楽園ノイズ

登録日:2022/06/26 Sun 19:19:00
更新日:2024/03/18 Mon 16:08:02
所要時間:約 10 分で読めます





ところで最初にはっきりさせておきたいのだけれど、僕が女装したのは純粋に演奏動画の再生数を稼ぐためであって特殊な趣味があるわけではない。断じてない。


レーベル:電撃文庫
著  者:杉井光
イラスト:春夏冬ゆう


概要

自分の曲を作ってネット投稿している主人公と、類まれな音楽の才能を持ちながら様々な問題を抱えて苦悩している少女達の学園物語。
物語自体は重めであるものの、恋愛に鈍感で弄られやすい主人公と彼を弄りつつも想いに気付いてほしいヒロイン達による漫才のような軽快なやり取りによって重さを軽減している。

物語の主軸は主人公達によって結成された学生バンドの活動だが、そこに様々な立場の音楽関係者達の人生が絡んで影響を与えていく。
その音楽関係者の中には作者の過去作品に登場した人物も含まれる。
また古今東西の実在する曲の数々がクラシックからJ-POPまでジャンル問わず登場し、物語を動かす要素の一つとなっている。


あらすじ

出来心で女装して演奏動画をネットにあげた僕は、謎の女子高生(男だけど)ネットミュージシャンとして一躍有名になってしまう。顔は出してないから大丈夫、と思いきや、高校の音楽教師・華園美沙緒先生に正体がバレてしまい、弱みを握られてこき使われる羽目に……
無味無臭だったはずの僕の高校生活は、華園先生を通じて巡り逢う三人の少女達-ひねた天才ピアニストの凛子、華道お姫様ドラマーの詩月、不登校座敷童ヴォーカリストの朱音-によって騒がしく悩ましく彩られていく。
恋と青春とバンドに明け暮れる、ボーイ・ミーツ・ガールズ!
(1巻あらすじより)


登場人物

パラダイス・ノイズ・オーケストラ(PNO)


「べつに僕が目立たなくたっていいんだよ。ていうかベースは目立っちゃだめだろ。バンドが目立てばそれでいいんだよ」
●村瀬真琴
主人公。ベースとヴォーカル及び作詞作曲担当。一応バンドリーダーだが自覚は薄い。

自作の曲を演奏する動画を動画サイトにアップしている高校1年生で、自他ともに認める音楽バカ。
れっきとした男性なのだが、体系が細身で体毛も薄いために女装をすれば完全に女性にしか見えなくなる。
本人は嫌がっているにもかかわらず事あるごとに女装をさせられてしまう羽目になり、4巻ではとうとう普段着だったのに初対面の相手に女性だと間違われてしまう事態になった。

再生数が伸びないことに悩んでいた中学時代のある日、姉にそそのかされて女装した動画をアップしたところ即日で再生数が五桁を突破、翌日には六桁に達するという強烈な体験をすることになる。
その成功体験を忘れることができずに葛藤しながらも女装して動画をアップし続けた結果、視聴者数は伸びたが変態的なメッセージを送ってくる輩も出てきてしまうようになった。
そこで男だという事をカミングアウトしプレイヤーネームも『Musa男』に変えたのだが、全く効果がなく辟易してしまう。
それでも「女装をしなければ自分の曲なんて誰も聞いてくれないのではないか」という恐怖心には勝てずに女装動画を作り続けている。

高校では自分が『Musa男』であることを隠していたが、あるとき自分の曲を音楽室のピアノで弾いたところを音楽教師の華園先生に目撃され、そこから正体がバレてしまった。
それからは秘密を喋らない代わりに授業の伴奏をするなどの様々な要求をされるようになった。

女装の件でもわかるとおり、自分に自信がなく非常にネガティブな性格。
バンド結成も才能豊かな3人に比べて自分は劣るからと当初は乗り気でなく、結成を決めた後も「自分は必要ないのではないか」と裏方に行こうとしたり、バンドが評価された際も凛子たちの功績であって自分は寄与していないと思い込んだりしている。

自分が女性に好かれるという発想がそもそも無いため恋愛ごとにも鈍く、凛子達のアプローチを冗談だと思うのは日常茶飯事。
クリスマスにはデートに誘われているということに気付かずクアドラプルブッキングをやらかし、バレンタインデーには凛子たちが一斉にチョコを取り出したのを見て友チョコ交換でもするのかと思ったりと全く改善が見られない。

ツッコミ気質であり、相手のボケに対してついツッコんでしまうため普段から周囲の人々に弄り倒されている。




「とにかく、逮捕されても困るし、今後わたし以外に性犯罪をしないこと」
●冴島凛子
キーボード担当。小学生の頃からコンクールを総なめにし、クラシック界では有名だったピアニスト。
本人は人の心に音楽を届けるのがピアニストだという持論を持ち、コンクール荒らしと呼ばれていた自分はピアニストではなかったと考えている。
高校生になった現在でもその腕は衰えていないが、自分をプロのピアニストにすることに執着する母親に反発して普通科高校に進学してきた。

