登録日:2024/07/24 (水曜日) 13:03:20
更新日:2024/11/11 Mon 15:44:05
所要時間:約 16 分で読めます
注:以下、この項目には作品内容の一部ネタバレが含まれています!。
◆了巷説百物語
京極夏彦の小説。2021年~2023年に
KADOKAWAの『怪と幽』に連載され、書下ろしで終盤部分を追加してKADOKAWAから2024年6月に発売・電子配信された。
時系列は『
後巷説百物語』の「天火」の頃から始まり、後半編では「五位の光」と『
続巷説百物語』「老人火」の間にあったとされる「
戦」を掘り下げており、
シリーズ完結編とされている。
江戸時代を舞台に様々な『妖怪狂言』を描いて来た『巷説百物語』シリーズだが、7作目となる本作では趣向を変えて
「化け物遣い」を探すものの視点から話が描かれており、
これまでのシリーズ6作、及び世界観を同じくする『数えずの井戸』(と少しではあるが『
嗤う伊右衛門』『覗き小平次』)の物語を外野から再発見・再検証し、新主人公が過去登場人物達と遭遇していく展開となっている。
また前作(時代的には後の「弘化」)『
遠巷説百物語』に続いて
時系列が明記され実在人物が複数登場しており、「表の歴史」の出来事『
天保の改革』に「裏の住人」が影から関わる物語でもある。
…そして最大の見ものは、「
百鬼夜行シリーズ」へと繋がる「
憑き物落し」の登場。
先行する『書楼弔堂 破暁』『鵼の碑』で断片的に触れられた「江戸時代の憑き物落とし」が、ついに小説内で本格的に描かれる事に。
◆六つの怪異
- 於菊虫
- 柳婆
- 累
- 葛乃葉 或いは福神ながし
- 手洗鬼
- 野宿火
◆物語
…天保十一年、凄腕の狐釣りにして「洞観屋」と呼ばれる裏稼業も持つ猟師「稲荷藤兵衛」は、ある武士から時の老中水野越前守忠邦の改革の邪魔をするという「化け物遣い」の捜索を依頼される。
慣れない江戸へと向かい依頼主から手配された裏の住人2人と「化け物遣い」を追っていく藤兵衛は、その中で彼らを少しずつ知っていくとともにこの依頼の「依頼主も知らない「裏の匂い」」をも垣間見ていく。
…天保十三年、「化け物遣い」探しに一応区切りをつけ故郷に戻った藤兵衛の元にも「改革」の負の面が聞こえてくるようになった頃、彼の元に来た「ある母子の守護依頼」と、それに慣れた頃に来た「ある商家からの依頼」。
守護対象を「化け物遣い」探索仲間に任せ再び江戸に向かった藤兵衛が、その前に商家から依頼を受けていた「憑き物落し」と対話する時、事態は急転。彼らと「化け物遣い」達は「戦」へと巻き込まれていく…。
◆概要
ストーリーは2部構成となっており、
- 稲荷藤兵衛が協力者と共に「化け物遣い」を探す「於菊虫」~「累」
- 稲荷藤兵衛の視点から「戦」を描く「葛乃葉」~「野宿火」
となっている。
なお『葛乃葉』以降のストーリーの原型は、2004年のドラマ『京極夏彦「怪」』最終話「福神ながし」。
本作はドラマ版から一部展開と登場人物の名前・立ち位置を共通させつつ、長編小説のクライマックスとしてリブートした作品でもある。
…また、歳の頃こそ壮年で経験豊富なものの、その心理は山岡百介・『遠巷説百物語』の主人公宇夫方祥五郎と同じ「どっちつかずの黄昏時(境界)に身を置く人物」でもある藤兵衛が、
これまでの人生で無かった様々な壮絶な事件と人間模様に翻弄されていく中、少しずつ変わりゆく心模様もサブラインとして描かれている。
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以下、ネタバレに付き注意! |
…実は前半こそ「妖怪狂言」を主にしているが、後半では事態の急変により狂言を仕掛ける暇もろくに無くなった事もあり、
「葛乃葉」以降で題となる怪異は「百鬼夜行シリーズ」の扱いに近い「事件とその中の人間模様を怪異に見立てたもの」として扱われている。
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◆登場人物
化け物遣いを探すもの達
