登録日:2024/07/14 Sun 18:26:37
更新日:2025/04/14 Mon 13:02:32
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wiki籠りの皆様で知らない人はいないであろう、国民的
SF漫画『
ドラえもん』。
その中のエピソードに、「
新種図鑑で有名になろう」というものが存在する。
新種の生物発見を羨ましがったのび太にドラえもんが用意したひみつ道具「
新種図鑑」が登場する話だが、
この道具の力でのび太たちが新種にしたのは、どこにでも現れやがるみんなの嫌われ者・
ゴキブリ。
道具の力で誰も知らない新種になった
ゴキブリに皆は目を輝かせ、やがて
ゴキブリを巡る騒動まで起きてしまい……。
……と、ここまでは漫画やアニメの話。
現実ではそう簡単に新種なんて見つかるものではないし、ましてや家の中に新種の生き物が当たり前のように住んでいるわけがない。
そう思っている人は多いだろうし、現にこのエピソードでもそのような台詞が存在している。
だが、事実は漫画よりも奇なり。
なんと日本のごく普通の家から、本当に新種のゴキブリが発見された事があるのだ。
その名は「
キョウトゴキブリ(Asiablattta Kyotensis)」。
名前の由来となった
京都府を始め、日本各地に分布する
害虫である。
【概要・特徴】
<発見までの経緯>
1962年、京都府のとある民家で、1匹のゴキブリが罠にかかって捕獲された。
初っ端からアウト過ぎる事案
最初に確認されたのはオスの個体であったが、当時
ゴキブリの研究にあたっていた国立予防衛生研究所の研究者はこのサンプルを見た途端、これまで確認された
ゴキブリとは明らかに異なる種類である事を見抜いた。
姿形こそ、古くから日本の厄介者だったヤマトゴキブリ(
Periplaneta japonica)のオスにそっくりであったが、大きさが明らかに小さかったのである。
その後、各地の研究者からの情報、メスを含む数多くの標本に加え、動物園の中で呑気に暮らしていた「新種」の
ゴキブリの集団を用いた飼育・観察など次々に貴重なデータが得られ、1976年に研究結果をまとめた論文が発表された。
この論文の中で、このゴキブリが間違いなく新種である事が報告され、「
キョウトゴキブリ」という、京都の人たちにとっては何とも言えない名前が付けられたのである。
<概要>
想像すると気持ち悪すぎるかもしれないが敢えて断言してしまうと、姿形は「
ゴキブリ」と聞いて想像する茶褐色の姿そのまんま。
ただし
ゴキブリと聞いて思い浮かぶ、体を覆い隠すあの巨大な翅を持つのはオスだけで、メスは翅が短く飛ぶ事ができない。
大きさは後述の
チャバネゴキブリよりも大きく、体長は約15~18mmだが、似たような色の
クロゴキブリやヤマトゴキブリよりは小さい。
野生下での成長は遅く、夏から秋にかけて卵から孵化した幼虫はある程度成長した状況で冬を越し、その後また成長し、およそ9ヶ月から1年ほどかけて成虫となる。
その後、交尾を行ったキョウトゴキブリのメスは、数十個の卵が詰まっている財布のような形をした「卵鞘」を約1週間ごとに次々と産み落とす。
平均寿命は2~3年と昆虫にしては長寿。ただし寿命は湿度によって左右されるようで、湿度が少ないカラっとした環境ほど長生きする事が確認されている。
<分類>
前述の通り、姿形こそヤマトゴキブリにそっくりなキョウトゴキブリだが、実は分類上最も近いのは、飲食店やオフィスビルの大敵、薄い茶色をした小型のゴキブリ・
チャバネゴキブリである。
実はチャバネゴキブリは他の害虫ゴキブリである
クロゴキブリや
ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリが属する「ゴキブリ科」ではなく、「
チャバネゴキブリ科」という同じゴキブリでも別のグループに属している。
そして、キョウトゴキブリは色も大きさも全然違うものの、細かな部位は
チャバネゴキブリに類似している事が研究の中で判明しているのだ。
そのため、分類上は「
チャバネゴキブリ科・ヒメゴキブリ亜科・キョウトゴキブリ属・キョウトゴキブリ」となっている。
ゴキブリの姫とか最悪である
また、アメリカの東海岸には姿が似ている近縁種が確認されている。
<分布>
発見地の
京都府のみならず、キョウトゴキブリは日本各地で確認されており、本州から九州にかけて生息すると考えられている。
ただし大半の発見例は民家やビル、食堂など建物の中であり、森林など自然下での発見例は少ない。
また、海外でも韓国や中国で確認されているが、これらは
日本から持ち込まれた外来種の個体ではないか、という説が存在する。
【レッドデータブック登録の「害虫」】
「1976年に登録された新種」「日本が最初の発見地」と、それなりにマスコミにちやほやされ人気になりそうな要素を兼ね備えているキョウトゴキブリ。
だが、残念な事にこのキョウトゴキブリは、れっきとした「害虫」である。
何せ最初の発見例が、「京都のとある家の中」という、一発アウトな事案だったのだから。
各地の建物の中に現れた際の被害は、詳しく語らなくても皆様お察しの通り。
気持ち悪さに加えて衛生面でも厄介な存在であり、新種として登録されて以降、各地の食品工場や食堂でキョウトゴキブリが居座り、人々に迷惑をかけまくる事例が報告されている。
だが、その一方で屋外の森の中で暮らす、自然の一部としての「昆虫」の一面も有するのも事実。
木のうろに潜み、夜中にこっそり出てきて樹液を舐める野生本来の姿もちゃんと確認されている。
そして、そういった自然環境が失われていると言う観点から、発見地の京都府ではキョウトゴキブリを「京都府レッドデータブック」の要注意種として登録されている。
……とは言え、幾ら「要注意種」でも建物で暮らし始めた以上、所詮は「害虫」である。
研究目的などよほどの事がない限り、家の中でぐうたらしているキョウトゴキブリは即刻退治したほうが賢明である。
ただし、雑木林などで密やかに暮らす個体を見つけた時は、そっとしてあげて頂きたい。
本来のキョウトゴキブリは、森の奥で静かに暮らす、か弱い存在なのだから。
家の中で「新種」の生物を見つけた人、追記・修正お願いします。
- ヒャッハー!バルサンで消毒だ〜!(但し家限定) -- 名無しさん (2024-07-14 21:49:59)
- 京都の民家で発見されたら何がアウトなんだ・・・? -- 名無しさん (2024-07-14 21:58:57)
- ↑そりゃまあ家の中にアレが出るのは、嬉しい事態ではないしねえ… それはさておき国立予防衛生研究所の研究者がどういう展開でそのサンプルを見ることになったのかが地味に気になる -- 名無しさん (2024-07-14 22:50:45)
- ↑たまたま研究者の知り合いが被害にあって、その研究者に愚痴った結果なんの気なしに見てみるかって空気になって・・・とかかなあ -- 名無しさん (2024-07-14 22:57:52)
- 1962年はまだ落とし穴みたいな罠が主流の時代だから生きた個体が手に入ったわけだな(ホイホイの登場は70年代) -- 名無しさん (2024-07-15 17:26:12)
最終更新:2025年04月14日 13:02