顧客が本当に必要だったもの

登録日:2014/08/15 Fri 00:56:49
更新日:2022/08/09 Tue 20:43:47
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概要

日本では2005年頃からネット上でよく見かけるようになったITビジネスにおけるシステム開発の迷走を風刺した絵。
上記画像は日本語版であり元は英語。英語ではHow Projects Really WorkとかThe Tree Swing Cartoonなどと呼ばれている。
顧客の曖昧な要望を元に曖昧な指示をまわしていった結果、最終的に誰にも望まれないもの(しかも高価でローサポート)
が出来上がっていく様子を表現している。各人がどういう間違いを犯しているのか描き分けられている点に注目したい。
最新版ではいろいろ強烈になっている( 外部リンク )。アニメ・ゲームその他、幅広い分野で派生ネタが作られている。
元ネタはヨーロッパやアメリカの産業界に古くからある風刺絵( 外部リンク )。以下の画像は日本の書籍で引用された絵としては(たぶん)最も古いもの。


有沢誠(1988),ソフトウェア工学,岩波書店にて引用された絵
出典:University of London Computer Center Newsletter No.53

解説

この解説は一考察に過ぎず、絶対ではない。留意せよ。

顧客が説明した要件

  • 「木に吊るすブランコを頼むよ。」「ちゃんと真ん中に体を入れたりできるようにしてね。」「システムよくわかんないんだよね。」
どうやら顧客はブランコのようなものが欲しいらしいということがわかる。しかし真ん中に体を入れるとは?
体を通すブランコなど聞いたことがないが、足場を増やせということなのだろうか?しかし、いくつにすればいいのか説明はないから、とりあえず3つと仮定する。
顧客は当事者でありその分野のプロなので、「顧客の提案は問題解決のための最適解」かと思いきや、そうでないことも多い。
顧客は問題発見や要求定義のプロではないのだ。
また、勘違いしやすいが、ここに当てはまるポジションは「顧客」ではなくその顧客から依頼を受けた「担当窓口」である。

プロジェクトリーダーの理解

  • 「承知いたしました。」「しかし3段なんて無理だと私だからこそ気付ける。1枚板こそ肝要。」
    「ブランコって枝からぶら下げて…こんな感じだっけ?」「あ、枝1本じゃ折れるな。紐を別の枝に分けよう」
    「初めての分野で細かい仕様判らんからなあ。」「精査はアナリストに任せよう。」
ブランコは支柱などの支えからぶら下げて揺れる装置だという大まかなことは理解している。
また顧客の要件のアラをある程度は洗い出すことも出来ている。
しかし人が乗って漕ぐことができないとブランコとは呼べないということが分かっていない。
このままの設計では人が乗って漕ぐと木にぶつかってしまい遊べないが、結局細かいところは詰めない。

というよりも、そもそもブランコだと分かっていない可能性が高い。窓口から「枝に紐を結び付けて板を3枚付けたもの」程度しか情報が入っていないならこのような解釈にもなりうる。
加えて板を3枚にした理由も伝わっていない。

アナリスト(分析家・評論家)のデザイン

  • 「分析の結果、真ん中の板は稼働するはず。リーダーの目的仕様を満たすため邪魔な幹を除いて…」
    「ありゃ倒れるか?支柱を…」「ふぅ、作業要件定義の数も増えたしプロジェクトっぽくなってきたかな。」
相変わらず人が乗って漕ぐことができないが、木にぶつからずきちんと揺れるようになっている。つまり、引き続きこれがブランコだと分かっていない。
しかし幹を除いてしまうと木は枯れ、やがて倒壊するのは自明の理の筈なのだが……。木というハードの仕様を把握していないのが明白である。
プロジェクトリーダーの意を精一杯汲み取り、リーダーが考えた仕様にしっかり添おうとしているが、
元から根本的なところが抜けていることを見過ごしているので、現実離れした机上の空論にしかならない。


プログラマのコード

  • 「なになに?ええと設計書によると… 板とロープが接続され、ロープが二本で木に接続、か…」
    「うん、仕様通りだ。エラーも検出されない。」
違う、そうじゃない。設計の意図がうまく伝わっていない。
「木に吊ったもの」と理解はしているが、これでは想定通りの性能を発揮することができない。予算も検証時間も与えられていないのだろう…。
プログラムのコードは第三者がそうそう欠陥を指摘できるようなものではないのでここまでくるとどうしようもない。
ブランコだという情報が伝わらなかったとすれば、おかしいということにさえ気づく余地はない。

営業の表現、約束

  • 「当社は業界のリーディングカンパニーとして最高のソリューションをもって
    お客様にご満足頂ける超一流のクオリティのITガバナンスに根ざしたコアコンピタンスを支える
    戦略的でスケーラブルなビジネスプロセスを進化させる真の統合をサポート…」
基本的に営業担当は数字を取ってきてナンボである。
しかし如何せん技術方面がわかる者は少なく、加えてチームマネジメントの知識もない。
このため、彼らは顧客に媚びて無茶なことでも安請負し、仕様変更にもホイホイ応じる。
彼らは一番顧客の側で話を聞き、やり取りも多いので、顧客の要件をそれなりに理解しているのだが……。
そもそも顧客もここまでは求めていないことが多い。

