彼女は1年3組の、当時の担任であった。担当教科は数学。
『終物語上』の本文を読み返すと登場人物で唯一、「生徒」「高校生」「部員」など高校生であることを示す単語が記述に使われていないことがわかる。
ソフトボール部の顧問であり、学級会の間は議長を務めていた暦の席に座っていた。
フレンドリーな教師であったらしく、「ジョー」とアダ名で呼ぶ生徒もいる。
そしてカンニング騒動の真犯人である。
先述した勉強会の後片付けの際、黒板に書き残されていた勉強会の内容を知る。
それを反映させて試験問題を作り変えることで、勉強会参加者の平均点を引き上げたのである。
勉強会参加者の平均点が極端に上がったこと、そして学級会が開かれたことは予想外であったと、忍野扇には推測されている。
動機は担当科目のクラス平均点を上げる事で、自身の指導能力への評価を上げるためであろう。
学級会の議論では犯人が特定されることなく、下校時間寸前になって挙手による多数決となった。
結果として会への参加の強要や、最中の態度で不評を買った老倉がクラスの大半から犯人として指名されることとなった。
その時、鉄条は―――
暦「僕が正しさに絶望したのは」
「あのとき、老倉を犯人に指名したクラスの連中に紛れて……、教師である鉄条もまた、ぴんとまっすぐ、手を挙げていたからだ」
後ろめたさのためか、学級会の翌日から不登校になった老倉を進級できるよう取り計らったようである。
自分をマシな人間と思いたい言い訳と、暦には切り捨てられていたが。
暦の中ではもはや教師とも大人とも思われてはいない。
その後、不祥事がバレることもなく学級会から2年後の10月下旬に産休に入った。
また老倉には真犯人であることは見抜かれており、鉄条と入れ替わるように彼女が再び学校に姿を現す。