大人と同様の処罰を受けさせる。

「大人と同じ…ってことはどんだけ厳罰になるんだ?ガクガクブルブル(;゚Д゚)」

実は、道路交通法違反の事件を、少年院に送ったりしないで罰金刑にするために逆送する方が断然多かったりする。(家庭裁判所は罰金刑にできない)
ちょっとした交通違反のために保護観察や少年院送りにするのは、経費が掛かるばかりなのだ。
また、逆送されても「やっぱり保護が妥当」とされてまた家庭裁判所に戻ることもある。
もちろん、やった事があまりに救いようがないから厳罰にしてくれ、という逆送もあるわけだが。


ただし、少年の場合だと、大人と違って次のような処罰の制約がある。
  • 18歳未満だと死刑にできず、(国際人権規約でも定められているので、少年法改正、廃止しても意味がない)死刑相当の場合無期懲役を科される。
  • 無期懲役のすぐ下は懲役20年*2。(大人は2004年12月以降30年、また事件の間に別の事件で有罪判決が確定し、その事件が後に発覚した場合事件の前後でそれぞれ刑を加算する。2022年現在の最長記録は50年。)
  • 14歳未満は全て犯罪にならないので、大人と同じ処罰は不可(逆送も然り)。

また、一般に年齢が低いことは、

「これから真人間に戻る可能性もあるし、今までの状況がよくなかっただけ」

と判断されて大人の裁判でも刑が軽くなる傾向が強い。



◆特定少年


2022年4月1日の成年年齢の変更に伴う形で少年法も改正され、18,19歳を17歳以下とは一部扱いが異なる「特定少年」として扱うことが決まった。
虞犯での少年審判の対象にならず、犯罪を犯した場合も以下の点などが上記と異なる。

  • 原則逆送対象になる犯罪の範囲が拡大される
  • 逆送された後の量刑は原則緩和されず、20歳以上と同じになる
  • 起訴された場合は実名報道が禁止されない


◆少年法をめぐる論争


少年法は、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、
少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」(少年法1条)


少年法は少年を甘やかしている、大人と同じように扱うべきだ、という批判はよくある。
確かに、少年法が刑罰を少年に対して減らしたり、負担を軽くしている規定は少なくない。
実際にもこの件を始めとした数多くの醜悪な犯罪者に厳しい処分が下せず、後々出所して反省もせず自慢や再犯、賠償金の踏み倒しをしたり、自伝を出版して金を儲ける、本人には厳しい処分を下すことはできたもののふざけた基準を後世に残し、1人殺害では中々死刑判決を下せなくするなどと言ったやりきれない話も多いので、少年法自体が諸悪の根源という印象を持たれやすい。
フィクションにおいても、未成年なのですぐ出所してのうのうと生きている犯罪加害者に倍返しで復讐する物語は枚挙に暇がない。

だが、全体を見ると今まで書いてきたとおり決して少年に甘いばかりではない。
大人なら執行猶予だったのが、少年だから少年院に行かされる、なんて事もある。
大人の裁判でも、更生させることが出来ないまま刑期が来てしまったので釈放する他なく、結果として再犯ということは珍しくないのである。
軽すぎる処罰をする裁判官の問題や一般の刑法の問題、特に上記のふざけた基準で1人殺害かつ計画性がない場合だと中々厳罰に処さないという問題が少年法という「叩きやすい法律の問題」にすり替えられて非難されるケースも後を絶たない。

むしろ、大人の刑事裁判や刑務所収容では、犯罪者個々人の性格に応じた刑罰は難しい。
鑑別所の技官や調査官がついて犯人を徹底的に調査する…なんてことは大人の裁判では行われない。
刑務所が辛いから罪を犯さない、という訳でもないのだ。
刑務所から出た人の38.8%(平成28年犯罪白書)が5年以内に再犯して「刑務所に入る」というのが現実である。
なお、少年院から退院した人で、5年以内に再犯して少年院や刑務所に入るのは21.7%程度である。
初犯は比較的刑が軽い(刑法上、服役終了後5年間は執行猶予をつけられない)ので数値通りに比べるのは難しいが…
大人の裁判も更生しない犯人の存在など問題が少年と同等かそれ以上に山積みであり、少年法を撤廃するならば大人の裁判が抱えている問題に直面させることは理解しておかなければならない。

