SCP-4946

登録日:2019/03/03 Sun 20:33:00
更新日:2025/06/23 Mon 15:49:42
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駆けずり回って集めた実例よりも、法則性のあるエラーの方が格別に信用できる。


SCP-4946とは、怪奇創作サイト『SCP Foundation』の本部において発見されたオブジェクトの一つである。
オブジェクトクラスは堂々の Keter



概要

SCP-4946とは「赤痢による死亡者届出件数にて観測される確率論的異常」である。

このオブジェクトが出現して以降、1日あたりに報告される赤痢による合計死亡者数が
「2025/06/06以降の日数をnとした場合のフィボナッチ数列におけるn番目の値」
となってしまっている。
しかもそれら一つ一つの死亡例そのものは、目立った不審な点の無いごく普通の細菌感染症による不幸な転機でしかない。
その発生数が明らかに不自然であることだけが異常性として現れているのだ。

以下、用語についてちょっと解説。
  • 「赤痢」とは、大腸の感染症の一種のこと。一般的には赤痢菌が原因となる。
    発熱・腹痛および血液が混じった激しい下痢を主症状とし、重症化すると死に至る例も多い。
    今でも全世界で毎年8000万人〜1億6500万人が赤痢に感染し、そのうち60万人が命を落としているという。コワイ!
    明治時代の頃は日本でも大流行していた*1が、現代ではもっぱら衛生状態の悪い発展途上地域の病気となっている。
  • 「確率論的異常」とは、大雑把にいうと奇跡に近いことが実際に起きてしまう異常のこと。
    もう少し詳しく説明するならば「一応理論上は起こり得るけど、まあ現実的な確率では絶対起きないよね」という事象が起きている状態を指す。
    アニヲタ的に例えると、ガチャで最高レアのキャラクターを10体連続で引く、つのドリルを10連続で命中させる、など。
    確率論的異常が起きた場合、こういったTASさんでもないと到底狙う気になれないような事象がホイホイ発生してしまうことになる。
  • 「フィボナッチ数列」とは、ある項の数が1つ前の項と2つ前の項の和になる数列のこと。
    最初の2項はともに1であり、以降は1+1=2 1+2=3 2+3=5 3+5=8 5+8=13……と続いていく。
    これを数列にすると1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,……となる。

上記にもあるように、このオブジェクトが出現したのは2025/06/06。
現実世界より少しだけ進んだ時間軸で発生した異常であり、この報告書の視点も近未来で通常運行している財団によるものである。


……ここまで説明だけではその影響がよくわからんと思うので、少し具体例を挙げてみよう。



具体的に考える

SCP-4946の発生当日である2025/06/06。
この日に報告される赤痢の死亡者数は、フィボナッチ数列の第1項である「1」人となる。
つまり、この日のうちに赤痢によって命を落とした人は全世界上に1人しか存在しない、ということになる。

赤痢の年間死者数は本来であれば先述した通り60万人であり、1日あたりだと毎日1650人程度が死んでいるはずの病気である。
ところが、SCP-4946が発生させる「確率論的異常」によりこの部分がおかしくなる。
その結果として、世界中にいる今にも死にそうな赤痢の重症患者達は、1人を除いて全員が「奇跡的に」その日の命を繋ぎとめてしまうのだ。
最終的にこの日に予定通り(?)赤痢で死んでしまった1人だけが、死亡者数として数えられて報告されることになる。

1日進んでSCP-4946の発生翌日、2日目にあたる2025/06/07。
この日に報告される赤痢の死亡者数は、フィボナッチ数列の第2項。またしても「1」人である。
つまりこの日にもSCP-4946の異常性により、全世界の赤痢患者のうち1人だけが落命。それ以外の大多数は「奇跡的に」お迎えを跳ね除ける。

以降もこの調子でSCP-4946発生からの日数に対応したフィボナッチ数列の項の人数だけ赤痢の死者が出て、死亡者数に数え上げられていくことになる。
3日目なら2人、4日目は3人、5日目は5人、6日目は8人……と、徐々にその数は増えていく。


……さて、勘のいい読者ならもうお分かりだろう。この異常性、とんでもなく危険である。
フィボナッチ数列は前の2項の和を次の項に取る。つまりその数は後になるほど加速度的に増えるし、決して減少することはない。

例えばフィボナッチ数列の第20項は「6,765」である。
つまり異常性発現から20日後には、赤痢により報告される死者数は本来の非異常性時の死者数である約1650人を既に大幅に上回っていくことになる。
こうなってくると、先述した「確率論的異常」は全く逆方向に働くことになる。
すなわち、特に病気もなくピンピンしている人たちが、SCP-4946のせいで突如として「奇跡的に」集団で赤痢を発症。
そしてその日のうちに重症化してポックリ逝ってしまうことになるのである。

更に進んで1ヶ月経った場合、フィボナッチ数列の第30項は「832,040」である。
ここまで来ると、本来なら1年間に出るはずの赤痢死者数がたったの1日で出てしまうことになる。
もうパンデミックなどと言ってられる次元の話ではなくなってくる。

そして、フィボナッチ数列の第50項は「12,586,269,025」。驚異の100億超え。
こうなってしまうと赤痢による死者数が2019年現在の全世界の人口を上回ってしまうことになる。
言うまでもなく、人類が赤痢によって全滅するGH-クラス:“デッドグリーンハウス”シナリオの完成である。

SCP-4946が初めて発生した日から人類滅亡まで、たったの50日。
夥しい数の死者により、実際にはもっと早い段階で人類の社会機能は崩壊するだろう。
Keterクラスに分類されるのも頷けるというものである。

財団の特別収容プロトコルには「SCP-4946は未収容です」の一文があるのみ。
この確率論的な赤痢の暴威の前に、果たして財団に打つ手はあるのか!?



