トゥヴァ共和国

登録日:2025/06/21 Sat 18:25:40
更新日:2025/06/23 Mon 19:55:06
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“Whatever happened to Tannu Tuva?” ― Richard Feynman
(「タンヌ・トゥヴァでは何が起こったんだい?」 ― リチャード・ファインマン)

“Tannu what?” ― Ralph Leighton
(「タンヌ…なんだって?」 ― ラルフ・レイトン)


タンヌなんとかトゥヴァ共和国とは、ロシア連邦内に存在する共和国である。


【概要】

シベリア南部、モンゴルとの国境地帯に存在する共和国。「国」とはいうものの主権国家ではなく、あくまでロシア領内にある一地域であり、他国でいう「自治共和国」に相当する。
面積は168,604km2で、北方領土も含めた北海道全土の約2倍。一方で人口は2021年の国税調査で336,651人と、埼玉県越谷市と同じくらいしか住んでいない。

テュルク系民族であるトゥヴァ人による自治地域とされており、公用語はロシア語とトゥヴァ語。
国土は北にサヤン山脈、南にタンドゥ山脈という2つの大きな山脈に挟まれた山岳地帯で、その中にエニセイ川が流れる盆地が形成されており、国民の多くはここに住んでいる。人口の少なさにも頷ける。

ロシア領内の自治地域ではロシア人がかなり住んでいる地域も多いが、ここトゥヴァでは人口の9割近くがトゥヴァ人で構成されており、ロシア人は1割未満と珍しい地域となっている。
特にソ連崩壊・ロシア連邦成立後はロシア人の域外流出が続いている一方、トゥヴァ人の人口は増えている。

主な宗教はチベット仏教で、同時にシャーマニズムも広く信仰されている。ソ連時代には宗教活動は抑制されたが、現在は復興運動が盛んに行われている。この宗教を始め、言語こそトルコ系だが文化的にはモンゴルの影響が強い。

主に石炭採掘などの鉱業が盛んだが、経済的にはロシア内でも貧しい地域の一つであり、ロシア人流出の要因の一つにもなっている。


【歴史】

トゥヴァ人の祖先となる人々は古来より現在のトゥヴァ共和国に当たる地域で遊牧生活を送っており、周辺の様々な遊牧国家の支配を受けてきた。
18世紀中頃には大清帝国の支配下となり、「タンヌ・ウリャンハイ」(唐努烏梁海)という行政区画が置かれた。
とはいえ、満洲からも中国内地からも遠く離れた僻地であるこの地を積極的に支配した訳ではないようで、貢ぎ物とその返礼品をやり取りすることを除けば基本的に現地人のなすがままにされていた。
それどころか、19世紀にロシアの脅威が増大するようになっても何故か軍隊はトゥヴァより南側に置かれ、ロシア人が入植してきてもほったらかしにされていたこの時から何かと忘れられる運命にあったのだろうか……?
ちなみに「タンヌ」はタンドゥ山脈に由来する。

辛亥革命が発生して大清帝国が崩壊するとタンヌは独立を宣言、間もなくこの地に既に影響力を持っていたロシアによって保護領とされる。
しかしそのロシアも革命によって帝政が崩壊、内戦に突入し、タンヌもこの争いに巻き込まれる。
白軍や中国人勢力による占領も受けたが最終的に赤軍が勝利し、ボリシェヴィキの支援の元1921年にトゥヴァ人民共和国(通称タンヌ・トゥヴァ)として独立した。

最も、この国は隣のモンゴル人民共和国共々、ソ連とお互い以外からはどこからも国家として承認されなかった。
1930年には親スターリン政権が成立し、以後ソ連に倣った遊牧生活の改革と無宗教化を進めた。事実上ソ連の傀儡だった政府は1944年にはソ連への併合を決定、
ソ連内のロシア連邦共和国内におけるトゥヴァ自治州となり、トゥヴァ人による独立国家はわずか22年で地図上から姿を消した。

1961年にはトゥヴァ自治ソビエト社会主義共和国へと昇格し、ソ連崩壊とロシア連邦成立に伴いロシア領内のトゥヴァ共和国となった。
独立運動もなくはないが、ロシアへの経済依存が強く独立国としてやっていけそうにないため低調である。2022年からのウクライナ侵攻では少数民族である所以か多くのトゥヴァ人が兵士として前線に送られており、多数の死傷者を出している。


【文化の中のトゥヴァ】

こうしたシベリアの一地域というかなりマイナーな存在のトゥヴァであるが、一時は独立国を形成していたという歴史から注目されることもある。

記事冒頭で示した会話はその中でも最も有名といえる。アメリカの物理学者であるリチャード・ファインマン博士が、友人で数学教師のラルフ・レイトン氏が「世界の国名は全部覚えている」と口を滑らせた際に彼をからかう目的で言った台詞である。
ファインマン博士はトゥヴァの首都である「クズル」という地名に非常に興味を抱き、いつか行ってみたいと願うものの、当時は冷戦期で米ソは対立関係にあったため、ついぞその願いを叶えることは出来ず、渡航許可が下りた時には亡くなっていた。
後にレイトン氏はこの挑戦について書いた「ファインマンさん最後の冒険」を出版*1、更にその後の2009年にはファインマン博士の娘のミシェル氏がトゥヴァを訪れている。

記事冒頭のやり取りでの“Tannu what?”という発言はミームとなっており、第二次世界大戦を扱った戦略シミュレーションゲームであるHearts of Iron IVでも取り上げられている。
トゥヴァはこのゲームでも「タンヌ・トゥヴァ」として登場するが、周りを同陣営のソ連とモンゴルに囲まれており、資源も殆どなければ初期師団も歩兵一師団のみであり、
更には一定の時期になると史実同様ソ連に併合されることとなる*2などほぼほぼ観戦用国家となっている。国家形成による実績も存在するが難易度は非常に高い。

日本のネット界隈でも、このHoi4での扱いからネタにされており、「なかなか存在と名前を覚えてもらえない国」という扱いを受けている。
また、現在のトゥヴァ共和国の国歌である「Мен—тыва мен (我、トゥヴァ人なり)」は、イントロを始めメロディーが非常に荘厳であることから一部で人気を博している。聴きたい人はYouTubeなどで探して聴いてみよう。


【その他】

首都クズルにはロシア語、トゥヴァ語、英語でそれぞれ「アジアの中心」と書かれたモニュメントが建てられている。ただし、実際の「アジアの中心」は中国の新疆ウイグル自治区にある。

人口密度は2人/km² オーストラリア(3.44人/km²)より低く、隣接するモンゴルや西サハラと並んで世界でも有数の人口密度の低い地域となっている。

中華民国(台湾)はモンゴルと共にトゥヴァも自国領であると主張しており、かつて発行されていた官製の地図にも自国領として描かれていた。

二子山部屋所属の大相撲力士の狼雅外喜義はトゥヴァの出身である。ただし、父はモンゴル系民族のブリヤート人で、母はロシア人、国籍はモンゴルである。




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最終更新:2025年06月23日 19:55

*1 レイトン氏はファインマン博士の伝記作家的な側面もあり、ファインマン博士の伝記「ご冗談でしょう、ファインマンさん」「困ります、ファインマンさん」を編集している。

*2 この際の専用イベントの選択肢が“Tannu what?”であり、日本語版では「タンヌ…なんだって?」となる。