IEEE 802.11/Wi-Fi(通信規格)

登録日:2025/08/02 Sat 12:35:00
更新日:2025/08/24 Sun 18:04:34
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IEEE(アイトリプルイー) 802.11』とは、アメリカ合衆国の電気・情報工学分野の学会「IEEE」(米国電気電子技術者協会)が策定している無線LAN規格である。
Wi-Fi(ワイファイ)』とは、その愛称として使われている呼び名。




概要

技術的な源流は、オーストラリアで行われていた、ブラックホールから発せられる電波の観測研究の副産物
開発者のジョン・オサリヴァン氏は、フーリエ変換を用いてノイズの影響を受けずに電波を観測する方法を見つけたが、それを一般的な情報通信技術として応用した物である。

その後、オサリヴァン氏の特許や他の研究成果が組み合わさって無線LAN技術が発展していったが、普及のために統一規格を作るという機運が高まっていった。
そのため、1997年にIEEEが中心になってIEEE 802.11という規格を策定する。

1999年、IEEE 802.11を支持するアメリカの通信機器メーカーが業界団体『Wireless Ethernet Compatibility Alliance(WECA)』を立ち上げ、IEEE 802.11にWi-Fiの愛称を付ける。
これにはすでにハードメーカー主導の別規格HomeRFが登場していたので、それに対抗するためでもあった。
その後Wi-Fiは
  • IEEEが策定したので中立性があり特許料も安価だった
    • 一方、HomeRF規格のチップセットは一社が独占供給していた
  • 最初から法人需要を視野に入れて開発されたため、多くの企業の支持を獲得できた
    • 一方、HomeRFは個人・家庭用向け
という強みが評価され、市場に歓迎されていく。
最終的にHomeRFの業界団体を解散に追い込み、Wi-Fiが無線LAN規格の事実上の世界標準として地位を確立した。
WECA自体も『Wi-Fi Aliance』と改名し、世界中の賛同企業が参加する国際的な組織へと移行した。

当初はノートパソコン携帯電話スマートフォンゲーム機印刷機といった機器が中心だったが、インターネットの普及に伴いテレビやデスクトップパソコン等にも採用され始め、今日に至る。


周波数帯

Wi-Fiの電波には異なる周波数帯が採用されており、それぞれ特徴が異なる。

  • 2.4GHz帯
最初期から使われている帯域で、相対的に遠くまで届きやすい。
しかし、Wi-Fi以外の無線通信や電磁家電にも多く使われるため、電磁波の干渉を受けやすいのが短所。

  • 5GHz帯
2.4GHzよりも送信できる範囲は狭いが、干渉が少なくデータ量も多いことで通信速度も速い。
日本では衛星通信や気象レーダーも5GHz帯を使用しているため、当初は屋外での使用が禁止されていた(現在は使用可能なチャンネルもある)。

  • 6GHz帯
一番新しい帯域で、5GHzを上回る速度と干渉耐性が強み。ただし、遠くに届きにくいという短所も更に激しくなる。

なお、Hzと言う単位を省略して「5G」などと表現することもあるが、スマートフォンなどで使われるモバイル通信専用の通信システム「5G」とは全くの別物。
前述の通りWi-FiのGは「ギガ(ヘルツ)」という周波数の単位であり、モバイル通信のGは“Generation”すなわち「第5世代移動通信システム」と言う意味である。
無論、こういった紛らわしさを回避するため、Wi-Fiの方は極力“Hz”を省略しない表記を心掛けたいが、アクセスポイント名等でやむを得ず“_5G”や“_5g”となっている場合もある。


規格の世代

Wi-Fiの規格は世代ごとに名称が付いており、これで大まかな通信性能や対応機種の判別が可能。
また、IEEE 802.11n/Wi-Fi 4以降は互換性が維持されており、周波数帯さえ合えば古い規格の機器でもほぼ支障なく接続できる。

