登録日:2023/08/23 Wed 19:30:00
更新日:2024/10/22 Tue 00:58:03
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『醒拳(せいけん 広東語:龍騰虎躍 英語:Fearless Hyena II)』とは香港のアクション(カンフー)映画。
主演は
ジャッキー・チェン。監督はチェン・チュアン。製作総指揮ロー・ウェイ。
概要
ジャッキー・チェンのデビュー初期のシリーズ「拳シリーズ」の最終作。
カンフー映画のお約束「仇討ち」をテーマに据えつつ、ジャッキー映画特有のコメディ的演出や二人の主人公に二人の宿敵などの斬新な要素を詰め込んだ意欲作。
香港では1983年公開。
日本ではジャッキーの過去作の再編集作『ジャッキー拳スペシャル』との併映で1986年公開。
劇場版『
北斗の拳』と併映した地方もあったらしい。
日本語吹き替え版では挿入歌「冒険王」(唄:時代錯誤)と主題歌「一番星のブギ」(唄:松岡一美(時代錯誤))が追加されている。
どっちも結構いい曲。
ちなみにタイトルは映画公開時では「ジャッキー・チェンの醒拳」、ビデオ等では「新・クレージーモンキー 大笑拳」となっている。
本項目では現在のブルーレイや配信サイト等に合わせて「醒拳」とさせていただく。
あらすじ
「天鬼拳」の天鬼兄弟は「醒拳」を使うチン一族の撲滅を狙い、非道な行為を繰り返していた。
チン一族の兄弟ナンとペイはまだ幼い子供を連れ、彼らから逃げるため離ればなれになってしまった。
それから月日が経ち、ナンの息子「ロン」とペイの息子「ヤス」は青年になっていたが、どちらも仕事も拳法の練習もしない放蕩者になってしまっていた。
しかし、醒拳のことを嗅ぎつけた天鬼兄弟の魔の手が迫る。
次々に大切な人々を抹殺していく天鬼兄弟に二人の怒りの醒拳が炸裂する。
登場人物
吹き替えは左側が劇場公開版、右側がテレビ放映版となっている。
演:
ジャッキー・チェン
声:
石丸博也
主人公。
父親から学んだ醒拳(字幕版では六合八卦拳)の達人だが、抜け目のない性格で真面目に働くことを嫌い盗みや賭けばかりしている。
父親を見捨てきれないなど根は優しい。
中盤からは父親に命令され変装をするようになる。
父親を殺され、復讐のためヤスを鍛え自身も修行するようになる。
後に叔父もヒロインも子分も殺されるため手遅れ感がすごい。
演:ワイ・ティンチー
声:稲垣悟/関俊彦
もう一人の主人公。
美男子だが、とてつもない怠け者で便所に行くことさえ面倒くさがっている。
拳法の修行もせず、からくりで家をオートメーション化することで一歩も動かない自堕落な毎日を送っている。そのからくりで儲けろよ
父親に陰口を言われたこともあり最初はカンフーの練習を拒否していたが、変装したロンによって鍛えられていく。
最終決戦でもトラップを使い敵を翻弄した。
演:ジェームズ・ティエン
声:小島敏彦/円谷文彦
ロンの父親だが、ヤクザ者手前の彼に頭を悩ませている。
天鬼流から逃れるために、何度も引っ越しを行ってきたとのこと。
天鬼兄弟に居場所を突き止められ、生きたまま焼き殺された。人によってはトラウマもののシーンなので注意。
その場面は自分から焼かれに行ってるようにしか見えない。
演:チェン・ホイロウ
声:仁内建之/石森達幸
ヤスの父にしてナンの兄。
弟と同様にぐうたらな息子に手を焼いている。
ナンとペイの兄弟。
道場に乗り込んできた天鬼兄弟と戦うも敗れて死亡した。
演:ヤム・サイクン
声:銀河万丈/麦人
演:クアン・ユン・ムン
声:郷里大輔/大塚芳忠
「天鬼拳」(字幕:世末流)と言う拳法を使う二人組。二人とももの凄いV字額。
吹き替え版では天鬼兄弟と呼ばれるが、字幕版では極悪兄弟とそのまんまな呼ばれ方をする。
父親の仇である醒拳一派の根絶やしを狙う。といっても父親も悪人だったようだが。
白髪で金の服が天鬼。黒髪黒服が地鬼。
それぞれでもかなりの達人だが、二人そろったときに使う「鬼影の術(字幕版では鬼影移形)」による連続攻撃は無類の強さを発揮する。
鬼の名に恥じない強さであり、作中のほとんどの主要人物を殺害している。
最終決戦ではコンビネーションを崩すため引き剥がされ、天鬼はロン、地鬼はヤスの相手をすることとなる。
地鬼はヤスの竹槍トラップで傷を負ったところを背骨を折られ倒され、天鬼は合流した二人の蹴りを喰らい倒された。
金色の衣装を着た学芸会臭がすごい天鬼兄弟の配下の4人。