処分が少年に甘いと言うだけではなく、少年法の少年を保護する規定が十分ではない事から、無実の少年が罪を着せられるというのも少なくないし、そちらも批判の対象になっている。
大人でも冤罪事件で自分の身を守ることは難しいのだが、知識や経験に乏しい少年が自分の身を守ることはほとんど不可能に近い。
周囲に流されるままに犯罪を認めてしまう、と言うこともしばしばで、少年事件は冤罪の危険が非常に大きい事件でもある。
逆に、少年の言い分を裁判所が全部鵜呑みにしてしまった、という被害者や遺族側からの批判もある。

何故少年法がここまで非難されるのかは、マスコミで扱われるような事件が基本的に殺人、強盗といったとても重い犯罪ばかりであることに原因がある。
こうした所では大人よりも刑を軽くする場面が多いため、大人と比べ少年に甘い規定が機能する場面が目立ちやすいのだ。
少年だったから執行猶予もらえず少年院送りになった…なんて件は、大概マスコミも興味を持たないのである。

少年法は、あくまで大人には大人の、子どもには子どもの処方箋を用意しようという法律なのである。
懲役35年(無期懲役の平均収監年数)にしたところで、少年なら55歳までには出てきてしまう。
その時にもし更生していなかったら?彼は再び罪を犯し、新たな被害者が生まれてしまうかもしれない。
どれだけ罪を悔い改めても、社会で暮らしたことのなく、面倒を見てくれる家族もいない彼は社会でやっていけなくなり、罪を犯すしかなくなる可能性が高い。
彼をまた刑務所に入れるのは簡単だが、それでは被害者の受けた被害は戻ってこないのだ。
多少甘くしてでも更生をさせる、というのは、新たな被害者を生まないための一つの考え方なのである。
(被害者からしたら厳罰を望んでも無視されるというのは理不尽な話であるが、生まれるかもしれない未来の被害者をそのために我慢させる理不尽さとの兼ね合いの問題になる)

また、本法が制定された経緯として、「終戦後に食いっぱぐれた戦災孤児を守るための法律」という論説があるが、これは全くの誤りである。少年法の原型は日本では江戸時代、世界では古代ローマ時代から存在していたと言われ、日本特有のものではない。

少年法が問題を抱えている現状はあれど、「少年法は軽い」というイメージだけが広まってしまうと某ミステリー漫画某事件宜しく、
「日本で犯罪するなら二十歳未満だよな(笑)」などと凶行に走る不届き者が増えないとも限らない。
本人が後から処分されて愕然とするのは自業自得で終る事だが、誤解のせいで新たな被害者達が生まれるというのはやりきれない。
「新たな被害者を生まない」ことを重視するか、「既にいる被害者の感情」を重視すべきか、裁判所もしんどい決断を迫られている。

また、罪を犯した少年に対して大人と違う法律や手続で対応するのは、大体世界中で行われている。
しかし、具体的にどう対応するかは悩ましい問題であり、国によって考え方も大分異なっている。
同じ国でも、ショッキングな事件が起きたことで流れが一気に変わってしまうと言うこともある。

凶悪犯罪等に対応した少年法改正論議はすべきだし、刑が軽いことを批判してはいけないわけではないが、少年法は今のままでも決して生易しいだけのものではない。
少年法は不完全で上に書いてあるとおり機能してるとは言い難い面が多々ある。
が、大人の犯罪者向けの刑法や刑事訴訟法も十分機能しないことだってあり、少年法を撤廃することはそちらの問題に直面させることでもある。


大人の刑事裁判や少年法に対する正確な知識を手に入れた上で、少年法について考えて行こう。




追記・修正は少年院帰りの人にお願いします。

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最終更新:2023年12月10日 07:12

*1 家庭裁判所もよほどのことがなければそこまでやらないけど

*2 「無期刑になるところを緩和した判決」での上限。初めから有期刑だったら上限15年