登録日:2019/09/04 Wed 00:02:52
更新日:2024/01/13 Sat 10:49:55
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ジュールシーフとは、電子回路の一種である。
電子工作では入門用の回路として定番と思われるものの一つ。
問題です。乾電池またはエネループ一本で白色LEDを点灯させてください。
最近話題の発光素子であるLED。
省エネルギー、すぐ点く、振動や衝撃に強い、寿命が長いなどで省エネ時代の照明として脚光を浴びているものである。
だがこのLED、実は一筋縄では行かない代物なのだ。
まず第一に動作電圧。
いわゆる順方向電圧、手っ取り早くいうと「動作に必要な電圧」のことだが、
LEDの場合は赤色や黄色系で1.8~2.2V程度、緑・青・紫外線系だと2.9~3.6Vと、まあなんというか割と
中途半端な電圧である。
白色LED?あれは青色LEDの発光素子に黄色い蛍光塗料を塗って、「青+黄色=白」にしているだけであり、中身は青LEDである。つまり順方向電圧も青LEDのそれと同じである。
じゃーこれより高い電圧をかければいいんだな、だって?それで済めば悩むことはない。
白熱電球であれば導体に電流を流してジュール熱で
光(と熱)を発生させているので、「電流が増える→抵抗が増える→流れる電流が減る」で自己制御性を持っているので電源につなぐだけで点灯できるが、
LEDは導体ではなく半導体である。
この半導体というやつ、大抵は「温度が上がると抵抗が減る=電流が増える」という性質を持っており、
過電流で温度が上昇すると抵抗値が減り、さらに電流マシマシとなり温度が上がり…という悪循環に陥り、
行く行くは熱で故障したり発火したりしてしまう。
LEDの場合は外部で何らかの形で電流を最適な値に保たなければいけないのだ。
何より、乾電池一本の1.5V、或いはエネループ1本の1.2Vじゃ、そもそも点灯すらしない。
…
というわけで電圧を上げる小細工が必要になる。
その最も手っ取り早いものの一つがジュールシーフなのだ。
ジュールシーフって、何?
で、本題。
ジュールシーフとはエネルギーを表す「ジュール(Jour)」と、泥棒を表す「シーフ(Thief)」を合わせて作られた言葉。
電池のエネルギーを吸い尽くす様が「電気エネルギーを奪い去る泥棒」に見立てて、
宝石泥棒(Jewelthief)に引っ掛けて命名されたとされる。
電気的に言えば、自励発振型のDC-DCコンバータの一種である。
大雑把にいえば、外部から何かしなくても勝手に発振して電圧を自動で引き上げてくれる回路、くらいに考えておけばいい。
どうなってるの?
ジュールシーフの解説に入る前に、そもそもDC-DCコンバータってなんだということに関しての解説。
以下の図が最も単純化した昇圧型DC-DCコンバータの回路である。
Lと書いてあるぐるぐる巻の記号はコイル。電磁石のアレだ。
SWはスイッチである。
スイッチをONにすると、コイルに
電気が流れる。
このときコイルに流れる電気は磁力線に変換され、磁気という形でコイルに一時的に蓄えられる。
で、このままスイッチをONにすると、今度はその磁気が逆に電気に変換されるわけだが、
あまりに急激にスイッチを「バチン!」とばかりに切ると、その勢いで瞬間的にだが非常に高い電気エネルギーとして開放される。
全然正確ではないのだが、
自転車でのんびり走っていても電柱にぶつかると結構な衝撃になるみたいに考えてくれ。
で、このスイッチのON-OFFをものすごい速度で繰り返し続けると、出力側にはその「瞬間的に発生する、高い電気エネルギー」が断続的にだが続くことになる。
つまり、電圧を上げることができるのだ。
ジュールシーフを最も単純化したものが以下の回路である。
漢字の「六」の字みたいなのはトランジスタ。
電流を増幅したり、スイッチングを行ったりする半導体部品である。
ギザギザの線は抵抗器。
動作はどうなっているのかというと。
トランジスタのベース電流(六の字の一番上の線に流れる電流)が変化すると、コレクタ電流(六の字の右の足から左の足に流れる電流)が大きく変化する。
つまり、電流が増幅される。
だが!
コイルというやつは実は天の邪鬼な特性があり、電流が変化すると磁気として蓄えたエネルギーを逆方向への電圧という形にして妨害しようとする。
でも、回路図をよーく見てみると、その「逆方向への電圧」をかけると、その向きって何だっけ?
トランジスタのベースだよね?ベース電流を後押しするんだよね?
つまり、ベース電流おかわりになり、コレクタ電流もマシマシになってしまうのだ。
もちろんコイルの逆電圧もそれに比例して増加するので、どんどんコイルに流れる電流も結果として増えていく。
だが!
電源の電圧に近づき、電流が飽和状態になると、
今度はコイルが電圧を発生できなくなり、つまりベース電流が低下する。
それに応じてコレクタ電流も低下するので、変化の方向性が逆になる。
でも!
