SCP-1607-JP

登録日:2025/03/18 Thu 15:36:00
更新日:2025/04/06 Sun 12:23:25
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我々の守るべき正しい世界とは。


SCP-1607-JPは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクト
オブジェクトクラスはSafe。
項目名は「忘れられた色」。

この時点ですでに察した人もいるかもしれないが、引き続き解説していこう。


概要

SCP-1607-JPは特定の条件下で発生する色覚異常である。その条件とは、
  • 1 ██製の点眼薬1の服用経験があること。なお、その点眼薬は1990年代に廃番済みとなっている。
  • 2 左右の視力が各1.0以上であること。
  • 3 太陽の高度が██°以上であること。
  • 4 以上の条件を満たした上で、雲の量が1%以下の晴天下で太陽を0.0█秒以上直視すること。
といったものである。

そして、条件を満たした対象がどうなるかというと、SCP-1607-JP-AもしくはSCP-1607-JP-Bに変化する。
  • SCP-1607-JP-Aは視野角180度に対して、赤、緑、青の色視野が99%に及び、焦点は広範囲になる。SCP-1607-JP-Aはしばしばめまいや眼精疲労を訴えるが、視野情報量の拡大によるものであるため、最終的には順応できる。
  • SCP-1607-JP-BはおおむねSCP-1607-JP-Aと同じですが、極めて緻密な色彩識別能力を持つ。その一方で、赤、緑、青など一般的な色を認識することが困難になってしまう。その結果、今までの色の認識と異なることに強いストレスを覚え、多くの場合は鬱の兆候を示すようになる。
現在は、SCP-1607-JP-Aが261体、SCP-1607-JP-Bが25体存在している。

イメージが付きにくいと思うので、ここで分かりやすい例えを入れよう。
  • SCP-1607-JP-Aは視野の広さは変わらないが、視界がすべてくっきり見えるようになる。目に入る情報量が多くなるため疲れてしまうものの、最終的には慣れていく。
  • SCP-1607-JP-Bはその症状に加え、色彩を見分ける能力が飛びぬけて優れるようになるが、一方でひとくくりの色の概念が理解できにくくなる。
簡単に言えば、SCP-1607-JP-B個体には赤色朱色紅色がそれぞれ見分けがつくようになるが、ひとくくりにして赤色あると認識できなくなってしまうというもの。
もっとわかりやすく例えるならば、「白って200色あんねん」ということか。

なお現在治療法は発見されていないものの、色の認識を再教育したり、特殊なコンタクトレンズを提供することで対処している模様。


どのように変化するのか、そしてどのように見えるのか


インタビュー記録を抜粋した。

その1

████博士: あなたがまた本来の生活を過ごせるよう協力しましょう。まず、そのような目の調子になったのはいつからですか?

SCP-1607-JP-A-2(SCP-1607-JP-Aに変化した人物): んだなあ。先週の水曜日に、いつもより早起きしたんだ。外がすごくいい天気で、空がとってもキレイだから散歩に出かけたんだ。そんで、ふと上を見たら、突然目に何か入ったように痛くなって、すごく眩しくて動けなくなった。

████博士: 目に何か入ったようとは、実際に何かが入ったのですか?

SCP-1607-JP-A-2: いや、それはあくまでもたとえで、いきなり眩しいもの見た時、目が痛くなるだろ?アレだった。眼科に行っても眼精疲労としか言われないし、本当に困ってた。先生のくれたコンタクトのおかげでだいぶマシになったよ。

████博士: お疲れ様です。どうぞお大事になさってください。

「目に何かが入ったように痛くなって」とあるが、これはどういうことなのであろうか。

その2

SCP-1607-JP-B-1(SCP-1607-JP-Bと診断された人物)(: [20秒ほど沈黙]先生には、私の服が何色に見えますか。

████博士: あなたの服の色は、そうですね、青色に見えます。

SCP-1607-JP-B-1: 私のメガネのフレームの色は、何色に見えますか。

████博士: 青色に見えます。

SCP-1607-JP-B-1: 先生のネクタイは何色に見えますか。

████博士: これはラベンダーです。紫色とも言いますね。

SCP-1607-JP-B-1: どうして?どうして先生は私の服とメガネの色を青色と言うんですか?私の服とメガネの色を青色と答えるのに、先生のネクタイはラベンダーと言うんですか?なんで先生はネクタイを紫色とラベンダーだと言うんですか?