携帯電話・スマートフォンやパソコンでの採用事例は種類が多すぎる上に複雑なので一部を除き割愛。
気になる人はメーカーの紹介ページを参照。


  • IEEE 802.11(初代)
1997年の策定で作られた最初の規格。名前の「.11」の後にアルファベットが付かない。
まだ2.4GHz帯だけであり、最高通信速度も2Mbps止まり。普及も全くしていなかったため、Wi-Fiの説明でこの初代が省かれることは結構多い。

  • IEEE 802.11a
初の5GHz帯の規格だが、当時はまだ実装のハードルが高すぎて殆ど普及しなかった。
しかし、ここは腐っても5GHz帯。この時点で既に後の11gに匹敵する54Mbpsを達成していた。

  • IEEE 802.11b
主な採用機器:AirMac(AirPort)無印*1ニンテンドーDSPlayStation Portable

2.4GHz帯専用の規格。黎明期〜2000年代中盤の主流。
AppleがAirMacと称してMacに全面採用した影響で早くから低価格な無線LANカードが出回り、Wi-Fiの優位性を決定づけた。
その後も当時の携帯用ゲーム機にも採用されたこともあり広く普及した。

  • IEEE 802.11g
◇主な採用機器:AirMac Extreme、iPhone(初代〜3GS)、PlayStation 3WiiニンテンドーDSi

2000年代後半の主流。上記11bの強化版。
2.4GHz帯ながら、ここでようやく11aの54Mbpsに通信性能が追いついた。
しかし、有線LANの方は既に100Mbps以上が当たり前となっていた時代。この時点のWi-Fiは、まだまだLANケーブルが使えない場合の代替手段レベルに過ぎなかった。

  • IEEE 802.11n/Wi-Fi 4
◇主な採用機器
2.4GHzのみ:Xbox 360 S/EPlayStation VitaVita TVニンテンドー3DSWii UPlaystation 4(CUH-1000系)
2.4GHz・5GHz両対応:Xbox One

2010年代前半の主流。
これ以降は消費者にも分かりやすくするため、新たに「Wi-Fi + 番号」の愛称が付けられるようになった(ただし番号付けは11nの制定時ではなく、後の2018年に開始)。

ここでは2.4GHz帯と5GHz帯の両方に対応できる。
理論上は並の有線LANよりも速くなり、一気に高速通信が可能となった。
……とは言ったものの、実用上は細かい制約が多く、機器や環境によって実効速度の差もかなり激しかった世代。
コスト上の理由から2.4GHz帯しか使用できない端末も多かったため、理論値の割には妙にもっさりしていた印象も強いのでは?

少しだけ11acの技術を前借りした「b/g:256QAM変調」により、速度理論値はなんと800Mbps!……と期待されたが、こちらもあまり流行らなかった模様。
総合的には72〜144Mbps程度出れば御の字という感じ。
5GHz帯が普及していればもう少し速くなったと思われるだけに、少し残念。

  • IEEE 802.11ac/Wi-Fi 5
◇主な採用機器:Playstation 4(CUH-2000系・Pro)、Xbox One S/X、Nintendo Switch、Oculus Quest、Xbox series SSteam Deck(初代・LCD)

2010年代後半の主流。最大4台の端末と完全同時通信できる「MU−MIMO」が可能*2になった。
周波数は5GHz帯しか使用できないものの、11nの頃に比べて大幅に普及したので、そこそこ新しい端末なら問題ないだろう。
ただ、遠くに届かないデメリットはどうしても気になるので、目的によってはもっぱら有線通信の代替案として。

  • IEEE 802.11ax/Wi-Fi 6/Wi-Fi 6E
◇主な採用機器
Wi-Fi 6:Meta Quest 2、Xbox series XPlaystation 5、PICO 4、Nintendo Switch 2
Wi-Fi 6E:Meta Quest 3、Steam Deck(OLED)

