登録日:2012/02/03(金) 01:30:42
更新日:2023/12/28 Thu 17:50:06
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ときどき、気になることがある。
なぜ物語には始まりと終わりがあるのだろう
瀬名秀明作の小説。
これまでは「
パラサイト・イヴ」や「
BRAIN VALLEY」などの緊迫した
SFホラーを世に送り出していた瀬名秀明が書いた、SFジュブナイルである。
3つの独立した物語から本編は成り立っており、それが後半に行くに連れて、見事に絡み合い、クライマックスへ向かうのは圧巻。
さらに、作者お得意の時代考証や緻密な設定もきちんと存在している。
なお、この本は
藤子・F・不二雄氏に多大な影響を受けて書かれており、本編でも何度か
ドラえもんへの言及がある。
角川ミステリのエラリー・クイーンシリーズ、夏の熱さにとろけながら向かう学校の
図書室……などの、子供時代を再び体験するような、
そんなノスタルジックな気分にさせてくれる。
●ストーリー・亨編
小学六年生の少年亨は、その
小学校最後の
夏休みに偶然、不思議な博物館にたどり着く。
その博物館で、亨はひとりの女の子、美宇と出会った。いつも黒猫のジャックとともに登場する美宇に案内されて、博物館の中を巡る亨。
そこは、時間と空間を越えてあらゆる博物館の展示室へと繋がっている「ミュージアムを展示するためのミュージアム」だった……
●登場人物
亨
ミステリー、特にエラリー・クイーンが大好きな小学六年生。苗字は不明。
友人と一緒に「雑誌」と称する文学系の
同人誌を作っているなかなかハイスペックな男。
とある日、敢えて道を間違えて帰るというひねくれたことをやっていたら、謎の博物館「ミュージアム」へとたどり着き、美宇とともにミュージアムを周ることに。
登場する女の子とは大体
フラグ立てていく
リア充。
だが小学生なもんだから素直になれない。
黒川美宇
謎の博物館、ミュージアムに住む黒服の女の子。
基本的に黒猫と一緒にいる不思議な少女。
亨を「博物館巡り」に誘い、様々な博物館を共に周り、ガイドを行う。
猫目に黒服、ミステリアスと、アニヲタに受ける要素はしっかり押さえている。
父に
手塚漫画の登場人物の如く丸っこい父、黒川満月が存在する。
中盤、亨と共に幻の出土品である「神牛アピスの黄金像」をミュージアムに復活させようとするが、それが事件の発端となり……
鷲巣恵子
亨のクラスメイトであり、同じ図書委員でもある。
図書委員の仕事中にドリトル先生とか読んじゃう小学生。
亨の「雑誌」にも寄稿している。
最近、亨が気になっているようだが……。
●ストーリー・マリエット編
稀代のエジプト大好き人間であり、遺跡の宝を狙う盗掘者達とも自ら大立ち回りを繰り広げる考古学者オーギュスト・マリエット。
とある日、彼は神牛アピスの黄金像を発掘していた。
しかし、そこへ謎の東洋人の子供二人が現れる……
●オーギュスト・マリエット
1821‾1888年に実在した、考古学者。
前述の通り、稀代のエジプト大好き人間。
考古学を、なにより躍動感あふれるこのエジプトという国を心から愛しており、それを壊すものには容赦はしない。
とある出来事から着想を得てオペラ「アイーダ」を作ることになる。
●ストーリー・「私」編
作家である「私」は、「小説を書くってなんだろう?」という遅れてきた
中二病のような悩みに直面していた。
それを吹き飛ばすため、新たな形態の小説の執筆に着手するのだが……
●私
作家。
モデルは多分瀬名秀明本人だと思われる。
「理科系作家」として紹介されることが多いらしい
ある評論家に「もっと勉強しろ。この作者にいいたいことは結局ただ一言、文系を甘く見るな、である」と週刊誌に書かれたりする。
そのため、最近妙なことで悩むようになった。
彼が物語とどう関係するのかは、ぜひ原作を読んでいただきたい。
●用語
「THE MUSEUM」
亨の目の前に突然現れた博物館。
大理石のロビーでは「フーコーの振り子」が音を立てて動き、不思議な雰囲気を醸し出す。
その正体は、コンピュータの中の世界たる「仮想現実」。
コンピュータによって制御される「博物館」を展示する博物館である。
その場にいながらにしてスミソニアン博物館、ルーブル美術館、東京国立博物館、更には今はもうない小さな個人博物館……といった、
「博物館」と判定できる施設へと行くことができる。
近未来の”人工現実”の技術で造られた博物館の展示物(博物館)は本物と寸分の差もない。
更に、この”人工現実”の技術はリアルにすることを通じて、実物(現実の間)と”同調”することを可能にしている。
つまり、過去の博物館の展示室などを寸分たがわぬ形で再現できれば、その時代へ「
タイムスリップ」することも可能なのだ。
理系と文系、両者の夢である。
神牛アピス
本作の
ラスボスである。
失われたエジプトの聖牛アビスの神殿セラペウムに祀られていた牛の神像。
しかし、紀元前523年にメンフィスにおいてカンビュセス二世に殺されたアビスの怨恨が宿っており、
セラペウムにおいて黄金像を成長させ、そこをミュージアムで再現した亨らに迫る。
美宇も亨も関係ないというのに迷惑もいいとこだ。
美宇の父に間一髪救われた二人だったが、アビスはミュージアムにハッキングをかけ、実際の力を得て復活をとげようとしていた。
これを止めるため、亨と美宇はアビスの依り代である聖牛像を求め、発掘当時のオーギュスト・マリエットを訪ねることになる……
追記・修正は「博物館」からお願いします。
最終更新:2023年12月28日 17:50