国歌

登録日:2011/06/20 Mon 23:46:18
更新日:2024/09/07 Sat 20:23:48
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国歌とは国を現す歌の事で、主に公式な式典で歌われている。
学校の入学式や卒業式、スポーツ大会の開会式や授賞式は勿論、国によっては学校の朝礼や映画の開始前に流す所もある。

国民性にもよるが、特定国の国歌を笑いものにするのはヘイトスピーチ同様に扱われてもおかしくない。
(抗議デモなどで国旗を燃やしたりするのと同レベルである)
式典などで外国国歌を演奏・斉唱している時は、最低限沈黙を守るように。
歌詞を覚えて来て一緒に歌うというのもそれはそれであり。

【主な国歌】


<アジア>

〇日本『君が代
実は三番まである。
歌詞の元が古今和歌集の一首だけに世界最短の国歌。

〇大韓民国『愛国歌』(エーグッカ)
作詞者とされているのはクリスチャンで政治家のユン・チホ(諸説あり)、作曲者はウィーン留学を果たした音楽家のアン・イッテである…
が、ユンは終戦後間もなく親日的な姿勢を糾弾され自決、アンも満州を称える歌を作成し演奏した事からやはり親日派とみなされ批判する声もある。
音程が高すぎて成人して声変わりした男性に歌いづらいという指摘から2014年に音程を2下げたものを教育現場で導入した。

〇中華人民共和国『義勇軍行進曲』
1935年に制作された抗日映画『風雲児女』の主題歌が1949年の成立時に制定された。
一時期は毛沢東を称える歌詞になっていたが、彼の没後は元の歌詞に戻された。

〇インド『インドの朝』
アジア人初のノーベル文学賞受賞者・タゴールの作。
ちなみにタゴールはバングラデシュの国歌も作っている。

〇タイ
午前8時と午後6時の2回、プミポン国王の映像と共に放送される。
これとは別に『国王賛歌』という、国王を称える歌も準国歌として扱われており、こっちは映画上映前に流される。

〇モンゴル
1950年に作られた国歌が1994年に復活。伝統的な旋律で歌われており、出だしがヨド〇シカメラっぽい。
言い換えると日本人に馴染み深く覚えやすいという事でもある。
どこまでも続く草原のような、雄大なメロディが特徴的。

〇カザフスタン『我がカザフスタン』
正規の国歌は至極まっとうな内容……なのだが、数ある国歌の中でもある意味最大の悲劇に見舞われたと言っても過言ではない。
2012年3月クウェートで開催された「第10回アラブ射撃選手権」にて、カザフスタンのマリア・ドミトリエンコ選手が金メダルを獲得したとき、事件は起こった。
何と、誤ってカザフスタンをネタにした映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』の下ネタまみれのニセ国歌が使われてしまったのである!
当然後日、カザフスタンからはがっつりと抗議が入り、表彰式がやり直しになったとのこと。

〇トルクメニスタン
現在使われている国歌では珍しい、政権を称える歌詞
正しくは建国の父・ニヤゾフ大統領を称える内容だが現大統領が路線を引き継いだ為に歌詞はそのまま。

〇イスラエル『希望』
タイトルに反して曲調は重厚で暗く物悲しい感じを受けるが、完成と共にユダヤ人の間で直ぐ様人気を博した。
「二千年の時間をかけて約束の地に我々の国を作る」という歌詞が共感を呼んだのかもしれない。
歌謡曲のような曲調が特徴的。

〇トルコ『独立行進曲』
トルコ革命における独立戦争の真っ只中の1921年に誕生した。
曲調は勇ましく荘厳。歌詞も民族の誇りを歌う力強いものとなっている。
2002年の日韓W杯では、決勝トーナメントでの日本の対戦相手ということで耳にした人も多く、「かっこいい国歌」として話題になった。
また、キプロス島北部のトルコ系住民による「北キプロス・トルコ共和国*1」も同じ曲を国歌として使用している。
この辺の事情についてはギリシャの項も参照。

〇北朝鮮『愛国歌』
金元均作曲で、『朝は輝け』という通称がある。ゆったりとした雄大なメロディが印象的。
意外なことに、歌詞に金一族や共産主義を称える言葉は無い。そのためか若干影が薄い
上述の韓国の国歌と題が同じだが、曲自体は別のもの。