電流が低下して飽和状態が解除されると、今度は再び電流を増やす方の変化に戻る。
これが繰り返される事によって発振が起こる。
で、回路図をまたよーく見てみよう。
トランジスタを「スイッチ」とみなせば、よく見ると上で挙げた昇圧型DC-DCコンバータの回路にそっくりだよね?
というかそのものだよね?
つまり、コイルとトランジスタの組み合わせが「自動で電流を断続するスイッチ」となり、そのコイルも「昇圧型コンバータ」を構成しているので、昇圧、つまり電圧を上げる作用が起こり、めでたくLEDが点灯するという結果となる。
でも、これだけじゃ場合によってはちらつくかもしれない。
それに逆方向電圧もあまりかけるとLEDにはよくない。
何しろLEDの逆方向電圧は最大で5Vまでとかそんな程度なのだ。
だから少し細工をしてみよう。
LEDに似ているけど矢印が出てないのはダイオード。電気の流れを
一方通行にする「逆止め弁」だ。
板が2つ向かい合ってるのはコンデンサ。電気エネルギーを少量蓄える、タンクのような役目をする。
この回路だと逆方向電圧をダイオードが阻止し、さらに波打つ電圧をコンデンサが埋め合わせることにより、安定した点灯が可能となる。
でもちょっとまってくれ、このまま行くともしかしたら際限なく電圧が上がって、場合によってはLEDが故障するかもしれない。
やばくなる前に昇圧を止める制御装置も必要かもしれない。
というわけでまた小細工をしてみよう。
LEDの先にまた抵抗を追加してみた。
そしてそこから伸びるラインの行き着く先は、追加のトランジスタ。
抵抗器は単に電流を制限するだけでなく、電流を電圧に変える作用がある。オームの法則を覚えていればわかるよね。
というわけである程度電流が増える=抵抗器にかかる電圧が上がると、
追加のトランジスタが激しくオーン!となり、
発振用のトランジスタのベース電流を横取りしてしまう。
発振用「何すんだアッー!」
ベース電流が制御用のトランジスタに吸い取られると発振できなくなる、つまり昇圧が一時的に止まる。
LEDの電流が下がり、制御用のトランジスタがOFFになると発振が再開され昇圧が始まる。
つまり、制御がついたのだ。
実際に作るにあたって
さて、実際にジュールシーフを作りたい!と思った方へ、大雑把にアドバイスをしておこう。
コイルは自作で十分である。
個人的に簡単なのはアキシャルリードインダクタ(抵抗器みたいな形の超小型コイル)を2つ平行に並べて「実質中点付きコイル」にするか、
あるいはトロイダルコア(磁性材料を
ドーナツ型に固めたもの)にビニール線やポリウレタン導線(銅線にウレタン樹脂を塗ったもの)を巻きつけるというもの。
巻数は20回位あれば十分なはずである。
ポリウレタン導線を使う場合は、0.8mm径の線が扱いやすさと電流量の面でおすすめである。
発振用のトランジスタは、小型のLEDであれば超定番の2SC1815で十分だが、
大電流を流す高出力のパワーLEDを点灯させる場合はそれなりに許容電流値の大きなものを使わなければいけない。
できることならVCE(電流を流した際にコレクタ-エミッタ間に生じる電圧。大雑把に言えばトランジスタの動作電圧)ができるだけ低いものを使おう。ダーリントントランジスタ(中にトランジスタが二段構成で入っているタイプ)はVCEも二倍なので論外である。
場合によってはトランジスタも相当発熱するので、TO-92(半円形のプラスチックパッケージ)型ではなく、
放熱器を取り付けるためのネジ穴がついたような大型のものも使うことを検討したほうがいい。
制御用のトランジスタは2SC1815で十分。
発振用トランジスタにつなぐ抵抗は10kΩくらいが定番。不安なら半固定抵抗(ドライバーで回して抵抗値を変えられる抵抗器)を使うのもいい。
発振がうまく起こらない、つまりLEDが点灯しない場合は、発振用トランジスタのベースにつなぐ抵抗に並列に0.1μF程度のコンデンサをつけるとうまくいきやすい。
整流回路を追加する場合、整流用ダイオードは通常のシリコンダイオードではなく、ショットキーバリアダイオードと呼ばれるタイプがおすすめ。
ショットキーバリアダイオードは順方向電圧、つまり動作電圧がものにもよるが0.4~0.5Vと低く、効率がいい。
乾電池の1.5Vで追記修正をお願いします。
- 普段何となく使ってるLEDにこんな仕組みが… -- 名無しさん (2019-09-04 06:30:48)
- 詳しいが詳しすぎてアウトライン以外全然分からない。基礎教養が要るな… -- 名無しさん (2019-09-05 10:13:15)
最終更新:2024年01月13日 10:49