入学当初は心を閉ざしていたが音楽を捨てることはできずに選択授業で音楽を選び、華園先生に偶数組の伴奏担当に任命されたところで同じく奇数組の伴奏担当になった真琴と出会う。
その際に華園先生から貰った真琴の曲の楽譜を弾いていたのだが、その曲を凛子に酷評された*1ことで真琴は意地になり、翌日に書き直した楽譜を渡した。
以後は真琴が新曲の楽譜を渡し、それを放課後に凛子が弾いて評価するという奇妙な関係になる。
そんな生活の中で真琴は凛子の過去の演奏を調べたりして彼女の悩みに向き合おうとするようになり、その想いから作った曲を二人で演奏したことで完全に心を開いた。

普段から毒舌で喋り、真琴を弄り倒している筆頭。
心を開いてからは口調は変わっていないものの上記台詞のように内容はデレまくっているのだが、凛子の毒舌と真琴のツッコミ気質が噛み合って漫才のようになってしまうためなかなか進展できていない。
真琴との掛け合いを楽しんでわざとやっているところはあるものの、彼の鈍感さやネガティブなところには歯痒さを感じている。




「真琴さんはもう金輪際モテなくていいんですっ。これ以上増えたら困ります」
●百合坂詩月
ドラム担当。高名な華道家元の娘であり、本人も華道を愛し実力も非常に高い。
一方で道楽人だった祖父に子供のころからジャズを学んだために優れたドラムの腕を持つ。
そんな出自のため普段はお淑やかな少女なのだが、ジャズやドラムのことになるとマニアックな知識を饒舌に話しまくる音楽オタクと化す。

華園先生に音楽準備室の片づけを頼まれた際に同様に頼まれた真琴と出会い、成り行きからドラムの演奏技術を披露。
その後は放課後に真琴の前で演奏しに来るようになり、凛子とも顔を合わせることになった。
それからしばらくした後に母親に音楽活動のことがバレ、華道に専念させるためにと活動に反対されてしまう。
詩月本人は諦めようとしたのだが、母親の言いなりになっていることを快く思わない凛子が仕掛けた3人でのセッションによって吹っ切れ、母親を説得。
華道とバンドの両立を目指すようになった。

出会った当初は真琴と凛子の関係を邪魔しないようにと一歩引いていたが、吹っ切れた後は恋愛方面にも積極的に変わった。
既に結婚のことまで視野に入れているのだが、ガチすぎる上に凛子の弄りに被せる形でアピールすることが多いため本気にしてもらえない。
また凛子や朱音は恋敵であると同時に大切な友達でもあるため、重婚についても調べていたと口を滑らせている。




「このバンドは真琴ちゃんで保ってるんだよ。真琴ちゃん抜きにしてうちらだけ欲しがるとかあるわけないでしょ!」
●宮藤朱音
ギターとヴォーカル担当。小学校の時から登校拒否を繰り返しているが頭は良く、中学受験も高校受験もやすやすと突破してきた。
しかし本人はせっかく入学した中学にも高校にもほとんど登校しておらず、音楽スタジオ『ムーン・エコー』に入り浸って*2顧客のバンド達にヘルプとして雇われる形で収入を得ていた。
本人にとっては自分の演奏でお金がもらえるという事実が嬉しいだけで稼ぐ気はないため、ヘルプ料は激安で値切りにも応じている。

類まれなる楽器の技術を持ち、真琴が目撃した時には3つのバンドでそれぞれドラマー、サイドギタリスト、ベーシストを担当し、その全てを完璧にこなしつつ目立たないように他のメンバーの演奏に溶け込ませるという神業を披露している。
しかしそれがかえって雇ったバンドのメンバーのプライドを刺激し、「ヘルプを頼めば自分たちの演奏も上手くなったように聞こえるが、それは自分達にとって良くないと思う(要約)」とキャンセルをかけられてしまった。

実は彼女は似たような理由でバンドを幾つも潰してしまったという過去があった。
ヘルプをしていたのは正規メンバーでなければ大丈夫なのではないかという思いからだったが、それも駄目だったことで心が折れかけてしまう。
そんなときに真琴経由で詩月に呼び出され、華道をたしなむ者として技術で収入を得ることにこだわりのある彼女に安売りしていたことを咎められた上で「あなたの腕につけた値段」として大金を渡された上で一緒に演奏。
それがきっかけでメンバー入りし、高校にも登校するようになった。


周囲の人物


「いやあ、ほんとに男の子だったんだねえムサオ。まさかあたしの教え子とはね」
●華園美沙緒
真琴達の通う高校の音楽教師。真琴の弱みを握って授業や校内の音楽活動を任せるなどこき使ったり、音楽準備室でサボっていたりする問題教師だが、若く美人なこともあって生徒からの人気は高い。

