パズズ(メソポタミア神話)

登録日:2017/01/01(水) 21:55:00
更新日:2023/10/29 Sun 15:29:03
所要時間:約 8 分で読めます






我はパズズ 、ハンビの息子。


山より猛々しく荒ぶり出づる 、大気の悪霊の王者。


それこそが我である。






―イラクから出土したパズズ像に刻まれていた碑文より
(ルーブル美術館所蔵)




パズズ(Pazuzu)とは、メソポタミア神話における風と疫病の悪霊・魔神である。
フンババの父でもある悪神ハンビの子で、妻は悪霊の女神ラマシュトゥ。

【概要】


パズズはアッカドに伝わる悪神で、嵐と熱風を吹きつける風の神として知られている。
その風に触れた者は熱病に侵されると言われ、恐れられていた。

しかしより弱い魔物は彼を祀ることで追い払うことができたとされ、
祟神として人々の信仰を大いに集めた神でもあった。

○外見


パズズは出土品が多く残されているため、その姿に関しては比較的有名。
ライオンの頭と腕を持ち、獰猛そうに牙をむきだし爪を立てている。
頭の上には長く伸びた1本、ないし並んだ2本の角を持つ。
また風の神らしく背中には特徴的な4枚の翼を持ち、脚は鷲のものである。

それから疫病神であるからか毒を持つ生き物たちの要素も持っている。
尾はサソリのもので、隠されている男根は頭をもたげた大蛇であるという。
そしてその体は鱗に覆われているとされる。

○性格・能力

メソポタミアには多くの風の神がいるが、中でもパズズは「熱風を巻き起こす」と言われている。
その熱い風に触れると頭痛と吐き気を伴う熱病に侵されるという。
さらには熱い風なので当然乾きをもたらし旱魃を起こすほか蝗害をも呼び起こすと言われ
人々から大いに恐れられていた。

しかしパズズは恐れられる一方で、ほかの悪霊を追い払う神として祀られる存在でもあった。
パズズや彼によってもたらされた病を追い払うには神に祈ったり魔術的な儀式に頼るしかなかったが、
より低級な病魔、それに彼の妻とされるラマシュトゥ*1もパズズに対して祈ったり供物を捧げたりすることによって
神や魔術に頼るよりもより簡単に、しかも大きな効果をもって追い払うことができたとされる。


【解説】

○神格について

パズズは「山から来る旱魃と蝗害をもたらす熱風の神」「疫病をもたらし、また追い払う神」という特性を持つ。
なので恐らくはメソポタミアの季節風シャマル(shamal)を神格化したものではないかと思われる。

シャマルとは夏に熱せられた内陸部からペルシャ湾目指して吹き降ろす風で、
熱気と砂塵を通り道であるティグリス・ユーフラテス川流域にまき散らす
これは東アジアの「黄砂」と似た現象である。

強い熱気と乾燥、そして容易に目や呼吸器に侵入する砂の微粒子
メソポタミア全土に旱魃による飢饉と熱中症、そして眼病・呼吸器感染をもたらし
メソポタミア文明滅亡のきっかけとなったとも言われている。

しかしシャマルのもたらす高熱と乾燥は、逆に病原菌を死滅させる手段でもあった
ラマシュトゥがもたらすとされた産褥熱をはじめとする感染症に対しては、
衛生環境が劣悪だった当時ではパズズの力に頼るほかなかったのであろう。

○神性について

灌漑や疫学・衛生学が未発達な古代メソポタミアにおいて、
パズズは旱魃と疫病という災害を直接的にもたらす恐るべき神であった。
当然人々からは恐れられ忌み嫌われたのだが、
またその恐るべき力ゆえに崇拝を集めることともなった。

インドでも疫病をもたらす神であるマハーカーラサンニなどが人々の信仰の対象になった例がある。
パズズは他の悪霊・悪神のように善神に倒されることも従えられることも無く
邪悪で凶暴な悪霊であるままに人々の崇拝を受けていった

○信仰について

パズズへの崇拝は古代メソポタミアにおいて一定の時期(BC1000~?)、一定の規模で行われていたらしい。
全身像や頭部像それに護符など、けして少なくはない数の出土品が当時の状況を物語っている。
パズズの像や護符には柱などに引っかけておくための金属製の輪や紐を通すためとみられる穴があり
病人の首元にかけられたり枕元に吊るされていたものとみられる。

しかしその信仰は、母体である文明の滅亡とともに砂の中に埋もれていった
パズズは局地的な気候に由来を持つ神であるためか、直接的な原型となる神がいない。
父とされるハンビも非常に記録が少ないマイナーな神性である。
そしてパズズの神性が他の神に直接引き継がれていったという資料も確認できていない。

何ものにも属さず連なることもなかった彼は、後に何を残すこともなく、ただ災厄をもたらして消えていった。
今ではわずかな出土品が、当時の人々の恐怖を残すのみとなっている。

【登場作品など】

パズズは由来を局地的な気候に持つというその特性上、類似している神はいるものの
他の神に影響を与えられたり与えたりといった結びつきが少なく独自性が高いキャラクターである。
なのでそのオリジナリティを買われてか、出演作はけして多いとは言えないが
そのいずれででも極めて重要、重大な役割を担うキャラクターとして登場している。

○エクソシスト(映画)