████博士: ██さん、落ち着いてください。あなたには、ご自身の服とメガネの色を、青色ではないと思われるのですか?

SCP-1607-JP-B-1: いえ、違うんです。青色なんです。私は青色が大好きだったから、青い服と青いメガネを選んだんです。私は青色が大好きだったんです。でも先生、青色はどんな色なんですか?

████博士: 青色は、ある範囲の色群を表す言葉です。どうか落ち着いてください。

SCP-1607-JP-B-1: 違うんです、違うんです。私には先生のおっしゃる青色と青色が同じに見えないんです。

████博士: どういうことでしょうか。

SCP-1607-JP-B-1: 先生、私はこのメガネのフレームの青色と、服の青色が、全く別の色に見えるんです。いえ、好きな色なんです。青色が好きだから選んだんです。でも違うんです。でもこの色をなんと言えばいいのかわかりません。別の友人は、メガネをブルーと言い、私の服をスカイブルーと言いました。でもこの色はスカイブルーじゃないんです。でもスカイブルーがどんな色なのかわからないんです。

████博士: それは、似た色でもないのですか。

SCP-1607-JP-B-1: 同じ色だとみんなは言います。子供たちもそう言いました。でも違うんです、私にはこの色が全然違うんです。赤色と緑色の違いのような、でも、でも赤色と緑色もわからないんです。子供の擦りむいた膝から流れた血の色が赤くなかったんです。でも血が赤色だとしたら、ルビーは何色ですか?子供たちの遊ぶクレヨンの色は何色ですか?先生、助けてください。こんな真実は知りたくなかった。

また収用を担当した博士は、このようなことを記している。

SCP-1607-JP-Bは、口を揃えて「こんな真実は知りたくなかった」と発言します。「真実」とは何を指しているのでしょうか? SCP-1607-JP発症者は見えている色が七色などで大別できないだけでなく、何か異常なものが見えている可能性があります。DクラスにSCP-1607-JPを人為的に発症させる術を発見する、もしくはSCP-1607-JP-A発症者がいないか調査を行います。

「真実」。 この言葉の本当の意味はここまでSCP記事を読んできた諸君には分かってはいると思うが、読み進めていこう。

事案1607-JP-1

異常の発生原因となる目薬をDクラス職員に売って条件を満たさせたところ、彼らがSCP-1607-JP-Aに変化していることが確認され、彼らに対して視覚情報の可視化を行った。すると、
平均的な人間よりも広範囲なスペクトルを視認できていることが確認され、また今までの可視光線の認識と異なる部分が見受けられた。
そして、その映像を視認した6名の職員全員がSCP-1607-JP-Bに変化したことが判明した。
なお、画質が荒かったり監視カメラを通した目撃であれば効果を及ぼさなかった模様。

ここで、SCP-1607-JP-Bに変化した博士のメモがある。
あの映像を見たとき、私は視覚情報映像化が正常に行われなかったと思いました。想像していたものとまったく異なっていたからです。かつての景色を忘れた私にその正体を説明することはとても難しいです。ただ、彩度・明度減退効果のあるコンタクトレンズの処方は、現状で最も穏やかな対処法でしょう。それより効果的なものとなると、視力自体を奪うしかありません。

わかってはいると思うが、このSCiPに非常にかかわりの深いSCiP、というよりかは「元」SCiPが存在する。
SCP-8900-EX-Sky Blue Sky(青い、青い空)である。

O5-8のメモ(おさらい)

諸君、我々は失敗した。
SCP-8900の影響はあまりにも広く拡散し、ありふれたものになってしまった。空の自然な青は下品で不自然な色合いに変わり、木々の緑は等しく汚された。SCP-8900は全ての可視スペクトルに荒廃をもたらし、我々は覆い尽くされた。

正反対の影響を及ぼす「感染症」を作り出すという我々の試みは失敗した。我々は被験体に対して自然な色彩を復元させることに成功したが、この処置は被験体を無音にしてしまうようだ。
その上、今しがた使者がオフィスに到着し、我々のささやかな試みが収容違反を起こしたことを伝えてくれた。未来のエージェントはその性質から、これをSCPオブジェクトとして扱わなくてはならないかもしれないな。