兄弟と共にショウ・キン一家やペイを襲撃する。
最終的にはヤスの罠により全滅した。
演:マー・チアン
声:屋良有作/幹本雄之
浮浪者の集団ショウ・キン一家の親分格。
醒拳一族に恩があり、ペイとヤスを長年かくまうも居場所を突き止めた天鬼兄弟に殺された。
演:リン・インジュ
声:島津冴子/吉田美保
ショウ・キンの娘。本人も拳法の使い手。
キンに逃されロンと愛情を育むも、ペイと共に殺されてしまう。
演:ハン・クォツァイ
声:二又一成/堀内賢雄
借金をしており、葬式のサクラや空き巣で生計を立てるろくでなしの青年。
ある日ヤスの家に迷い込み、からくりで驚かされて以降彼の子分になりイカサマ道具で金を儲けるようになる。
変装したロンから醒拳を学び多少は強くなったが、その拳に目をつけた天鬼兄弟に見せしめに殺された。
演:ディーン・セキ
声:池田勝/山野史人
飯屋の主。4つ子の兄弟がいるらしい。
めちゃくちゃ良く喋るが、飲み残しを出したり、従業員をタダ同然でこき使ってたり金にがめつい。
仕事を探しに来たロンを雇うが、あまりにキャラが独特なせいで逃げられてしまった。
コメディ役とはいえ台詞にジャッキーチェンやコンピューターが出てくるなどどう考えても時代背景を間違えている。
演:ペン・カン
声:竹本拓/田中雅彦
二人の子分を引き連れた白服の男。
ロンと技の競い合いで賭けをしたが、彼の口車に乗せられ金を根こそぎ奪われ、逆上して襲いかかるも叩きのめされてしまった。
いかにもライバルっぽい男だが中盤に一回しか出てこない。
声:田原アルノ/柴本浩行
ロンの友人。気弱。
ロンの賭けに付き合わされ、父親の薬代を賭けに使わされた。
一応最後にロンが賭けに勝ったので元は取ったようである。
こっちも一回しか出てこない。
追記修正は鬼を名乗る兄弟かそいつらの背骨をへし折った方にお願いします。
真の概要
実は本作はジャッキー映画の中でも有数の問題作として知られている。
実は、この映画はジャッキーの過去作の没カットにそっくりさん俳優で追加シーンを継ぎ接ぎして誤魔化した作品なのである。
カットされ、流用しても問題ないようなシーンばかりのため、終盤までにジャッキーが目立つのはどうでもいいような場面ばかりである。
実際よく見るとジャッキーの格好や髪の長さが場面によって変化している。
ダミー俳優で撮影された場面は変装していたり顔が映らないように撮っていたりしている。
主に使用したのは今作の前に撮影した『
クレージーモンキー 笑拳』の没カットと言われている。
ジャッキーの父親役がジェームズ・ティエンなのは同作で祖父役で絡みが多かったからであり、ジャッキーと戦う天鬼がヤム・サイクンなのも同作で宿敵「鉄の爪」を演じていたから。
飯屋の主のディーン・セキは『笑拳』では葬儀屋として出演しており、おそらく『笑拳』初期案では兄弟でいくつかの店を経営している設定であり、飯屋のシーンは尺の都合でカットされていたのだろう。
ジャッキーが初登場で驚いているのも「あんた葬儀屋にもいたよね?」と言う意図だったと思われる。
というか、没カットどころか堂々と過去作のフィルムを使いまわしてるシーンすらある。ジャッキーパートのラストシーンは『笑拳』の使いまわし。『龍拳』や『拳精』からも使い回されている。
そのせいで最終決戦では知らないやつの死体が転がっている(笑拳の鉄の爪の配下)。
話自体も極端な矛盾こそないものの、全質的に唐突でまとまりのない作品になってしまっており、その点でも評価が低い。
お馴染み修行シーンがほとんどなく、父親の焼死など悪趣味な場面も多いのもマイナス。
そもそも主人公達の拳法がどんな特徴の拳法かわからないというのはちょっと問題だろう。
信じられないことだが、こんなのでも上述の通り、日本でも劇場公開された。
しかもジャッキーブーム真っ只中だったので下手な映画より売上を出したらしい。まあ、地方では劇場版『北斗の拳』との併映だったのでそっちの影響もありそうだが。
とはいえ、当時の香港映画は吹き替えで制作されている。そのため他のジャッキー映画を知らなかった場合は分からなかった視聴者もいるかもしれない。
流石に近年のブルーレイなどでは再編集作に近いことが明記されている。
当然、ジャッキー本人は無許可の作品であり、さらには作中の吹き替えで「小さい目ででかい鼻」などと言われていたためジャッキーは裁判沙汰も考えたほど怒ったらしい。
再編集作『ジャッキー拳スペシャル』もなぜか稲川淳二が解説役と言う中々変な作品。
