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パズズ(メソポタミア神話)

登録日:2017/01/01 Wed 21:55:00
更新日:2026/04/13 Mon 14:44:20
所要時間:約 8 分で読めます






我はパズズ 、ハンビの息子。


山より猛々しく荒ぶり出づる 、大気の悪霊の王者。


それこそが我である。






―イラクから出土したパズズ像に刻まれていた碑文「標準呪文A」より
(ルーブル美術館所蔵)




Pazuzu(パズズ)とは、メソポタミア神話における風と疫病の悪霊・魔神である。
フンババの父でもある悪神ハンビの子で、妻は悪霊の女神ラマシュトゥ。


【概要】

パズズはアッカドに伝わる障礙神として知られている。
その風に触れた者は病に侵されると言われ、恐れられていた。
しかしより弱い魔物は彼を祀ることで追い払うことができたとされ、祟神として人々の信仰を大いに集めた神でもあった。


○外見

パズズは出土品が多く残されているため、その姿に関しては比較的有名。
ライオンの頭と腕を持ち、獰猛そうに牙をむきだし爪を立てている。
頭の上には長く伸びた1本、ないし並んだ2本の角を持つ。
また風の神らしく背中には特徴的な4枚の翼を持ち、脚はのものである。

それから疫病神であるからかを持つ生き物たちの要素も持っている。
サソリのもので、隠されている男根は頭をもたげた大蛇であるという。
そしてその体は鱗に覆われているとされる。


○性格・能力

メソポタミアには多くの風の神がいるが、中でもパズズは「熱風を巻き起こす」あるいは「東からの冷たい風を司る」と言われている。
その力は農業や自然環境を破壊し、人間や家畜へ重い病をもたらすとされ、人々から大いに恐れられていた。

しかしパズズは恐れられる一方で、ほかの悪霊を追い払う神として祀られる存在でもあった。
パズズや彼によってもたらされた病を追い払うには神に祈ったり魔術的な儀式に頼るしかなかったが、より低級な病魔、それに彼の妻とされるラマシュトゥ*1もパズズに対して祈ったり供物を捧げたりすることによって神や魔術に頼るよりもより簡単に、しかも大きな効果をもって追い払うことができたとされる。


【解説】

○神格について

パズズは「山から来る旱魃と蝗害をもたらす熱風の神」「山から来る冷害をもたらす東風の神」「疫病をもたらし、また追い払う神」という特性を持つ。
メソポタミアの東方には、ザグロス山脈がそびえ立っている。冬になると-25℃を下回るほどの極寒の寒波が吹き荒れる場所であり、季節風シャマル(shamal)を神格化したものではないかと思われる。
日本で言うなら「山背」*2が一番近いだろうか。

シャマルとは夏と冬に内陸部からペルシャ湾目指して吹き降ろす風で、粉塵と乾燥、そして夏は高熱、冬は低温を通り道であるティグリス・ユーフラテス川流域にもたらす。
これにより、粘膜を痛めつける乾燥と呼吸器や目にたやすく侵入する粉塵が眼病や肺病を、熱気や低温が熱中症や低体温症を引き起こすことになったのだろう。
これは東アジアの「黄砂」と似た現象である。

強い熱気と乾燥、そして容易に目や呼吸器に侵入する砂の微粒子はメソポタミア全土に旱魃による飢饉と熱中症、そして眼病・呼吸器感染をもたらし、メソポタミア文明滅亡のきっかけとなったとも言われている。

しかしシャマルのもたらす極端な低温や高熱は、逆に病原菌を死滅させる手段でもあった。
ラマシュトゥがもたらすとされた産褥熱をはじめとする感染症に対しては、衛生環境が劣悪だった当時ではパズズの力に頼るほかなかったのであろう。

○神性について

灌漑や疫学・衛生学が未発達な古代メソポタミアにおいて、パズズは疫病を直接的にもたらす恐るべき神であった。
当然人々からは恐れられ忌み嫌われたのだが、またその恐るべき力ゆえに崇拝を集めることともなった。

インドでも疫病をもたらす神であるマハーカーラサンニなどが人々の信仰の対象になった例がある。
パズズは他の悪霊・悪神のように善神に倒されることも従えられることも無く、邪悪で凶暴な悪霊であるままに人々の崇拝を受けていった


○信仰について

パズズへの崇拝は古代メソポタミアにおいて一定の時期(BC1000~?)、一定の規模で行われていたらしい。
全身像や頭部像それに護符など、決して少なくはない数の出土品が当時の状況を物語っている。
パズズの像や護符には柱などに引っかけておくための金属製の輪や紐を通すためとみられる穴があり、病人の首元にかけられたり枕元に吊るされていたものとみられる。

