SCP-4222

登録日:2019/09/05 (木曜日) 23:54:28
更新日:2023/11/02 Thu 09:15:48
所要時間:約 8 分で読めます





魚を売れば、1日食いつながせられる。釣りを教えれば、絶好のビジネスチャンスが台無しになる。
─── カール・マルクス


SCP-4222はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスKeter

概要

SCP-4222とは何か。それはたった一言で言い表すことができる。



消化器内部が国際銀行になっているマグロである。




SCP-4222


国際金融の魚




…凄まじい出落ちオブジェクトである。建て主は報告書の概要セクションの第1文を初めて読んだとき、キレイな二度見をしてしまった。
そしてこの説明、何も間違っていない。というより、マグロ自体にはそれ以外の物理的におかしい部分がないのだ。おかしいのは中にある銀行、都市信用国際銀行社(CTIB)についてである。

マグロ内銀行CTIB


CTIBはマグロの内部にあるにもかかわらずどうやら普通に銀行の仕事をやっているらしい。マグロを無線で監視したところ、CTIBのすべての取引はこのマグロを介して行われていることが判明した。財団が傍受した業務メールのひとつがこちらである。

From: EstevezJ@CTIB.com
To: WilliamsM@CTIB.com
件名: よい仕事

おめでとうございます、イカのタンパク質からドイツマルクへの変換率についてのお話は実に正しいものでした。残念ながら、ケリーはまだ病欠で─下腸の外で働いていまして、最後の周回の回腸寄生虫が彼女を右に横切っています。私たちは今日中にそれらの取引を締結する者が必要になります、早いに越したことはない。

この世話をし、酵素の周回のための取引が終了した後、胆嚢で私と会いましょう。私のおごりです。

J

ジェームズ・エステベス
副社長
タンパク質の獲得及び吸収
都市信用国際銀行
北大西洋支局
~~"資本は希少ではない、ビジョンこそがそうなのだ" - サム・ウォルトン~~

ツッコミが追いつかない。もうなぜ物理的にはただのマグロなはずのものが通信をやり取りできているのかは置いておく。まずイカのタンパク質からドイツマルクって何だ。なんのどういう原理で変換するってんだ。病欠の職員もマグロの中にいるのか。そもそもこのマグロ3メートルくらいしかないのにどういう原理で人とオフィスが詰め込まれて成り立ってんだこの銀行は。

なんかもうワケわかんない仕事をやってるようにしか見えないが、どうやらこれがCTIBの通常業務らしい。しかもここはかなり力のある銀行で、ニューヨークの証券取引所に上場する企業の23%と関わりがあり、財団がマグロを収容することで業務を中止させたら即世界経済が重大な影響を受けた。
これがホントのマグロ経済学 ●≡.

幸いオフィスと従業員がマグロの外に存在することはないらしく、マグロが海中で普通にマグロらしく振舞えている限りは現状平和なのだが、そもそも何時どんな原因でマグロの内部に銀行が入ったもしくは生まれたのかは分かっていない。あと、会社がマグロの中にあるのでマグロが体調を崩すと事業に影響するらしく、会社の株が下がってしまうことがあるようだ。マグロの寿命(20~30年くらい)来たらどうなるんだこの会社は…

もう既にお腹いっぱい感があるが、こんなんでもマグロに万一のことがあったら世界経済が危ない。どうやって収容しているか見ていこう。

特別収容プロトコル

SCP-4222は前述の通り人工的な場所に収容するとヤバいので自然環境、海の中で確保及び収容する。そのため財団がコイツの生息地周辺5kmを押さえ、近づく民間船にはカバーストーリー”救助活動”で遠ざける。

オブジェクトの追跡と保護は機動部隊ミュー-17(“シー・シェパード”)が担当する。オイどいつだこの機動部隊名付けたの。…ただこの名前には後述する理由がある。

そしてCTIBの株に異常な変動があった場合、獣医が平日に健康診断する。体調が改善したら取引時間内じゃないと変動が不自然なことになっちゃうからね。仕方ないね。
あと、担当職員はCTIBの株を買うことを禁じられている。インサイダーになっちゃうからね。仕方ないね。

探査記録


それにしてもこのマグロの体内は一体どうなっているのか。
この疑問を解決するため、財団は餌の魚に自律式小型探査機(プローブ)を紛れ込ませ、マグロに与えてみた。以下がその記録である。

4秒: プローブが喉へ侵入する。映像は典型的なクロマグロの食道表面を映している。タイプ音とイージーリスニング・ジャズが聴こえる。

もうおかしい。…絶賛仕事中のようだ。

12秒: プローブが胃に侵入する。胃壁や消化液に加えて、クロマグロに適した胃の内容物5が見受けられる。フレームの右側の胃壁からウイングチップ・シューズの先が突出しているのが見える。

13秒: 女性の腕がフレームを通過し、Androidスマートフォンを持ち、親指で入力をしている。

14秒: フレームの上部に文章に似た模様の変色した正方形が見られる。文章は解読不能であるものの、その書式から契約書や財務書類であると考えられる。太めの指が胃壁から現れ、正方形の表面を叩き始める。

