ふたごみたいなふたり(ちゃおホラー)

登録日:2020/06/10 Wed 03:31:44
更新日:2024/04/21 Sun 21:05:46
所要時間:約 10分で読めます








『ふたごみたいなふたり』はちゃおホラーデラックスに掲載されたエピソードのひとつ。2度ほどコミックにも収録されている。著者は阿南まゆき。

阿南まゆき先生お得意の百合ものオカルトが登場しないガールズホラーものであり、とある理由から友人に異常なまでの執着を向けられることになった主人公の物語が描かれる。
要するにちゃおホラーでは頻繁にある「人間は怖い」タイプのホラー作品。
あと某サバイバルホラーばりに冷静に考えると無理のある展開や、擬音をはじめとして妙にインパクトのある絵面も特徴である。



【ストーリー】


主人公・田中真昼はいつもクラスでひとりでいる少女を見かける。
彼女の名前は山田真夜。暗くてつまらない子であるらしくクラスでは少し浮いた存在であるらしい。そんなこともあり、彼女は常にだれとも話さず本を読んで過ごしていた。

そんな彼女がどことなく気になった真昼は、真夜に声をかける。
それがふたりの出会いだった。

それからよく遊ぶようになった真昼と真夜。
ふたりはウマが合うのか意気投合し、すぐに仲良くなった。

そんなある日ふたりが話していたのは、自分たちが双子のようによく似ていることだった。
なんと身長も、血液型も、誕生日すら同じであるらしい。さらに名前も少し似ている。
もっと仲良くなりたいふたりは一緒に美容院へ行き同じ髪飾りを買うのだった。
まあ当時はふたごコーデとか流行ってたしね。

それからふたりはなんでも同じものを使うようになっていった。
ただ真昼より真夜の方が積極的にそろえようとしていたらしい。


ねぇ、真昼ちゃん
私今まで親友なんてできたことなかったの
ずっと一人だったから……

何言ってるの
私たちもう親友じゃない!

じゃあこれからも私とずっと一緒にいてくれる?

うん! わたしたちこれからずっと一緒だよ!

ずっと一緒……

うん! ずっと一緒!

ずっと一緒――


そういえばこのころズッ友とか流行ってたよね。
このころまではふたりは幸せであった。


しばらくして、真昼は原田くんという少年と仲良くなった。優しく面白い人であるらしく、真昼は彼に少しずつ惹かれていくようになった。

だがそれから間を置かず真夜が騒ぎを起こしてしまう
彼女が原田くんに詰め寄り「真昼ちゃんに手を出すな」と言って暴れだしたらしい。
なんとか彼女をなだめ話を聞いたところ、真昼に近づく人がどんな人か気になり、つい焦ってしまったらしい。

真夜には是非原田くんとも仲良くなってほしい、そう考えた真昼は3人で会食へ行くことを提案する。原田くんも明らかに引き気味だが来てくれた。

3人でややぎくしゃくしながらも話していたが、真昼がひょんなことから席を外すことになる。
原田くんはこれを機に真夜と打ち解けようと真摯に話しかける。真昼のことは真剣に愛しており、彼女と交際することを認めて欲しいと。真夜は父親か何かか?

しかし真夜には原田くんの言葉が到底許せず、彼の指の間にフォークを突きさすのだった


気安く真昼ちゃんの名前を呼ばないで!
汚れる!


その日の会食は取りやめとなった。
そりゃそうだ。

そんな真夜の想いとは裏腹に、真昼と原田くんは正式に付き合うこととなった
原田くんがおかしなことをしないように自分が常に一緒にいると意気込む真夜だが、原田くんは真夜を恐れておりもう会いたくないらしい。だろうな。

この頃から真夜は様子がおかしくなり、すでにおかしいは禁句真昼が原田くんに貰ったアクセサリーまで自分で探し出して身につけるなど「お揃いにしたい」という願望を前よりも強めていく。
原田くんに真昼を取られたくない真夜は今まで以上に双子のように振舞い、自分たちの仲の良さを証明しようとしたのだった。
しかしそんな彼女の言動に恐怖を抱いた真昼は思わず「双子ごっこはもうおしまいよ!」と叫んでしまう。


いや…はなれていかないで どうしてはなれていくの?
私たちが本当の双子じゃないからはなれていくの!?


それから数日間、真夜は学校を休んでしまった。

そんなある日、真夜がついに学校に姿を見せる。しかし彼女は何故か顔中に包帯を巻いていた。何かの手術をしたらしい。
そして包帯を剥ぐと、そこには真昼と同じ顔があった

真夜は真昼と「ホントウの双子」になるべく、彼女と同じ顔に整形したのだった。
どっから金出したんだ?