2025年現在の主流。再び2.4GHz帯と5GHz帯の両方に対応できるようになり、さらに派生の6Eは新たに6GHz帯域にも対応し、従来よりも高速化した。
セキュリティについてもWi-Fi Protected Access 3(WPA3)規格に移行している。とりあえずこれから自宅でWi-Fiを使いたい人は、この規格に対応していれば当分通信環境には困らないだろう。

スマートフォンは概ね6~7万円以上の価格帯であればWi-Fi 6(または6E)に対応しているが、それ未満の価格帯での採用率がなぜか壊滅的。

  • IEEE 802.11be/Wi-Fi 7
速度向上に加え、複数の周波数帯を同時利用できるMulti-Link Operation(MLO)機能が実装された。
2024年から本格化したので採用製品はまだ少ない他、安価な端末や機器だと6GHz帯を省いている物もある。
ゲーム機だとPlaystation 5 Proに採用されている。

  • IEEE 802.11bn/Wi-Fi 8
現在、策定作業中の新規格。Wi-Fi 7の性能を安定して引き出せるようにすることを目標にしている。

ルーター設定あれこれ:この項目って何?

単にインターネットを利用したいだけなら、アクセスポイントの近くで「SSID(無線LANのニックネーム)」と「パスワード」を調べて入力すればとりあえず繋がってくれる。

といっても、多くの無線LANルーターにはウェブブラウザからIPアドレスを入れることで設定画面にアクセスできる機能が備わっている。
単に出先で繋ぐだけならともかく、機器を購入して自宅に設置する場合は基本的に自分で設定しなくてはならない。
…で、いざ設定画面を開いてみて誰もが思っただろう。「これは一体何の設定なんだ」と。
もちろんメーカーごとに説明書は用意されている筈だが、説明を読んでもピンと来なさそうなものを紹介。
*3

11nプロテクション

「従来規格で接続される機器が含まれる場合の、通信干渉を防止」
上で挙げているように、11nより古い規格(初代、a、b、g)の頃はまだ互換性が不完全である。
そのため新しい規格のルーターにも繋ぐことはできるが、この時他の機器も巻き添えにして通信速度がガクッと落ちてしまうことがある。
そこで、電波の先頭に識別子をちょっと追加して巻き添えを予防する為の機能がこれ。
「11gなんてもう使ってないし」という人はオフにしてもOK。識別子を省略する分、僅かながら軽快になるらしい。

BSS:BasicRateSet

「機器同士の『制御通信フレーム』の最高速度」
要するに、インターネット以外に行われるパケットデータの送受信の速さ。「1mbps」から「all(実質54mbps)」の間で設定できる。
よほど古い機種でないなら「all」にしておけば問題ないと思われるが、ぶっちゃけ下げてもネットが遅くなるわけでもなく、設定できる意味は正直なところよく分からない…。
古い規格の頃の名残だろうか。

MulticastRateSet

「マルチキャスト通信時の最高速度」
マルチキャストとは、複数機器に全く同じデータを同時に送る通信形式のこと。一部の動画配信サービス等がこれを使用している。
もちろん、速度を上げるほどネットが快適になる……と思われがちだが、上げすぎるとルーターの処理が煩雑になってバテ始めてしまい、却って通信エラーを起こしやすくなる模様。
「アクセスポイントの目の前で端末1台だけ」くらいの負荷なら大丈夫だろうが、2台以上繋いでいる場合は最低速度から様子見しながら上げた方が賢明だろう。
というか、これもぶっちゃけ最低のままでもあまり困ることはなかったりする。

インターネットに接続する方法

大前提として、接続元の端末にWi-Fi機能が実装されているか確認する必要がある。
2025年現在のノートパソコン・スマートフォン・ゲーム機で使えない物はほぼ無いが、デスクトップパソコンだと非搭載な場合があるので、その場合は外付けで受信機を取り付ける必要がある。

