ケンプテンの騎士ハインリヒ

登録日:2013/08/22 (木) 23:36:29
更新日:2022/02/19 Sat 17:16:13
所要時間:約 7 分で読めます





『ケンプテンの騎士ハインリヒ』とは、13世紀の詩人コンラート・フォン・ヴュルツブルクの作品である。

基本的にギャグ調で進行するが、封建社会や騎士の在り方につっこんでたりと微妙に社会派な作風。


【あらすじ】
その昔、オットーと呼ばれる皇帝の時代のお話。
オットー皇帝はたいへんな権勢を誇っていたが、同時に非常に傲慢な人物であり、皇帝に逆らう人間は誰であれどんな理由であれ処刑されてしまいました。
皇帝はたいそう立派な赤いヒゲを生やしており、そのヒゲは皇帝の権威の象徴となっていまして、皇帝が「我が髭に誓って~」と言った言葉は必ず実行されていました。

そんな皇帝の宮廷で、ある復活祭の日に事件がおこりました。
宮廷に預けられていた少年が、復活祭の御馳走をつまみ食いしたのを内膳頭に咎められて殴られてしまい頭から血が出て泣いてしまったのです
すると、その少年の父親の家臣であるケンプテンの騎士ハインリヒは内膳頭に対してくってかかります。
ですが皇帝の権威を笠に着る内膳頭は逆にハインリヒに対して居丈高な態度をとったので、ブチキレたハインリヒは内膳頭の頭をかち割って撲殺しました。怖いですね。モンペも真っ青です。

その後、礼拝堂で復活祭のミサを終えた皇帝は内膳頭が自分の宮廷で撲殺されているという信じがたい事実を知ります。
当然烈火のごとく怒り狂った皇帝はただちに犯人を見つけ出そうとし、ハインリヒもあえなく御用となりました。

しかしハインリヒは「いや今日は復活祭の日でしょ?キリストが人類の罪をあがなった日なのだから私の罪もチャラにすべきでしょう。」などと往生際が悪い言い訳をしますが、
もちろん皇帝は言い訳を無視し、ケンプテンの騎士ハインリヒに対して髭に誓って処刑を宣誓します。

危うしハインリヒ(ほぼ自業自得)。しかしこの大胆な騎士はこともあろうに

皇帝が髭に誓ったなら、その髭をむしってやればいいじゃない。

と思い立ち、こともあろうに皇帝を組み伏せ髭をむしり、挙句の果てに短刀を突き付け宣誓をとりけして無事に領地へ返すよう脅します。ほんと滅茶苦茶ですねこいつ。

これには皇帝も音をあげて彼の要求を飲みます。しかし解放されると玉座に座り、乱れた髪とボロボロになった髭を整えると

「お前のようなヘタな理髪師のせいで大事な髭がボロボロになったが、命は助けてやる。だが二度と顔を見せるでないぞ(キリッ!」

と、「偉大な自分は寛容にも無礼なハインリヒを許してやったんだぜ」アピールをして体面を取り繕ったふりをするのでした。
こうしてハインリヒは命拾いをして宮廷から立ち去りました。少年はどうしたかって?さあ…


さてそれから十年後、イタリア遠征に赴いていた皇帝はピュレの街を攻めていたのだがなかなか戦果があがりません。
そこで帝国中の臣下たちに、遠征に協力するよう伝えます。
ハインリヒの直接の主君であるケンプテンの僧院長もこれに従い戦上手なハインリヒを連れていこうとしますが、
皇帝から「顔を見せるな」と言われたハインリヒは皇帝に見つかったら何があるかわからんので当然嫌がります。
しかし僧院長から「嫌なら領地没収な」と言われたのもあり、最終的には覚悟を決め臣下の義務を果たすこととなりました。
どいつもこいつも横暴ですね。

さて僧院長に従ってイタリアに辿りついたハインリヒは皇帝と直接会うのを避けるために、陣から離れた場所に天幕を張りました。
そしてそこで旅の汚れを落とそうと、天幕の中で入浴しました。すると外では皇帝がピュレの市民たちとの交渉に向かう姿が見えました。
実はこの交渉は市民たちの罠であり、彼らは交渉の場に皇帝をおびき寄せて暗殺することを目論んでいました。
実際、事態は彼らの思惑通りとなるところでした。非武装の皇帝は市民たちに取り囲まれ絶体絶命の危機に陥ったのである。こいつホント馬鹿じゃなかろうか。


