北センチネル島

登録日:2014/03/27 Thu 13:14:32
更新日:2025/04/15 Tue 00:11:42
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北センチネル島とは、インド洋ベンガル湾内にあるアンダマン諸島のうちの1つ。

概要

南アンダマン島から西に約30kmの地点に浮かぶ小さな島で、面積は約70平方km。
ジャングルが島を覆っているため、上空からの観察はほぼ不可能。

行政面では一応インド領で、連邦直轄領であるアンダマン・ニコバル諸島に属しているが、
正直これに関しては便宜上という意味合いが強く、ほとんど意味を成していない。理由は後述。


さて、この島は一部では世界一到達するのが困難な島と呼ばれている。
ただ、地理的には泳いでいくのならどうだか知らないが、船やヘリコプターで行くのはたやすい。行くこと自体は。
にもかかわらずこんな呼ばれ方をしている理由も後述。


「世界一到達するのが困難」という文言からしても、前人未到の秘境というイメージを掻き立てられる人は多いと思うが、
北センチネル島は無人島ではなく、古くから人が定住している有人島である。

この島の先住民族である彼らはセンチネル族と呼ばれ、センチネル語と呼ばれる言語を話す。人口は50~400人ほどと考えられている。
ネグロイド(黒人)の外見特徴があることから、彼らは約6万年前にアフリカ大陸から移住してきた人々の直系の子孫と考えられており、
その推測が正しければ、それだけの長きに渡って先祖代々北センチネル島に住み続けているということになる。

生活様式は原始的な狩猟と採集による生活らしく、農業は行っていないようだ。
文化形態は不明だが、遺体を埋葬する様子が確認されており、死者を埋葬する文化は備えていると思われる。

…え?なんで人口数がかなりアバウトな上に記述がほとんど伝聞調なのかって?
もちろんそれには理由がある。別にインドのお役人とて仕事をさぼっているわけではない。


理由は不明だが、彼らセンチネル族は外部からの接触を一切拒絶しているのだ。*1
それも、上陸を試みようとする者・船に弓矢を射かけるほど激しい拒絶ぶりで、対象を射殺すことを躊躇する様子もない。
まさに彼らは、「外部からの接触を、訪問者を殺してでも頑なに拒絶する未開の民族」という、
ホラー・サバイバル映画や小説、漫画に出てきそうな、言葉が通じない危険な先住民族というイメージを地で行っているのである。

インド政府はこれまで何度か彼らと接触を試みているが、上述の通り頑として拒絶され、全て失敗に終わっている。
食べ物などの贈り物をもって敵対する意思がないことを示しても矢を射かけられて威嚇され、上陸することは出来なかったという。
一方で、贈り物については彼らに回収されており、敵対するつもりがないことを察したのか、
コミュニケーションこそ出来なかったものの、1991年までには船で近付くと非武装で贈り物を受け取りにきたこともあったとか。

そして、インド政府は最終的に彼らと接触・交流することを断念し、自他国民問わず、センチネル族以外の島への接近を禁止。
島の周囲にはインド海軍により3マイルの緩衝水域が設定されており、許可なく近付けば容赦なく逮捕される。
この目的については、面白半分だろうが研究目的だろうが、下手に近付いて命を危険に晒す連中を止めるためではなく、
伝染病などに対する免疫を持っていないと思われるセンチネル族を、(上陸すれば)現代人が持ち込むそれらの病原体から保護するためだといい、
便宜上管轄内となっているアンダマン・ニコバル諸島自治政府は、現在は北センチネル島に干渉するつもりはないという。
そのため、北センチネル島の内部に関しては事実上治外法権となっている。

2004年に発生したスマトラ島沖地震の際には、緊急事態という事もあって流石に放置しておくわけにはいかず、
生存者の確認と救援物資の輸送のためにヘリコプターがこの島へと向かったのだが、
センチネル族はヘリに向かって矢を射かけ始めたため、結局上陸することはなかった。

さらには2006年には、島の近くで密漁をしていた漁師2人のボートが島に漂着し、2人ともセンチネル族により殺害されるという事件が発生。
政府はせめてその2人の遺体を回収しようとしたのだが、センチネル族は回収に向かった人々にも矢を射かけて威嚇したため、
結局、哀れな漁師たちの救出どころか、遺体の回収すら出来ずに終わっている。

そして、2018年1月にはアメリカ国籍の宗教団体の宣教師が布教のために法を犯してまで島に接近・上陸を試み、
案の定センチネル族には矢を射かけられて威嚇され、その矢によって負傷しながらも懲りることなく、三度目の上陸の試みの際についに殺害される事件が発生。  
この宣教師の所属団体は一応キリスト教系に分類されるも、メジャー宗派ではなく終末思想色が強い団体であり、
上述したインド政府の「伝染病に免疫を持たないと思われる住人の保護」などの思惑や接近を禁止する法律を無視してまで、
「終末が来る前に布教してあげないと」というエゴで上陸しようとしたその身勝手かつ傍迷惑な行動は、米国内の他のキリスト教系信者からも非難を浴びた。
ちなみにこの宣教師は、事件によってダーウィン賞を受賞している。


センチネル族の排外姿勢はずっと昔から変わっていないようで、
アンダマン諸島がイギリスの流刑地だった時代の1896年には、この島に漂着した脱獄囚が島の住人により殺害され、
その遺体が浜辺に晒されていたのが捜索隊により発見された、という事件があったらしい。


とまあ、こんな有様なので人口数も調査できるわけがないからアバウトにならざるを得ないし、
生活様式についての記述もどうしても「らしい」「ようだ」と付けるほかはない。
先述のとおりこの島はジャングルに覆われているため、航空機などで上空から観察することも不可能。
ついでに彼らが話す言語、つまりセンチネル語についても彼ら独自のものだということくらいしかわかっておらず、単語の1つもわかっていない。
だって調査とか意思疎通とかしようと島に上陸すれば殺されるし。



そんなわけで、センチネル族は謎だらけの民族である。
彼らの言語や文化、風俗が明らかになる日は来るのだろうか、それとも…



余談だが、南センチネル島という島も存在する。こちらは無人島で、よくダイビング客がやってくるそうな。


創作作品における北センチネル島

漫画

第595話「楽園の女」(2020年時点で単行本未収録)にて、明らかに北センチネル島をモチーフとした架空の島「セントール島」が舞台となる。
セントール島に漂着したターゲットを始末するためゴルゴが上陸するが、彼には任務とはまた別に課せられた「依頼」があり……


追記・修正は北センチネル島に上陸することなく行ってください。

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最終更新:2025年04月15日 00:11

*1 18世紀にこの島を「発見」し、統治を宣言したイギリス政府が1880年に島を探索してセンチネル族の6人を連行するも、2人を死なせてしまって残りを島に戻したという出来事があり、このことが彼らに「島の外」への敵愾心を植え付けたのではという指摘がなされている。