当然、彼らは客が要求しているものがブランコだと分かっている。そして、リーダーらが依頼案件がブランコだと理解しているものだと思い込んでいる。
だから、「これはブランコですよ」という追加情報を提示しない。

実は、顧客に最も寄り添った立場なので、顧客が本当に欲しかったものに一番近い形は提示できている(予算的に妥当かどうかはともかく)。少なくとも、最後を除いた9つの事例の中で一番「ブランコ」として使用できそうな形ではある。
要は、ここから余計な要素を取り除いて実現可能な形に持っていくのが本来の開発の仕事なのだが…。

プロジェクトの書類

  • 「えっ、後回しって1枚もまだ書いてないの?」
実体が何も見えない書類しかないか、あるいは予算と時間がないのでそもそも削られている
そもそも正体がわからないから何も示せない。
さもなくば、設計図や指示書などが、実際に作ってからそれに合わせて書類作成される(実話)。
存在はしないが存在するが故の影はあるという、奇妙な状態。
書類というのはコピーすることで全員が依頼に関する情報を共有することが可能なアイテム。
これがないということは、それぞれの部署・工程がそれぞれの思い込みだけで稼働しているということになる。

実装された運用

  • 「ええと…リリースに間に合ったのはとりあえずこれだけです。」
顧客と会社が譲歩しあって何はともあれ木の枝に吊ってあるものが完成した。当初の設計の面影はどこにもない
ブランコとして使うのは相当、厳しいように見える。何気に顧客が本当に必要だったものに一番近いのもポイントか?
実はあと少しでどうにかなりそうだという皮肉が込められているのかもしれない。

顧客への請求金額

  • 「え?ここ別料金?」「去年と同じ運用なのに…」「新聞で叩かれたあとやたら額下がったね?」
遊園地のジェットコースターばりの膨大なカネが提示される。
コースターが選定されているのは、制作元の都合で上がったり下がったりを繰り返す費用の風刺だろうか。

得られたサポート

  • 「木の根元が草原に設置されています」「細かい仕様については○○部署にお聞きください(たらい回し)」
ほとんどサポートしてくれない。というのも、共通している仕様が草原に木があることだけで、そこだけは手厚くサポートできるが、それ以外は担当部署に聞くしかない。
さらに、その担当部署もよく分かってない。
風刺画の絵は、おそらく他の制作工程の絵を半透明化し、重ね合わせれば出来上がる。
そして、このようなシステムは無茶な運用がたたって次第に使われなくなっていくものである。

顧客が本当に必要だったもの

  • 「ぶら下がって遊びたいなら…」「パンダ様もこれで十分満足されてますよ」
あーそういうので良かったんだ……。最初からこれがわかっていれば……。
おそらく顧客は動物園であり、最初の説明の段階で「動物園のブランコと言ったらパンダで、パンダ用のブランコだから当然タイヤだよね。」と勝手に思い込み、説明を省いてしまったと思われる。
で、顧客は自分のミスに気付くか忘れて激怒し、追加の手配をして現場作業にて何とか完成するのだろう(実話)。幸いにも、タイヤを手配して結べばOKという状況ではある。
そしてその場合、「何とかなった」ということでプロジェクトは完結し、大して改善もされずに次の顧客へと無限ループする。


ちなみに、ここでいう顧客とは資金を出してその制作を依頼したスポンサーのことを指すものであり、
別にそれを実際に利用するいわゆる消費者が製作者側にそれの制作を依頼したわけでも、それについての内容説明を行ったわけでもない以上、
消費者はこのテンプレで言う「顧客」には当てはまらない。

また、確かに顧客は消費者に向けた商品としてそれの製作を要求したのかも知れないが、
この風刺の意味はそもそもそれを実際に扱うであろう消費者および利用者の需要に関して、顧客(依頼者)の理解と説明自体が不十分あるいは誤りだったというものであり、
言ってしまえば顧客側にも一抹の責任があるという結論に達する。

よって消費者目線で下手にこのテンプレを使ってしまうと、間違っていたのは消費者の方という無意味なブーメランになってしまいかねないので注意。


余談

カラー版の風刺画は10個だが、実は11個目が存在していると考えられる。
それは「この風刺画を見た人間の理解」である。
各工程はそれぞれ上の工程から下の工程に正しく情報が伝わらず、また下の工程から上の工程に確認が行われていない。
最初に書いてあるが、この風刺画が何を意味するのかは一解釈に過ぎない、つまり作者から風刺画という答えのない情報を提示され、意味の確認もできずあれやこれやと想像し思い込んでいる訳である。
つまり、風刺画のメンバーと大差ない
万人が思い思いにこの風刺画を解釈したことで描かれるであるビジョンは、絵などで表すことが不可能なカオスであろうことは間違いない。


「追記、修正? ここは運用でカバーしましょう!」

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最終更新:2022年08月09日 20:43