登録日:2024/07/20 Sat 01:49:46
更新日:2024/12/03 Tue 12:17:40
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幸福な王子(原題:The Happy Prince)とは、1888年に発表されたアイルランドの作家
オスカー・ワイルドによる児童向け文学作品。
邦題については表記揺れがあり、「幸福の王子」「幸せな王子」「幸せの王子」などもある。
悲しくも優しい
自己犠牲の精神を描いた作品であり、その精神の美しさ、悲しさなど、様々な見方を持つことのできる作品であると言えるだろう。
あらすじ
ある街の広場に、「幸福な王子」と名付けられた立派な王子の像が建てられた。
その像は全身が金箔で包まれ、瞳はサファイア、剣の装飾にはルビーがあしらわれているというたいへん煌びやかなものであった。
ある日、そんな王子の像の下で1羽のツバメが羽を休めていると、王子の像が涙を流しているのに気付いた。
王子の像には魂が宿っていたのだ。
王子は街の人々の貧しい暮らしに心を痛めているが、像である自分には何もできず歯痒い想いを抱いているのだという。
そこで王子はツバメに、自分の体の金や宝石をその人たちに届けて欲しいと頼んだ。
ツバメは冬が来る前に暖かな南の国(エジプト)へと行きたかったが、王子の頼みを断る事も出来ず、その願いを手伝う事にする。
そうして王子とツバメは、文字通り身を削りながら人々を幸せにしていくが……
季節は流れ、厳しい冬が訪れる。
数多くの人々に幸せを分け与えた結果、王子の像は金箔も宝石も無くしたみすぼらしい姿となってしまう。
そして、ツバメも結局は南へと渡れず、王子に尽くし続けたものの、力尽きてしまう。
結局王子の像は撤去され、溶鉱炉で処分されるが、2つに割れた鉛の心臓だけは残り続けた。
しかし、それもツバメの亡骸と共にゴミとして処分されてしまう。
その様子を見ていた神が、天使に「この街で最も美しいものを持ってくるように」と命じた。
天使は王子の心臓とツバメの亡骸を持ち帰り、王子とツバメは天国で幸せに暮らすこととなるのであった。
登場キャラクター
この物語の主人公。
前述の通りの全身煌びやかな姿であり、更に心臓には鉛が使われている。
しかし当然ながらその場を一歩も動く事はできない。
かつてこの国で若くして亡くなった王子がモチーフとなっていて、そのせいか王子の魂が宿っている。
王子自身の人生は幸福であったが(像が「幸福な王子」という名なのはそのため)、生前は非常に閉鎖的な環境で過ごしていたため外の世界を知らず、実際に市井で暮らす人々の貧しさや苦しみを初めて目の当たりにし、その落差に心を痛めていた。
もう一人(一羽)の主人公。
寒い冬が来る前に暖かい南の国を目指す渡り鳥。
偶然の出会いから王子の頼みを聞き、彼の体を人々に分け与える。
王子とツバメが施しをした最初の人物。
女王の侍女のガウンに刺繍をする仕事を請け負っている。
貧しさのため病気の息子にオレンジも買ってやれない。
王子は彼女のために剣の柄に嵌められたルビーを差し出した。
舞台の脚本を書いているが、薪を買うお金もなく寒さで気絶している。
王子から与えられたサファイアをファンからの贈り物だと思い込み生気を取り戻す。
売り物のマッチを駄目にしてしまい、暴力的な父の待つ家にも帰れずただ死を待つばかりの少女。
王子のサファイアを手にしてガラス玉だと勘違いしながらも喜んで帰っていった。
住む家も食べる金もなく町中で凍えている。
王子から金箔を与えられ笑顔になる。
作中に登場する腐った権力者の代表のような存在。
数々の施しによって見る影もなくなった王子の像を撤去し、
代わりに自分の像を設置しようという痛い議論で時間を浪費する。
王子とツバメの施しを評価した存在。
彼らによって二人の魂は天国に迎えられた。
本作を書いたオスカー・ワイルドの作品の中にはこの『幸福の王子』とは対を為すような内容の『ナイチンゲールと薔薇』という作品が存在している。
こちらもある鳥の献身と自己犠牲を描いているのだが、そのあらすじは
“片思いしている女性に赤いバラを渡したいと思っているが、自分の庭にはそれが無くて嘆いている一人の男性を不憫に思った一羽の小夜啼鳥(ナイチンゲール)が、その庭のバラの一つに自分の血を全て吸わせて己の命と引き換えに赤いバラを作り出す。
