悪魔の毒々モンスター(映画)

登録日:2024/10/04 Fri 23:39:58
更新日:2025/03/04 Tue 15:04:10
所要時間:約 12 分で読めます




『悪魔の毒々モンスター(原題:The Toxic Avenger)』は米国のグチャゲロお下劣スプラッター・ヒーロー映画。
かつてのレンタルビデオ店ではホラーのカテゴリーに置かれていたそうだが絶対に違う
……まぁ、一応というか売りの一つのスプラッター描写はいつも本気だからいいのか?

奇才ロイド・カウフマン率いる、米国のB級映画(というよりは良質なZ級映画と言ったほうがいいか)専門(●●)の製作スタジオとして知られる、トロマ・エンターテインメント製作で、原案・脚本・監督はロイド・カウフマン(と、盟友のマイケル・ハーツ)自らが手掛けている。

現在までにオリジナルシリーズは4作が公開。
更に、2023年にファンタスティック・フェストでリメイク版が公開されたが、全米公開も日本公開も詳細が入ってきていない。

こんな作品(褒め言葉)でも公開当時は本国は勿論、日本でも大ヒットしてしまった一本筋の通ったおバカ映画であり、本国では子供向けに内容をちょっとライトにしてアニメシリーズやゲーム化までしている人気作品だった。
日本では本来の想定通りに下ネタ多めの冗談の通じる大人向け作品としてヒットし、予想以上にヒットしたのに気分を良くしたロイド・カウフマン自らが来日して2作目を日本で撮影したことでも有名。詳細は後述。

尚、原題は前述の通りでToxic Avenger(毒の復讐者)となるのだが、日本では配給の松竹富士により『悪魔の毒々モンスター』という素晴らしすぎる邦題を付けられてしまった。
変な邦題と言えば……で思い浮かぶ東宝東和以外にもやってんね、当時の日本。
尚、本作の大ヒットに伴い、以降も輸入配給されるようになったトロマ作品はことごとくと言っていいレベルで邦題に『毒々』と付けられたのも“らしい”話。
……やってんね、当時の日本。尚、似た(?)作風の他社の映画にも『毒々』と付けられてるケースも。やってんね、当時の日本。

本項目では初代のみならずシリーズの大雑把な解説もする。

【概要と歴史】

超高学歴なのに何故か頑なにB級映画ばかり作る奇才(鬼才)ロイド・カウフマン*1*2率いる(というか自ら監督した)トロマ・エンターテインメントの大ヒット映画と、そのシリーズ。

“超絶危険な工業用廃液により超人的な力を持つ怪物に変身した冴えない主人公メルヴィンが、その力により人助けをするヒーローとなるが、それを快く思わない悪人が邪魔してきて戦いになる”……というのがシリーズ共通のストーリー。
2作目からは世界を汚染物質で満たそうとするアポカリプス社が敵となっている。

『毒々』以前からも実績は重ねていたものの、矢張り本作のヒットは大きく、以降のトロマ映画全体の方向性にも影響を与えることになった。
極めてお下劣でどうしようもないレベルのバカ映画なのだが、そのバカを低予算でも全力でやるという徹底した作品作りから画面作りでは(ジョークも込めて敢えて安っぽい作りにしていなければ)案外以上に真面目で迫力のある映像体験が出来るということから“美しき映像”とまで讃える熱狂的なマニアまで生むことになった。*3


特に、初代は(シリーズ物の性か)チープさがある2、3作目と比べても労力をかけて撮影したことが伺える作品となっており、まかり間違って大ヒットしてしまったのもワンチャン納得できてしまうレベルの(認めたくないが)良作である。

本国での公開は1984年だったのだが、何をトチ狂ったのか本作を見つけてしまった松竹富士が1987年に正月(ちょっと過ぎた)映画として公開して予想以上の大ヒットを記録。
このマーケティングに気を良くしたロイド・カウフマンは前述の通りで自ら日本に乗り込むと銭湯を貸し切り会見を開き、続編を日本で作ることを褌姿で宣言・そのまま日本を舞台とした分の撮影に入ったことはもっと知られてもいい。
尚、この日本での経験を活かして生み出されたのが『毒々』に続くトロマヒーローの『カブキマン』である。

