ヘチマ

登録日:2024/10/04 Fri 13:12:30
更新日:2025/07/09 Wed 22:16:49
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だってもヘチマもねーよ!



ヘチマはウリ科ヘチマ属の一年草の蔓性草本植物である。
学名はLuffa aegyptiaca。漢字では「 糸瓜 」。



写真はいずれもmakinomantaro撮影。


概要

原産地はインドで、わが国には室町時代に中国経由で日本に渡来している。明治時代には静岡県で盛んに栽培され一大産業となっていたものの、太平洋戦争中の食糧増産政策の施行を境に産業としての栽培はほぼ廃れたといっていい。
現在は、沖縄県などの南西諸島や九州南部で野菜として栽培されるほか、一般家庭で園芸植物としても栽培され、また小学生の「植物の一生を学ぶ」というカリキュラムで理科の教材としても栽培される*1

葉は大きな掌状葉となり、縁には鋸歯(ぎざぎざ)がある。蔓となった茎は全長5~8mに達し、葉柄の付け根から伸びる巻きひげによって他のものに絡みつく。普通は棚を組み立ててそこに蔓を這わせる。またグリーンネットを張ってそこに蔓を這わせる「グリーンカーテン」方式での栽培も行われる。

夏から秋にかけて大きな黄色の花(花弁は5枚)を咲かせたのち、長い円筒形の緑色の果実を実らせる。
果実表面には縦溝が浅く入るのが特徴だが、若い果実は溝がほとんどない。また、表面は滑らかだが、ややざらついている。
果実は熟すと繊維部分が発達する。やがて完全に熟すと果皮は茶色くなって紙のように破れやすくなり、果実の底の部分がポロリと取れ、風に揺られながら少しずつ種子をばらまく。野生種や後述する近縁種のトカドヘチマにもこの特徴は見られる。
種子は黒色で、カボチャの種子とスイカの種子を足して2で割ったような見た目である。

東南アジアや沖縄で栽培される近縁種に「トカドヘチマ(十角糸瓜)」と呼ばれる植物がある。これは遠目から見ればヘチマと大差ないように見えるが、果実には10本の稜線(角)がある。それで、「十角糸瓜」というのである。
こちらはもっぱら野菜としての利用が多く、原産地のインドや東南アジアではカレーや炒め物の具にする。わが国には明治時代*2に渡来しているが、果肉にはナッツのような特有のにおいが強いことと、稜線が鋭く、調理の手間がかかることからあまり利用されていない。


利用法

若い果実は皮をむいたのち、炒め物や煮物にする。果肉はとろりとした食感で、ウリ科だがナスを思わせるような風味があるという。

熟した果実は繊維が発達しているので食用には向かず、水につけて果皮を腐らせたのち、種子を抜いて果皮を取り去ってから残った繊維を乾燥させ、使いやすい大きさに切って「ヘチマたわし」として用いる。
このヘチマたわしは食器を洗うのに用いられ、沖縄県では「鍋洗い」という意味で「ナーベラー」と呼ばれる。もちろん、垢すりなど体を洗うためにも用いられる。

乾燥させたヘチマの果実はペット用玩具としても用いられる。小鳥やハムスターに与えると噛むことでストレス発散になる。さらに犬や猫なら繊維が歯垢をかきとるハミガキ効果もある。
多少繊維を飲んでしまっても問題無いため安心して与えられる。農薬などが不安なら栽培・加工も飼い主の手で行えるのも安心要素である。

草履やスリッパの素材としても用いられる。中板をヘチマにすることで、足裏の汗を吸収してくれる効果があり、汗っかきの人や風呂上がりの人も快適に過ごすことができる。

果実以外の利用法として、収穫晩期のヘチマの蔓の一部を切り取り、切り口に瓶をあてがうと、瓶に水が溜まる。これがいわゆる「ヘチマ水」と呼ばれるもので、美肌効果があるとされ、古くは「美人水」と呼ばれた。昭和時代に「ヘチマコロン」というものが販売されたが、それはこの「ヘチマ水」の事である。
他にも咳止め、火傷の治療にも用いられる。


和名の由来

和名は、熟した果実の繊維を糸にたとえて、「イトウリ」と呼んでいたことに始まる。
いつしかそれが訛って、「トウリ」と呼ばれるようになった。「と」はいろは48文字の中で、「へ」と「ち」の間にある。
そうして、「へち間」→「ヘチマ」になった、というわけ。

余談だが、「イトウリ」という名称は、カボチャの一品種(ペポカボチャ)で、加熱すると果肉の繊維がほぐれてくる野菜の「そうめんかぼちゃ」(金糸瓜)の別名でもある。


ヘチマにまつわるもの

創作

  • ロックマンXシリーズ
8ボスの1体であるワイヤー・ヘチマールのモチーフとなっている。

  • ヘチマ
FLOWER KNIGHT GIRLに出てくる花騎士の1人。桃源郷にある小さな温泉旅館の女将。
かなりの面倒くさがり屋で飽きっぽい性格であるが、美肌が好きであり、美しい肌を持つ女性を覗くのが趣味というなかなかの問題児である。
なお本人も女性なので別に覗かなくても見れるはずなのだが「見られておらず無防備な肌が好き」との事で職権乱用しながら覗いているのであった。

現実

  • ヘチマ襟
襟の一種。後ろから前にかけて刻み*3が無く、なだらかな線が続いた細長くて丸みのある形。ショール・カラーとも呼ばれる。
コート、ガウン、カーディガン、タキシードなどに用いられる。

  • 正岡子規
彼の命日(9月19日)が「糸瓜忌」と呼ばれる。由来は辞世の句として詠んだ三句がヘチマを題材にしたことから。
「糸瓜咲て痰のつまりし仏かな」
「痰一斗糸瓜の水も間に合はず」
「をととひのへちまの水も取らざりき」
実際に子規の家では去痰剤用に庭でヘチマを育てており、子規の部屋の窓からヘチマを見ることができた。

言葉

言葉 意味
ヘチマの皮とも思わない 少しも気にかけない
○○もヘチマもない ○○は価値がない
ヘチマ野郎 ぶらぶらして何の役にも立たない男
ヘチマの頭 まるで役に立たないもの



追記・修正はヘチマたわしで洗い物をしてからお願いします。

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最終更新:2025年07月09日 22:16
添付ファイル

*1 このカリキュラムで教材として利用される植物はほかにヒョウタンやオモチャカボチャ(観賞用のミニカボチャ)、ニガウリなどがある

*2 幕末~明治期の絵師・服部雪斎が図を手掛けた植物図譜『植物集説』(東京国立博物館所蔵)や、同じく幕末~明治期の植物学者・伊藤圭介が作成し、その孫で同じく植物学者の伊藤篤太郎が整理した図鑑の草稿『植物図説雑纂』(国立国会図書館所蔵)に図がみられる

*3 スーツやブレザーの襟によくあるあれ