TAMALA2010 a punk cat in space

登録日:2022/05/26 (木) 20:26:58
更新日:2023/10/29 Sun 09:13:25
所要時間:約 11 分で読めます




世界の車輪を回しつづける破壊と再生の炎

この一匹の子ネコの犠牲を欲する




BC3500年ごろ ネコ地球ギリシャ地域
エフォソスの暗いネコ、ミネルヴァの詩編より

概要

『TAMALA2010 a punk cat in space』は、2002年に公開された長編アニメ映画。
制作は、X JAPANhideの設立したレコードレーベル・LEMONedの共同プロデューサーであるt.o.L(trees of Life)。
本作が公開されたとき、この作品はt.o.Lにとって“LEMONed=hide”への贈り物だと感じたという。*1
曰く、「LEMONedという種が体にくい込み、芽を出したのだ」とのこと。

一見かわいらしい絵柄でありながら、主人公のタマラを皮切りにキャラクターは全員曲者ぞろい。
そのためか、世界観はほぼモノクロなこともあり陰鬱で閉塞感に満ちていながらも、どこか飄々としたものを感じさせる。
とはいえ地味に暴力シーンも少なくないので、そこは注意か。
さらに話が進むにつれて大量に映画・文学・哲学・絵画・音楽芸術へのオマージュがちりばめられていき、やがて陰謀論や古代宗教が絡む壮大かつ複雑な展開となってくる。

ノヴェライズ&完全解読本の『TAMALA2010コンプリートブック』は丁寧に元ネタやオマージュ元も解説しているので、行き詰まったら一度目を通してみることをお勧めする。


ストーリー


2010年のネコ地球・TOKYOはメグロシティ。
世界は巨大企業CATTY.Co.によってディラック算出GDP総計の96.725%をコントロールされていた。

1歳の誕生日を迎えたこの街に住むメスネコ、タマラは生まれ故郷オリオン座・エデッサ星を目指し、惑星間旅行に飛び出した。
ところがその後、仕組まれたかのように巨大隕石に衝突。政情不安の惑星・Q星への不時着を余儀なくされる。
そこで出会ったオスネコ・ミケランジェロとデートしたり、万引きやライブへの飛び入り参加など、自由気ままに過ごすタマラ。
そうしている間に、CATTY.Co.が後を追うように進出し始める。
さらにとある事件が引き金となり、Q星はCATTY.Co.の広告と商品に覆いつくされ、政情不安がますます悪化していくのだった……

登場人物


  • タマラ
CV:ハラシマアツコ

「ファッキンな一日がはじまりますね」
アメリカンショートヘアと日本ネコのハーフで、1869年4月19日生まれの1歳
本作の時系列と明らかに矛盾しているが……?
幼い頃母親と6匹の兄妹から引き離されてネコ地球に連れてこられた。

性格は怖いもの知らずで自由気まま。気に入らないものはすぐに壊してしまうタイプ。
不時着という予想外のアクシデントに対しても、何事もなかったかのようにそこで出会ったミケランジェロをナンパするという胆力の持ち主でもある。
誰とでもタメ口で、口を開けば嘘や暴言や放送禁止用語がポンポン飛び出すが、舌足らずかつ抑揚のない喋り方のためどこか不気味。
総じて、つかみ所のない性格と言った方が正しいのかもしれない。
が、ミケランジェロとのピクニックの最中、ストーキングし続けていたケンタウロスに食い殺されるという無惨な最期を遂げてしまう……


  • ミケランジェロ
CV:武田真治

「ねえ、拳銃、44マグナム撃ったあとってさ、弾倉、あったかいんだろうな。きっと」
タマラのボーイフレンド。2歳。
ハンサムで知的ぶっているが、優柔不断で恥ずかしがり屋。タマラから「モアモアちゃん」と呼ばれている。
部屋のセンスは高く、インテリア雑誌にも取り上げられたことがあるらしい。一方でナイフや拳銃などのマニアでもある。
しかし働くのは嫌いじゃないと言いつつも働いている様子はなく、税金や借金を滞納しまくっている
タマラに命の危機に瀕したら助ける約束をするが、ピクニックの日、ケンタウロスに襲われたタマラを見殺しにしてしまい、それ以降苦悩の日々を送ることになる。