15秒: フレームの下部の胃酸の下に顔の輪郭が見える。顔は激しい脅迫を表しており、溺れているかのような動きをしている。

17秒: 胃酸中の気泡が移動するにつれてフレーム左側の胃壁が収縮している。遠くから15人程の一団による声援と興奮した声が聞こえる。

社内に入ったが…マグロの胃の中だってのに従業員と設備は原寸大で存在するらしいし、胃の中相応の環境の中それを通常のものとして仕事が行われていた。意味が分からない。
なお、上記14秒の部分の「太めの指」には注釈がついており、「指の大きさの分析より、BMIが"過体重"カテゴリーであり、3年以内に心臓病で死ぬ確率が中程度存在する約50歳の男性であると予想される。」とのこと。明らかに異常な環境なのに妙に日常感の溢れる表現が差し込まれて困惑するばかりである。

が、ここで事態が予想だにしない方向へ急変する。

18秒: カメラが十二指腸に到達する。

19-278秒:カメラが大腸に通じる括約筋に引っかかっている。オフィス用品の音やゴボゴボという音が定期的に聞こえてくる。

279秒: カメラが十二指腸を越えて大腸に進む。臓器の壁面の肌合いや色合いが魚の消化管と明らかに異なっており、分析によって後に大腸表面は魚介類ではなく人間のものであることが確認された。

280-284秒: クロマグロの消化管のために大きさが決められていた自律型プローブが腸壁を破裂させる。重くくぐもった、非常に苦悶する声が聞こえる。

285秒: 聴覚的故障により通信終了。

この4時間後、CTIBの最高財務責任者ヤコブ・チャップマンがボストンの病院に重度の腹痛により入院し、大腸から無人機の部品が発見された。なぜか、マグロの胃より先は銀行ではなく銀行の偉い人の腸に繋がっていたのだ。
財団はこの事実を病院の記録から把握し、エージェント2名を病院に派遣した。

しかし、到着したという報告の直後 ─── 連絡が途絶えた。
エージェントの位置情報は彼らがSCP-4222の近くに転送されていることを示していた。救助隊が向かったが、エージェントは見つからなかった。数日後、SCP-4222の排泄物の中に…彼らのDNAが検出された。
これ以上の探査はクリアランスレベル4の承認が必要で、まだ行われていない。

底知れない事実が明らかになったが、分かっていないことは仕方がない。次の内容に移ろう。

収容プロトコルのコスト削減の試み


このオブジェクトは収容できないデリケートなKeterクラスだ。自然環境の中で収容・保護しなければならないが、海は広い。漁場、石油流出、捕食者のサメやシャチの生息地、捨てられたネットなどの危険なゴミ、回避すべきものがそこらじゅうにある。これらをどうにかするためには、ダイバーが頻繁に介入する必要があった。実際、年平均336回ものダイビングが必要だったらしい。
しかし、SCP-4222にはある面倒な性質があった。

SCP-4222の移動経路を妨害したり、誤ってその下を通過すると、退職金の喪失、住宅ローンの撤回、クレジットスコアへの損害、またある一例では収容チームのメンバーが着用するスキューバ装備の差し押さえが生じる可能性があります。

なぜかコイツを邪魔すると、中の銀行が経済的制裁を与えてくるのだ。なお差し押さえられた装備は後にグリーンランドにいたペンギンから発見された。なぜだ。
このせいでこのオブジェクトに割かれる予算の大半はこれらの経済的損害の補填が占めていた。挙げられた被害はどれもかなり大きな金額だろう。こんなことが頻繁に起きていてはいくら財団でも困る。

そこで、収容チームはある計画を立てた。
それが、11頭の訓練されたバンドウイルカによる機動部隊を設立し、SCP-4222を安全な場所に封じ込めるというものである。これが承認されて設立されたのが、先述の機動部隊ミュー-17(“シー・シェパード”)だったのだ。
某エコテロリスト集団のせいでイメージが悪いが、シー・シェパードとはそもそも「海の羊飼い」を意味する言葉であり、この状況にはふさわしい。どいつだとか言ってすいません

かくして”シー・シェパード”とそのトレーナーが業務を開始して以来、財団に犠牲者は出ていない。そればかりか、5kmだった排除水域を3kmに減らすことができ、収容コストが29%以上削減できた。めでたい。

その後


”シー・シェパード”がSCP-4222を邪魔した場合、そのトレーナーに経済的制裁が行くことが判明した。めでたくなかった。
しかし、”シー・シェパード”のうち4頭に追加でマグロを邪魔しないよう訓練を施した結果、人間にかかる管理の必要性がさらに減り、収容コストがさらに28%削減できた。やっぱりめでたい。

翌年、あろうことか先述の4頭のイルカのうち2頭が逃げてしまった。その後、野生のバンドウイルカが明らかに”シー・シェパード”の技術を用いてマグロを追いこんで集めている様子が観察されるようになった。こうして財団は、これらのイルカや同じ技術に影響された海洋生物たちに記憶処理をする方法の研究、およびマグロ資本の経済を構築したイルカに関するメディアや学術的報告を潰す作業をしなければならなくなった。やっぱりめでたくなかった。

追記・修正はマグロを刺激しないようにお願いします。


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最終更新:2023年11月02日 09:15