GPS

登録日:2012/07/21 Sat 21:34:52
更新日:2025/08/12 Tue 02:15:08
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GPS(Global Positioning System)とは米国のDARPAが開発した衛星測位システムである。
元々は米国の軍事システムであり利用者は主に米軍だったが、1996年3月に米国の政策により「GPSを直接課金することなく全世界に開放する」ことが宣言され、一部機能が民間開放された。 
現在では無料で誰でもGPSを使用することができる。
軍事技術が民間転用された好例であり、他に軍事技術が民間転用されたのにはインターネットが有名である。
なお昨今においてはすっかり一般名詞化しているが、上記の通りGPSは本来米国が開発した衛星測位システムのみを指す言葉であり、システム全般を指す語にはGNSS(Global Navigation Satellite System)などがある。


どうやって測位してるの?(簡単な説明)
まずGPS衛星(Nav Star: Navigation System with Time And Ranging)が、
「何時何分何秒....にこの電波を発射した」というメッセージを載せた電波を発信する。
因みに衛星には原子時計と呼ばれる非常に正確な時計が搭載されておりこのメッセージの時刻はこれまた非常に正確。


受信機(携帯電話等)が電波を受信する。


受信機にも時計が搭載されており何時何分何秒....に電波を受信したか。
時間を記録する 当然この間に時間がかかる その為電波のメッセージの時刻(送信時刻)と受信機が記録した時刻(受信時刻)にはわずかな差がでる。

電波の伝播速度は光の速度と同じ30万km/秒なので送信時刻と受信時刻の差の時間に光の速度を掛けると衛星と受信機の距離がわかる。

他にもGPSの電波にはGPS衛星の軌道データ等も送信されている。
なので全てのGPS衛星の位置はわかっている。

電波を送信したGPS衛星から距離を引くと受信機の位置がわかる。

しかし1個の衛星と受信機の距離がわかってもまだ測位はできず最低3個の衛星の電波を受信しなければ測位はできない(理論上は2個でも出来るが、衛星の精度の問題で実用的ではない)。
因みに4個の衛星を測位すると高度もわかる。
通常日本(本州)では常時6〜10個程度の衛星がいるので受信衛星の数を一般人が気にする必要はないだろう。

余談だが4つのGPS衛星からの電波を受信した場合GPS受信機内部の時計の校正を行いつつ測位を行うことができる。
即ち受信機の時計を自動で正確にしてくれる(携帯の時計が狂わない理由)ので受信機の時計合わせに一喜一憂する必要もない。


もうちょっと踏み込んだ話

衛星から発信される電波について

GPSの電波は大きく2つに分けることができる。
PコードとC/Aコードである。
PコードのPとはProtectとPrecisionの略。
略からわかるように軍事用である。
C/AコードCoarse AcquisitionとClear Acquisitionの略で民間開放されているのがこれにあたる。
このPコードとC/Aコードは不規則な0と1の配列でできており、
あるコード長で同じデジタル符号列のパターンを繰り返している。
C/Aコードのコードパターンは公開されているがPコードは当然ながら公開されていない。
PコードとC/Aコードは各衛星毎の固有のコードパターンで変調されている。
なので同一周波数の電波で送信しても混信しない。

因みに電波の変調方式にはスペクトル拡散方式とよばれる変調方式がつかわれGPS電波は非常に電波妨害に強い。

受信機では各衛星のコードパターンを人為的に発生させ受信波と比較照合して衛星の識別を行っている。
星からはL1帯(1575.42MHz)とL2帯(1227.6MHz)と呼ばれる電波が発信されているが、
C/AコードはL1帯にしか乗っていない(PコードはL1 L2ともに乗っている)。
なぜL1帯とL2帯 2つの電波が発信されているかとうと電離層の影響を補正する為である。


SA(誤差について)

米国はC/AコードにSAと呼ばれる人為的にGPSの精度を劣化させるSA(Selective Availability)を電波に乗せていた。
これは衛星の原子時計の精度を劣化させる(不正確にする)ことによって誤差を大きくしていた。
2000年5月にこれを解除した為GPSの精度は(一説には10倍)向上している。


他にも対流圏伝搬誤差とかマルチバスとかHdopとか色々あるけど、すごく長くなるので割愛しました 加筆 追加お願いします。


DGPS(Differential GPS)

SAがまだ解除されていない時代、GPSの精度を向上させようとして開発されたのがDGPSである 主に航空機や船舶の航法装置として使われている。
現在、世界中で使われており日本では海上保安庁によって運用されている。
仕組みとしては地上にあるDGPS局でごく普通のGPSによって位置を測位する。
DGPS局の場所は予め誤差のない正確な緯度、経度がわかっている。
その緯度経度をGPSでもとめた緯度経度と比較計算しその差(Differential)電波で補正データとして送信し受信機で補正するという仕組みである。


AGPS(assisted GPS:補助GPS)

主に携帯電話等で使われる手法。
GPSを使うには衛星の軌道データ等色々な情報を電波で受信し処理しなければならないが携帯では非常に負荷と時間がかかる。
そこで携帯が常に基地局と通信していることに着目し開発された。
仕組みは携帯が通信している基地局の場所をもとにその位置で計測できそうな衛星の軌道データをデータ通信で送っているだけ。
これだけでかなり早く測位ができるようになった。


GPSを使うと位置情報がバレる?

フィクションでよくある描写。
実際のところ、GPSで位置情報を取得するには衛星の信号を受信できればいい為、GPSを使う=位置情報がバレる、とはならない。
ただし、一般人が最もGPSを活用しているであろう携帯電話では、通常ネットワークにつながっていてどこかしらに位置情報を発信している可能性が高い。
AGPSにより位置情報を取得しているなら基地局経由でネットワークにつながっている前提となる為、なおさらである。
特に携帯電話が普及した2000年代以降は、軍事活動中にアホが私用携帯を使って位置情報をさらけ出し部隊が攻撃されるという事象がたまに発生しており、普通の軍隊では活動中の携帯使用を禁止している。*1
このような事情もあり、当局に発見されない為にケータイをぶっ壊すという描写もあながち間違いではない。


はたしてGPSは信頼できるのか?

GPSはあくまでアメリカの軍事用に作られたシステムでアメリカは公式には否定しているものの、
システムの全て、あるいは一部を停止 または誤差を自由に発生させることができるのであまり信頼してはならないという意見が一般的。

そうしたこともあり2025年現在ではGLONASS(グロナス)(ソ連→ロシア)、Galileo(EU)、北斗(中華人民共和国)、NavIC(インド)、みちびき(日本)と言ったGPS以外の衛星測位システムが開発・使用されるようになっている。



追記 修正は頭でGPS電波を受信してからお願いします

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最終更新:2025年08月12日 02:15

*1 もっと直球にSNSに機密情報を写真や動画付きで書き込まれるなど、位置バレ以外にもいろいろ問題はあるのだが。