真琴の音楽活動を応援しており、凛子や詩月と出会うように誘導した節があるほか、かつて朱音の家庭教師をしていた経験から彼女の情報を提供したりしている。
またバンド活動に乗り気ではない真琴の背中を押したりもしているが、彼の心を動かすには至らなかった。





「他人の音楽で思いっきり打ちのめされて、胸いっぱいになって、満足しちゃうようなやつはそこまでなんだよ。自分で音楽やらなくていいんだ。私はそうだった」
●黒川
真琴達の使っている音楽スタジオ『ムーン・エコー』の若き女性オーナーであり、華園先生の友人。
かつては男装女性バンド『黒死蝶』のメンバーだったが、現在は引退して裏方に徹している。
一度だけかつてのメンバーに断れないよう仕組まれて復活することになったものの、その日のライブの後に自分の限界を吐露し、改めて引退を宣言した。

真琴が『ムーン・エコー』に通うようになってから親しくなり、なにかと彼をからかっている。
その一環として話の流れを誘導した上で「それは実質的に私へのプロポーズだよね?」と尋ねたり、前述の元メンバーの誘いを断るために彼氏として紹介したりしたため、凛子達に警戒されている。




「当日いきなりでほんとうにほんとうに申し訳ないですが、どうかご検討願えないかと」
●柿崎
イベント会社に勤める会社員。三十代半ばくらいのスポーツマンタイプの男性。
交流のある黒川から『Musa男』を紹介され、曲を全て聞いたうえで自社のライヴへの出演を依頼してきた。
このライヴがPNOの初舞台となる。

本人も調子のいい性格だが、それ以上に適当な性格の玉村社長に振り回される苦労人。
社長が「各方面に調子のいいことを言って回り、後で辻褄が合えば儲けもの」な思考の人物なので、そのしわ寄せを喰らい続けて相当にストレスが溜まっている。




「男のかっこうをしているってことは本気のミュージシャンモードじゃないってことですよね」
●志賀崎伽耶
『Musa男』に憧れ、PNOへの加入を志望する中学3年生。
『歌謡界のプリンス』と呼ばれる志賀崎京平と宝塚出身女優の黛蘭子の間に生まれたサラブレッドであり、両親譲りの歌唱力と自ら努力して身につけた高い演奏能力を持つ。
派手な女性遍歴を持つ父とは折り合いが悪く、父の曲を聴くことすら拒否している。

娘がPNOに入りたいと思っていることを知った京平とガールズバンドとして売り出したいと企んでいる玉村社長の思惑が一致し、真琴達に紹介される。
その際には玉村社長が「PNOが次のライヴのためにベーシストを探している」という理由を付けて(勝手に)開いたダミーのオーディションを受けてきたため、事情を知らない本人はライバル達に打ち勝って突破したと思い込んで自信満々だった。
その熱意は本物で、真琴達に直接会ってメンバー募集などしていないと言われても諦めずに自ら売り込みに来た程。

PNOと交流を深めつつあった矢先に真実を知ってふさぎ込んでしまうも、彼女へのメッセージとしてPNOが演奏した曲を聴いて立ち直る。
そして「自分の現状を一人で考える時間が欲しい」と一時離脱した真琴から代理メンバーとして指名された。
せっかくPNOに入れたのに肝心の憧れの人が離脱してしまうという状況に憤慨はしたが、最終的には承諾する。




「少年。きみひとりだけレベルが違いすぎる。私がプロデュースするからには、きみにバンドを抜けてもらわなければならない」
●キョウコ・カシミア
作者の別作品『さよならピアノソナタ』からのゲストキャラクター。本名は神楽坂響子。

世界的に有名な大物ミュージシャン。
ジョン・レノンが成しえなかった音楽による世界革命を14歳の頃から本気で目指しており、世界的に名が売れた現在でも道半ばにすら達していないと考えている。
また自分に憧れて音楽の道に進むような者が現れるのを良しとせず、むしろそうした人間の夢を手折るような強さを持つ音楽を理想と語る。

交流のあった柿崎の会社の社長が真琴達に無断でPNOのプロデュースを依頼し、キョウコの方も以前から動画で見て関心を持っていたことで乗り気になって会いに来た。
プロデュース自体は最終的に断られることになったが交流は続いており、真琴から進路相談を受けたこともある。

思ったことを率直に言う性格なので誤解を招くこともある。
上記の台詞はPNOの生演奏を聴いた上で真琴を称賛したものなのだが、真琴は真逆の意味でとらえてしばらくウジウジしてしまい、真意がちゃんと伝わっていた凛子達が困惑することになった。





追記・修正は女装した姿を動画にアップしながらお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • ライトノベル
  • 電撃文庫
  • 杉井光
  • 春夏冬ゆう
  • 学生バンド
  • 音楽
  • パラダイス・ノイズ・オーケストラ
  • 女装男子
  • ラブコメ
  • 学園モノ
最終更新:2024年03月18日 16:08

*1 この曲自体は真琴自身も認める出来の悪い曲だった。

*2 オーナーの黒川には「うちの座敷童」と呼ばれていた。