パズズを語るとしたならば、この作品だけは外すわけにはいかない。
あらゆる媒体、あらゆる時代においても堂々たる位置を占めるホラー作品の金字塔。
この作品でパズズは、少女リーガンに憑りつく悪霊として登場する。

「1」では名前と、クライマックスシーンでシルエットが出現するにとどまっている。
「2」では冒頭で砂漠のただなかに立つパズズの立像が映し出され、「イナゴの悪魔」とされた。*2

パズズに憑りつかれ怪異を巻き起こしながら奇行をとり暴言を吐く少女の姿は
公開から半世紀近く経った今もなお強烈な印象として残っており、
日本におけるパズズのイメージはこの作品を基礎とすると言っていいだろう。

ウォーリーを探さないでのアイツの正体でもある。


○ウィザードリィシリーズ

多くのRPGの基礎となったウィザードリィシリーズだが、
終盤の強敵としてマイルフィック(Maelific)という名の敵が存在する。

Malefic(災厄を引き起こすもの)という単語から来た名を持つと思われるこの敵は
appleⅡ版・PC98版当初では他の悪魔と使いまわしのグラフィックだったが
FC版移植に当たり末弥純氏の手により、パズズ像に酷似した姿を与えられる。

この姿はプレイヤーたちの好評を博し、その後の作内ではマイルフィック=パズズという設定も正式に与えられ
後の多くのシリーズでパズズは迷宮の奥底で待ち受ける強敵として出現することとなった。


○女神転生シリーズ

ウィザードリィシリーズの流れを汲み、世界各国の悪魔を扱うこのシリーズにも初作からパズズは出演している。
もっとも印象的なのはFC版(旧約)Ⅱにおける、メシア教首魁としての登場だろう。

崩壊した東京の地下シェルター内で過ごす主人公と友人。
彼らの楽しみは仮想ゲーム「デビルバスター」だった。
ある日、遂にボスを倒したが画面の中に現れたのはゲーム画面ではなく魔王パズスの姿。
彼はモニターの中から主人公たちに語りかけて来た。



我 炎と嵐の間に生まれし 魔王パズス ・ ・ ・

封印より放たれ 光とともに ここに出ずる



彼は主人公たちを救世主と呼び悪魔召喚プログラムを授け、
荒廃した世界を救うために戦いへと導くのだった…

この作品のパズスは敵全体の中ではけして強大な存在ではないが、
主人公たちをストーリーへと導くための重大な役割を果たした。
後のシリーズでも強力な邪神として登場し、存在感を示している。


その他

  • 漫画「ゴッドサイダー」では「大神魔王」「食人魔王」として登場。
    やたらとチンピラ然とした暴言を吐き悪態をつく小物くさい口調のわりに割に恐るべき強さを持つという
    映画エクソシストを踏襲したようなキャラクターが印象に残る。
    東京都心を舞台に街を焼き払い群衆を貪り食らいながら復活したサタンと戦った。

  • ドラゴンクエストⅡでは「バズズ」という敵が登場。
    最終敵地を守る中ボスで、全滅確定のメガンテ含めた多彩な呪文を使う強敵。

  • ウルトラマンガイアには「宇宙雷獣パズズ」という名の怪獣が登場する。
    全身から電磁波を放ち機械を狂わせたり角から電撃を放ったりする。
    後にパワーアップ版の「超パズズ」も登場。

  • ヨルムンガンド PERFECT ORDERではイラクを舞台にした第7話のタイトルが「Pazuzu」となっていた。
    この回では、主人公一行は別のPMC(民間軍事会社)と契約し共に輸送トラックの護衛にあたっていたが、
    彼らは民間車を意図的に誤射する様な粗暴な者達だったため契約を解除。
    するとそのまま主人公一行に略奪を働くため待ち伏せをしかけてきた。
    それに対し主人公チームに所属していた爆発物のエキスパート「ワイリー・コヨーテ」は
    仕掛けられたIED(即席爆発装置)さらには人間爆弾などといった非道な手段を
    そっくりそのまま仕掛け返し十数名の戦闘員を一方的に爆殺して壊滅させてしまった。
    ワイリヤバイ回として有名なこの回は、イラクに巣食う寄生虫のような外道どもを
    熱い死の暴風を巻き起こしながら更なる極悪非道な手段で殲滅するという、
    まさしく神話のパズズもかくやというストーリーになっている。




追記・修正の際には悪魔の言葉に耳を傾けないようにお願いします。




悪魔の言うことに、耳を傾けてはならない。

悪魔は嘘に巧妙に真実を織り交ぜる。



―『THE EXORCIST』(1973) メリン神父の言葉より


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最終更新:2023年10月29日 15:29

*1 ラマシュトゥ(Lamaštu)ラバルトゥ(Labartu)とも。天空神アヌの娘。頭はライオンで歯と耳はロバ、体は人とロバの合いの子のようで、猛禽の鉤爪を持つとされる。男児をさらったり妊婦の腹を裂き胎児を引きずり出したりし、そうして得た子らの血をすすり貪り食う。産褥熱を引き起こすとも。ただ家畜を守護する神でもあった。夢魔リリスラミアの基になったとも言われる女神。ラミアの項目も参照

*2 パズズには乾季の熱風の他、雨季にイナゴをもたらす蝗害の擬神化という説もある