(読者の皆さんも財団と一緒に考えてみよう!)

























ΩΩΩ<\(^o^)/オワタ


























O5「閃いた」



雑な解決策


さて、ここでSCP-4946の概要の最初の部分をもう一度見てみよう。

SCP-4946とは、「赤痢による死亡者届出件数にて観測される確率論的異常」である。

お分かりいただけただろうか。
SCP-4946が異常な確率操作により実現しているのは、1日の赤痢による合計死亡者の「届出件数」。報告値の統計なのである。
つまり、SCP-4946は発生後の日数のフィボナッチ数に応じた「赤痢の死者を発生させる」わけではない。
フィボナッチ数に応じた「赤痢の死者数を報告させる」ために確率を弄っているのである。

財団はSCP-4946発生からしばらくした後にようやくこの性質に気がついたらしく、対応を開始。
発生から27日目にあたる2025/07/02に最終的な特別収容プロトコルが確立している。

その内容は以下の通りである。
  • 財団フロント企業の「サニー・スカイズ分析」に、赤痢による日間死亡者数の集計と広報を担当させる。
  • 財団は赤痢の死亡者数をSCP-4946発生以降の日数に応じたフィボナッチ数にして公表する。実際の死者数に関係なく
  • もし赤痢の実際の死亡例が財団以外の第三者によって報告された場合は、その報告を死者総数に加えて良い。
    その時点でSCP-4946は無力化し、Neutralizedになったと見なす。
以上。

性質さえ把握してしまえば、簡単な話だったのである。
SCP-4946は「赤痢による死者数の報告」を規定のものにするべく確率を改竄する。
だったら最初からSCP-4946に規定された死者数を虚偽の報告として出してしまえば良かったのだ。
SCP-4946によって夥しい数の赤痢死者数が発生してしまう前に、財団は先手を打って夥しい数の(実際にはまだ死んでない)赤痢死者数を届け出た。

するとSCP-4946の「死者の届出件数を規定のものにする」効果が引き続き発現していることにより、思わぬ副次的な恩恵が発生した。
既に規定の件数になっている死亡者報告数に、わざわざこれ以上の死者を加えてやる必要はない。
オブジェクトによってねじ曲げられた確率は、もはや死者を出すことがないようにするために奇跡を起こした。

そう、現実の赤痢による死者数が0になってしまったのである。


こうしてSCP-4946の脅威は去った。
それだけでなく、患者を死に導く感染症であるところの赤痢もついでに根絶されてしまったのであった。

この功績を称えてか、SCP-4946のKeterクラス分類は取り消され、新たにThaumielクラスに再分類されるという異例の経過を辿っている。
「Thaumiel?他の異常存在の収容には使えなくね?」と思うところだが、非異常性であるとはいえ赤痢だって立派な人類の脅威。
それを抑え込めるのであればこの分類でも納得はいくというところである。
そもそも特別収容プロトコル制定までに27日かかっているところを見るに、それまでは現実に少なくない数の赤痢犠牲者が出ていたようだし。*2
「こまけぇこたぁいいんだよ」で済むか。


……さて、ここでもう一つ別の問題が浮上した。
「SCP-4946に規定された数の死者をでっち上げて報告する」のは良いのだが、その規定数はあくまでフィボナッチ数列に従って増加している。
つまりSCP-4946の発生から50日後の2025/07/25には、先述した世界人口を超える数の赤痢死者数をでっち上げて報告しなければならなくなる。
いくら書面上の死者数とはいえ、こんな報告をして一般社会から不自然に思われないようにすることなんて果たして可能なのだろうか……?

前述の致命的な赤痢症例の消失については財団諜報部ΘU-4946が一般市民の誤誘導に当たっているとの記載がある。
だが、こちらの問題に財団がどうやって対処するつもりなのかは残念ながら報告書からは読み取れない。
まあ情報改竄は財団の十八番なんだろうし、多分どうにか上手くやれる公算はあるんだろうが……気になるところである。


SCP-4946

You Have Died of Dysentery(あなた は “赤痢” で 死にました)


……たぶん書面上だけの話だろうけど。



余談

この報告書の原文は、数あるSCPたちの中でも指折りの短さを誇る。
その気になればスマホのスクリーンショット1枚に収まるほどである。
その短さは一見の価値あり。

また、このオブジェクトは当初は「SCP-4947」に投稿されていた。
しかしなんらかの事情があったらしく、一つ前である現在の「SCP-4946」に移動されることになったようだ。
現在「SCP-4947」には同一作者による別の記事が投稿されている。



追記・修正は赤痢への医学的知識を持つ人にお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-4946 - You Have Died of Dysentery
by UraniumEmpire
http://www.scp-wiki.net/scp-4946
http://ja.scp-wiki.net/scp-4946(翻訳)

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最終更新:2025年06月23日 15:49

*1 赤痢菌を世界で初めて発見したのは日本人の医学者、志賀潔である。赤痢菌の学名「Shigella」は彼の名から取られている。

*2 フィボナッチ数列の第1項〜第26項までの総和は317,807なので、おそらくそれと同数の死者が出たものと思われる。サツバツ!