SCP-2616-JP

登録日:2020/10/19 Mon 03:37:56
更新日:2023/10/29 Sun 18:12:09
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あの小屋!あれはおかしい。あれがなかったら死ぬところだったが、あの小屋は絶対におかしい。

SCP-2616-JPは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つである。オブジェクトクラスSafe
メタタイトルは「雪中送炭」*1

概要

SCPの世界に於けるSafeと言ったら、「管理された核爆弾」「きちんとロッカーにしまわれている殺戮兵器」といったものが頻繁に引き合いに出される程度には危ないモノ揃い*2だが、このオブジェクトに関しては、異常性自体は人間に何ら害は無い。

SCP-2616-JPは、南アルプスの山岳、小河内岳の山頂近くに存在する、避難用の山小屋である。管理者、所有者、建築年月は一切不明、自治体にも記録されていない。

内外装は非常に質素で、二階建ての木造建築、電化はもちろんされていない、木組みの床、そしてテーブル、石製の大型暖炉といった具合で、避難生活に必要最低限の装備しかない。暖炉の横には、バーナーと火かき棒、そして薪が一束置いてある。

問題なのはこの暖炉で、積雪二センチ以上、その地面を観察する人物が近くにいない時、暖炉で燃料を燃やす事で異常性が発動する。

くべられた燃料は酸素が十分でない時も完全燃焼され、二酸化炭素のみが排出される。この時、山小屋の中は常に快適な温度に保たれる。それが燃え尽きた瞬間、玄関が何者かによってノックされる。これはドアを開けない限り、永遠に続くことになる。それ割とホラーじゃね?

ドアを開けると、先ほど燃やした燃料が新品の状態でドア横に置かれている。例えば、付属の薪は束ねられた状態で、液体燃料は瓶に入った状態で復活する。ドアの先にはいくつかの足跡も発生するが、このどちらも起源は不明。また、足跡の方はじきに消失する。

特別収容プロトコル


財団はこういった異常性を有用だと考えており、特段収容措置を取っていない。というのも、異常性発動条件の一つが「積雪二センチ以上」なので、必然的に冬にしか見られない。仮にバレたとしても民間人に対して害は一切無いし、立入禁止にして避難できずに凍死されたらそれはそれで後味が悪いので、冬季にこの山小屋を通る登山ルートを閉鎖する、というプロトコルに留めている。
そして、条件が整わない雪が降らない季節には一般開放されることになっている。

他のルートから遭難してきた登山客がSCP-2616-JPに辿り着いた場合は、機動部隊ら-14("スキー場巡り")が回収し、インタビューと(状況によっては)Aクラス記憶処理を施す。また、「周辺地面が監視されていない」という発動条件に干渉しないよう、監視カメラの類も設置されない。一応、(財団に向けて)遭難信号を発信することができるように、発信機が山小屋に置かれる。

補遺


2014年2月、財団は平成26年豪雪の煽りを喰らって遭難し、SCP-2616-JPに滞在していた登山客二人を保護した。以下は、その二人へのインタビューの引用である。

インタビュー記録-2616-JP-05

実施日: 2014/02/17

質問者: 高山部隊長(以下質問者)

対象者: 森川氏、山村氏(以下森川、山村)

[記録開始]

質問者: 落ち着きましたか?森川さん、山村さん。いくつかお話をお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?

森川: (青ざめた顔で)あ…ああ。大丈夫だ。

山村: 僕も大丈夫です。

質問者: では、お二人はどうしてこの時期に山に入ったのです?もう数日前から大雪警報が発令されていましたが……あ、これは決してお二人を責めているわけではありません。ただ事実関係を把握する必要がありますので。

山村: 僕は森川さんに誘われて……森川さんは山歩きの達人なので、きっと大雪でも彼がいれば大丈夫だろうと思いました。

森川: あ、ああ。俺は何度も真冬の山を登ったことがある。今回はこいつを鍛えたくて連れてきたんだが、まさか遭難するとはな。

質問者: 失礼ですが、お二人はどういうご関係で?

山村: 森川さんは大学の登山サークルでの先輩です。僕、いつも森川さんのお世話になってばかりで……今回も、僕があんなにトロくなければ遭難することもなかったのに。

森川: ああ、全く。あの小屋を見つけなかったら、 二人とも野垂れ死にするところだったぞ?お前はもっと体を鍛えろとあれ程言ったのに。

山村: はい、すみません、先輩!