召喚するための呪文である「標準呪文A」はパズズの自己紹介となっているが、これは守護者としての役割を演じさせるためのもの。
しかし彼は自然の猛威そのものなので、制御する手段が必要になる。それが「標準呪文B」だった。
こちらの内容は、パズズがもたらす惨状と召喚者の家に入ることを禁じる拒絶の言葉、そして数多の神々の力を借りてその力が人間に向かないよう呪縛するというもの。
つまり二つは、起動スイッチとブレーキというそれぞれの役割を担っていたのである。

しかしその信仰は、母体である文明の滅亡とともに砂の中に埋もれていった
パズズは局地的な気候に由来を持つ神であるためか、直接的な原型となる神がいない。
父とされるハンビも非常に記録が少ないマイナーな神性である。
そしてパズズの神性が他の神に直接引き継がれていったという資料も確認できていない。

何ものにも属さず連なることもなかった彼は、後に何を残すこともなく、ただ災厄をもたらして消えていった。
今ではわずかな出土品が、当時の人々の恐怖を残すのみとなっている。

○熱風の神か、冷風の神か?

……ところで、パズズは「熱風と熱病の神」のイメージで定着しているが、実は1992年に否定する論文が出されている
熱風の神のイメージが定着したのは、1874年にフランスの学者フランソワ・ルノルマンがパズズ像の碑文を誤読したことから。
当時は碑文を完全に解読できず、かろうじて解読できた「風(im-u-lu)」というシュメール語の表意文字などを根拠に、パズズは「南西の風の悪魔」であると推測された。
事実、メソポタミアは「ハムシン(chamsin)」と呼ばれる猛烈な熱風が吹き荒れる場所だった。そのため、この説は説得力を持ったまま長きにわたって定説として扱われてきたのである。

しかし1992年、解読技術が進んだことによりその説は覆されていった。
パズズ像の背面には「標準呪文A」が刻まれているが、定説を覆す決め手となったのがこの文だった。


我がその中を歩んだ風どもは


その顔を西へと向けていたが


我はやつらの翼を一つ一つ打ち砕いた



つまりパズズは西へ向かう風の中にいた(・・・・・・・・・・・)ので、東から来たということになる。
さらに頭部を模した護符に刻まれた「標準呪文B」には、冷害の神であることを裏付ける記述が刻まれている。



汝は強き者、山々を登り、あらゆる風に立ち向かう者

その吹き荒れゆく様は恐ろしい怒りの風

猛々しき者、怒れる者、猛々しく駆け巡り、世界の各地で咆哮し

高い山々を破壊し、湿地帯を干からびさせ、その葦を枯らす者

森に入ってはその木々を倒し、果樹園に入っては果実を振り落とした

井戸に下りては氷を注ぎ込み、乾いた大地へと上っては霜で覆い尽くした

川へと下りては氷を注ぎ込み、乾いた大地へと上っては霜で覆い尽くした



とはいえ、その姿のルーツは西風から来ていると言われている。
父ハンビの名は西セム語で「曲がったもの」を意味するが、西風はまっすぐ進まないことから「曲がったもの」とされていた。
事実、青銅器時代の西風は体を曲げた姿で描かれており、最初は人の姿だったのが鷲の翼や鉤爪、サソリの尾といった要素が付け加えられていった。
また、その魔よけの力は頭に宿るとされ、護符が頭部を模しているのはフンババが由来。
フンババの頭部にも魔よけの力があると信じられており、西の遠い山々に住むとされていた。
前述のラマシュトゥは元々独立した悪魔だったが、時代が下るにつれて大気の悪霊として組み込まれていった。
それに対抗するためにデザインされたのがパズズなのだという。


【登場作品など】

パズズは由来を局地的な気候に持つというその特性上、類似している神はいるものの、他の神に影響を与えられたり与えたりといった結びつきが少なく独自性が高いキャラクターである。
なのでそのオリジナリティを買われてか、出演作は決して多いとは言えないが、そのいずれででも極めて重要、重大な役割を担うキャラクターとして登場している。

○エクソシスト(映画)

パズズを語るとしたならば、この作品だけは外すわけにはいかない。
あらゆる媒体、あらゆる時代においても堂々たる位置を占めるホラー作品の金字塔。
この作品でパズズは、少女リーガンに憑りつく悪霊として登場する。

「1」では名前と、クライマックスシーンでシルエットが出現するにとどまっている。
「2」では冒頭で砂漠のただなかに立つパズズの立像が映し出され、「イナゴの悪魔」とされた。