本作の主役組。本編前まで接点はなく依頼によって集まった面子だが仲は良好である。
また「化け物遣い探し」も単に仕事でやっているため彼ら相手の因縁等はなく、それが後半で再び事件への縁を産む事になる。
本作の主人公で、下総国は佐倉藩酒々井宿(現:千葉県印旛郡酒々井町)に住む猟師。年頃は約50歳頃で、きょうだいは嫁に行ったり出奔したり死別したりで早くに独りとなり、現在でも所帯を持たず独り暮らし。
猟師としては「打締め(ぶっちめ)」なる罠へと巧みに狐を誘い獲る技を使い、それで沢山狐を獲る「狐(稲荷)釣り」の達人な事から「稲荷(とうか)」の二つ名で呼ばれ、「化け狐をも見抜き翻弄する」とも噂されている。
…そして、狐釣りで鍛えた洞察力から人の嘘を見抜く事を得意としており、近所には秘密だが裏で商家からの依頼を受け「取引等の嘘を見抜く」『洞観屋』なる裏稼業をも営んでいる。
特に鍵となる嘘を見抜く時は指で「狐窓」を作り、(本人自体は不信心者だが)「唵嚕鶏入縛羅紇哩」と真言を一喝するのを決まりとしている。
但しあくまで観察力と情報精査による嘘の発見なので、「本人が『嘘だと思っていない』嘘」「人から聞いた伝聞の真偽」は分からない。
とはいえ嘘にも「弱さからくる嘘」がある事をも理解し、嘘を見抜き続ける事で「弱い者の嘘をも見抜いて追い詰めてしまう」危険をも内心で危惧しており、それゆえに余計な事を思わない狐相手との対比もあり色々と面倒なお役所側の依頼は引き受けない主義であったが、
佐倉藩で「陰徳講」等民の救済に勤しむ武士山崎由良治から、彼の主君堀田備中守が協力する老中水野忠邦の改革の邪魔をするという「化け物遣い」捜索の依頼を執拗に受け、
山崎自身は善良でも水野の裏が不明な事もあり色々と迷ったものの、「化け物遣い」の行動理由への興味や好奇心から依頼を引きうけ、(本職猟師なので建前だけだが)「太鼓売り」という仮の身元で江戸での捜査にあたる。
だが約一年にも及ぶ「化け物遣い」捜索の中で水野忠邦を取り巻く暗い因縁をも感じた事等から、「累」の後一端は依頼を終え村に戻るが、「葛乃葉」で聞いた2つの依頼から、再び江戸で事件に巻き込まれる事に…。
ちなみに猟師だが罠猟師なせいか、特に本人の戦闘力はそんなになかったりする。
ちなみにモデルは、現実の酒々井町に伝わる小民話「稲荷の藤兵衛」。「化け狐をも上回る狐猟師」の逸話から、「狐の化けの皮をもはがしそうな嘘見抜きの達人」なんてキャラになったと思われる。
藤兵衛を支援するため山崎由良治が斡旋した人員の一人で、鼠避けの猫絵売りを仕事とする女性。
江戸の道に詳しく、また裏の事情も結構噂に聞いている事もあり主に情報収集や潜入調査を担当している。
後半では「子守」のため藤兵衛に依頼され酒々井宿に「藤兵衛の姉の娘」名義で住む事になり、その縁で「戦」に巻き込まれる事に。
元は越中黒部の樵・現在は「十九文見世」なる値段三十八文の小物売りを仕事とする男性。お玉共々依頼で藤兵衛を助けるため行動を共にしている。
特に武芸はないものの、素の腕力の強さと五感の冴えがずば抜けており、一行では主に用心棒兼警察犬じみた現場での探索に当たっている。
後半では藤兵衛の依頼で酒々井宿での依頼に関わる用心棒を任され、藤兵衛が一人江戸に向かった際、子守役のお玉と共に万が一の時の守護対象の逃がしをも依頼される。
化け物遣い達
藤兵衛が身元や手口の調査を依頼された、シリーズのレギュラー達。
今回は『続巷説百物語』「死神」エンディングで判明した「ある事情」に関わる中水野忠邦との因縁が生まれ、それが藤兵衛との接点をも生む事になる。
一文字屋の元で動く面々も含め本人達は「党や仲間ではない」と外野からのグループ扱いを否定するも、そうは行っても長年仕掛を共に熟していけば縁は深まる訳で…。
藤兵衛達が最初に遭遇した「化け物遣い」にして、御燈の小右衛門の「娘」。
今回はいつも携える小右衛門謹製の傀儡(人形)は口に牙が仕込まれた武装でもあると判明しており、護身のためそれを振るっている。
化け物遣いの協力者である「放下師」(旅芸人)にして、算盤を媒介に使う凄腕の幻術師。
