機関銃

登録日:2010/11/16 Tue 23:53:27
更新日:2025/07/07 Mon 20:02:53
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概要

機関銃(マシンガン)とは、基本的に小銃弾のフルオート射撃を前提に運用される銃器の総称である。

としてフルオート射撃は銃身や機関部を熱や摩擦で傷める行為である。
発射の反動で銃全体が揺れ続けるため、人間が構えての連射はセミオートの場合よりもかなりばらける。
そして当然ながら耐久性を最重要視して設計され、安定させるための脚が装備されるなど軽量化は基本的に考慮されない。かなり譲歩しても突撃銃などとまったく同じようには扱いきれないだろう。

しかしそれらを犠牲にした分大変強力な火力を発揮でき、歩兵銃とは比べ物にならない射程と連射力を誇る戦場の悪魔として君臨している。



運用

主な運用方法は
  • 連射し続け敵を一掃する掃射
  • 連射し続け敵の移動や反撃を抑えつける制圧
  • 味方の際を援護する支援
  • 敵の上陸や進行から陣地を守る火点
など。大部隊であろうとも数人の兵士で足止めや掃討を可能とするため、軍隊には必要不可欠な銃である。
19世紀末に登場し、登場直後*1から死体の山を築き上げた。第一次世界大戦ではこれに対抗する塹壕戦と、更にその塹壕を突破する戦車が生まれる事になった。

特に影響を受けたのが騎兵であり、その存在価値・運用方法は大きく変化させられてしまった。
+ 余談:機関銃と騎兵
中世の騎士が消滅し近世の「騎兵」となってからも、騎兵部隊は文化や風習により、戦いを一種の美や英雄譚と捉え、また煙内でも視認性を確保出来るよう派手でカラフル制服を着用していた地域も多かった。
軍事面でも高い機動力で砲撃を突破し敵陣に集団突撃を行う重騎兵の突撃は騎兵の、ひいては戦場の花形だった。
事実、機関銃が猛威を振るった日露戦争でも、日本では騎馬隊が大真面目に編成され、ロシア側でもカラフルなコサック部隊が前線を闊歩していた。
当時の騎兵部隊のもう一つ重要な仕事が「浸透」だった。敵陣深くまで突撃し、要所を打撃したり状況を偵察して帰ってくるという任務である。これができるのは、任務の内容と重要性を理解できる教育レベルがあり、すぐに逃げ出すことのない士気があり、かつ敵歩兵では追いつけないほど機動力のある兵種…つまりエリートの集う騎兵だけだったのだ。

しかしライフリングの発明により、突撃前に狙い撃たれる頻度が増え始め、その時代に陰りが見え始める。
そして機関銃によって弾の物量が跳ね上がった後は完全に只のマトと化し、重騎兵部隊は悉く蜂の巣にされ死屍累々と化したことで戦術上の価値を大きく失ってしまったのである。

要因としてまとめるとすれば以下2点だろう。
  • 目立つ装飾に図体がデカい
  • 被弾面積もデカく、人馬ともに対弾性もない*2

騎兵は長い訓練が必要で、軍馬の育成も時間と金がかかる。失ったときの損失が洒落にならない。
こうして機関銃に対抗できない騎兵という兵科は減少・消滅していき、馬は輸送や軽騎兵による局所的な偵察といった補助的な任務に回されていくこととなる。

第二次大戦で騎兵突撃を複数回成功させた騎兵ガチ勢国家のポーランドですらこの流れには逆らえず、戦後には騎兵隊も解体されていった。
そしてかつて重騎兵が担っていた敵陣地への直接攻撃という役割は機関銃を跳ね返す頑強さを備えた戦車などの装甲車両が担っていくこととなる。

制圧

機関銃を語るにあたって重要な概念が「制圧射撃」である。
敵を狙って撃つ事が難しいのに、なぜ機関銃はこんなに重要な武器なのだろうか?

