CV880

登録日:2018/04/25 Wed 21:49:20
更新日:2018/04/28 Sat 23:10:41
所要時間:約 6 分で読めます




CV880 / コンベア880とは、米国コンベア社(現ロッキード・マーティン)が開発した中型ジェット旅客機である。

概要

コンベアが開発したジェット旅客機。
開発にはリアルストレイト・クーガーハワード・ヒューズが関与しており、彼の意向を汲み取った設計となっている。

開発の経緯

CV880の開発のきっかけとなったのは、前述のハワード・ヒューズ率いるトランス・ワールド航空(TWA)のジェット化。
ヒューズ氏の「どうせジェット化するなら世界最速のジェット旅客機で」という無茶振り要望に答えるために開発された。
尚、当初はヒューズ氏は長年の付き合いがあったロッキードに開発を打診するつもりだったが、同社は当時は軍用機の開発で手一杯であり代わりにコンベアをパートナーに選んだという経緯があるようだ。

コンベアってどんな会社?

さて、本機を開発したのは「コンベア」という聞きなれない会社である。
この会社はどんなとこなのだろうか?その答えは正式名称にある。
この会社の正式名称は「コンソリデーテッド・ヴァルティー・エアクラフト」
コンソリデーテッドとヴァルティーが合併して生まれた会社である。

まずコンソリデーテッドだが、ここはPBYカタリナを作ったところと言えばわかりやすいかもしれない。
飛行艇の名門である。日本で言えば川西航空機、ドイツで言えばブローム・ウント・フォス、イギリスで言えばショート・ブラザーズ辺りが近いかもしれない。

そしてヴァルティーの方だが…ここはもっと聞き慣れないかも知れない。
まあそれも当たり前だろう、アメリカの飛行機メーカーとしてはかなりマイナーな部類のとこなので。
で、どんな会社かといえば…一言で言うなら「アメリカ版ブラックバーン」
その、なんというか微妙な飛行機を作ることで定評のあったところである。

で、そんなコンソリデーテッドとヴァルティーが合併したのがコンベア。
どうにもこうにも変態化し易い傾向のある飛行艇メーカーたるコンソリデーテッドと、
良くも悪くも癖の強い飛行機を作ることで定評のあるヴァルティー。
そんな2社が合併した日にはド変態化するのは目に見えている。
何が言いたいのかと言えば、このコンベアという会社、変態企業である。
ボーイングがトヨタ、マクダネル・ダグラスが日産、ヴォートがホンダだとしたら、
コンベアは「強烈な個性を持つ飛行機を何食わぬ顔で作り出すSUZUKI」であろう。

尚、コンベアは後にF-16を作ったことで知られるジェネラル・ダイナミクスに吸収され、
さらにそのジェネラル・ダイナミクスも現在ではロッキード・マーティンに吸収されている。
…もはやロッキード・マーティンというのは「なるべくしてなった変態企業」のレベルかも知れない。

そしてハワード・ヒューズって何者?

コンベアがCV880の「共犯者」だとしたら、「主犯格」に当たるのが彼である。
「地球上の富の半分を持つ男」や「資本主義の権化」と言われた、実業家兼映画監督。映画監督としては地獄の天使プレイボーイ辺りが有名かもしれない。
かねてから航空機に関して強い興味を持っており、有り余る資金力を以て航空機業界に首を突っ込みあれやらこれやらをやらせた良くも悪くも伝説の男。
一応フォローしておけば、当時は「航空機」と言うもの自体が伸びしろのある最先端の産業であり、
その伸びしろのある分野に投資するというのは実業家としては真っ当な行動である。
が、この男、いわばリアルストレイト・クーガーというべきスピード狂の側面まで持ち合わせており、
CV880を含めて彼の関わった機体には色々ぶっ飛んだところがあったりする。