何にしても調子に乗ったトロマ(カウフマン)は続けて同年(89年)に3作目も製作したのだが、キャスト陣は据え置きな癖にシナリオも映像も格段に劣化してしまい信者(マニア)でさえ擁護できないレベルの駄作止まりとなりシリーズは途絶えてしまっていた。

しかし、約10年を経た00年に初代から続く正当な続編として時系列をリセットされた4作目が製作。
映像技術の進歩に加えてストーリー面に於いてもカブキマンを始めとするトロマヒーローオールスターズ……謂わばトロマ版アベンジャーズが絡んでくるなど豪華な内容となっている。カブキマン以外は唐突にやっつけで作られたような数合わせのネタキャラなのは気にしてはいけない。
また、メインストーリーもパラレルワールドの融合による正義の毒々モンスターvs悪の毒々モンスターという熱い展開だったり。


【各シリーズのあらすじ】


■悪魔の毒々モンスター(The Toxic Avenger)

1984年5月公開(日本公開:1987年1月15日)

毎日を美しい肉体を作り上げることに脳死で勤しむDQN達が多く住む、陽キャの楽園トロマヴィルの一角で伝説が幕を開けようとしていた。

ある、見た目は美しいが倫理観と貞操観念に欠ける若者達の集うスポーツジムにて掃除夫として働くメルヴィンは、無能が過ぎてリーダー格のボーゾーを始めとする陽キャマッチョグループに本気でキレられ、
童貞を捨てられると金髪ビキニ美女に色仕掛けで引っ掛けられてしまい、ピンクのチュチュ*4を着せられた上に美女と勘違いして犬とキスする姿を大勢の笑い者にされてしまう。
余りの屈辱から逃げ出したメルヴィンはDQN共の居ない場所を目指した結果、何故かスポーツジムの三階の窓から通りに飛び出すことに。
……そのまま死ねていれば幸い……だったのかもしれないが、メルヴィンが落下したのはヤバめの工業廃液がタップリと詰まったドラム缶を運ぶトラックの荷台
運の悪い時に運転手が葉っぱでキメるのに夢中になってトラックを止めていたのがスポーツジムの目の前だったのである。
こうして、人が触れただけで燃え上がる廃液にダイレクトに突っ込んだメルヴィンは全身を焼きながら自宅に逃げ帰るが、何と廃液の毒に耐えたメルヴィンの肉体は肥大化。
崩れた顔面と無敵の肉体を持つ毒々モンスター(Toxie)へと変貌したメルヴィン、いやさ毒々は内から湧き上がる悪を嗅ぎ分ける能力により、無法の地であったトロマヴィルに平和をもたらすための戦いを開始するのであった。(…えっ正義の味方なの!?)


■悪魔の毒々モンスター 東京へ行く(The Toxic Avenger PartⅡ)

1989年2月公開(日本公開:1989年7月22日)

トロマヴィルを薬物で汚染させようとしていた悪の市長を倒して街のヒーローとなった毒々モンスターは、前回の戦いにより得た盲目の恋人クレアと共に汚染廃棄物の山に築いたスイートホームで幸せな日々を過ごしていた。
……しかし、トロマヴィルを廃棄物で汚染していたアポカリプス社は自分達の邪魔をした毒々モンスターを始末することを決定。
腕利きの殺し屋達を雇い入れて刺客とするが、毒々モンスターのスーパーパワーの前に失敗に終わるのだった。
悩んだアポカリプス社だったが、正面から倒せないのならば毒々モンスターをトロマヴィルから遠ざければいいとして、毒々=メルヴィンの父親が本当は日本人で当然のように日本に居るという嘘の情報をでっち上げて毒々モンスターのスイートホームに手紙で投函。
居ても立っても居られなくなった毒々モンスターは、ウィンドサーフィンで太平洋を渡り日本へ……。
日本でもアポカリプス社の新たな刺客に追われつつも地元で会った美少女のマサミの案内で日本を満喫するが、その間に毒々モンスター不在のトロマヴィルではアポカリプス社の攻撃が開始されようとしていたのだった。


■悪魔の毒々モンスター 毒々最後の誘惑(The Toxic Avenger III:The Last Temptation of Toxie)

1989年11月公開(日本ではソフト版のみ発売)