詳細はパソコンのパーツの記事を参照。

無線LANアクセスポイント

最もよく使われている手法。
基本的にルーター機能と一体になった「無線LAN/Wi-Fiルーター」として作られていることが普通。単品で個人購入することもできるが、回線契約と一緒にプロバイダーから提供されることが多い。
プロバイダーによっては、光回線終端装置(ONU)*4の機能も合体したオールインワン仕様の物が提供されることも。

SIMカードを入れてモバイルデータ通信網を活用する「モバイルWi-Fiルーター」「ホームルーター」といった製品も存在する。
こちらは携帯電話回線を提供している会社から販売されることが多いが、自分でSIMフリー携帯電話同様に回線と端末を別々に用意することも可能。

携帯電話・パソコンのアクセスポイント(インターネット共有・テザリング)機能

携帯電話やパソコンをモバイルWi-Fiルーターとして使う。
動画視聴程度なら問題ない通信品質が確保できるが、細かな部分では専用端末より劣る上に端末自体の電池も消費する。
日本では通信干渉問題で2.4GHz帯と6GHz帯しか使用できない物が多い。*5


Wi-Fi Direct

インターネットを介さず、端末と端末をWi-Fiで直接接続する技術。
やっていることはBluetoothと同じだが、あちらよりも速度・安定性に勝る。
重たいデータのファイル共有、カメラから高速で写真・動画を送信する、無線式コントローラーを低遅延で接続するといった用途に使われている。


公衆無線LAN(Wi-Fi)

公共施設で整備されている物。モバイルデータ通信に頼らずインターネットに接続することができる。

回線の品質は光回線かつ新しめのWi-Fi規格で接続しているのであれば問題ないが、接続先が古めのモバイルWi-Fiルーターだとあまり速度が出ないこともある。
また単純に接続人数が多いと混雑して遅くなることもしばしば。
また公開されている都合上セキュリティリスクもある。気になる場合はVPNを活用するか、そもそも使わない方が良いかもしれない。

『ニンテンドーWi-Fiステーション』の様に、特定の用途に特化した物もかつては存在した。


ブリッジ接続/アクセスポイントモード

Wi-Fiルーターのルーター機能を無効化する機能。

何の為?と思うかもしれないが、自分で好きなアクセスポイントを使いたい用途などで使う。
ONU・ルーター・アクセスポイント機能が一体になっていることは大多数の人々には良いが、主に品質重視の法人や自宅サーバーを組むような逸般人の場合、細かく設定できる業務用の有線LANルーターを使っていることが多い。
そのため不具合が起きた際の原因の切り分けも兼ねてWi-Fi接続は単独の機器で動かす方が好まれる。*6
しかしアクセスポイント専用装置は非常に少なく高価。なので市販で売られているWi-Fiルーターを使えば費用も抑えられる上に選択肢も増える。
そこまでいかなくても、プロバイダーから提供されているWi-Fiルーターが古くなってきた時にお手軽にWi-Fi性能を上げたい時に使える。

「SIMカードが入っていないホームルーターをアクセスポイント化して再利用する」「携帯電話のインターネット共有機能を強化するためにブリッジ接続して感度を増幅させる」といった用途でも使われている。


追記・修正はWi-Fi接続中にお願いします。

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最終更新:2025年08月24日 18:04

*1 日本国外では『AirPort』だが、日本では同じ名前の製品が先に商標登録されていたので『AirMac』名義で販売されていた。

*2 ただしこの時点ではまだ下り方向のみ。

*3 一例としてバッファロー製の場合だが、大体同じような名称で呼ばれている…はず

*4 光信号をコンピューター上で処理できるよう、デジタル信号に変換する装置。

*5 DFSと呼ばれる干渉防止機能があれば問題ないが、携帯電話でこれを搭載している端末はほとんど無い。

*6 実際、ルーターを複数台接続しても通信はできるのだが、誤作動を起こす可能性があるので基本的には避けるべきとされている。