SCP-2241-JP

登録日:2022/01/24 Mon 05:21:19
更新日:2022/02/15 Tue 16:55:25
所要時間:約 9 分で読めます




SCP-2241-JPはシェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクト(SCiP)。
オブジェクトクラスはEuclid。
項目名は「幸福な人生にいたる賢明なる選択」

まずは説明から。

SCP-2241-JPは異常なウェブサイトである。
このオブジェクトは何の変哲もないWebサイトに広告として出現する。
広告の内容は「障害児保育支援 - こどもに障害がある可能性を診断されたら?」で一貫している。

この広告をクリックしてアクセスすると、オブジェクトのサイトに移動する。
トップページには「なやめるママのために!」というバナーが載っており、その下には障害児を持つ両親の実体験や支援についての記事が掲載されている。

右側には閲覧者の住んでいる地区の実在する障害者支援サービスと子育て支援センターのホームページへのリンクと電話番号が載せられている。
このウェブサイトのIPアドレスは現在も特定に至っていない。

このサイトを1時間以上閲覧した場合、妊婦以外の閲覧者には子育て支援の募金に関する広告を表示させるが、閲覧者が妊婦であった場合、「隠しページ」へと自動的に移行する。
そこには、障害児への虐待や、母が障害児の育児疲れで自殺した、という内容の記事が掲載されている。その状態で一定数の記事を読み終えると、ポップアップが出現する。
そのポップアップには、「障害児である可能性のある子供を出産するか」、もしくは、「夢の中で障害を持たない自分の子供を産み、母子ともに幸せな体験をしたのちに現実で死産するか」という内容が記されている。
前者を選んだ場合、「おしあわせに」という内容のポップアップが出現し、サイトのトップページへと戻される。
ここまではただのIPアドレスの特定ができないウェブサイトである。

そして後者の選択をした場合、妊婦は即座に眠りにつく。
そして妊婦は夢を見る。内容は、子供が健康な状態で生まれ、充実した人生を送り、最後は老衰によって死ぬ、という内容の夢を体験する。
例としては、「多くの友人に囲まれた学生生活を送り、有名企業に就職。恋愛結婚をして子供を男女各1人ずつもうけ、孫に看取られる。」というような内容である。
この夢を見ている間、胎児は母親の胎内で急速に成長するが、妊婦の方はそれを疑問に思うことはなく、夢の中で子供の死を見届けた後に目を覚まし、そして陣痛が始まる。
そして陣痛が始まって24時間以内に母親は出産するのだが、この時に出てくるのは、推定年齢80~90歳の死体である。これをSCP-2241-JP-1、以後、この記事では単に「死体」と呼称する。
この死体を出すにあたって、母体の腹部は異常なほどに膨れ上がるが、それで破裂することもなければ、出産時における苦痛も通常通りであり、身体を損傷することもなく出産できる。
そしてこの死体を目視した人間は、強い多幸感を感じる。出産に立ち会った人物は何ら違和感を覚えることなく、この死体を取り上げ、祝福される。
写真や映像を介した場合、この影響は受けない。


続いて特別収容プロトコル。

このウェブサイトへの広告とリンクは、財団のwebクローラーによって発見され次第、即座に削除される。
このサイトを閲覧したと思われる人物にはインタビューを実行し、問題ないと判断された場合は記憶処理を施して解放する。
もし例の死体が発見された場合、目撃者に対して記憶処理を施し、両親に3か月間のカウンセリングを行う。
死体は室温4~6℃、湿度60~70%に保たれた低脅威物品保管庫へ実験用として12体保管、それ以外は焼却処分される。

以上が特別収容プロトコルである。


発見経緯として、このオブジェクトは、とある病院の「今月の赤ちゃん」の欄に老人の写真が張り出されているという噂を聞きつけたエージェントが、
この死体の写真が「幸せな人生を過ごしました」という文とともに張り出されていることに気が付き、両親へのインタビューを行ったことにより、発見された。
以下は、過去に2度、あの死体を出産した経験のある対象へのインタビューである。


対象: 加茂氏

インタビュアー: 乃木博士

<録音開始, 2019/05/05>

乃木博士:こんにちは、加茂さん。今日はよろしくお願いします。

加茂氏:よろしくお願いします。

乃木博士:あなたが初めてあのサイトを利用した時のことを教えてください。

加茂氏:そうですね。たしか……私が26の時だから、3年前でしょうか。出生前診断ってあるでしょう?
    それでもしも私の子が……その、障害を持っていたらどうしようって思って、やってみたんです。
    そしたら可能性があると言われて……。夫は一緒に育てよう、大丈夫だからと言ってくれました。
    それでも不安でしたからいろいろとネットで調べて、広告で見てあのサイトにたどり着いたんです。
    それでしばらく記事を見ていたんですが、障害児でも、サヴァンっていうんですか?
    天使みたいな子がいるんだなって知って、支援もたくさんあるし大丈夫だってなったのに……隠しページに嫌なことが書いてあったんです。

乃木博士:その内容は覚えていますか?

加茂氏:はい、はっきりと。障害児は虐められるとか、母親が姑に虐められて自殺したとか、そんな記事がずらっと並んでいました。
    私はそれに衝撃を受けて、しばらく読んでいたら……あの選択肢が現れたんです。「障害児の可能性があるお子さんを産む」、
    「お母さんとお子さんは幸せな体験を夢の中で送れるけど、現実では死産したことになる」というものでした。
    私、私……産んだらつらいことばっかりなんじゃないかと思って、お義母さんは何も言わなかったけど、嫌な顔をしていたから。それで、押しちゃったんです。

乃木博士:押した後はどうなりましたか?