「於菊虫」では藤兵衛達の前で、自身と「皿屋敷」との関係性(『数えずの井戸』の事件)を語る事に。
「化け物遣い」の一人である、なりすましによる潜入を得意とする元盗賊の男性。又市の近所の友人だった事から素性を探られた。
かつて妻子を亡くした過去ゆえか、遭遇した藤兵衛に対し自身を「(心に芯がないゆえに中身が)空っぽ」だと自嘲するも、
その一方でお玉の調査により『覗き小平次』で縁が出来たある家を事件から数年たっても時々訪れている事が判明しており、全てが擦り切れた訳ではない模様。
そして本作では「老人火」で明かされた「彼の最後」が語られるが、その真相は…
又市の「兄弟分」である関西人で、かつて一時江戸にいた頃は「削掛の林蔵」と呼ばれていた流れ者。
しばらく前までは一文字屋仁蔵の元で働いていたが、『
西巷説百物語』後大阪を離れ旅に出、今回は江戸で「化け物遣い」の一人として行動。
だがその中で、『前巷説百物語』の時代に出会ったある人物と対峙する事に…。
「小股潜り」の異名を持つ武州出身の無宿者で、現在は行者姿の札撒き乞食「御行」(マカショ)として振舞う「化け物遣い」の中核的人物。
「出来るだけ人を殺さない」のを方針としており、仕掛の協力者達にもそれを言いつけている。
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シリーズにおけるメインキャラだが… |
本作では前半は嘘を見抜く藤兵衛と会うのを避けるように断片的な雰囲気や名前のみを人づて等で伝えるに留まり、
後半では一文字屋仁蔵との「分担」から、人を殺さず事を済ませるための水野忠邦の周辺への工作や、東雲右近への依頼・中禪寺洲齋への情報提供等裏方仕事に専念。
そのせいで本編にはろくに登場せず、本編で主となる事件へ向き合う役は「人を殺さない」洲齋と藤兵衛、「化け物遣い」側の代表はおぎんが担う事に。
…だが工作のため暗躍する又市の姿と名は、既に「御行」ではなく…。
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化け物遣いに関わった者達
藤兵衛達が「化け物遣いたちの手がかり」として山崎由良治から教えられた、各地の怪異譚を集めるため頻繁に旅に出る商家「生駒屋」の若隠居。
本作の時期には一文字屋仁蔵の推薦で戯作者としてのデビューが決まっているが、この時点で旅の最初の目的だった「百物語を本にする」事は諦めていたらしい。
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手がかりとして藤兵衛達に知らぬ間に探られるが… |
途中で一文字屋の者達を通じて、『「又市の名前」情報と引き換えに山岡百介にこれ以上手を出さない』という取引が「化け物遣い」側から提示され、
(万が一の時の最後の切り札としての温存も考慮してだが)藤兵衛達がそれを呑み依頼側に又市達や一文字屋仁蔵の事を報告しつつ百介は無関係だと申告した(かつ一文字屋関連の他の連中の名も言わなかった)事で、結果的に彼らは一文字屋配下や「化け物遣い」側からの信用を得る事に。
また後半では、実は又市は『後巷説百物語』「手負蛇」の時点で「百介との縁を切る」事を決断していたものの、偶然のせいで「五位の光」時再び事件に関わらせてしまったとも判明。
結果知らぬ間にかなり危ない橋を渡りかけていたのだが、幸か不幸か彼の側はそれや見えない所で張られた善悪双方の監視には気づかなかった模様。
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かつておぎんや百介と旅をし、しかしその後浪人の身から就職が叶った西国の北林藩で無残に妻子を殺された武士の男性。
品行方正で丁寧な物腰なものの、壮絶な喪失ゆえに今でもその目の奥には出会ったばかりの藤兵衛にも見て取れる心の中の黒い闇を抱えている。
本作では後半にて事件に巻き込まれた藤兵衛の護衛として又市に呼ばれ江戸に現れ、その中で「自身の闇の似姿」と遭遇する事に。
名うての人形師にして、裏社会では凄腕の火薬使いとして恐れられる「天狗」、そしておぎんの養い親でもある男。
