登録日:2025/02/04 (Thu) 18:16:00
更新日:2025/04/14 Mon 04:11:29
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かつて、爬虫類飼育者なら誰もが憧れる存在であったにもかかわらず、今では一部の好事家だけに着目される存在となってしまった奴らがいる……
曲頸類 とは、爬虫綱カメ目曲頸亜目に属するカメの総称である。
我々日本人になじみのあるカメと違って、首を甲羅に縦に引っ込めることができず、長い首を横に曲げて収納するのが最大の特徴。
ヨコクビガメやナガクビガメといった名称もここからきている。
ほぼ全てが水棲もしくは半水棲。
本項目では、「ペットとしての」曲頸類飼育について解説する。
正直、今曲頸類とはどうなのか
爬虫類飼育趣味がかなり一般にも根付き、爬虫類を飼うことが比較的普通の趣味になってきた昨今、このトレンドに乗り遅れてしまっているようなグループがいる。
ミズガメ類である。
イシガメやクサガメ、ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)など、多くの日本人にとって昔から身近なペットであったにもかかわらず、昨今の爬虫類人気でスポットが当たるのと言えばレオパ、コーンスネーク、ボールパイソン、フトアゴヒゲトカゲにリクガメ……
あれ、ミズガメは?
そう、近年新たに爬虫類飼育を始める人に、ミズガメはなかなか選んでもらえないのである。
ワニガメが特定動物に、カミツキガメやハナガメ・ミシシッピアカミミガメが特定外来生物に指定されるなどして、古くからなじみのあった種がどんどん飼育できなくなった、というのも一因だろうが、より根本的だと思われる理由が二つある。
一つは、ミズガメは場所を取る&手間がかかることである。
そもそも、現在爬虫類に人気が集まっているのは、「省スペースで手軽に飼えて、手がかからない」という理由が大きい。
だというのに、ミズガメってやつらはこの売り文句に完全に逆行しているのである。
- 小型種でも、身体の割に結構大きなケージ・水槽が必要
この時点で、「あ、じゃあミズガメはいいです」となる人が多いのも無理はない。
特にアパートやマンションなどの集合住宅に住んでいる人にとっては、ちょっとした大きさのミズガメは飼い始めるだけで大変なのである。
昨今は、アクアリウム界隈でも、小型水槽(45センチかそれ以下)に人気が集まり、メダカのような小型種がブームになっている。
ミズガメは、多くの種が最終的には60~90センチサイズの水槽を必要とする。
ほとんどの人は、「そもそもどこに水槽を置くか」から考えないといけないだろう。
水替えも結構な大問題。
昔の日本家屋なら、風呂場に持って行ってそのままジャーっと流せばよかったのだが、集合住宅ではなかなかそうもいかないのである。
そりゃあ、プラケースでも飼えるヤモリやヘビに人気を奪われるはずである。
もう一つは、世界的なカメの価格高騰である。
これは種にもよるのだが、爬虫類飼育趣味に関心が無い人や、昔は飼ってたけど最近の情報は知らないという人は、ショップのカタログを見れば仰天するだろう。
今や10万円越えは当たり前、アジアのヤマガメなどともなれば数十万円はするのが普通である。
これにはいくつか理由がある。
一つは、爬虫類飼育趣味全体が、WC(野生のものを捕まえて来て飼う)からCB(人為繁殖させた個体を飼う)への移行期にあること。
カメは性成熟までがかなり長く、安定したCBの供給が軌道に乗るまでは、どうしても時間がかかるのである。
一方で野生個体の流通量は減少する一方なのだから、そりゃあ高騰するわけである。
この状況にとどめを刺したのが、お隣中国で爬虫類ブームが起きたこと。
何しろ人口が多くてお金もある国である。
かの国のコレクターの熱心さは、なかなか日本人にマネできるものではない。
そりゃあ、どこの国のバイヤーだって、日本人なんかより中国人相手に売りたいに決まっている。
そんなわけで、ただでさえ流通数の少ないカメが、世界的に取り合いになり、ますます手に入りにくいという状況に陥っているわけである。
これらの事情が組み合わさった結果、一時期は「ミズガメ冬の時代」と言えるほど、日本ではミズガメは人気が無くなっていた。
イベントでもカメに群がるのは高齢ファンばかりで、若い新規飼育者には見向きもされなかったのである。
最近になって、ようやくこの状況が好転してきた。
若い新たなミズガメ飼育者も増えてきたのである。
恐らく火付け役になったのはアメリカハコガメであろう。
アジアのヤマガメ・ハコガメは相変わらず人気があるし、北米のドロガメやチズガメ、スライダー類も、日本の気候に合っていることもあってか再注目されつつある。
ミズガメ界の未来もようやく明るくなってきたといえるだろう……
……あれ、何か忘れているような????