しかし、そこに1人の騎士が駆けつけた!ハインリヒである。
彼は目の前で皇帝が卑怯者の手にかかることを良しとせず、我が身の危機も省みないで駆けつけたのです。


…入浴中だったので全裸で。正確には全裸に盾に剣だけの、魔界村も真っ青の紳士スタイルで


そしてハインリヒがとかアレを振り回しながら悪漢どもを蹴散らしている間に皇帝は何とか逃げ延び、無事に己の天幕に辿りつくことができました。
ハインリヒもこっそり己の天幕に戻り、何くわぬ顔で入浴を続けました。


ところで皇帝は騎士が全裸だったにもかかわらず、助けてくれた人物が誰なのかわかりませんでした。いったいナニを見ていたんですかねえ。
そこで皇帝は家臣たちに心当たりがないか尋ねます。
家臣たちは助けたのがハインリヒとわかっていましたが、復活祭の日の一件があったので家臣たちは「皇帝が怒らないなら」と注文をつけます。
それに皇帝が「仮に親の仇でも許すどころか一生感謝する」と答えたために、彼らはハインリヒの名を挙げました。

これには皇帝も「全裸で戦うなんて確かにハインリヒのやりそうなこと」と納得し、彼への怒りを水に流して恩寵を授けることにしました。
しかし、その前にこの騎士に対して小芝居をうってやることにしたのです。


そして皇帝の前に再びひったてられたハインリヒ。皇帝は怒っているふりをして「顔を見せるなと言ったのに性懲りもなくこの地に来るとは何事か」と叱責します。
しかし慌てたハインリヒが、自分は主君の逆らい難い命で来たのであって、けして皇帝に対して悪意があったわけではないと必死で釈明すると破顔一笑。
ハインリヒに命を救ってくれた礼と恩賞を授けて2人は和解を果たしたのです。
そして作者は騎士というのはハインリヒのように勇敢で力強くあってこそのものだと語るのです。

そして最後に作者のあとがきが書かれ、物語は終わる。



【登場人物】

  • ハインリヒ
この物語の主人公。皇帝の宮廷で大暴れするが、直接の上司には逆らえない。
これは騎士が臣従を尽くすのは直接の主君に対してのみだからだとか。
宮廷人としては問題のある行動が目立つが、騎士としては素晴らしい活躍を見せる。ただし全裸で。
主君の僧院長曰く、彼の息子2人合わせたより有能(戦場では)。


  • オットー
神聖ローマ帝国の皇帝。
恐ろしい人物のはずなのだが、ハインリヒに酷い目に合わされたり、罠にかかったり、全裸のハインリヒの正体がわからなかったりと基本的にギャグ担当。


  • シュヴァーベン公の息子
皇帝の宮廷で養育されていた少年。復活祭のごちそうをつまみ食いをしたら文字通り頭をかち割られた。生きてたけど。
ハインリヒは彼の教育係だったので、内膳頭にくってかかったわけなのである。
ハインリヒがあんなことをやらかした後では、宮廷に残された彼はすっげー居心地悪かっただろう。


  • 内膳頭
皇帝の権威を盾に威張り散らす男。少年を殴りつけ血を流させたことをハインリヒに咎められるが、開き直って煽ったために文字通り頭をかち割られて死んだ。
殺したハインリヒが無罪放免なのだからさぞや悔しがっていることだろう。


  • 僧院長
ケンプテンの僧院長でハインリヒの主君。坊主のくせに戦場に赴くハッスル聖職者。
ハインリヒが皇帝の怒りを買っているのを知っていてもお構いなしに彼を指名する鬼畜。
道中でもハインリヒをこき使った模様。慈悲はどこへ消えたのだろうか。


【小ネタ】
その昔、神聖ローマ帝国には本当にオットーという赤毛の皇帝がいた。彼もイタリア遠征を行っており、ハインリヒという騎士に助けられたという話がある。
その騎士が全裸だったかは定かではないが。


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最終更新:2022年02月19日 17:16