  • ケンタウロス

いつも白バイ警官スタイルの獰猛なイヌ族。
本物の警官ではなく権力倒錯者であり、日頃から鍛錬を欠かさない。
さらにペットのペネロペにSMプレイをしてはその姿をポラロイドで撮影・コレクションしたり、一目惚れしたタマラを食い殺したりと筋金入りの変態
しかし死んだはずのタマラが広告となって街中を覆い始めていくのを見て発狂。
ラストでは殺されたらしいことが明らかにされている。
ドラァグクイーン二人組からは「変態ごろつき」と呼ばれており、周囲からは相当恨まれていた模様。

  • ペネロペ

ケンタウロスのペットのネズミ。
飼い主からはSMプレイを強いられているが、実は意地悪な性格。
本編でその性格は発揮されなかったものの、短編集『TAMALA'S WILD PARTY』の「タマラのオカルトパーティー」にてその片鱗を見ることができる。
ラストではケンタウロスの元から脱走した。
小説版ではタマラから「ふるふるちゃん」のあだ名をつけられていた。

  • クッキー&バルバロイ

ケンタウロスの恋人。
二人ともゲイで、皆が振り返るほどかわいい。
クッキーのモデルはドイツの鬼才ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の遺作『ケレル』。後に何者かに惨殺されてしまう。
バルバロイはブラックドッグ。

  • クリスティン&ジョセフィン

ヘイトストリートのエドワード・ホッパー風カフェ「イスクラ」にたむろするドラァグクイーン二人組。
世相の変化に敏感で、本作の状況説明に一役買っている。

  • ノミノス教授
CV:加藤武

本作の事件の22年後に当たる2032年、ネコ地球上海で開かれた学会に出席した学者。
CATTY.Co.の秘密と陰謀を知り、膨大な証拠品と共に事実を暴こうとするが、会場に火の手が上がり行方不明になってしまう。


  • ゾンビネコ
CV:加藤武

Q星のヘイトストリートの運河に浮かんでいたゾンビ。
ミケランジェロの元を訪れ、CATTY.Co.とタマラの秘密を教えたり、「わしはお前さんかもしれん」と意味深な言葉を投げかけたりする。
頭蓋骨が露出し、左腕が腐ってもげ落ち、中から蛆がこぼれているという凄惨極まりない姿だが、なぜかミケランジェロは恐れる様子がない。

  • にんげんのおかあさん

タマラの養母。その名の通り人間。
なのだが、その風貌はアナコンダを体に巻き付け、一日中テレビゲームをしているという異様な姿。
母親としての意識は皆無で、雑種のタマラより純血のペルシャネコが好きと公言する差別主義者。
タマラがペルシャネコの子供を見るなり蹴りをかましていたのはこのため。
当然タマラから嫌われており、「アナコンダばばあ」と蔑まれている。
世間の事には基本的に興味はないが、タマラが誘拐された事件に何らかの関与をしていたと思われる。

  • 謎の郵便配達ネコ
CV:佐藤54-71

CATTY.Co.から派遣されたタマラの監視役。
オリオン座に行こうとするタマラを妨害するが、次第に自分の役目に疑問を持ち始める。

  • TATLA
CV:ベアトリス・ダル

ミネルヴァ教の崇める、破壊と再生を司る女神。
CATTY.Co.はこの女神を模したロボットを異次元空間に作り上げた。
タマラと鏡像のような関係を持ち、タマラが眠ると彼女や1歳以下の子供の夢に現れ、現実世界でタマラの身に起きたことがこのロボットの身にも起きる。
その役目は「破壊と再生」の欲望を増幅させるシステムそのものであり、異次元のメグロシティにそびえ立つ巨大エスカレーターをひたすら上昇し続ける姿で夢に現れる。
この描写は緻密な3DCGで描かれ、本作の異様さを一層引き立てる。
ちなみにこの世界はTATLA本人が創造したもので、現実世界に侵入しようとしているらしい。
立場上本来は出会うことのない二人だが、終盤で邂逅を果たすことになる。