我々にはたった一つの選択肢が残されたのだ、諸君。私は財団の最終フェイルセーフ手段、アンニュイ・プロトコルを実行する。

このメッセージが、受領を許可された君達に届いたことが確認され次第、世界中の財団が総力を挙げ、微細な記憶喪失を引き起こす化合物ENUI-5を大量散布する。
世界中のこのような恐怖を味わうべきでない男女が、立ち止まり、困惑し、自らの生活に戻るだろう、この現象が常に存在していたと確信し、何を失ったかを決して知らないまま。
ただ一つ、SCP-8900の影響を受けていない写真のみが真実を伝えていくことだろう。

私は残念でならない、諸君。本当に残念だよ。

これはやり遂げられねばならない。

― O5-8

確保。収容。保護。

また、SCP-1607-JPの報告書の最後には、O5権限で閲覧可能な補遺がある。
我々は仮初めの世界を見ており、SCP-1607-JP発症者は真実の世界を見ているかもしれない。しかし、忘れてはならない。たとえそれが嘗ての大敗に対する勝利だったとしても、今この世界に存在する人々の認識こそが、我々の守るべき正しい世界なのだ。 ──O5-8








かつての正常は、今の異常。守るべきは皆にとっての正常。


SCP-1607-JP




余談

ところで、SCP-8900-EXは「元の世界の色」について未だに議論が絶えないことで知られている。

論点は「元の世界の色は白黒だったのか? 我々に認識できない別の色だったのか?

これをざっくりまとめると、

  1. 「世界は元々白黒で、SCP-8900によって色彩という概念が生まれた」
  2. 「世界は元々白黒だが、色彩の概念自体はあり、SCP-8900によって現在の我々が知る色になった」
  3. 「世界は元々我々の知るものとは別の色で満ちていたが、SCP-8900によって現在の我々が知る色になった。これに伴い元々の色は現在の我々では認識できなくなり、モノクロにしか見えない」

+ ちなみに著者のtunedtoadeadchannel氏の構想は二番目。
※Discussionより一部抜粋して引用


2010年12月19日
They had a "blue", but it wasn't what we now see as blue; I couldn't write "everything went from black and white to color" because in-universe that's not what happened.

彼らは「青」の概念を持っていましたが、私達にそれは「青」とは見えません。私は「すべての物がモノクロからカラーになった」とは書きませんでした、宇宙で起こった事はそうではないからです。

2011年9月14日
A color photo of a black and white object is visually identical to a black and white photo.

When you go to color an illustration of, say, something blue, you reach for ink that is the shade you perceive as the shade of blue you want.

When things were black and white, people still perceived blue as a separate color from red. If they wanted to illustrate something colored greythatwouldlaterbeblue, they used greythatwouldlaterbeblue ink. Because the ink was that color, when the SCP altered the visual spectrum, it remained that color; grey that became blue.

In this article, photographs have always been in color. That is, photographs have always percieved color the way humans do post exposure. The things they were photographing haven't.

黒と白の物体のカラー写真は、モノクロ写真と視覚的に同じです。

あなたが例えばイラストに「青」を使おうとする時、あなたは自分が「青」と知覚するインクを使うでしょう。

物事が「白」と「黒」であった時もやはり、人々は「青」と「赤」を区別していました。もし彼らがイラストに「(後に青となる)灰色」を使おうとするなら、当然「(後に青となる)灰色」を使います。
SCP-8900-EXが可視スペクトルを変調させてもインクの色自体が変化する訳ではないため、曝露後の人々には「(後に青となる)灰色」が「青」に変化したように認識されます。

この記事(SCP-8900-EXが存在する世界)においては、写真は常にカラー写真です。つまり、写真が人に見せてくれるのはSCP曝露後の色であり、「撮影した時、それがどのような色に見えていたか」ではないのです。


ちなみに、SCP-1607-JP著者Monidrake氏の構想ではおそらく3番目の説を採用していると思われる。
著者の構想から外れているとか言わない、人それぞれの頭の中にヘッドカノンがあるのだから


追記・修正は世界の色を見渡してからお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1607-JP - 忘れられた色
by Monidrake
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1607-jp

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最終更新:2025年04月06日 12:23