二度に渡る巨悪との戦いでトロマヴィルに平和をもたらした毒々モンスター……しかし、ヒーローである毒々モンスターにとって平和な世界は自分の居場所を無くすも同じことだった。
クレアの視力を回復させる手術の費用を稼ぐためにも働き始める毒々モンスターだったが、悪党と戦うには役に立つスーパーパワーも普通の仕事には全く活かせずに混乱と犠牲者を出すばかりで全く役に立たない……。
悩む毒々モンスターに救いの手を伸べたのは、何と宿敵である筈のアポカリプス社。
アポカリプス社と悪魔の契約を交わした毒々モンスターは順調に出世を重ねて高給取りとなりクレアの手術も成功させるが、その頃にはアポカリプス社の手先となった毒々モンスターはトロマヴィルの嫌われ者となっていたのであった。
クレアからも否定された毒々モンスターは己の弱さと向き合い、本来の自分であるメルヴィンと再融合。
正義の心を取り戻した毒々モンスターとアポカリプス社の最後の戦いが幕を開ける!!


悪魔の毒々モンスター 新世紀絶叫バトル(Citizen Toxie: The Toxic Avenger IV)

2000年10月公開(日本公開:2002年8月10日)

※ⅡとⅢは無かったことになりました。
身体障害者の通うトロマヴィルの養護学校が差別主義者のテロリストに襲撃されて生徒達が惨たらしく惨殺される事件が発生した。
美人TVリポーターに化けて潜入した毒々モンスターは、正体を現すとおデブな相棒のラーダスと共にテロリスト達を倍返しで殺害して事件を解決……したつもりだったのだが、ラーダスの犠牲も虚しくテロリストの仕掛けていた時限爆弾に吹っ飛ばされてしまう。
何とか生き延びた……と思った毒々モンスターだったが、どうも平和な筈のトロマヴィルの様子がおかしい。
実は、時限爆弾の強力すぎる爆発により毒々モンスターは並行世界である悪のアモートヴィル*5に吹っ飛ばされてしまっており、しかもアモートヴィルでは反転して悪の化身となった並行世界の自分=“悪毒モンスター”が支配者として暴れており、しかも自分と入れ替わる形でトロマヴィルへと飛んだ悪毒モンスターは毒々モンスター不在の間にトロマヴィルでも無法の限りを開始しようとしていたのだ。
果たして、毒々モンスターはトロマヴィルへと戻り悪毒モンスターの野望を打ち砕けるのか!?


【主な登場人物】


■毒々モンスター/メルヴィン

初代:ミッチェル・コーエン(毒々)/マーク・トーグル(メルヴィン)
2・3:ロナルド・フォジオ(毒々)/マイケル・J・カプラン(メルヴィン)
4:デヴィッド・マッティ、クライド・ルイス(毒々)/マーク・トーグル(メルヴィン)
本作の主人公。
元々はスポーツジムで無能で失敗続きの掃除夫として働いていた不細工でチビで出っ歯で善良だがKYなメルヴィンだったが、DQN達に追い詰められた末に危険な廃液を浴びて無敵の肉体を持つ“毒々モンスター”に生まれ変わった。
肉体の変異と共に“トロマトン”と名付けられた悪を感知するフェロモンが生じるようになっており、見た目は怪物だが本能で悪を嗅ぎ分けるヒーローとなって人々の平和の為に戦う。
主装備はメルヴィンが事故にあった時のままなのでモップで、衣装もチュチュである。
3と4では本来の自分であるメルヴィンと、4では並行世界の悪の自分である悪毒モンスターと戦うなど、案外とヒーローの王道を抑えている

■サラ

初代:アンドリー・マランダ
4:ヘイディ・スジャーセン
毒々モンスターとなったメルヴィンが悪党から救い出した盲目の美女。
盲導犬としていた愛犬を殺されてしまったことから毒々と触れ合い、顔が解らないままに愛されることに悩んでいたメルヴィンだったが、サラは毒々モンスターの醜さに気づいていながらも受け入れて晴れて恋仲となり結ばれる。
4では結婚すると共に子作りで毒々モンスターの子供を得ることを望んでおり、待望の毒々の子を得たと思っていた所で並行世界からやって来た悪毒モンスターに毒々と騙されて犯されてしまい、同時に悪毒の子供も得ることになってしまった。

