何がケープド・クルセイダーに起こったか?(バットマン)

登録日:2016/10/26 (水曜日) 23:46:00
更新日:2022/07/24 Sun 09:20:02
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† 訃 報 †

闇夜の騎士 バットマン儀

去る■■■■年■■月■■日永眠致しました

ここに生前のご厚誼を感謝し

謹んでご通知申し上げます

なお葬儀は下記の通り執り行います


日時 ■■■■年■■月■■日 午後■時より

場所 ゴッサムシティ クライムアレイ BAR「しずく亭」

喪主 アルフレッド・ペニーワース




何がケープド・クルセイダーに起こったか?

『Whatever Happened to The Caped Crusader?』はDCコミックスのアメコミ作品。2009年4月発表。「Batman」#686に前編、「Detective Comics」#853に後編と全2部構成で掲載された。
ニール・ゲイマン作、アンディ・キューバート/スコット・ウィリアムス画。
翻訳版は小学館集英社プロダクション刊『バットマン:ザ・ラスト・エピソード』所収(同書には本作の他、ゲイマンが手がけたバットマンの短編4作品を収録)。
2009年度SFX誌Sci-Fi賞最優秀コミック部門、2009年度英国幻想文学大賞最優秀コミック/グラフィック・ノベル部門を受賞。
2010年度ヒューゴー賞ベスト・グラフィック部門にもノミネートされた。


物語

 ふと気付くと、夕闇迫るゴッサムシティの風景がバットマンの目に映っていた。見慣れているはずの街並みに妙なよそよそしさを覚えつつ、視界の片隅に目を止める。裏通りの奥に店を構える一軒のみすぼらしいバーに次から次へと人が集まってくる。どうやら今夜、誰かの葬儀が執り行われるらしく、彼らはその参列者であるらしい。だがどうも様子がおかしい。キャットウーマントゥーフェイス、ジム・ゴードン、ジョーカー……誰も彼も、自分と所縁のある人々ばかりなのだ。そして店内の奥に安置された棺の中には、黒衣の男が一人……。

「あれは……あれは私だ」

 物言わず横たわる自分の亡骸に困惑を隠せないバットマン。他ならぬ自分自身がなぜ死んでいるのか、そもそもそれを黙って眺めているのかさえ、全く見当がつかないのだ。果たしてこれは現実の光景か、それとも夢を見ているのか……。

「いいえ、夢じゃないわ」

 謎めいた女性の声が傍らで囁きかける。尽きぬ疑問をよそに、粛々と葬儀が始まる。一人一人が歩み出ては語り出す。それぞれが立ち会った、漆黒のケープの英雄・バットマンの最期を。


解説

『サンドマン』『スターダスト』など幻想的な作風に定評のある作家ニール・ゲイマンが手掛けたバットマン最終回
……といっても勿論本当に最終回な訳ではなく、あくまでも「もしも〇〇に最終回があったら」という趣旨で企画されたものである。

本作が発表された2009年は、バットマンが1939年に誕生して以来70周年の節目に当たっていた。
DCコミックスは『バットマン:R.I.P.』『ファイナル・クライシス』『バットマン:バトル・フォー・ザ・カウル』といったバットマンの死亡・世代交代をめぐるエピソードを展開していたのだが、そこに「昔アラン・ムーアがスーパーマンの最終回書いてたけど、バットマンでも何かそういうので一本出来ないかな?」という話が持ち上がったのが始まり。
かの名作『ウォッチメン』を生み出したムーアに匹敵する才能を持ち、かつバットマンに愛着を持つ作家といえば……ということでゲイマンに白羽の矢が立つ。ムーアが大のスーパーマンマニアであったように、彼もまた幼少期以来のバットマンファンであった。

とはいえムーアの二番煎じに甘んじないためにも、ゲイマンはあくまで独自の観点からアプローチを試みる。
彼は熟慮の末、「いくつもの時代を乗り越え、変化に対応してきたバットマンのラストストーリーは、今現在だけでなく20年後、いや100年後であっても通用するものでなければならない」という結論に到達。
その結果、本作は≪何の説明もなく主人公の葬式が始まり、仲間達やヴィランの面々が一堂に会して弔辞を読みあげていく≫という、他には類を見ない異色エピソードとなった。

ある者は、悪人を救うために躊躇いなく身を投じたバットマンの死を語った。
ある者は、街を救うことと引き換えに命を散らしたバットマンの死を語った。
ある者は、毒に犯されながら最期まで笑わなかったバットマンの死を語った。
ある者は、年老い衰えた末に愛する者の手で死んだバットマンの死を語った。
ある者は、自らが道化だと気づいても戦って死んだバットマンの死を語った。

バットマン創生期から21世紀の今日に至るまでの幅広い年代のキャラクター達が、葬儀会場に入り混じる不可思議かつ幻想的な光景は、一種のメタフィクションであると同時に、70年以上続くシリーズの総括ともいえよう。
結末は「バットマンとは何か」という命題について作者なりの解釈が提示されると同時に、バットマンそのものに対する深い愛情が感じ取れるものとなっている。
作品のコンセプト上、派手なアクションは無きに等しいものの、シリーズのファンならば一読しておいて損はない名作。



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最終更新:2022年07月24日 09:20