そしてそれを見つけた男がそのバラを女性に渡して告白するのだが、当の女性にはこっぴどく振られてしまい、男はショックのあまり小夜啼鳥が命を犠牲にして作ったバラをズタズタに引き裂き、遂には女性不信まで拗らせる”
という、この『幸福な王子』のツバメが100倍マシに思えるような誰も報われる事のない完全なバッドエンドとなっている。
両作は同じ作品集の中に収録されて世に出たとされているため、それぞれの対極的とも言える結末は意図的な対比として描かれたものと思われる。
この作品をテーマとした作品やキャラクターなど
「これいくらになる?」
「
くぉらぁあっくそつばめ!!(巻き舌)」
童話を
しんちゃんで再現したシリーズにて、しんちゃんは
KinKi Kidsの堂本光一ツバメ役を担当。
王子は
漫画版では原典を踏襲した
イケメンな若者の姿をしていたが、アニメでは風間くんの姿となった。
ツバメのしんちゃんは勿論、王子の方も相手の情に訴えたり騙したりと『しんちゃん』らしいギャグチックなキャラ付けがなされているが、物語の大筋は同じであり、笑えて心温まる物語となっている。
クレヨンしんちゃんの公式Youtubeチャンネル「
クレヨンしんちゃんねる」でも動画(紙芝居)形式で閲覧が可能。
「大丈夫だよみんな。私がなんとかする!」
「この幸せの王子!」「私じゃあなたのツバメにはなれない!?」
困っている人を見過ごせない性格のプリキュアにしてスーパー
生徒会長。
その行き過ぎた博愛精神に、親友でお酒馴染みの
菱川六花から叱られる。
そんな六花の言葉でマナも考えを改め、幸せの王子とそのツバメとして共に戦う事となった。
「ツバメさん!ツバメさん!わたしの体の金をはぎとって気の毒な人たちにわけてあげてくださいな!」
入手した時点で効果を発揮するカードや、ランダム発生するイベントとして登場。
遭遇したプレイヤーは、自分の持っている便利系・移動(タンク)系カードを他の誰か一人に一枚あげなくてはならない。本シリーズにおいてカードは
ライバルより先んじるために欠かせないものだが、それを失うどころか相手に分け与えてしまうことになるので地味にキツい。また当然、持っているだけで損をするデビル系などのカードは渡せない。
名前の割に当人にとっては損しかないが、幸福な王子らしいとも言える。
恒常排出の星4キャラとして登場。
進化前はごく普通の像だが、進化後はロボのような姿となる。
ただし種族は鉱物タイプ。
この物語をイメージした、配信限定の楽曲。
NHK「みんなのうた」でも使用された。
上記に同じく、この物語をモチーフに作られた楽曲。
この楽曲が収録されている音楽画集「幻燈」の楽曲は様々な文学作品をモチーフとしており、その一つが「幸福な王子」モチーフの本楽曲。
大学生向けに就職情報と、作者が経験したFラン大学の日常、そして分かりやすい社会風刺を動画形式で解説していくYouTube、ニコニコチャンネルでのエピソード。
現代日本と思われる国で、王子は貧しき人々に宝石を与えていくが…
「せっかくお金をあげたのに、誰一人幸せになってないじゃないか!」
環ういが魔女になった姿。真名の"Shitori Egumo"は宮沢賢治が元ネタだと思われるが、
魔女としての姿やその境遇、ツバメのような姿をした使い魔"Oscar"は幸福な王子が元ネタだと思われる。
なお
魔法少女としての環ういも、「ツバメさん」と呼ばれる謎の凧のようなものを武器として使役している。
大規模になると童話モチーフと化す怪異「泡禍」が起こる世界と、泡禍の影響で
トラウマと表裏一体の異能「断章」を得た者達を描いた
ライトノベルのエピソード。
泡禍によって死亡するも、
泡禍の名残である遺骸を手っ取り早く回収火葬隠滅するためだけに「葬儀屋」と呼ばれる男の断章で「再生力の高い死体」として蘇生し、しかし生前の最期と蘇生方法双方の影響で精神崩壊しながらもものの弾みで逃走。そこで生前の同級生の少年(ツバメ)と遭遇し、彼に保護された少女(幸福な王子)。
主人公は最悪な形で「少女の身体を皆に分け与える」少年の行為の理由解明と阻止・少女の回収及び終盤では(ちょうどこの時フラッシュバックしていた自身のトラウマとも重なる事もあり)その処分をも防ごうと彼との交渉を狙うが、葬儀屋の助手にして「彼の断章のきっかけの泡禍の名残り」でもある蘇生死者女性の狂気も合わさり満足な会話が出来ず、その果てに(主人公も含めた)追っ手という名の「冬」に迫られた少年は