今回は後半にて故郷の同胞勘作の死を知り、誰ともつるまず独り勘作の遺した家族を探し守るため独自に行動を開始する。
みちのくは南部藩遠野の山奥に住む又鬼(マタギ)で、古の又鬼の名を継ぐ凄腕の鉄砲使い。元々は『遠巷説百物語』のゲストキャラでもある。
今回は後半にて一文字屋から「ある依頼」を受け江戸に現れ、終始無口なものの技術は違えど同じ獣相手の猟師である藤兵衛はそのあり方に共感を抱いていた。
生真面目過ぎて貧乏独身な同心。
今回は藤兵衛の来訪から小右衛門や「稲荷坂の祗右衛門」の話を語るが、その後「北林藩が関わった事件」への無念と、2つの事件と重なるような「累」の怪談をも語った。
一文字屋の者達
大坂にある商家にして裏の仕事の大物と、彼から仲介された依頼を受けて動く者達。
皆主とも言える一文字屋仁蔵を慕っているが…。
現場での変装をも使った潜入を得意とする女性。
今回はある仕事のため江戸に現れ他の面子と共に藤兵衛達と遭遇し、後半でもその変装の才を生かすが…。
かつて江戸で「骸繰り」、現在は一文字屋の元で「六道亡者踊り」の二つ名で呼ばれる裏稼業の男性。
死者の情報を徹底的に調べる事で自身(時に他人)を死者に見せかける(なり切る)技を持ち、今回はその応用法を見せる事に。
坊主姿の大入道で、一文字屋一派の荒事担当でもある男。
今回はその力を存分に振るう機会が来てしまう。
「世の中に凶事を知らせるため現れる」と自身を称する、「茄子婆」の異名を持つ老婆。
「あった事を無かった事にする」技を使うという。
一文字屋によく世話になり仕事も引き受ける漂泊の民の老人。
後半で彼が藤兵衛にある依頼を持込んだ事が、事件の始まりとなる。
一文字屋を表と裏双方から仕切る主。
…出番こそ僅かなものの、後半では「戦」に大きく関わることになる。
一文字屋の手代で、仁蔵の腹心。
最近一文字屋で働きだした中年男性で、元々は「船幽霊」で又市達に救われ各地に散った隠れ里の民「川久保党」(小右衛門の出身)の一人。
他の仲間達よりも比較的若かった事もあり都会で働こうと一文字屋に就職し所帯を持つも、「又市や百介に恩を返したい」思いもあり周囲の願いも空しく裏の道へと踏み込んでいき、
最後には百介を影から守るための眼として生駒屋に就職するも、妻子を江戸に呼んでしばらくして死体となって見つかり、「戦」の引き金となってしまう…。
一文字屋の下働きを務めていた縁で、年上の勘作と結ばれた若い女性。
だが江戸に向かって夫や息子「多吉」と幸せに過ごしていたら夫が殺されてしまい、安全のため文作からの依頼で藤兵衛の元に託される事に。
赤子を抱えた母親との暮らしは、独り身で長年過ごしてきた藤兵衛の心に暖かいものをもたらすが、同時にその「過酷な状況でも変わらなすぎる仁蔵への信頼」に不穏を抱いてしまう…。
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そして… |
藤兵衛と中禪寺洲齋、治平の情報交換の結果、「勘作殺害の理由は七福連ら敵方の真の狙いである登代を守ろうとしたからでは」という推論が浮上。
時を同じくして敵方の攻勢が始まり、辛うじて多吉は様々な人の助けで安全な場所に逃がす事が出来たものの、登代は逃がしきれず江戸近郊で匿われる事に。そこまで狙われる理由は…。
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事件に関わるもの達
江戸は中野村の「武蔵晴明神社」の宮守にして、「憑き物落とし」の陰陽師でもある30前の若い男性。
「法」と「理」を重視し、念入りな情報収集で依頼の背景を探り、それを使って「憑き物」を見抜き落とす技法を使い、「化け物遣い」達からも天敵として知られている。
だが同時に「合法」をモットーとし、「人」や「縁」を誰よりも大事にするゆえ依頼に「裏」があったら例え高い報酬を提示されても断る事も多々あり、
彼に依頼ししかし途中で断られた「福乃屋」が、登代を守っていた藤兵衛の元に「洲齋の行動の真偽見抜き」依頼を持込。
藤兵衛もその依頼自体は引き受けるのを躊躇ったが、それとは別にその事件や洲齋に興味はあったため江戸へと登り、洲齋と面会することになる。