<アフリカ>

〇エチオピア
1992年に制定された新国歌は、歌詞こそ他の国と同じ自国を称える一般的な内容だが曲がどことなく演歌っぽい

  • 1936年に採用された『南アフリカの声』(アフリカーンス語)
  • 1952年に英語版の歌詞を追加
  • 1994年に黒人の愛唱歌『神よ、アフリカに祝福を』(コサ語、ソト語)を追加
という複雑な事情を持つ。

国民の中には「白人の部分なんか歌いたくない」「知らない言語の部分は覚えるのが大変」という声も。


<ヨーロッパ>

イギリス『神よ国王(女王)を守りたまえ』
国歌としての歴史が最も古い歌(ただし法制化はされていない)。
2022年までは『女王を…』になっていたが、エリザベス女王が崩御したため男性が王位を継いだ場合の『国王を…』になっている。
これも七番くらいまであるが、全部歌われるのは稀。
別名:SBKのテーマ。ジョナサン・レイが毎回のように勝って表彰台で流れるため。

〇フランス『ラ・マルセイエーズ』
1792年に革命政府がオーストリアとの戦いで作り上げた『ライン軍の為の戦いの歌』がマルセイユの義勇軍達によってパリ進撃の際に歌った曲。
歌詞がすごく過激で血生臭いので流石にどうかという意見も出ている様だが、何だかんだで変わらない。
一応、7番の歌詞は子供向けとされているがその歌詞を要約すると、
「先人たちが志半ばで倒れたなら僕たちも戦って仇討ちをしよう。死ぬかもしれないが無駄に生きるよりマシだ」といった感じ。子供向けとは……?
世界各地の国歌に最も影響を与えた歌の一つ。

〇ロシア
元々は旧ソビエト連邦時代にボリシェヴィキ党の党歌として作られた曲。
1944年にそれまでの『インターナショナル』に代わるソ連国歌として採用されたが、当時の歌詞は独ソ戦を意識した戦時色の強いものだった上に、スターリンを賞賛する歌詞が含まれていたことからスターリンの死後一旦歌詞無しになり、伴奏のみが演奏される状態が20年以上続いた。
その後紆余曲折を経て、1977年にスターリン賛美や戦時色を排除した歌詞が改めて作られ、ソ連崩壊まで歌われ続けることとなった。

ソ連崩壊後はバレエの『愛国歌』が国歌として制定されたが、歌詞が無い上に国民に浸透していなかったため、2001年にソ連国歌のメロディが復活。
さすがに歌詞は変更されているが、コーラス部冒頭の「Славься, Отечество наше свободное.」(称えられてあれ、我らが自由なる祖国よ)というフレーズは、ソ連時代のものをそのまま使用している。

作詞者のセルゲイ・ミハルコフはソ連国歌の作詞も行っており、同じ国歌の作詞を生涯で三度もやり直すこととなった(スターリン版、1977年版、ロシア連邦国歌)。

ちなみに、日本ではよく『祖国は我らのために』と通称されるが、このように呼ばれているのは日本だけらしい。歴代の歌詞にもこういったフレーズは無く、由来は謎。

〇スペイン『グラナデラ行進曲』
世界でも珍しい歌詞の無い国歌。
2008年には公募で歌詞が選ばれたが
「『ビバ、スペイン』ってフランコ時代の合言葉じゃねえか」
「『心は一つに』って…地方の自治は無視かよ」
「ていうか歌詞がダサい」と散々な評価だった為に結局採用は見送られた。
別名:motoGP表彰台のテーマ。大体マルク・マルケスのせい。

〇ドイツ『ドイツの歌』
ドイツ連邦時代にドイツ統一の願いを込めて作られた。正式な国家となったのはヴァイマル共和国時代。
もともとは1番から3番まであり、その後4番も作られたが大人の事情により3番以外が削られた可哀想な子。
とくに、1番を歌うと下手したら警察の取り調べを受ける可能性もある。
余談だがF1視聴者には2番は歓喜の歌というネタがある。大体シューミとハミのせい。

〇旧東ドイツ『廃墟からの復活』
ドイツの復興と統一を願った歌。「一つのドイツ」とか入っていたせいでソ連に怒られて歌詞が消え、統一によって曲も消えてしまった。
が、この歌を語るうえで外せないのがアリスソフトのエロゲー「ランスシリーズ」で使われている事だろう。
1990年の『ランス2』以降、なんとHシーンのBGMとして使用され続けているのだ。
アレンジによってノリが良く勇ましい曲調になっており、濡れ場と合っているとは言い難いが、プレイしているうちに慣れてくるのだから恐ろしいものである。
なお『ランス2』が発売されたのが90年の5月であり、ドイツ統一が10月なので、初めて使用された時点ではまだ東ドイツは存在していた。