パズズに憑りつかれ怪異を巻き起こしながら奇行をとり暴言を吐く少女の姿は公開から半世紀近く経った今もなお強烈な印象として残っており、日本におけるパズズのイメージはこの作品を基礎とすると言っていいだろう。

ウォーリーを探さないでのアイツの正体でもある。


○ウィザードリィシリーズ

多くのRPGの基礎となったウィザードリィシリーズだが、終盤の強敵としてマイルフィック(Maelific)という名の敵が存在する。

Malefic(災厄を引き起こすもの)という単語から来た名を持つと思われるこの敵は、appleⅡ版・PC98版当初では他の悪魔と使いまわしのグラフィックだったが、FC版移植に当たり末弥純氏の手により、パズズ像に酷似した姿を与えられる。

この姿はプレイヤーたちの好評を博し、その後の作内ではマイルフィック=パズズという設定も正式に与えられ、後の多くのシリーズでパズズは迷宮の奥底で待ち受ける強敵として出現することとなった。


○女神転生シリーズ

ウィザードリィシリーズの流れを汲み、世界各国の悪魔を扱うこのシリーズにも初作からパズズは出演している。
もっとも印象的なのはFC版(旧約)Ⅱにおける、メシア教首魁としての登場だろう。

崩壊した東京の地下シェルター内で過ごす主人公と友人。
彼らの楽しみは仮想ゲーム「デビルバスター」だった。
ある日、遂にボスを倒したが画面の中に現れたのはゲーム画面ではなく魔王パズスの姿。
彼はモニターの中から主人公たちに語りかけて来た。



我 炎と嵐の間に生まれし 魔王パズス ・ ・ ・

封印より放たれ 光とともに ここに出ずる



彼は主人公たちを救世主と呼び悪魔召喚プログラムを授け、荒廃した世界を救うために戦いへと導くのだった…

この作品のパズスは敵全体の中では決して強大な存在ではないが、主人公たちをストーリーへと導くための重大な役割を果たした。
後のシリーズでも強力な邪神として登場し、存在感を示している。


その他

  • 漫画「ゴッドサイダー」では「大神魔王」「食人魔王」として登場。
    やたらとチンピラ然とした暴言を吐き悪態をつく小物くさい口調の割に恐るべき強さを持つという映画エクソシストを踏襲したようなキャラクターが印象に残る。
    東京都心を舞台に街を焼き払い群衆を貪り食らいながら復活したサタンと戦った。


  • ウルトラマンガイアには「宇宙雷獣パズズ」という名の怪獣が登場する。
    全身から電磁波を放ち機械を狂わせたり角から電撃を放ったりする。
    後にパワーアップ版の「(スーパー)パズズ」も登場。

  • ヨルムンガンド PERFECT ORDERではイラクを舞台にした第7話のタイトルが「Pazuzu」となっていた。
    この回では、主人公一行は別のPMC(民間軍事会社)と契約し共に輸送トラックの護衛にあたっていたが、彼らは民間車を意図的に誤射する様な粗暴な者達だったため契約を解除。
    するとそのまま主人公一行に略奪を働くため待ち伏せをしかけてきた。
    それに対し主人公チームに所属していた爆発物のエキスパート「ワイリー・コヨーテ」は仕掛けられたIED(即席爆発装置)さらには人間爆弾などといった非道な手段をそっくりそのまま仕掛け返し十数名の戦闘員を一方的に爆殺して壊滅させてしまった。
    ワイリヤバイ回として有名なこの回は、イラクに巣食う寄生虫のような外道どもを熱い死の暴風を巻き起こしながら更なる極悪非道な手段で殲滅するという、まさしく神話のパズズもかくやというストーリーになっている。




追記・修正の際には悪魔の言葉に耳を傾けないようにお願いします。




悪魔の言うことに、耳を傾けてはならない。

悪魔は嘘に巧妙に真実を織り交ぜる。



―『THE EXORCIST』(1973) メリン神父の言葉より


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最終更新:2026年04月13日 14:44

*1 ラマシュトゥ(Lamaštu)ラバルトゥ(Labartu)とも。天空神アヌの娘。頭はライオンで歯と耳はロバ、体は人とロバの合いの子のようで、猛禽の鉤爪を持つとされる。男児をさらったり妊婦の腹を裂き胎児を引きずり出したりし、そうして得た子らの血をすすり貪り食う。産褥熱を引き起こすとも。ただ家畜を守護する神でもあった。夢魔リリスラミアの基になったとも言われる女神。ラミアの項目も参照

*2 6月~8月ごろにかけて北日本の太平洋側に吹く冷たく湿った風のこと。1993年に記録的な冷夏の一因となり、米不足をもたらした