双子はずっと一緒にいなきゃいけないんだから!
これで私と真昼ちゃんは一生はなれられないんだよ!


当然こんな狂気そのものの執着心を見せつけられて平静を保っていられるわけもなく、怯えた真昼は悲鳴を上げて逃げ出してしまった。
ちなみにこの一連のやりとりはクラスメイトのいる教室でやっていました。


その日の放課後、家に帰った原田くんは母親に真昼が訪ねてきて部屋で待っていると伝えられる。
なんだかせっぱつまった様子であったらしいと聞かされ、慌てて部屋に向かった原田くん。
しかし声をかけられて振り返った真昼の恐ろしい形相を見た彼は、そいつが真昼と同じ顔をした別人であることを悟る。
……やはりというべきかその正体は真昼を装って部屋に入り込んだ真夜。彼女は恨み言を口にすると、手にしたカッターナイフを振り上げて原田くんに襲いかかった。


お前があらわれておかしくなったんだ
最初からこうすればよかった!
しねぇぇぇ!!


原田くんは幸いにも軽傷で済んだが、真夜はその日から入院することとなった。


それから3か月後、真昼の元へ唐突に真夜からの電話がかかってきた。随分よくなってきたので退院できたらしい。
彼女はふたりにしてしまったことを悔いており、謝ろうとしていた。
そして直接謝りたいからと真昼を家に招待する。
真昼は若干の不安を感じつつも、反省しているならと彼女の申し出を快く受け入れた。

お茶を飲み団欒していたふたり。
ゴスロリっぽい私服姿の真夜は「休んでる間真昼ちゃんのために作ってたものがある」と言い、真昼をどこかへ連れていく。


そこにあったのは真昼のための棺桶だった。相変わらず予想の斜め上を行く女だ。
真昼とずっと一緒に居たいが、それは生きている限り難しい。別にそんなことないと思うけど……
そう考えた真夜の出した答えはふたりで心中するということだった。
反省という概念がないのかコイツには。

抜き身のナイフを手に迫ってくる真夜から逃げようとする真昼だが、先ほど飲んだお茶にはしびれ薬が盛られていた。
それでもなんとかその場から脱しようとし、真夜ともみ合って彼女を階段から突き落としてしまう。

薬で目の前がかすみながらも夜道をなんとか歩く真昼だが、パーカーにホットパンツ姿の通行人を見つけ、助けを求めようとする。
しかし……。


ニガサナイ


案の定というかなんというか、その人影は真夜であり、真昼はそのままメッタ刺しにされて殺されてしまう。
こいつダメージとかないのか?あといつ着替えたんだお前。


真夜は屍となった真昼を恍惚の表情で見つめ、服も髪型もお揃いにして棺桶に収める。
そして自分の胸にナイフを突き刺した。


棺桶の中にはふたりの少女が眠っていた。
真夜が自分に突き刺したナイフをどうやって抜いたかは永遠の謎である


私たちはふたごみたいなふたり

誕生日も一緒 死んだ日も一緒

これで私たちは永遠に一緒よ――






【登場人物】


◆山田真夜
そんじょそこらのオカルトよりもよっぽど存在がホラーな女。
真昼に原田くんが接近していると見るやなりふり構わず即排除しに突撃する圧倒的独占欲、
(多分)中学生の身でありながら整形手術を受けたりしびれ薬を確保したり棺桶をDIYしたりできる行動力と財力、
そして階段から転落しても無傷で復活して早着替えまでやってのけ、胸をナイフで貫いて自害してから器用にナイフを引っこ抜いて棺桶に入るという驚異的タフネスを兼ね備える超人。
こんなやつに命を狙われて軽傷で済んだ原田くんも相当な剛の者と言えるかもしれない。
つっても阿南まゆき先生の作品には定期的にチートスペックが出てくるので今更な気がしなくもないが。
思考の方も相当にブッ飛んでおり、お揃いにこだわりすぎることを咎められたそばから「本当の双子じゃないから離れていく」と真意を曲解して顔を真昼そっくりに整形したり、
その結果拒絶されるとその日のうちに原田くんを殺しに行き、失敗したら心中に方針転換するなど理性のブレーキが存在しないかのような暴れっぷりを終始見せつけている。
サイコかお前は。
友達いないとこうも執着心が強くなってしまうのだろうか……。