なぜこんなことになったのか
こんなパチもん映画ができてしまったことにはジャッキーと彼の所属していた今作の総指揮のロー・ウェイが代表のロー・ウェイプロダクションとの確執がある。
ジャッキーはデビュー当初ロー・ウェイプロと専属契約を結んでおり、俳優としては鳴かず飛ばずの状態であった。
それが変わったのは『
スネーキーモンキー 蛇拳』と『
ドランクモンキー 酔拳』のヒットであり、ジャッキーは一躍ドル箱スターとなった。だが、この二作はロー・ウェイプロの作品ではなく、一時的にレンタルされたシーゾナル・フィルムの作品である。
ロー・ウェイはプロダクションに戻ってきたジャッキーを今後も主演として使っていく予定だったが、ローウェイと配給会社とのトラブルが以前からも目立っていたことや以前にジャッキーが若いスタッフと作り上げた『カンニングモンキー 天中拳』を独断でお蔵入りにされたこと、自身の持ち味を無視して演技を強制させるような態度、次回作(『笑拳』のプロトタイプ)の脚本が気に入られなかったことからジャッキーに撮影をボイコットされてしまう。
その際にはロー・ウェイが折れ、次回作をジャッキーが監督・脚本・武術指導を務めることとなった。これが後の『
クレージーモンキー 笑拳』である。
その『笑拳』撮影の際にもロー・ウェイが一度も現場に来なかったことなどでジャッキーとロー・ウェイの関係はどんどん悪化していった。
それでも自分を見出してくれた恩義から『笑拳』の次回作出演の契約は結んでいた。
それが今作『醒拳』のプロトタイプであり、設定的にも『笑拳』の続編になる予定だったらしい。(ただし、この契約はかなり問題がある契約であり、後に違約金を過剰に改竄されていたことも明らかになっている。)
英語版タイトルの『Fearless Hyena II』はおそらくその名残。
この没作品のカットも本作に流用されているそうなのだが、ほとんど撮ってないとのこと。
しかし、ジャッキーは『笑拳』で従来のカンフー映画でやりたいことはほぼやりきったこと、別の会社「ゴールデンハーベスト」はギャラもいいしやりたいことを自由にやらせてくれる上に国際展開も視野に入れていること、上記の配給トラブルなどから配給会社がロー・ウェイプロの作品を買わなくなっていったことなどから不満が爆発。
マネージャーとゴールデンハーベスト公認でロー・ウェイプロでの撮影をバックレてしまった。
激怒したロー・ウェイは暴力団を動かしてまでジャッキーを連れ戻そうとするが、最終的にはゴールデンハーベストがロー・ウェイプロの契約を多額で買い取るという形で痛み分けとなった。
このとき暴力団の仲裁をしたのが『片腕必殺剣』などで主演を演じた香港映画界の大物俳優ジミー・ウォンであり、ジャッキーとは『ファイナル・ドラゴン』での共演での縁だった。
この『ファイナル・ドラゴン』もどんでん返しのやり過ぎで訳のわからなくなる脚本や主人公の秘密兵器「奪命流星」のアレっぷりからバカ映画に片足を突っ込んでるためファンは是非見てほしい。
アニヲタwiki的には
バカ映画『
片腕カンフー対空とぶギロチン』でお馴染みの方である。
後にジャッキーはゴールデンハーベストで『プロジェクトA』や『ポリス・ストーリー』など傑作を制作していく。
なお、仲裁に入ってくれたジミー・ウォンには以降頭が上がらない状態であり、彼の関わった作品にいくつか仕方なく出演している。
一方、もうジャッキー映画を作れなくなってしまったロー・ウェイが最後のジャッキー映画として作り出したのが本作『醒拳』なのである。
今作の大まかな話は『笑拳』と似ているため、ジャッキーに却下された『笑拳』のプロト版脚本を流用したのではと思えてしまう。
そういったことを知った上で改めて見直すと新しい発見があるのではないだろうか。
追記・修正は俳優にブルース・リーの後釜を狙わせるも鳴かず飛ばずの方か、自分で撮った作品は評判悪いけどその主演俳優が貸し出された先で大ブレイクした方か、俳優を囲い込もうとしたらバックレられて暴力団に捕まえるよう頼んだ方にお願いします。
- 普通の映画だと思ってた… これそんなトンデモ作品だったのかよ -- 名無しさん (2023-08-23 21:47:42)
- ロンとヤスというと当時の米大統領と日本の首相が思い浮かぶが、もしかしてそれが主人公の名前の元ネタ? -- 名無しさん (2023-08-24 19:13:53)
最終更新:2024年10月22日 00:58