加茂氏:あの子が幸せな人生を送っているのを間近で見ている夢を見ました。ちゃんと健康に生まれて、友達もたくさんできて、結婚して、孫がいて……。
    とても幸せな気分になったんです。それであの子が幸せな顔で死んだのを見送ったら、すぐに現実に戻って陣痛が起こったんです。あの時は必死で救急車呼んだっけなあ……。

乃木博士:それで、あの死体が生まれたと。

加茂氏:そうなんです。幸せな死に顔で、取り上げてくださったお医者さんも看護師さんもみんな
    「見てください、立派な男性ですよ。顔はお母さん似でしたね、幸せな死に顔です!」って祝ってくださって。
    途中で駆けつけてくれた夫も、「こんなに幸せだった息子を産んでくれてありがとう!」って。
    こんなに嬉しくて、幸せなんだったら、あのサイトを利用して正解だって思いました。
    だから次の子がまた障害児だって診断されて、夫と手を取り合って喜びました。
    あんなにみんなと一緒に幸せになれたんですよ。だからあの子たちはきっと天使に違いありません。

乃木博士: 老人の死体を出産したことに違和感は抱かなかったのですか? 死産をするにしても不自然だと思いますが。

加茂氏: あの子は老衰なんだから当然でしょう? 立派に人生を送ったんです。



一口に障害と言っても種類や程度があるが、重い障害を患っていた場合、その子供に対する子育ての負担は察するに余りある。
一向に学習の様子を見せない、感情の制御が効かず暴れてしまう、そもそもうまく歩けない、周囲との感覚や思考のズレでいじめの対象になりやすい…
このような子供が社会に出たら、周囲の人間となじめず、孤立し、もしかしたらその障害が原因で犯罪を犯すかも、という可能性も考えてしまう。
こういったトラブルや悩みを抱える親が現実でも多く、子供の将来に不安を覚え、時には子供を殺して自身も死ぬ、無理心中になる最悪のケースも出てきてしまっている。

このような障害児の子育ての負の側面を散々と見せつけられたのち、例のポップアップで選択を迫る。
その時に妊婦は、自身の子供に障害の可能性があるといわれた場合、果たして「それでも現実で産む」という覚悟を持てる人はどれだけいるのだろうか…




追記、修正は「それでも産む」という覚悟を持った人にお願いします。









































…と、ここまでの話であれば「なるほど、これは考えさせられるオブジェクトだ」とも思えるかもしれない。
しかし、ここまで見た読者は違和感を覚えなかっただろうか?

なぜ両親は、次に生まれる子も障害児であると診断され、喜んだのだろうか?

きっと、次も障害児と診断されても、あのサイトを利用すれば、せめて夢の中だけでも幸せに過ごせるから。そう考える人もいるかもしれない。


しかし、このインタビューにはまだ続きがある。



乃木博士:そうですか。……ところで、2人目のお子さんが死産なされたのは1年前だと聞きましたが、あなたはその前に一度人工妊娠中絶をなされていますね。

加茂氏:ああ……出産の後すぐにまた子供が欲しくなって。だから夫に協力してもらったんですが……障害児の可能性はないと言われてしまいました。
    そしたら不安になってしまって。だってそうでしょう? 私のお腹の中にいる子はどんな人生を送るのかわからない。
    もしかしたら事故で死んでしまうかもしれないし、不良になるかもしれない。そしたら私たちはあの感動を味わえなくなってしまう。
    ……だから、次の子供は障害児にしようねって、また幸せにしてもらおうねって決めたんです。あなたもあの顔を見たら、あの幸せを感じたらわかりますよ。
    私、家族の幸せのためならどんな努力もできるんです。

乃木博士: ……なるほど、本日はありがとうございました。これでインタビューを終了します。

<録音終了>



インタビューのこの最後の部分、そしてこのオブジェクトの記事には「精神影響」のタグ。
もうわかっただろう。このオブジェクトに暴露し、「夢の中で出産し、現実では死産を迎える」という選択をした場合、
対象者はその死産の時の多幸感を再び味わいたいがため、再び障害児を望むようになってしまうのだ。
それも障害の兆候の無い胎児をわざわざ中絶させようとするまでの徹底ぶりである。


加茂氏は「家族の幸せのためならどんな努力もできる」と言った。
しかし、障害のない胎児まで中絶させてまで得る幸せは、果たして「家族の幸せ」と呼べるのだろうか。
尤も、その問いかけすらも、加茂氏には届かないのだろう…





余談だが、SCP-2241-JP作者のツイートにはこのようなものもあった。
「SCP-582-JPを飲みながらSCP-2241-JPを使えば母親無敵では?」
※SCP-582-JP(美しい国):母体が妊娠したまま健康に保つ代わりに、しわ寄せが胎児にいく効果をもつ錠剤。服用者が出産した新生児は例外なく異常を示し、死亡する。

作者ェ…


追記・修正はSCP-582-JPを服用しつつSCP-2241を利用した人にお願いします。



CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-SCP-2241-JP - 幸福な人生にいたる賢明なる選択
by Mas_kera_de
http://ja.scp-wiki.net/scp-2241-jp

SCP-582-JP - 美しい国
by y33r41
http://scp-jp.wikidot.com/scp-582-jp

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※注意 現実における障害児の出産、または子育てに関する意見・議論はここで行わないでください。またSCP以外の話題を持ち出さないでください。宜しくお願い致します。

最終更新:2022年02月15日 16:55