あとヘリコプター関連の「ハワード・ヒューズ賞」というのは彼の名前が元。

仕様

機体そのものは100人乗りクラスでターボジェット4発という、当時としてはオーソドックスな形状のもの。
MRJとかエンブラエル195辺りを一回り大きくしたような感じだと思えばいいかもしれない。
エンジンが4発なのは後述するスピード志向の設計の他にも、当時はまだジェットエンジン自体の信頼性が低いので多発化により「仮に一台くらいはぶっ壊れても残りでなんとか持ちこたえる」ためである。
で、エンジンなのだが、CV880が搭載する「CJ805」というエンジン。こいつの正体はF-4などでおなじみのJ79の民生版である。
乱暴に言えば、J79からアフターバーナーを取っ払い、高価なチタン系材料を減らすことにより廉価にしたものである。
なぜ超音速戦闘機に使うようなエンジン(を元にしたもの)を採用したか?それは、「スピード志向」の一言に尽きる。
何しろ本機の開発コンセプトは「世界最速の旅客機」なのだから。
世界最速にこだわりすぎるあまり(初期モデルは)前縁スラット*1まで省略する始末。
もひとつおまけに主翼の後退角は35度と当時としてもかなりきつめに設定。今どきのジェット旅客機の後退角が25~30度だといえばどれだけのものかわかるだろう。

ハワード・ヒューズ「我ながら良い出来栄えだ。さあ就航だ!」

さあどうなった

で、完成品を実際に発売してみると…?

「なんだこれ、離着陸不安定すぎてワロエナイ」
「曲がらない上がらない下がらない安定しない、誰だこんな飛行機考えたやつは」
「整備性悪すぎワロタ。ってかこいつのエンジン、ファントムのJ79じゃねえか!」
「排気の色がちょっとヤバ過ぎませんかねこれ…」
「故障多すぎで整備班が過労で倒れてます(涙」

不評不評アンド不評。
電装品の耐久性はガラスだわ、エンジンが軍用機向けベースなので整備は複雑だわ、しかも黒煙で定評のあるJ79がもとでありその「持病」も引き継いでいるわ、も一つおまけにスピード最優先の設計で操縦が難しい上に不安定だわ。燃費?お察しください。
流石に初期モデルの「前縁スラット無し」は離着陸時に問題有りすぎということで後期モデルでは前縁スラット追加&初期モデルにも追加改造されたが、それでも不安定なのには変わりない。
事故率も第二次大戦後、というかジェット旅客機としては驚異的な数値を叩き出した始末。

「で、でも世界最速の旅客機には変わりないし(震え声」

うん。確かに当時としては世界最速だったことは間違いない。何しろマッハ0.89だし。
で、当時の競合機種と比べてどれくらい速いの?

  • DC-8:マッハ0.73(898km/h)
  • ボーイング707:マッハ0.81(1000km/h)
  • VC-10:マッハ0.76(933km/h)
*2

…B707と比べてマッハで0.08しか違わないじゃないか。
微妙な差とか誤差の範囲じゃないか!

速いとは言っても「当時の競合機よりは少し速い」程度、信頼性や操縦性は終わってる、事故多発、燃費も極悪と、はっきりいえば良い点無しというか旅客機としては落第点レベル。
ユーザーたる航空会社の視点でも、「多少の速さのためだけに全てを投げ捨てるのは無理」と判断され、後継のCV990の登場も相まって生産数は67機で終わった。
そりゃまあ、整備された先進国の空港で使うならDC-8やB707の方が完成度は高いし、整備状態の良くない空港にも乗り入れるならダートコースに強いVC-10を選べばいいだろうし。

日本との関係

CV880は何を隠そう、日本初のジェット旅客機でもある。
JALが国際線向けに3機程買った…ものの、ANAとの競争のために「乗務員訓練」の名目で国内線にも回していたことは一部で有名。
もちろん操縦性に問題はかなりあった機体ではあるが、旧日本軍出身のパイロットが多い当時のJALからすれば、
「運転していて楽しい飛行機」
「何、戦闘機なんてこんなもんよ」
…とかなんとか褒められているのかいないのか分からない評価をされていたようだ。

但し会社としてはどうも黒歴史扱いしているフシがあるようで、
JALのWebサイトの歴代航空機紹介コーナーではハブられていることのほうが多い。
仮にもJAL、いや、日本初のジェット旅客機なのに。

あのスーパースターの自家用機

そして意外なところでは、ロック界の神ことエルビス・プレスリーの自家用機としても用いられていた。
プレスリーの娘の名である「リサ・マリー」と名付けられた同機は現在、プレスリーの自宅に保存されている。


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