人は死が間近な環境で生命の危機を気にせず作業する事はできない。
弾が付近をかすめたり、近くで榴弾の炸裂が起きたら当然、作業を放り出して身を隠す。敵を探したり銃を構えたりといった作戦行動も放り出す*3
つまり、フルオートで弾を撒き散らし続ける限り、直接殺傷はできなくとも殺傷範囲内の敵を全員物陰に隠れさせ、作業を中断させられる
これが制圧射撃の狙いである。
この間に味方の歩兵は移動し、索敵し、手榴弾を投げる事ができる。
機関銃はこれが一番の仕事なのだ。
自動小銃でも代打は出来ないこともないが、30発を超えての連射できるだけのそれらに対し機関銃は『持続性』が段違いである。
只流石にトリガー押しっぱなしで延々ぶっ放すわけではなく、大抵は数発まとめての連射を繰り返すバースト射撃で運用している。



種類

一口に機関銃といっても様々な種類がある。
  • 重機関銃(HMG)
  • 軽機関銃(LMG)
  • 汎用機関銃(GPMG)
  • 分隊支援火器(SAW)
  • 機関砲
この項目ではこれらを簡単に説明する。

上記については別物なので各自の項目を参照。

重機関銃 (Heavy machine gun、重機、HMG)

三脚や銃架を使って陣地に固定して運用する機関銃。弾の格はあまり関係せず、歩兵銃と同じ弾でも数人がかりでの運用が必要なら重機関銃である。
よくある特徴としては
  • 大変重い。弾や交換銃身含めると60kgほどがザラ。
  • 運用には射手のほかに装弾手*4や設営含めて2~3人以上が必要。

原初のガトリング砲やマキシム機関銃もこれに当てはまり、台車に乗せて馬や人力で運ぶ大砲規模の兵器であった。
後述する「より軽い」機関銃が登場すると、この様な大規模で手間のかかる機関銃を重機関銃と呼ぶようになった。

昔は水冷式が主流だったが、戦場での水の確保は難しいため現在は空冷式が主流。
第一次大戦の頃に重機関銃が担当した制圧や火点の役割は、現代では後述の汎用機関銃が担当している。
そのため、現代では大口径弾や擲弾を使用したり多銃身だったりと小型化が難しいものが純粋な重機関銃として残っている。

車両などに搭載すればデメリットもなくなるので、航空/車載用に転用・発展した物も見られる。
新型の開発の流れは途切れてしまった*5が、技術的に枯れ尽くした(成熟しきった)古参モデルが今でも各国で現役で生産、運用されている。

また、重機関銃はその重さからセミオートでの命中精度が良好である場合がある。対戦車ライフルと対物ライフルの間の空白期間には口径問わず代用として使用された事例がある。現代でも十分に通用する使用例である。

間接照準射撃*6に用いられた例もあるが、歩兵支援火器の充実や通信・観測技術の改善に伴って実施する機会が無くなっている。

アメリカや中国は大口径重機関銃用のAPDS(装弾筒付徹甲弾)も実用化している。ブローニングM2のM903SLAPであれば、距離500mで34mm、1.2km先でも23mmの防弾鋼板を貫通できるため、軽装甲目標の撃破に活用されている。

有名な銃器

  • イギリス:マキシム、ベサ
  • アメリカ:M1919、ブローニングM2
  • フランス:ホッチキス(オチキス)
  • オーストリア:シュワルツローゼ
  • ソ連:DShK38
  • 日本:九二式重機関銃


軽機関銃 (Light machine gun、軽機、LMG)

二脚を使って移動も考慮して運用する機関銃で、第一次世界大戦にて登場した。
運用体制こそ射手、装填手の2人だが、移動だけなら1人でも可能な程に重量が抑えられているのが重要な利点。

技術の進歩と共に機構を小型軽量にできるようになった結果生まれた。
重機と比べれば射撃精度や射撃継続能力は劣るが、その分軽い(10~20kg程度)。
防御向けの重機に対し攻撃面を担い、歩兵と共に進軍し援護するのが主な運用法。

現在は固定でも移動でも使える汎用機関銃に発展した。
第一次世界大戦が勃発するまで歩兵分隊における火力の主体は小銃だったが、以後は軽機関銃が主体となっている。*7

有名な銃器

  • イギリス:ルイス、ブレン
  • チェコ:ZB26
  • デンマーク:マドセン
  • 日本:九六式軽機関銃、九九式軽機関銃


汎用機関銃 (General purpose machine gun)

第一次、第二次大戦の戦間期に登場。
状況に応じて周辺パーツを交換し、二脚なら従来の軽機関銃、三脚なら従来の重機関銃に近い運用(歩兵随伴、陣地防衛等)ができる汎用性が売り。
軽機関銃から発展したタイプで、口径は8mm未満が多い。
現代において、概ね対人用途であれば地対地のみならず空対地、地対空にも対応する程。汎用の名は伊達じゃない。

有名な銃器

  • ドイツ:MG34、MG42、MG3
  • ベルギー:FN MAG
  • アメリカ:M60
  • フランス:AA-52
  • ソ連:PK
  • 日本:62式7.62mm機関銃


分隊支援火器 (Squad Automatic Weapon、SAW、LSW)

