登録日:2011/06/01(水) 00:19:58
更新日:2024/07/05 Fri 17:53:05
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「この世の中には…不思議でないことなどないのです」
●塗仏
化物繪
(前略) 其名の大略は、赤口、ぬらりひょん、牛鬼、山彦、おとろん、わいら、うわん、目一ツ坊、ぬけ首、ぬっぺらぼう、ぬりほとけ、ぬれ女、ひやうすべ、しやうけら、ふらり火、りうんばう、さかがみ、身の毛だち、あふあふ、どうもかうも、是ら其さまによりて作りたる名多かり。(後略)
■塗仏の宴 宴の始末
『ぬりぼとけのうたげ うたげのしまつ』は
京極夏彦の小説作品。
「
妖怪シリーズ」の第七作で、前作『
塗仏の宴 宴の支度』の後編。
また、『
姑獲鳥の夏』から休む事無く続いて来た同シリーズに一旦の幕を下ろした節目に当たる作品でもある。
98年に講談社ノベルスから新書版が発売。
現在は文庫版も存在する。
尚、本作はシリーズで唯一の京極堂=中禅寺秋彦が中心に置かれた作品であり、
「宴」を実行した「敵」との直接対決が描かれたエンターテインメント性溢れる、娯楽作品でもある。
【概要】
昭和二十八年……。
伊豆・韮山の「消えた村」を巡る怪しげな団体による狂乱の「宴」……。
戦前より「宴」の「支度」を整えて来た主催者は、障害と成り得る中禅寺の動きを封じるべく関口を罠に嵌め、織作茜の命を奪う。
敦子に榎木津、木場までもが姿を消す中で不安を募らせる面々を余所に、それでも動こうとしない中禅寺に鳥口らは不審を抱くが……。
……果たして、十五年を掛けて実行された馬鹿らしくも残酷な「宴」の結末とは?
【宴の参加団体・人物一覧】
前作と併せた『塗仏の宴』に参加する人物、団体の概要を記す。
◇華仙姑処女
「日常を共有する者……それを家族と呼ぶんだと私は思います……家族は制度とも法律とも無関係です」
百発百中の神通力を持つ、謎の女霊媒師。
有力な政治家や財界人をもその託宣の虜としていた事から「昭和の妲己(だっき)」とも呼ばれていた。
本名は佐伯布由。
腹心として謎の薬売り尾国誠一が付くが、布由自身はその事実を知らなかった。
●みちの教え修身会
◇会長・磐田純陽
「人生を深く考え、明るく健康に、社会に貢献して前向きに生きる」ための勉強会を開く。
宗教では無いが宗教的会心を利用した手段で会員を集め、「起業家向け講習会」等も行っている。
会長の磐田純陽(本名・岩田壬兵衛)は同窓であった加藤只二郎曰く、昔から山っ気のある人物であったと云う。
●条山房(じょうざんぼう)
◇代表・通玄
「そうか、君が白澤か」
三軒茶屋に店を構える漢方薬局。
集めた人々の生活を見直し、健康な肉体作りを推進する「長寿延命講」を開くが、その手法には詐欺との噂も起つ。
代表の通玄(本名・玄蔵)は漢方医にして中国拳法の達人で、敦子や青木の窮地を救った。
腹心の宮田耀一は愛想の良い丸眼鏡の小男……だが。
●韓流気道会(かんりゅうきどうかい)
◇代表・韓大人
▼師範代・岩井崇
新橋に道場を持つ
古武術を標榜する一派で、「気」を用いて触れずに敵を倒すとの噂がある。
中禅寺に「気功の恣意的な拡大解釈を喧伝している愉快な団体」と評されるが、
実体は右翼絡みの政治結社との噂もある荒くれ者の集まりで、
華仙姑こと布由や批判的な記事を書いた敦子……更には三木春子の行方を疑う途上で「猫目洞」が襲われた。
登場団体では最も暴力的で危険な集団だが、いずれの場合も榎木津や通玄に粉砕されている。
代表の韓大人(本名・癸之介)は実は日本人であると云う事以外、正体は不明。
●太斗風水塾(たいとふうすいじゅく)
◇代表・南雲正司
南雲(本名・亥之介)は三十代前半の何の変哲も無い普通の男。
羽田隆三傘下の会社に雇われ、風水を利用した経営指南なども行っていた。
豊島区大塚に事務所を持つ。
……が、ある「土地」の売買を進言した事でその経歴が嘘であるとバレ、姿を消す。
◇東野鉄男
甲府に住む民間の徐福の研究者で、本名は乙松。
羽田隆三が私財を投じて立ち上げた「徐福研究会」を任されていたが、ある土地の売買を進言した事で“やはり”経歴の詐称がバレて姿を眩ましていた。