質問者: 森川さんの顔色が随分と悪いように見えますが、あの小屋で何かあったのですか?

森川: あの小屋!あれはおかしい。あれがなかったら死ぬところだったが、あの小屋は絶対におかしい。

質問者: おかしい、とは具体的に言うと?

森川: 当時は外がすごい吹雪いてたから、部屋の中に置いてある薪で暖炉に火をつけたんだ。意外と燃えがよく部屋があっという間に温まったが、そのせいか薪がすぐ燃え尽きてしまった。
すると、小屋のドアを誰かが叩いたんだ。もしかしたら他の遭難者かもしれないと思って、ドアを開けてみたんだが、誰も居なかった。代わりに、ドアの横に薪の束が置かれていた。

質問者: もしかすると、近所の親切な人かもしれませんね。

森川: 俺もそう思ったんだけどよ。けどその薪の束を使い切ると、またそいつがドアをノックしてきて、ドアの横に薪の束が置かれてたんだ。何度も何度も。
気になって薪の束をよく見たら、木目の位置もさっきまで燃えていたものと同じなんだ。それって、どう考えてもおかしいよな??

質問者: なるほど……確かに不思議ですね。その件については私たちも調べてみます。ところで…山村さん、先程から会話に参加していませんが、当時は何か気になることはありましたか?

山村: 僕?部屋があたたまるとすぐ寝てしまったもので、ノックの音も気づきませんでした。
でも途中で急に寒くなって、起きてみたら自分が玄関のところで寝転がってたのでビックリしましたよ。

森川: 暖炉の換気が悪くなって一酸化炭素が出てしまったんだ。俺がお前を外に運び出したんだぞ?せいぜい感謝しろよ。

山村: はい!命の恩人です!先輩!

質問者: 他に何か気づいたことはありますか?

森川: それ以外はないな。ただあの小屋が絶対におかしいことだけは断言できる。

山村: ほとんど寝てましたので、特にありません!

質問者: それでは質問は以上となります。ご協力ありがとうございました。

[記録終了]

終了報告書: インタビュー後、両名はクラスA記憶処理を施された上で解放されました。また、発言にはオブジェクトの異常性と矛盾した点が見られるため、財団は調査をすすめるとともに両名の動向を監視しています。

取り敢えず、財団としてはこのオブジェクトを利用していく方針は変えないようである。

追記・修正は、暖炉に薪をくべてからお願いします。

































燃やせるのは、薪、アルコール、ガソリン、それから…

さて、SCPオブジェクトとしての異常性は、本当にこれだけである。ただ単に、無限に燃料を供給できる暖炉、それだけである。

…しかし、ここまでの記述の中に、一つ矛盾している点がある。インタビューの最後にも指摘されていたが、皆さんはどこなのか気づいただろうか。

「くべられた燃料は酸素が十分でない時も完全燃焼され、二酸化炭素のみが排出される。」

森川: 暖炉の換気が悪くなって一酸化炭素が出てしまったんだ。俺がお前を外に運び出したんだぞ?せいぜい感謝しろよ。

そう。財団の調査不足という可能性を除けば、彼は完全に異常性と矛盾した発言を行っている。

…森川氏は何を燃やしたんだ?


このオブジェクトは、財団日本支部7周年記念企画の一つ、「2020年嘘のコンテスト」に出品されたオブジェクトの一つである。やはりというか何というか、ディスカッションでは「ゾッとした」「血の気が引いた」「嘘の手本のようだ」といった変態たちによる誉め言葉阿鼻叫喚の様相を示しており、空想虚構賞を受賞、SCP部門で「SCP-2144-JP」と同率優勝を掻っ攫った。

追記・修正は、暖炉に何をくべるか考えてからお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-2616-JP - 雪中送炭
by BenjaminChong
http://ja.scp-wiki.net/scp-2616-JP

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  • 白い雪、黒い炭、真っ赤な嘘。

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最終更新:2023年10月29日 18:12

*1 雪の中で凍えている人に暖のもととなる炭を送ること。転じて困っている人に救いの手を差し伸べることを意味する。

*2 一応、「管理下なら安全」という基準はある