用語集


  • CATTY.Co.
世界のあらゆる事業や産業を牛耳る超巨大複合企業。シンボルはオッドアイの猫目マーク。
膨大な資金力を元にした圧倒的な広報活動と政治的ネットワークが武器で、ネコ銀河系及び周辺ネコ惑星の国有系企業を合併・買収を繰り返し現在に至る。
戦争や革命前夜に惹きつけられる性質があり、ターゲットを定めるとその星にタマラを送り込み、「破壊と再生」のプログラムを起動させ、その星を手中に収めてしまう。

  • ミネルヴァ教
CATTY.Co.の前身に当たる古代宗教。
「世界の絶えざる進化のために、破壊と再生を無限に繰り返す」という教義を持つが、生贄の慣習があったため、迫害や虐殺を受け続けてきたという壮絶な歴史を背負っている。
生き残った信者たちは地下連絡網を活かし、手紙の配達を格安で請け負うようになった。
やがて彼らは情報の扱いや重要性を覚え、自分たちを迫害し続けた故郷に復讐するばかりか、全宇宙の支配さえ目論み始める。
その結果、後継のCATTY.Co.は今やただひたすら機械的に拡張し続ける「破壊&再生装置」と化している。

  • Q星

ネコ銀河系に浮かぶ惑星の一つで、大きさはネコ地球の体積の39%以下。
土星のように環があるが、それが「Q」のような形になっているためこの名がついた。
この惑星の北半球最大の街、ヘイト郡は「幸福の王子像」を中心に放射線状に街が広がるゴシック風の街並み。
なお、この像は実際のおとぎ話とは正反対にツバメと仲が悪く、毎日サファイアの瞳をつつかれている。
政情が不安定なため日常的に爆弾テロなどが発生しており、治安は最悪の一言。
この星にタマラが送られたことから、この星は大きな変化を遂げていくことになる。

その後のシリーズ展開


本作は元々三部作構想の1作目で、企画されていた2作目はTAMALAがオリオン座に向かう話、3作目はTATLA視点の3DCG作品だった。*2
難解な印象を受けるのは、シリーズが進むごとに徐々に謎を明かす予定だったからなのだが、結局これらの続編映画は作られることはなかった。
つまり本作単体だと、実質未完成の作品なのである。

しかし2007年にはOVAで『TAMALA on PARADE』が発売された。同時収録は3話からなる短編集『TAMALA'S WILD PARTY』。制作はSTUDIO4℃。
さらに本作の舞台となった2010年には『Wake up!! TAMALA』が制作された。
この『Wake up!! TAMALA』、何とNHKとWWFという、本来の作風からは全く想像できない組み合わせのコラボがなされている。
当然テーマも「生物多様性」とお堅いものとなっており、タマラの過激な発言も一切ないので、そのギャップで面食らう事間違いなし。
一応タマラの正体は広告塔であることを考えると、その節操のなさも納得できるかもしれないが。

それから月日は流れて2016年、t.o.LはWEBアニメ『逃猫ジュレ』を発表。
ループ物で、「種族の憎悪が人格を持ち、世界を壊そうとする」「それと戦うも結局は自分自身と戦うことになるため、最後は自分を受け入れる」というストーリーを予定していた。*3
……のだが、結局プロローグが作られたのみで、「to be Continued」のまま配信が止まっている。

もうこのままシリーズの展開は終わりか……と思われた2019年9月25日。
ツイッターにて公式アカウントが立ち上がり、新作を制作していることが明かされた*4
タイトルは『TAMALA2030 a punk cat in dark』。
公式LINEアカウントのメッセージでは、「今回はインディーズとして頑張り、しがらみ無くアーティスト性を発揮したい。野望は大きく、世界中の人に観てもらいたい」とのこと。*5
苦節約20年。ツイッター公式アカウント内で進捗状況を報告しているので、ファンは覗きに行くといいだろう。
まあ2年後(2021年)公開を目標だったのがすでにオーバーしているのだが

……という具合に、忘れられた頃になってぽつりぽつりと新作が発表されているという感じで、シリーズ展開がされている。


追記修正は、オリオン座にたどり着いてからお願いします。

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最終更新:2023年10月29日 09:13