●成仙道(せいせんどう)
◇真人・曹方士
▼童士・刑部昭二
「宴の支度は整いました」
登場団体では最大の規模を誇る、大陸から伝わる太平道の流れを汲むと語る「道(タオ)」を求める集団。
宗教では無いと云う触れ込みの許、既存の信仰を捨てなくて良いと云う手法で勢力を拡大した宗教団体である。
大陸から伝わる楽器を吹き鳴らしつつ、やはり大陸の派手な衣装で練り歩きながら布教活動を行っている。
「運命の日」を前に、黄金の輿に乗せた曹方士(本名・甲兵衛)を中心に韮山山中に分け入ろうとするが……。
●藍童子(らんどうじ)
「くれぐれも軽挙妄動はお慎みくださいますよう、中野のお方にお伝え下さい」
本名は彩賀笙(さいがしょう)。
真実を見抜く「照魔の術」を利用し警察に協力していた美少年。
浮浪児達を率いて「消えた村」を目指す。
【事件関係者】
「ひとの人生を弄るなアッ」
伊豆は下田署の刑事。
突然に息子の隆之に暴力を振るわれ、更に妻の美代子が出て行ってしまい、突然に家族を失う。
以前に、弟の兵吉が失踪を機に実家の崩壊を目の当たりにしていた。
「む、村上。この事件は、お前だけの事件じゃないぞ。お、俺も主役だ」
下田署の老刑事。
貫一と共に関口の足取りを確かめるべく「宴」の渦中にやって来る。
十五年前までは韮山の駐在に居た。
名称は『ゲゲゲの鬼太郎』からか?
「ぼ、僕の妄想が……僕の記憶が漏れている」
十五年前に「消えた村」……こと「戸人村」の駐在として赴任した筈の人物。
大陸での祭の様子を中禅寺と多々良に伝える為に訪れた「京極堂」で、自身の妄想として納得しようとしていた「戸人村」の実在を知る。
「自分は自分を信じます」
目黒署の刑事で、岩川真司の部下だった男、青木に協力する新たなる下僕候補。
田舎から出て来た貫一の恩人であった人物。
有馬の同窓であった。
当人は既に他界している。
事件の陰に見え隠れする謎の薬売り。
……本名は雑賀誠一。
……郷土史家。
【主要登場人物】
下僕……別名は「薔薇十字団」!!
修と礼二郎の友達。
今回は拝み屋のボディガードを務める。
「多分僕がやった。僕が木に吊るして
逃げるところを自分で見ていたのだから」
……勾留中。
「俺はな、餓鬼の頃から手前のその取り澄ました顔をボコボコにしてやりてぇと思ってたんだよ」
……失踪中。
……と思ったら「成仙道」に入ってた。
「でもお前が嫌なんだろ」
……失踪中……と思いきや、終盤に帰還……今までの鬱憤を晴らすべく戦いに戦う。
「僕を唆すつもりか」
……古本屋にして陰陽師。
馬鹿げた「宴」に巻き込まれるも色々な理由から関わる事を避けていたが、最終的に榎木津の勢いと鳥口の「ある指摘」で事件を収拾する理由を与えられ、人生を狂わされた人々の目を覚ます為に韮山に入る。
なお事件に関わると決めた際、万が一に備え自身と関口両方の妻を京都へと避難させている。
【余談】
……本作を以て、長編作品により紡がれる中で内的飽和を見せていた「
妖怪シリーズ」は一旦のピリオドが打たれ、
以降は別方向に世界観を広げる外伝作品等が発表される運びとなった。
……拡大した物語自体の「憑物落とし」である。
「子供を苛めてはいけないな……中禅寺」
「貴様の貌は怖いのだ。子供が癇を起こすじゃないか。齢端も行かぬ子供に本気を出しおって。さあ、もう良いぞ笙……」
「それにしても久し振りだったな中禅寺。会いたかったぞ」
「僕は……二度と会いたくありませんでしたよ」
渾沌既に死して一万年、独りアニヲタを抱いて存う方のみ追記を願います……
白澤………………。
- 榎木津がたじろぐ珍しいシーンもあります -- 名無しさん (2014-06-17 23:03:08)
- 「鳥口が京極堂を動かす」ところはシリーズ屈指の名シーンだと思う。異論は認める。 -- 名無しさん (2024-03-14 15:30:41)
- 堂島大佐は何がしたい人なんだろう -- 名無しさん (2024-06-15 17:27:52)
- ↑そりゃあ愉しいことがしたいんでしょ -- 7時 (2024-07-05 17:51:02)
最終更新:2024年07月05日 17:53