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彼の背景 |
彼が最初「福乃屋」の依頼を引き受けたのは、拾って養う孤児少女「寿々」の病を治す薬を報酬として提示されたからであった。
だが貴重な薬を全て買い占めてまで依頼を強制するやり口や、情報を調べかつ実家に残る資料からも知った裏事情から、泣く泣く苦しみ続ける寿々の病治癒を棚上げして依頼から手を引く事を決意。
しかし会いに来た藤兵衛やその様子を(百介がうっかり会いに来て事件に巻き込まれないように)見ていた治平との情報交換、そしてある悲劇は、彼を事態解決の主役へと導く事になる…。
なお本作で彼が話した「赤子の頃の過去」は、『狐花 葉不見冥府路行』にて意外な形で掘り下げられている。
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…そして後に息子が彼の死後に彼が遺した「書」を発見し、約一世紀後、ある山奥に立つ「鵼の碑」の前で彼そっくりの仕事衣装を纏う
彼の曾孫と「化け物遣いの末裔」が邂逅するのだが、それは別の話。
ちなみに初登場は『京極夏彦「怪」』なのだが、その時は壮年の男性として描かれていた。
また2024年7月発売の新作小説・同年8月上演の歌舞伎『狐花 葉不見冥府路行』でメインキャラクターとなっており(演:十代目松本幸四郎)、本作後の彼の様子が語られている。
「福乃屋」の用心棒を務める、荒み切った様子の三白眼の剣士。
だがある事情から途中で「凶行」に及ぶが、その時居合わせたおぎんをなぜか斬れず、
少し後再び現れた時その様子を見ていた藤兵衛とそこに居合わせた洲齋からの指摘で「自身の宿す虚無の理由」を改めて人に語り、聞いた彼らとの対話で「おぎんを斬り損ねた理由」を見つめ直し、一旦は姿を消すが…。
かつて江戸で札差を営んでいたが、かつて旅先の火災で若き妻「冨久」等様々なものを無くし落ちぶれ、現在は元番頭額蔵の営む小間物屋に養われていた老人。
だがひょんな事からかつて自分の店で働いていた男「富三」が、大坂から江戸に引っ越してきた両替屋兼金貸し「福乃屋」の店主として大成し、あまつさせ再会した自分達を勝者として見下した事で狂気に捕われ、
「『冨久が大事にしていた箱』を「福乃屋」から取り戻せば自分にも福が戻る」と、「化け物遣い」に「箱の奪還」を依頼。
果たして、箱の行方と、その正体は…。
長年大坂で動き、近年江戸でも策動を開始した裏稼業の7人組。
全員がそれぞれの異名である七福神の面々を模した装束と得物を纏う作中でも色物扱いな奇妙な見た目だが、そのやり口は
狡猾にして平然と邪魔者たちを殺す残忍なもの。
大坂では様々な商家にゆすり集り、江戸では水野忠邦の周辺で裏稼業に勤しみ、罪と屍を積み重ね続けている。
その中でも「福乃屋」とは
ある浅からぬ縁を築いており、序盤から徐々に影を見せつつ、後半では
主な敵として立ちはだかる事になる。
言わずと知れた天保時代の有名人である、江戸の新米北町奉行。
時代劇のお約束として「金次」等と名乗ってある旅籠を訪れていた時に偶然藤兵衛達と遭遇し、そこで居合わせた武士に素性を耳打ちしていたのを源蔵が聞き取った事で正体が判明。後半であるきっかけから改めて奉行として再会する事になる。
ちなみに身体に彫った刺青は史実準拠の「文を口に銜えた女の生首」で、積極的にそれを人に見せる事も無かった。
水野忠邦傘下で動き、自身の強烈な攘夷主義から粛清や裏工作に勤しむ幕臣。地位は目付→南町奉行。
本作では後半にて、ある場面で藤兵衛と顔を合わせる事に。
ちなみに一部読者からは、容姿のモデルはドラマ『天下堂々』や『必殺からくり人』で鳥居役だったこの人ではとも言われたり
※以下、若干のネタバレ。
…それは、全てが終わってさらに時が経った江戸の町。
ある店に前の客と入れ違いで訪れた客は、前の客が持ってきた『絵』を話題に店主との会話に夢中になっていた。
追記・修正お願いします。
最終更新:2024年11月11日 15:44