曲頸類「あのさあ」
前置きが長くなったが、ここからようやく曲頸類の話である。
実はかつて(1990年代頃)、曲頸類とは爬虫類飼育者に最も憧れられるグループの一つであった。
日本には全く存在していないエキゾチックな容姿、飼いこめば飼いこむほど味が出てくる奥深さに人気が集まっていたのである。
しかし、「ミズガメ冬の時代」を経た現在、曲頸類にそこまで人気があるかというと……
爬虫類飼育初心者「やっぱリクガメっていいですよねー!! アメリカハコガメもきれいだなー!! シュペングラーヤマガメも、今は高くて手が出ないけどいつかは飼いたいですね。お、クジャクガメ? 綺麗でいいですねー。
ん? ジーベン? でっか!? え、完全水棲? うーん、そいつはまあいいかな」
まあ、こうなる。
なんでかというと、最大の理由はほぼ全てが完全な水棲ということだろう。
上に書いたことの繰り返しになるが、現在の日本で巨大な水槽を維持してまでカメを飼いたいと思う人自体が少数派なわけである。
水質や水温の管理自体は、慣れればリクガメのケージの環境管理などよりもむしろ簡単なのだが、それ以前に「水替えがイヤ」「そもそも水槽を置けない」という人が多数派なわけだ。
というわけで、かつては爬虫類飼育界屈指の人気グループだったのに、今ではすっかりマイナーな存在になってしまった曲頸類。
それでも、彼らが飼ってて楽しい魅力的なグループであることには変わりはない。
何より、自宅にカメが悠々と泳ぐ巨大水槽があるというのは、実に贅沢な暮らしではないか。
種によっては飼いやすい種、小型種もいるので、興味を持った人には是非ともチャレンジしてもらいたい。
ちなみに、特にミズガメで顕著なのでこの項目で書いておくが、そもそも爬虫類はかならずしも終生飼育するペットではない、というのが伝統的な考え方である。
ほとんどの爬虫類ショップが生体の下取りサービスをしているのはこのためだ。
特にカメは上手く飼えば数十年は生きる長寿な生き物なので、そもそも終生飼育を前提に飼い始めること自体が非現実的なのである。
ベビーからアダルトになるまで育てるのを楽しんで、その後は繁殖を狙っている人に託す、というのがよくあるパターン。
あるいは、もっと単純に、「新しい種を導入するためのスペースを空けるために、飽きた個体を手放す」ということもある。
これらは爬虫類飼育界隈では昔から普通に行われてきたことなので、むやみに非難すべきことではない(言うまでもなく、ショップや他の飼育者に引き取ってもらうのが前提で、遺棄するのは論外)。
なにしろ爬虫類は飼い主に懐かないので、飼い主が途中で変わろうが何の問題も無いのだ。
飼い方
何度も言うように、ほとんどの種が完全水棲。
例外的に半水棲のものもいるが、ここでは完全水棲種を前提に解説する。
多くの種が、最終的には90センチクラスの水槽を必要とするが、導入当初はプラケースなどで様子を見るのが一般的。
というのも、信じられないかもしれないが、ショップでは大抵浅い水深でキープされているため、いきなり水深の深い水槽に入れると、カメの癖に溺れることがあるのだ。
しばらく様子を見ながら、徐々に水深を深くしていこう。
ほとんどの種が熱帯性なので、水槽ヒーターは必須。
極めて温度にデリケートな種もいるので、温度設定はきちんとしよう。
また、この手の器具というのは何の前触れもなく壊れるものなので、こまめにちゃんと動いているかを確認しよう。
「時間と体力が有り余っているので、毎日水替えできますよ」という人以外は、フィルターも必須。
魚よりも水を汚すので、強力なものを使いたい。