■クレア

2・3:フィービー・レジェール
4:ヘイディ・スジャーセン
初代でのサラに相当する盲目の毒々モンスターの恋人。
何故か2・3作目では名前が変わってしまっていたのだが、4にて矛盾を回収して並行世界のサラということになりアモートヴィルで悪毒モンスターの性奴隷となっていた。
基本的な設定や境遇はサラと同じ。

■マサミ

演:桂木麻也子
『東京に行く』のゲストヒロインで、毒々モンスターに助けられた後に観光案内をした。
演じる桂木は当時の人気セクシー女優。

■ビック・マック・ブンコ

演:安岡力也
『東京に行く』にて登場したゲストヴィランで、メルヴィンの父親と偽装された大物ヤクザ。
最後には父親でないことがバレて毒々モンスターと力士姿で対決するが、運悪くマグロの解体ショーに巻き込まれてサシミにされる。

■伊集院勤

演:関根勤
突撃リポートをしていた実況アナウンサー。
関根が『毒々モンスター』のファンで、東京でやるなら出たいと言ったら快諾されて出演が叶ったとのこと。
日本人キャストでは一番目立っている。

■佃煮評論家

演:永井豪
何やってんすか先生。

■アポカリプス社会長

演:リック・コリンズ
アポカリプス社の代表。
毒々モンスターにしてやられ続けていたが、金に困っているのを知ると弱みに付け込んで雇い入れて悪の手先にしてしまった狡猾なやり手。
正体は本物の悪魔

■ラーダス

演:ジョー・フライシェイカー
4にて唐突に登場した毒々モンスターの相棒。
超肥満体で食べ物を(グチャグチャにした状態で)武器にする。…キチャナイ。
最後は時限爆弾を腹に飲み込んで被害を押さえる……ことには一応は成功するが自らは命を落として毒々モンスターはアモートヴィルに送られる羽目となってしまう。

■チェーダス

演:ジョー・フライシェイカー
アモートヴィルに住む並行世界のラーダスでクレアの夫。
科学者だが悪毒モンスターに全てを奪われてクレアも性奴隷として取られてしまっていたが、毒々モンスターに救われて毒々がトロマヴィルに帰るための手助けをする。

■カブキマン

演:ポール・キルムス
4にて登場した毒々モンスターの友人で共に悪と戦うヒーロー。
彼のみは本当に別作品『カブキマン』が存在するトロマヒーローの一人である。*6
アモートヴィルでは悪毒モンスターの腹心となっており、やって来た毒々モンスターに同じく反転したトロマヒーローと共に攻撃を仕掛ける。

■4のナレーター

演:スタン・リー
米国最大のコミックメーカーMARVELの伝説にして数多のヒーローを生み出したヒーローメイカー。
……『毒々モンスター』も一応はヒーロー物だから引き受けたのだろうか……?


【余談】


リメイク版にはイライジャ・ウッドやケヴィン・ベーコンが出演している。

海外では海外版ファミコンやメガドライブなどでゲーム化されている。AVGNもレビュー動画をあげており、ゲストとしてロイド・カウフマンが登場している。ナードがあまりの可笑しさに笑いを堪えきれなくなるくらいすごいパフォーマンスを見せてくれるぞ。結構な有名人なのに。



毒々な追記修正は毒々な有毒廃液を浴びて毒々で完璧なヒーローになってからお願い致します。

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最終更新:2025年03月04日 15:04

*1 1945年12月30日生まれ。父親は弁護士。世界レベルで名門校のイェール大学卒業。

*2 ちなみにガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(映画)で騒ぎ立てる囚人の中にしれっとカメオ出演してたりもする。

*3 この他の情報としては地元で見つけているのか、トロマ映画にはトロマ映画でしか見かけない専属俳優達……通称“トロマ俳優”が居るのも特徴。(因みに、この呼び名はメイキングでのロイド・カウフマン自らの発言より。)……普通に容姿や演技力(特にDQN役)が高い役者も多いのだが、安いギャラで最高の演技を見せてくれる見た目はおバカだがサイコーの奴等に注目だ!

*4 バレエの衣装

*5 アモート(AMORT)=トロマ(TROMA)の反対。

*6 主人公は米国人だが、本来の日本人ならば全員が持っている(えっ!?)カブキマンに変身できる因子を引き継いでカブキマンに変身して戦う物語。