新たな泡禍の核と化し…
…そして、この事件の顛末は、本作全体の物語に「クライマックス」を起こすきっかけと化す事になる。
追記・修正は周りの人に幸福を分け与えることのできる方がお願いします。
- 変態王子に言及無しか…。 -- 名無しさん (2024-07-20 02:32:45)
- いい話だけど宝石もらった村人が窃盗でつかまらないか不安になる話 -- 名無しさん (2024-07-20 07:28:24)
- 古い童話なら結末まで書いていいのでは? -- 名無しさん (2024-07-20 07:44:06)
- 桃鉄の幸福な王子カードでも軽く結末をネタバレしてるしね -- 名無しさん (2024-07-20 07:48:58)
- 「月光条例」では目からサファイアを飛ばして攻撃するようになっていたな。 -- 名無しさん (2024-07-20 07:49:16)
- ↑2 デビル系カードを渡そうとしたのはいい思い出 -- 名無しさん (2024-07-20 08:00:32)
- 元々はバッドエンドの話だけど、燕が生存するアレンジも子供向けには多い印象(しんちゃんのもそのパターンだし) -- 名無しさん (2024-07-20 09:08:50)
- 普通に考えたら金箔ちょっと貰ったくらいでその場しのぎの金しか貰えないんだから結局貧しい暮らしは変わってねえじゃん -- 名無しさん (2024-07-20 09:40:41)
- この作品をテーマとしたもの→断章のグリム「しあわせな王子」 -- 名無しさん (2024-07-20 09:53:29)
- 内容濃いめだけど忘れがちな昔話 何でやろ -- 名無しさん (2024-07-20 10:21:29)
- とある就職斡旋チャンネルでは、現代日本の貧困層に金銀をばら撒いたら…というテーマで、飢えに苦しむ子供を放り出してパチンコやガチャに勤しむ母親…なんていう笑えない話 -- 名無しさん (2024-07-20 10:44:26)
- ↑ それと思しき動画を見てきたけど、マジ傑作だったわw -- 名無しさん (2024-07-20 11:08:51)
- 王子はもう死後だし像だからいいけどツバメはもう少し自分の命大事にして -- 名無しさん (2024-07-20 12:01:21)
- モンストだと星4のハズレ枠になってて「幸福どころか不幸だろ!」とか罵られる事あったな。しかも進化後の姿はロボットという… -- 名無しさん (2024-07-20 14:57:00)
- 翻案の一つ『燕と王子』では燕は生存、王子は同じように引き倒されるがその後鐘に鋳直され今も街を守っているのですという少し救いのある結末 -- 名無しさん (2024-07-20 18:18:11)
- だれか断章のグリムの追記お願いしますー -- 名無しさん (2024-07-20 20:47:34)
- ちなみにみんなのうたではツバメが放送される遥か前に秋物語という同じ作品をテーマにした楽曲が作られている。 -- 名無しさん (2024-07-20 21:28:14)
- 貧乏人がいきなり宝石だの金箔だのを換金しようとしたらまず窃盗を疑われるだろうし、王子の像から金箔や宝石が無くなってたら確実にクロ扱いだろうし、権力者にこき使われた挙句南へ行けずにツバメは死ぬしで王子は身勝手で自己満足な幸福に浸ってるだけじゃないの?ということを大学のゼミで詳細にレポートに書いたらA評価貰った思い出。ありがとう幸福の王子。 -- 名無しさん (2024-07-20 22:14:37)
- ↑ある人にはサファイアを、ある人にはルビーを、そしてある人には単位を与える心優しい王子やったんやなって -- 名無しさん (2024-07-20 23:19:54)
- もしかしてこれって…メリーバッドエンドじゃない…? -- 名無しさん (2024-07-21 04:06:26)
- 合理性だけでしか善行を評価しようとしないのはただのプラグマティズムだろう。 目の前に困っている人がいたら放っておけないのは人の根源的な惻隠の情であって否定する中二病にはなれない。 -- 名無しさん (2024-07-21 08:21:33)