バスキングライトと紫外線もつけよう。
浮島(陸地)は、最初はつけて置いて、全く上陸しないようなら撤去していいだろう。
むしろ、「全く水に入らず、ずっと陸地にいる」のは異常事態なので要注意。
この場合、水温か水質が合っていない。
エサは大抵のものが人工飼料に餌付くので、大抵苦労しない。
……のだが、たまに無駄にグルメな奴がいて、人工飼料の銘柄が変わったら食べなくなることがある。
なので購入時に、ショップで今あげているエサを必ず聞いておくこと。
たまに生餌や昆虫、エビなどをあげたら喜ぶ奴もいる。
水温が合う種であれば、熱帯魚と混泳させることも可能。
ただし、魚によってはカメの手足や頭を食いちぎったり、甲羅にかじりついてすり減らしたりするのもいるので、同居相手は慎重に決めたい。
水槽・フィルター・ヒーター・各種ランプに水替え用品と、飼育に必要な初期投資は爬虫類トップクラスである。
そりゃあ人気無くなるわ
ペットとして流通する主な曲頸類
アジア産
最初に飼う曲頸類に迷ったら、まずオススメなのがこの種。
安価であり、丈夫で飼いやすいし、そこまで大きくならない。
それでいて、色の美しさは曲頸類トップクラス。
顔から首にかけて、赤・緑・紫の鮮やかな模様が入るのだ。
安価なために軽視されがちだが、もっと人気が出てもいいカメ。
最近ではアルビノも固定されていて出回っている。
カブトガメ類の代表種。
こちらも丈夫で安価で大きさも手ごろと、まあまあ飼いやすい。
一見すると地味なため、初心者にはスルーされがちなのだが、沼るとえらいにことになり、こいつだけを延々と集め続けるというコレクターまでいるカメ。
というのも、極めて変異が豊かで、さまざまなバリエーションの外見を持った個体がいるのだ。
このため、かなり以前から、カメマニアの間では「こいつら、明らかに一種類じゃないんじゃね?」とささやかれていた。
そして近年の研究では、実際に複数の種に分割される傾向にあるようだ。
生息地ごとに変異があるようで、入荷するごとに違うタイプの個体がやってくると言ってもいいような種。
なのでこいつにハマってしまうと、「ニューギニア便が来たぞ」と聞くたびにドキドキワクワクするような度し難い人間になってしまうのである。
どうやら「チリメンナガクビガメ」と呼ぶ方が適切らしいのだが、大抵のショップでこの名前で呼ばれているため、ここでもこれで記載。
(和名および学名をめぐる混乱は、あまりにもややこしいのでここでは割愛)
とかく最近は影の薄い曲頸類にあっても、本種は昔から変わらない人気を誇る代表的な種である。
活発で、飼ってて面白いカメなので、スペースが許すなら一匹は欲しい。
誰が呼んだか「オブロンガ様」と呼ばれる、曲頸類最高峰と言えるマニア垂涎の種。
オーストラリア、それもパース近郊にしか生息していないというレア種。
そもそもオーストラリアは、自国の野生動物の輸出を全く認めていないので、流通するオーストラリア産の爬虫類はすべてCB。
本種もヨーロッパのブリーダーが殖やしたものがたまにやってくる。
値段は、ちょっとした中古車なら3台は飼えるくらいです。
高価なだけではなく、非常に大型になり、かつ「これぞ曲頸類」というような姿になる美麗種。
色んな意味で誰でも飼えるカメではないが、マニアなら誰もが憧れるのは納得。
南米産
爬虫類飼育というものに興味がない人でも、本種の姿と名前くらいは見たことがあるだろう。
全身が枯葉にそっくりな、擬態の見事な例とされるカメである。
アマゾン水系とオリノコ水系があり、普通出回るのはオリノコ系でアマゾン系はレア。
