マザー・ヨシュア(ゴルゴ13)

登録日:2014/10/06 Mon 11:25:19
更新日:2023/11/20 Mon 20:32:38
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おれの心に初めてともった火のようなものを消すためには、あいつが(インセクト)であるという絶対の事実が必要だ……
おれだけに通用し、納得できる事実が………

その事実のためにおれは、すべてを賭ける……
生きてきたすべてと、これから生きるであろうすべてを……


1969年発表のゴルゴ13のエピソードで単行本3巻に収録された「ベイルートVIA」「最後の間諜-虫-」に登場するゲストキャラクター。
存在だけなら単行本2巻に収録された「ゴルゴin砂嵐」でも仄めかされている。

概要

なにもかも…なにもかも25年前の戦時中にもどっている……

世界の諜報機関トップたち共同の依頼によりパレスチナゲリラの過激派スパイダー6を全滅させたゴルゴ13。(「ベイルートVIA」)
ゴルゴは財産を預けているスイス銀行を訪れるが、そこには恐るべき死の罠が仕掛けられていた。
敵が第三次中東戦争の影で暗躍し(「ゴルゴin砂嵐」)スパイダー6のリーダーが死に際に名前を口にした正体不明のスパイ『(インセクト)』であることを知ったゴルゴは『虫』の正体を暴き生き残ることが必要となる。

そしてその正体こそが「マザー・ヨシュア」と呼ばれる、「ベイルートVIA」事件でベスト4の代理として依頼人を務めたユダヤ人の老修道女である。
彼女の経歴はイスラエル諜報機関影の実力者にして第二次大戦では連合軍・ドイツ軍双方に内通していた世紀の女スパイ『(インセクト)』。

現在の雰囲気は典型的な修道女の老女と言う印象で、とてもスパイをしていたようには見えない。
ところが本人が言うには若い頃は大層な美人であったらしく、「世紀の美貌とまで言われた…」と、上記のセリフの後に心中にて吐露している。

徹底した自主独立を貫くスイス銀行すら情報提供を通して支配下に置いており、ゴルゴが依頼を完了すると今度はゴルゴ自身をも始末すべく
ゴルゴが最も信頼し必ず現れるスイス銀行の金庫室に赤外線装置に偽装したレーザーを配置するという「的確な死への片道切符」を用意する。
スイスナショナル銀行頭取のドワイト・D・グリンヒルは誠実な人物でゴルゴからも信頼されていたが、『虫』には父親の代から重要な情報提供を受けていたため命令に逆らえず、ゴルゴ抹殺に手を貸す事態となった。
この事からゴルゴはスイス銀行を動かせる以上『虫』の力は世界中におよんでいると見立てている。

正体を知るのは世界でベスト4のみで、同じイスラエルのダヤン国防相ですら『虫』は男だと思っているほど。
米仏英ソの諜報機関トップ4名のフーバー(アメリカ)、オマイリイ(フランス)、ヒューム(イギリス)、キニスキー(ソ連)とは大戦中からの知己であり、中東問題を巡って協議した末にゴルゴに和平の障害となるスパイダー6抹殺を依頼している。
ただし「最後の間諜-虫-」では登場していないので、『虫』がゴルゴを殺そうとしたことは知らないと思われる。
『虫』が自分の命を狙いそうな相手として彼らを連想しているが、即座にあり得ないと思い直した。

なお、なんでわざわざゴルゴを殺そうと思ったのかは全く明かされていない。口封じか何かだろうか。
そして、彼女はゴルゴが罠を回避して自分の正体を探っている事実に最後まで気付いておらず、それが仇となった。

ゴルゴのヨシュアの殺害計画は依頼ではなかったが、一世一代の大勝負に出るために大量の兵器や資金を投下した。
全面協力させているグリンヒルが費用を負担していない限り、間違いなく赤字である。
この赤字っぷりはファンの間でネタにされるが、裏を返せば「報復にしろ、死にしろ……おれの行く道はひとつしかない……」「すべておれ自身が生きるための賭けだ」と語ったようにゴルゴが大赤字を覚悟してまで殺意を抱いた脅威という証ではある。

劇中の活躍

恐るべき『虫』の罠を紙一重で回避したゴルゴは、ヨシュアが『虫』であると直感するものの完全な確証を得るために全てを賭けた大勝負を仕掛ける。

マザー・ヨシュア=『虫』が修道女に身をやつして隠れ住むスイスの山村の静寂を突如砲声が破った。
修道院に押し入ってきた男たちはパットン将軍麾下の米軍兵士を名乗りナチスドイツの侵攻から住民を保護しに来たと語る。

年老いた自分以外の全てが1944年に戻った異常事態、やはり大戦中そのままのDC4型旅客機の機内でヨシュアは必死に動揺を抑えていた。
「これは罠だ!私をおとしいれるための罠に違いない!……しかしいったいだれが私を……」

DC4のコクピットに座るパイロットはゴルゴであった。
ゴルゴはスイス銀行に預けていた600万ドルの資金と頭取の協力を得て映画撮影と称して村を丸々借り切り、旅客機とエキストラの役者まで用意して第二次大戦を再現したのだ。

「メ、メッサーシュミット109!た、た、たしかに……」

機関銃を発射しながらDC4に迫るドイツ軍戦闘機。
その尾翼に描かれた鈎十字にユダヤ人のナチスに対する根源的恐怖を呼び起こされたヨシュアはコクピットに飛び込むや無線に向けて叫ぶ。

「こ、こちら(インセクト)!ドイツ空軍指令室へスイス上空における全空軍の攻撃を中止せよ、攻撃を中止せよ!」

「こちら(インセクト)!」

(インセクト)!」

その言葉を聞いたゴルゴはヨシュアの方を振り向き……

余談

  • 「虫」をめぐる物語である「最後の間諜-虫-」は、「ゴルゴin砂嵐」「ベイルートVIA」と事実上の三部作を構成するゴルゴ最初の長編エピソードにして、第一話「ビッグ・セイフ作戦」以来ほぼ全作の脚本を担当してきた小池一夫がこれを最後にさいとうプロを去りゴルゴから離れる節目となった作品である(「査察シースルー」のように単発で関わった作品はある)。
    仇敵を倒すため過去の時代を丸々再現するという大仕掛けはまさに小池一夫の真骨頂。後年の『実験人形ダミー・オスカー』や『オークションハウス』の主人公リュウ・ソーゲンを彷彿とさせる。最初期ゴルゴの締めにふさわしい傑作といえよう。
    一方ゴルゴのキャラ造形は初期の小池ゴルゴに見られた饒舌さや軽さがこの辺りから影を潜めだし、現在に至るパーフェクト・マシーンゴルゴ13への成長を感じさせてくれる。

  • 「虫」に協力しながらも例外的に全面協力を条件に生かされたドワイト・D・グリンヒルは、後にバカ息子が顧客(元イラン国王)の資金を溶かしたことを隠蔽するためゴルゴに国王抹殺を依頼。
    自身もけじめを取って自殺することに(「国王に死を」)。

  • ヨシュアに対しては、ゴルゴは代名詞である狙撃テクニックを見せることはなく、ヨシュアを追い詰めたところで話が終わるので一発の銃弾も撃っていない。



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最終更新:2023年11月20日 20:32