◆田中真昼
一応主人公。
いつもひとりでかわいそうな少女がいたから声をかけたらびっくりするくらい執着された挙句殺されたというちゃおホラートップクラスに不幸な目に遭った人。
恐怖の中でエグい殺され方をした割に死に顔が安らかだったことが唯一の救い……と言えるだろうか。
反省するどころか日に日にエスカレートする真夜の奇行にドン引きしたり怒ったりすることはあっても、親友として大事にしようという気持ちは最後まで忘れなかった聖人。
恋は盲目であるのか、実は原田くんが原因で真夜が狂っていったということにかなり終盤まで気が付いていなかったりする。まあただの心優しい普通の女の子だからな……。
ただ、ひとつだけ確実に言えることがあるとすれば彼女は何も悪くない


◆原田くん
ある意味ふたりの仲を狂わせてしまった存在。下の名前は「タカシ」。
誠実で優しくユーモアのあるイケメンであったらしい。
実際あからさまに敵意剥き出しな真夜とも当初は良好な関係を築こうと努力し、彼女に恐ろしい目に遭わされてもその親友の真昼を振ったりはせず恋人として大事にしているなど、描写されている範囲では確かに誠実な振る舞いをしていた。
わけわからん因縁で殺されかけるわ、恋人殺されるわで彼もなかなか不憫である。
真昼が死んだ今、真夜を一番恨んでいるのは彼だろう。
ちなみに阿南先生の百合ホラーガールズホラーにおいては百合の間に挟まる男は死ぬという鉄の掟があるのだが、彼は百合の間に挟まったにもかかわらず奇跡的に生還している。
まあこの話に関しては原田くんに非はないというか真夜が色々とハチャメチャすぎなので、何も死ぬことはないと判断されたのかもしれない。



【余談とか】


その後2013年発売された阿南まゆき先生初のホラー短編集である『ブラッディ・リリィ』に収録された。
なお本作は全6編中4編が百合だったり百合っぽかったりしているという先生魂の一作である。
というか表題作の『ブラッディ・リリィ』に至ってはすごいナチュラルに女の子同士のキスシーンがあるそして間に挟まろうとした男は無残に殺された。

さらにその後別のコミックスで再録された。まあ再録されること自体はちゃおホラーではよくあることである。
しかし再録された短編集のタイトルが……























ほんとうにこわい恋愛

~恐ろしすぎる恋の罠~


なんでよりによってそこに再録した?
姉妹愛とか友情じゃなかったんですか!?
一応真昼は原田くんと恋仲になっておりそちらの部分を「こわい恋愛」として取り扱っているのではないか? とも考えられるが、多分それは現実逃避である
いやまあこの短編集、途中から恋愛あんまり関係なくなるから数合わせで入れただけかもしれないし……。



なおやっぱり年頃の女児の人間関係というのはいろいろと一筋縄ではいかぬところがあるためか「友人に異常に執着される主人公」という構図の話はちゃおホラーでは定期的にあったりする。まあそういうのだけで短編集つくれるのは先生くらいだろうが

~例の一部~

  • 友人が「あなたが私以外の友達作るなら死んでやる!」と言い出して本当に自殺して悪霊化した『いつでも一緒

  • 主人公に対し異様に束縛が強く着替え含めて何でも世話しようとした友人が死後も人面層となり世話をしようとする『ひだり足の千代ちゃん

  • 病弱故に友達がいなかった少女が、初めて親友となった主人公に執着し心中しようとするそしてちゃおホラー屈指に強引な方法でハッピーエンドとなった親友ごっこ

  • 人見知りであるために友人が幼馴染の主人公しかおらず、成長するごとに束縛を強めていく少女の物語である『糸電話

  • 友人が主人公の一番でいるため、主人公が彼氏をつくろうとするのを全力で阻止する『友情の穴

  • 主人公が彼女にしか見えない少女の幽霊に束縛され呪い殺される『おともだち

場をちゃおからなかよしホラーに移すと

  • 自分以外の友人をつくろうとすると主人公を加害してくる友人をなんとか呪い殺そうとする『ふたりの願いごと

  • 話としては変化球だが、主人公が狂愛している友人を守るために暗躍し続ける『わたしのアイドル

  • タイムカプセルには大切な宝物を入れる→私にとって一番大切なのは主人公ちゃん!というクソ理論で殺しにかかってくる『タイムカプセル

さらに場を移しりぼんホラーでは看板作品である『絶叫学級』でも時たまこういう話が出てくる。
ホラーではないが2014年から2017年にかけて主人公を自分のものにしたい友人と、そんな友人の束縛から逃れたい主人公の攻防を描いた『なないろ革命』が連載された。

……並べてみると本当に多いな。
今どきの女児って心に闇でも抱えているのだろうか?





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