- パチンコやら推しアイドルへの投げ銭やら、知識も勉強もしてないのに起業するとか言って芸能人の夢追い人ビジネスにハマって同じ映画何回も観るような人やらに、お金をばら撒くのは違うと思うの -- 名無しさん (2024-07-21 09:26:16)
- 桃鉄は絶許 -- 名無しさん (2024-07-21 09:48:35)
- そういや燕が死んだあとの王子がどうなったか記憶が曖昧だわ -- 名無しさん (2024-07-21 10:11:39)
- ↑青空文庫で読めるので興味があるならオススメしとく -- 名無しさん (2024-07-21 11:58:31)
- ツバメ「ブラック企業に努めてるけど俺はもう限界かも・・・もうだめぽ」 -- 名無しさん (2024-07-21 15:03:55)
- この作品1974年に『しあわせの王子』というタイトルで短編アニメ映画になっているが、監督は富野喜幸(当時)だったりする。数年前に『富野由悠季の世界展』を見に行った人にはご存知なネタだけど。 -- 名無しさん (2024-07-21 18:29:11)
- 左右盲(ヨルシカの楽曲)の記述を追加しました。 -- 名無しさん (2024-07-22 04:04:07)
- 初めて知ったのはしんちゃんのパロディだな。燕役のしんちゃんが最終的に温泉だか健康ランドで春になるまで過ごすわさいなら〜って感じのハッピーエンドで終わったんだっけ -- 名無しさん (2024-07-22 08:24:40)
- しんのすけツバメは「散々慈善活動に付き合わされてウンザリしてるけどそれはそれとしてやっぱり王子のことは嫌いじゃないしなんだかんだで友達ではある」っていうポジションが原典よりも感情移入しやすいのもある -- 名無しさん (2024-07-22 09:18:09)
- 金ばら撒き王子あるの草 -- 名無しさん (2024-07-22 13:06:37)
- ↑2アニメ版だと王子役が風間くんになったり、銅像を必死に動かそうとしているシーンとか追加されてより友情感増してたね -- 名無しさん (2024-07-22 14:56:31)
- この話を一概にバッドエンド扱いするのもどうか。「キリスト教圏では最後に死のうと神の国に召されるのはハッピーエンドで、不老不死になる=神の国に入る権利を奪われる=呪われし忌まわしいもの=バッドエンド」という定義はもっと知られてもいいと思う。小さな子供向けでまで忠実にやる必要はないけど、本来は白鳥の湖も赤い靴もパンを踏んだ娘もハッピーエンドで、人魚としての死後空気の精になる=神の国に入るのに待ったをかけられる人魚姫は希望を残しつつもバッドエンド。 -- 名無しさん (2024-07-22 20:03:54)
- ↑いや違う、人魚は元々魂ないから人間より長寿だけど、死ぬと消えるって前提。(薬で人間化しても魂はないので無効)空気の精に転生したことで数百年ぐらいかかるけど、人間と結婚しなくても魂が得られる。というルール。最短ではないが十分グッドエンド。 -- 名無しさん (2024-07-23 02:25:38)
- 「あなたにキスをしてもいいですか」←ワイルドの生涯知ってからだと親愛の挨拶ですよね?と確かめたくなる -- 名無しさん (2024-07-23 07:59:54)
- 作中に登場する上流階級が文句言うだけの役立たずばかりなのが皮肉すぎる。 偽善批判も全部織り込んだ上で書いてる。 -- 名無しさん (2024-08-04 08:28:44)
- アリプロの新しいアルバムにもあったね、臓器移植がテーマの歌だった -- 名無しさん (2024-08-04 08:46:47)
- とあるなろう作家が幸福な王子じみた話を書いていた。その書き手は自分のツイ垢で「金があったらもっと小説が書けるんだが…」とか漏らしていたんだが、その人はR-18のノクターンの方に投稿しているくせR18描写が数行しか無くて、残りは農奴の悲惨な生活とか上級国民批判とか書いている、読者が読みたいことを根本的に誤解している人だった -- 名無しさん (2024-08-04 09:52:27)
最終更新:2024年12月03日 12:17