登録日:2012/03/20(火) 09:41:55
更新日:2024/10/27 Sun 23:26:52
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「まさおー! ごはんよー!」
「セーブしたらいくー!」
こんなシチュエーション、子供の頃に体験した人は多いのではないだろうか。そんなありふれたシチュエーション、実はここに不思議が隠されている。
日常の上では全く意識しない事だが、音は間に障害物があっても伝わる。
それが単なる壁でも、複雑に入り組んだ屋内でも、適当な音量であれば伝わる。
これは波に共通した性質で、『波の回折』と呼ばれる。
波は進行方向に障害物があると、障害物の後ろに回り込む性質があるのだ。
音は空気が圧縮されながら伝わる波である。
他にもテレビのリモコンが間に障害物があっても使えるのも、リモコンの信号が赤外線という
電磁波だからである。
海が近い人はテトラポッドなんかを見ると、入り組んだテトラポッドの奥にまで波が入り込んでいるのを見る事ができるだろう。
すべてこの『波の回折』によるものである。(ほかにも
波動を参照)
さて、ここで皆さんはこんな話を知っているだろうか。
「物質はすべて波の性質を持つ」
これはド・ブロイという物理学者が提唱した、物質波という概念である。
まあ色々説明すれば長くなるので、かい摘まんで「めちゃくちゃ小さい状況になると物質の波の性質が顕著になる」とだけ理解しよう。
めちゃくちゃ小さい状況、例えば電子なんかは、粒子であるが同時に波でもあるというのだ。わけわかんねえ!
まあそういう色々は
量子論の項に任せるとして、とりあえず微視的な状況では波の性質を持つという事が重要なのである。
波の性質を持つ、という事は回折もする、という事である。
つまり、電子やら陽子やらそういう小さいものは、間に障害物があってもヒョイっと後ろに回り込む事があるという事だ。
障害物は別に物質的な壁じゃなくても、静電気的なポテンシャルの壁でも良い。てか物質的な壁はポテンシャルの壁でもあるし。
とりあえずいろんな壁を、その壁を超すのにエネルギーが足りなかったとしても、なぜか通り抜ける事があるのだ。
この通り抜けは障害物の厚さにもよるが確率である。ゲームのデバックのコリジョン抜け探しのように壁に向かってひたすら走ったり突進すれば、壁を壊さずに通り抜けできる。
これが世に言う『トンネル効果』である。
まるでトンネルがあるように壁を通り抜けてしまうのだ!
物質はなんでも波の性質を持つので、人間が壁をすり抜けるのも不可能ではない。
でも小さくないと波の性質は如実にあらわれないので、多分体当たりで壁を壊す方が早い。
◆実際に発生している例とか
このトンネル効果、例えば太陽で頻繁に起こっている。
太陽のエネルギー源は水素の核融合によるものである。核融合は核、つまり陽子がくっつく事で起こるが、
陽子はプラスなのでプラス同士反発しあい陽子はなかなか近づくことができない。
十分な速度でぶつければ近づくのだが、計算上太陽でそんな速度を得るのは難しい。
そこでトンネル効果ですよ。
トンネル効果により、プラス同士の反発力(クーロン障壁)を突破、障壁が多い程燃える恋によって太陽は熱く輝いているのだ。
パソコン等に使われているCPUでもトンネル効果は起こっている。
正確に言うとなるべくトンネル効果を起こさないように企業努力を続けている。
CPUを構成している半導体は小さければ小さいほど性能がよい。
単純にコンパクトになるだけでなく、消費電力が下がり計算のスピードもあがる。
そんな感じで1990年台では、CPUを設計する企業や半導体を作る企業は血の汗を流して微細化に励んでいた。
が、半導体が小さくなり、厚さが大体原子900個分ぐらいになるとリーク電流と呼ばれる大きな電流が問題になった。
学校で電圧と電流と電気抵抗の関係を示したオームの法則を習ったと思うが、リーク電流はこのオームの法則で計算された値以上の電流がながれる。
その原因として先のトンネル効果によって電気抵抗を通り抜けてしまうからである。
リーク電流の大きさは消費電力の増加につながる。
一応、CPUを設計する企業なども
「このまま微細化を続けるとトンネル効果によるリーク電流増加→リーク電流増加による消費電力増加のコンボが成立するんじゃね?」
と予想はしていた。
…予想はしていたがコンボの成立が予想よりもだいぶ早かった。
intelが2004年に発売した第三世代のPentium4コア、Prescottコアは「爆熱CPU」となってしまい、後継として開発されていたTejasコアもお蔵入りになってしまった。
ただ予想しておいて何も手を打てなかった訳ではなく、半導体の材料の工夫などで解決を図っている。
まぁ図るとはいっても完全には解決しておらず、今のCPUでも消費電力の30%ぐらいはリーク電流によるものなのだが。
他にも色々な例はある。
さて、ではトンネル効果を実感してみよう。
◆理論屋の場合
xにおけるポテンシャルをV(x)、エネルギーをEとする。
シュレーディンガー方程式
[-{(h^2)/2m}(d/dx)^2+V(x)]ψ(x)=Eψ(x)
を満たす波動関数をψ(x)とすると、その絶対値の二乗|ψ(x)|^2はxにおける粒子の存在確率を表す。
ポテンシャルV(x)は0≦x≦aのときV(x)=V、それ以外で0とする。このとき0<E<V。
x<0、0≦x≦a、a<xについてシュレーディンガー方程式を解き、境界条件(x=0、aで波動関数は滑らかに連続するとか)を考慮して特解を求める。
なんと、壁の内側でも波動関数は急に0にならない事がわかる!
ね、簡単でしょ?
◆実験屋の場合
実験してみる。
誤解してはいけないのが、トンネル効果は壁があるけどすり抜けるという事である。
ニュートリノや
ダークマターも物質をすり抜けるが、これらはもともと相互作用しにくい、つまりもともと壁がないという事で、トンネル効果とは違うのだ。
また、大きさが小さいから分子の隙間から通り抜ける
というわけでもないので要注意。
追記・修正はシュレーディンガー方程式を解いてからお願いします。
- ドブロイ波!
相手は死ぬ -- 名無し (2014-01-10 03:56:38)
- 確率的には壁に体当りし続けてればすり抜ける可能性もあるらしいな -- 名無しさん (2015-04-26 12:45:23)
- つまりこの世界に不可能は無いと言う事か -- 名無しさん (2015-04-26 13:13:43)
- 可能性があるだけで、あってね。無量大数分の1でも確率は確立よ。人間を構成する電子陽子中性子がすべてトンネル効果を起こす確率はいったいどれぐらい小さいんだって話。 -- 名無しさん (2016-11-02 16:33:40)
- 勘違いされやすいけど実際にはすり抜けるわけじゃないから。「すり抜けたように見える」効果。 -- 名無しさん (2016-12-07 12:35:52)
最終更新:2024年10月27日 23:26