かつては、ワニガメ・カミツキガメ・オオアタマガメと並んで「爬虫類飼育に目覚めた中学生がお小遣いをためて飼うカメ四天王」だったとか。
現在ではワニガメ・カミツキガメは飼育不可、オオアタマガメはサイテスⅠなので、普通に飼えるのはマタマタだけである。諸行無常。
見た目のインパクトから、今も昔も初心者から人気のあるカメだが、下記の理由から安易に飼育することはお勧めできない。
- とにかく動かない。並みの人間なら飽きる
- 人工飼料に全く餌付かず、生きた魚しか食べない。エサを用意する手間の面倒さはカメ界随一
- 異様に環境にうるさい。水温が低かったりエサをあげすぎたりすると、何の前触れもなく死ぬ
- 最終的にはかなり大きくなる。40~60cmになる。
上述のように、昨今の爬虫類飼育者には避けられる要素ばかりが揃っており、有名な割には年々飼育者を見かけなくなっているカメ。
どうしても飼いたい人は、覚悟を決めて挑戦しよう。
アマゾンカエルガメ、ヒラリーカエルガメ、ジェフロアカエルガメ、ヒメカエルガメなど何種類かいる。
その名の通り、カエルっぽい顔が特徴。カメなのかカエルなのかはっきりしろ
最もよく見かけて安価なのはヒラリーカエルガメなのだが、この種は最終的にはかなり大きくなるため、一般人にはオススメしない。
一番オススメなのはアマゾンカエルガメ。
アフリカ産
クリハラハコヨコクビガメ、クロハコヨコクビガメ、ノコヘリハコヨコクビガメなど何種かいる。
ハコガメなのかヨコクビガメなのかはっきりしろ
とかく最近ではマニアしか喜ばないような存在になった曲頸類にあって、さらに頭一つ、いや三つくらい抜けて「マニア好み」なのがこのグループである。
実際見てもらうとわかるのだが、そろいもそろって地味。
爬虫類というものに興味がない人が見たら、その辺のクサガメと大差ないと言われそうな外見のものばかりであり、曲頸類の魅力であるエキゾチックさというものがまるでない。
何より曲頸類なのに首が短いというのが、その地味さに拍車をかけている。
そんなわけなので、カメマニア・曲頸類マニアの中でも、こいつらを愛好する人は稀。
それ故にか、どの種も安価に出回っており、極端に高価という種がほとんどいない。
それでいて、どういうわけかグループ内のほとんどのメンバーが流通するので、いくつかのレア種を除けば、コンプリートするのは難しくない。
「ちょっと人とは違ったカメを極めたい」という人にはオススメなグループ。
飼いやすいし、ずらっと並べて細かい違いを探すのも結構楽しい。
コンプリートしたところで「だからどうした」と言われるようなカメだけどな
曲頸類が登場する作品
モチーフが曲頸類でも、首をまっすぐ引っ込めるキャラになっている場合がある。
- 仮面ライダーV3
- アマダのカードでは、カマクビガメのモチーフをヘビクビガメとしている。
ただし、カマクビガメ自身は首をまっすぐ引っ込める。
追記・修正はオブロンガ様をお迎えした人がお願いします
- 国内にもハコヨコクビガメ類のブリーダーはいるけど、「年に1匹売れるかどうか」だとか…色々とすごい世界だ -- 名無しさん (2025-02-05 09:10:55)
- 記事にもあるけど国内じゃ野生種がいないから物珍しさはある でも飼う気は… -- 名無しさん (2025-02-05 10:44:18)
- すっぽんは違うんだ -- 名無しさん (2025-02-05 12:42:22)
- 今だと中国バブル弾けて値段下がってそう -- 名無し (2025-02-06 15:55:07)
最終更新:2025年04月14日 04:11