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トンカツ大王(美味しんぼ)

登録日:2016/04/23 (土) 13:49:29
更新日:2026/06/11 Thu 22:10:41
所要時間:約 5 分で読めます







いいかい、学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。
それが、人間えら過ぎもしない貧乏過ぎもしない、
ちょうどいいくらいってとこなんだ。




『トンカツ大王』とは、漫画『美味しんぼ』の11巻に収録されたエピソード『トンカツ慕情』に登場する架空の飲食店。

概要

アメリカで150支店を持つスーパーマーケットチェーンのオーナーとして大成した日本人・里井新一が、青春時代に愛したとんかつ店。
東京都渋谷区に店を構えていた典型的な昭和のとんかつ店という印象で、店舗名も右からの横書き。
中橋夫妻という気前の良い中年の男女が経営していた。

里井はとんかつ店を経営する夫婦にもう一度会う事を夢見ていたが、アメリカで人並みの生活を送るのに苦労しているうちに、夫婦に手紙を出すことすら忘れてしまっていた。
ようやく生活が安定して手紙を出したところ、宛先不明で手紙は返送されてしまっており、しかも既に経営者と店の所在は消えていた!
久々に帰国した里井が自分の記憶通りの味のトンカツを求め、東西新聞社で創設した『食べ物相談室』に投書したことがキッカケで捜索が始まる……。

里井にとってトンカツ大王が思い出の店となったきっかけは、若き日に彼が暴漢に襲われて給料を分捕られた際に助けてもらったばかりか、無料でトンカツ定食を食べさせてくれたから。
その時に里井を強く激励し、「勉強して偉くなって頂戴」と励ます主人の妻だったが、それに対して主人は「そこまで偉くなる必要はない、人間ちょうどいいってものがある」と語り出すのだ。

いいかい、学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。
それが、人間えら過ぎもしない貧乏過ぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだ。


曰く、トンカツ大王のとんかつの味は「表面はカラッとして香ばしい」「噛むとロースの脂身が口中に広がって、肉の味にはコクがある」「飲み込むと快感」……このセリフを読んでいるだけで食べたくなった読者もいたことだろう。
里井はこの味は自分が貧乏故に美化しすぎていたのではないかと推測していたが、山岡はそうとも言えないと考えていた。
果たして、山岡の推測は的中していた。味の秘訣は、中橋夫妻がラード作りを重視していたことにあったのだ。
鍋に水を少々入れて沸騰させた後に脂身を加えてラードを作っており、水を少し入れて最初の脂身が焦げ付かないようにしていた。
鍋の中に油が増えることで水は蒸発し、後は純粋なラードだけが残るというわけ。

主人が言うには、良いラードだと揚がり方が綺麗で表面がカラリとしているのだという。
しかし変な油だと切れが悪いだけでなく、表面がジトジトして美味しくないらしい。
こうして出来上がったトンカツを綺麗に切ることで、トンカツ大王のロースカツ定食は完成する。


閉店の経緯

栗田と山岡は、東西新聞社の社会部部長である川杉の力を用いて、中橋夫妻の居場所を突き止めることに成功。
夫妻は千葉県田舎の老人ホームで暮らしていたが、今でも健在で里井の存在をちゃんと覚えていた。

アメリカから最初の内は手紙も送られていたらしいが、しばらくするとその手紙も途絶えていたことで、夫妻はアメリカで彼が上手くいかなかったのではないかと思っていたようだ。
しかし、里井が大成功して帰ってきたという話を聞いて喜んでいた。

店を畳んだのは、トンカツ大王があった『恋文横丁』が再開発されてビルの建築が行われたことがきっかけだという。
夫妻は信用していた人間に騙され、なんと権利を横取りされてしまったのだ。
このような不幸を経験した夫妻は、これ以降その日暮らしの仕事を転々としながら老人ホームに辿りついたという……。

更に資金の問題だけではなく、手に入る豚肉の問題もあったようだ。
年々原材料の質が落ちていき、夫妻のお眼鏡にかなう味の出せる豚肉が手に入らなくなったことも店が続かなくなった理由だという。

「もう一度店を始めないのか」と栗田に問われたが、そんな資金は無い、と言う夫妻。
主人は若者に体力は負けないし料理の腕も落ちていないと語りかけたが、どこか気が抜けたようにもなっている。


復活

中橋夫妻を乗せたタクシーは定食屋らしき店の前に到着。店の前では里井とお互い久々の再会に震えていた。
里井は「親父さんのトンカツの味が忘れられなかった」と述べ、三十年ぶりに作ってくれないかと頼む。
入店した店を使って良いのかと主人は気に掛けたが、山岡に構わず使ってくれと了承される。

山岡はサツマイモをたっぷり与えて育てた種子島の黒豚の最上肉を提供。気分がマックス状態となった主人は、早速特製トンカツの調理を始める。
こうして出来上がったロースカツ定食を食した面々はその味を絶賛。これこそが長い間里井が夢見たトンカツの味だったのだ。

自分の腕は少しも落ちていないという自負を見せ、今日からでも現役復帰できると自信満々に笑う主人。
すると里井はその台詞に安心を覚え「この店は大丈夫だ」と語りし始め、事態が理解できない夫妻だが、店の看板を見ていなかったのかと言われて外に出る。

そう、夫妻が迎えられた店の看板は昔よりも立派になった『トンカツ大王』。この店は里井の夫妻に対するプレゼントだったのだ。
無料で提供するようだが「タダで貰うのが嫌なら儲けの中から少しずつ返してくれれば」と語り、両者は涙を流すのだった。


世間の評判

里井のトンカツ大王での昔話と中橋夫妻のエピソードは、東西新聞社の読者から評判を呼んだ。
その結末も引き続き報じられて好評を得たことに大原社長も満足な気分で川杉を讃える。
人情味の大切さと、「殺伐たる社会記事に人情話は一種の清涼剤になる」と大原を前に分析を述べた川杉だったが、それをネタにされて山岡の飲み食いのツケを社会部が当分の間は負担することになったとさ……。


余談

  • このエピソードは本作きっての名エピソードとして語り継がれる代表的な話で、「人生が変わる1分間の深イイ話」でも紹介されたことがある。
    また、親父さんの名台詞「いいかい学生さん」で始まるくだりも近年はネットミームになっている。






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最終更新:2026年06月11日 22:10