第二次大戦にて発生。歩兵部隊に随伴しての火力支援に特化した銃で、軽機関銃/汎用機関銃的な側面を持つもの。
更なる軽量化によって一人で運用できるようになった*8
歩兵の主力火器(突撃銃など)と使用弾薬を共通化する事で弾の補給をより円滑にすることもできる*9。突撃銃から発展したモデルもあり、部品単位での互換性が重視される場合もある。

基本的には汎用機関銃の軽量化モデルが当てはまるが、別に機関銃である必要はないのでより精度に特化させてDMRの役割も担わせる場合がある(M27 IARなど)。

有名な銃器

他にも、色々な突撃銃には分隊支援火器化キットのオプションがある。組み替えるだけで転用できるようになっている場合が多い(ステアーAUGなどが代表的)。


機関砲

「砲」に分類できる口径で自動連発ができるもの。
砲というだけあって20~57mm程度と大口径であり、威力は上記機関銃とは比較にならないレベル。
例えば7.62mm NATO弾は弾頭の重さが10g程度だが、ボフォース40㎜機関砲の弾頭は1㎏に迫る。
過激派組織(北朝鮮もやってた)が見せしめとして人に向けて発射する事もあったが、遺体は原形を留めてはいない。
砲というだけあって榴弾(爆発する弾)を撃てるのも特徴。手榴弾並みの爆発物をライフルとそん色ない速度で投げられるのは歩兵や軽装甲車両からしたらたまったものではない。
一般には大型のため据付けで車載・艦載・機載されており、対地対艦対空に用いられる。
メジャーな動作方式はやはり歩兵用と同じ反動利用式などだが、特に連射速度を求める航空機関砲やCIWSなどではガトリング式、リヴォルバーカノン式など、機関砲ならではの方式が用いられる事も。



補給

分間600~900発の速度を活かしつつ数百発単位でフルオート射撃を続けるには、相応の補給体制を整えないといけない。

給弾

機関銃は弾帯によるベルト給弾が基本である。
弾帯とはメタルリンクという金属のクリップで弾と弾を繋ぎ合わせたもので、最初のスタータータブを銃に挟みこんで使用する。
絡まないように折りたたんで弾薬箱に入れ、装弾手がサポートしつつ送り込まれる形。
頻繁なリロードをせずに撃ち続ける事ができ、機関銃の強みである継続的な連射が可能となる。

銃身交換

連射を支えるために機関銃は通常のライフルの銃身よりも肉厚で丈夫なヘビーバレルを採用しており、銃身の耐熱限界を長くしている。
だがそれでも200~500発で限界がきて銃身が白熱化してしまうため、ワンタッチで銃身を交換できるようになっている。
一般的に予備の銃身を何本か持ち運び、それが冷えるまでローテーションして使いまわしている。



余談

日本では突撃銃(アサルトライフル)や短機関銃(サブマシンガン)など、連射できるものは全て機関銃(マシンガン)と表現される傾向にある。
しかし全ての銃はそれぞれ違ったコンセプト、分類となっており、正しく印象を伝えられなくなってしまうので、銃器対策課がニュースに上がったりする際に話題になってしまうこともある。
銃ヲタの悩みの種の一つであろう。



追記・修正お願いします。

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最終更新:2025年07月07日 20:02

*1 南北戦争や第一次世界大戦、日露戦争など

*2 象などでも厳しいだろうが近代の軍馬はサラブレッドなので脆い一面が強い

*3 もちろんそうすべきである。死を顧みずに成果を得たとしても、引き換えに得た死傷によって部隊の戦闘力、士気はかなり低下してしまう

*4 給弾ベルトを支えることで引っ掛かってジャムるのを防いだり、弾薬箱や銃身を交換・補給する役割

*5 名高いブローニングM2は、優秀すぎて後継機の開発計画が失敗しまくった結果、今や100年選手(2021年現在)である…

*6 直接狙わず、座標に対して計算して射角を求め撃つこと。榴弾砲や迫撃砲のそれ

*7 例として、火力だけでいえば日本陸軍の小隊(96式軽機と99式短小銃)と米陸軍小隊(M1918A2 BARとM1ガーランド)とでは前者のほうが勝る。

*8 人手が掛からないため、汎用機関銃から置き換えた際に、人員削減に踏み切った例もあれば、分隊あたりの配備数を増やして増強した例もある

*9 突撃銃とは異なる口径を採用した例も無い訳では無い。また、突撃銃と同じ口径でも、ベルト給弾の場合は突撃銃と補給を完全に統一できる訳ではない。