A-5 ヴィジランティ

登録日:2015/10/08 Thu 15:16:20
更新日:2020/10/14 Wed 22:29:28
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1950年代末に、ノースアメリカンが米海軍用に開発した艦上攻撃機。
スカイウォーリアーの後継機を必要とした海軍がノースアメリカンと契約して開発させた。
ペットネームは英語で『自警団員』の意(蛇足だが『自警団』の方は『ヴィジランテ』である)。



【アトミック自警団員誕生秘話】

前代機であるA-3 スカイウォーリアーは高い性能を発揮したものの、当時は航空機の発達速度が凄まじく速く、核攻撃機としては早々とオワコンに*1
流石にこれはマズイと判断した海軍は、自主研究で色々と核攻撃機のプランを練っていたノースアメリカンに目をつけて、1956年に契約。
それから2年後の1958年に試作機が初飛行を成し遂げ、本格的な生産が開始された。




【自警団員の構造解説】

空母から離陸して超音速による遠路の敵陣爆撃、という無茶を可能とするため基礎設計はかなり先進的になっていた。
素材や工程も選りすぐられ、エンジン周りなどの重要な個所はチタン製、主翼外皮はアルミとリチウムの合金削り出しの一体成型。
空気抵抗削減のための工夫も随所に施された。
また、垂直尾翼の真下にあるリアボムベイに核爆弾を搭載するなど、仕様も非常に特徴的である。
しかし、このボムベイの構造上、燃料タンク脱落が相次ぎ、核爆弾も1発しか積めないなどの問題点も抱えることになったが。

この機体の弱点は核攻撃に特化し過ぎた*2上に初期型の機体強度が低く、そして艦載機としても並外れて大きいこと。
陸上機のF-15より更に大きいと言えばそのデカさが想像できるだろう。
全長・全幅共に20mオーバーのスカイウォーリアーより僅かにマシなレベルだが、それでもかなりの大型機*3であり、主翼と機首だけでなく垂直尾翼まで折りたためるようになっている。
前者も運用上のかなり頭の痛い問題であり、軍事ドクトリン変更や情勢変化の余波もあってか核攻撃の任務から早々と外されたが、速度面が大変優れていたので高速偵察機の役割を与えられることとなった。




【自警団員の特徴】

ヴィジランティの特徴は何と言っても優美なプロポーションであろう。
デザイン面は非常に完成されており、一部では「米海軍で最も美しい艦載機」とも評されている*4
項目本文作成者の私見だが、冷戦期のアメリカ軍用機ではF-7U カットラス、F-3H デーモン、そして本機がほぼ確実に最優秀プロポーション部門の3トップと思われる。
ググって実物の写真を見ればお分かりいただけるだろう。
また、複座式なのだが後部座席のキャノピーは、両側面の小窓以外は金属製なので単座式と見間違いやすい。




【非暴力系自警団員、ベトナム北部の奥地を往く】

上記のように、核攻撃任務から外されて以降、本機は艦上偵察機として重宝されることに。
何せ米軍の攻撃機で超音速を出せた唯一の機種であり、外部増槽抜きでもかなりの距離を飛べたのである。
速度面は本当に異常でF-8クルセイダーよりも更に速く、本機より速い艦載機はF-4 ファントムぐらいしかいなかった*5。※
そういう訳で偵察機型のRA-5は核爆弾を積むスペースも燃料タンクにしたので外部増槽抜きでの航続距離が更に伸びている。
この頃は丁度ベトナム戦争真っ只中。
本機はその速度性能を活かして活躍したものの、その一方で18機も落とされるなど損害も馬鹿にならなかった。
戦後も配備されていたのだが、やはり機体強度やサイズがネックとなり、1975年に全機退役となってしまう。
しかし、これはアメリカ海軍の偵察能力を著しく低下させることとなり、F-14 トムキャットが航空偵察用ポッドを装備できるようになるまでの間、海軍はクルセイダーの偵察機型による数年間ものその場しのぎを余儀なくされた。

※空軍機を入れてもマッハ3以上のYF-12や、時速2200kmオーバーのF-105 サンダーチーフぐらいしか本機より速い機体はいない(知っている方の追記・修正を求む)。




【相当に希少な自警団員のプラモデル】

一応、プラモデルもあるにはあるのだが、先述の通り実物が相当なデカブツなので1/72でもかなり大きく、1/48に至っては日本国内ではまずお目にかかれないと思った方がいい。
また、若干マイナーな機体でもあるためキット化自体が貴重であり、数十年前にハセガワやエアフィックスが出した1/72ぐらいしか国内には無かった。
そのハセガワ製やエアフィックス製も結構早い段階でほぼ絶版状態となっており、最近になって出てきたトランぺッター製のも殆ど日本には入ってこないなど、完全に入手困難。
2015年現在、ネットオークション等で探すしかないのが実情である。
なお、ダイキャスト製品としては、HOBBY MASTER社で1/72の物が存在する。



追記・修正は本機でベトナム上空を飛んだ方にお願いします。


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最終更新:2020年10月14日 22:29

*1 スカイウォーリアーの名誉のために言っておくと、それ以外の用途で重宝され、電子戦機や空中給油機として1991年まで運用された。

*2 固定武装の機銃も無し。更に構造上核爆弾以外の兵装も取り付け不可能と来ている。これのせいで『普通』攻撃機への切り替えが出来なかった。

*3 全長に至ってはスカイウォーリアー以上。このデカさが退役の最大の原因と言っても過言ではなかったらしい。

*4 完全な偶然だが、『WW-II期の物で最も美しい』と評された軍用機も、本機の偵察機型と同様の用途で運用されていた。

*5 参考までにマッハで記載しておくと、クルセイダーが1.8、ファントムが2.2以上、本機が2ぐらいである。なお、飛行高度の上昇に合わせてマッハの基準数値は下がる点に留意されたし