〇オランダ『ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエ』
メロディだけなら世界最古の歴史を持つ国歌。
歌詞は独立戦争で作られた詩が元になっており、各節の最初の一文字を並べると『ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエ』となる。つまり縦読み。
ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエとは独立戦争の指導者で現オランダ王家の先祖であるオラニエ公ウィレム1世のこと。

〇ギリシャ『自由への賛歌』
158節からなる長大な詩が歌詞に使われた為「ちょwww長杉ワロエナイwww」と言われがちだが実際に歌うのは最初の2節のみ
ただしギリシャ人の中には全てを暗記している強者も。
ちなみに、お隣キプロスも同じ曲を採用しているがトルコ系住民が猛反発。キプロス分断の一因となっている。

〇イタリア『マメーリの賛歌』
歌い方が特定されていないという謎の国歌。一応5番まであるが、1、1、コーラス、2、3、コーラスのようにめちゃくちゃな歌い方をされることもある。
コーラスと4、5番は他のヨーロッパ系国家同様に非常に血なまぐさい歌詞。
「死の覚悟はできておるぞ」とか「イタリアの血潮をポーランドの血潮はコサックへと飲み込まれん」とかふつーに出てくる。
第二次大戦後の共和制移行とともに制定されたのだが、またどうしてリソルジメント*2全盛期に作られた歌を……
2000年代前半のmotoGPのテーマ。バレンティーノ・ロッシ全盛期には頻繁に聴くことになったものである。

〇アゼルバイジャン『アゼルバイジャン行進曲』
ラスボス感があると評される、迫力あるメロディが特徴。冒頭で「アゼルバイジャン!アゼルバイジャン!」と連呼するのが印象的。ソ連編入前に使われていた曲が復活したものである。

リヒテンシュタイン『若きライン川上流に』
歌詞は国の自然や君主を称える一般的ものだが、曲がなんとイギリスと同じメロディー。ただしこのメロディーはかつてスイスやドイツなど多くの国で採用されていたことがあり、その名残りが今も残っている…ということらしい。

<南北アメリカ・オセアニア>

アメリカ『星条旗』
野球やボクシングの試合や映画で流れるのを聞いた事がある人も多いだろう。
イギリスとの戦争で生まれたこの曲は、意外にもイギリス人が当時のロンドンで流行っていた曲を編曲して作られた。
公式ではないが『星条旗よ永遠に』もよく好んで歌われる準国歌。
終わったあとに「Gentlemen(Drivers) Start Your Engines!」or「Playball!」の幻聴が聞こえる人が非常に多い。

〇エルサルバドル
演奏時間が最も長い国歌で、短縮版でも4分、フルバージョンは10分もある
この国に限らず、中南米の国々は国歌が滅茶苦茶長い事が多い。

〇オーストラリア『進め、美しきオーストラリア』
1974年に地元の愛唱歌から選ばれた。歌詞も曲調も国歌として申し分ない曲だが、
実は国民の間では『Waltzing Matilda(さすらいの旅)』という歌の方が人気。ただし歌詞は…(以下大意)
陽気な流れ者、羊を捕まえ大喜び

地主と警官が登場

捕まってたまるか!せっかくだから俺はこの池を選ぶぜ!

池の側を通るとこの男の歌声が聞こえるよ…「俺と一緒にさすらいの旅に出ようぜ」ってね…

〇ブラジル
前奏がかなり長い上に、曲全体もかなりの長さのため、ワールドカップなどの国際大会の際には途中でカットされる場合がある。
かなり早口で歌わなければならないため、老人は最後まで歌えないんだとか。

〇アルゼンチン
他の南米の国歌と同じく自由のために戦うという歌詞なのだが、
「世界の自由な人々は応じる! 偉大なアルゼンチン人に敬礼!」
と、やけに偉そうな内容である。

〇ウルグアイ
パラグアイ国歌と作詞者が同じである。これまたものすごく長いため、国際大会では必ずといっていいほどカットされる。
が、W杯2010プレーオフウルグアイ対コスタリカ試合前の国歌独唱の際、なんと国歌を最後まで歌いきった強者が現れた。
サポーターが焚いた発煙筒の煙りが撒くまでの時間稼ぎであると思われるが、そのあまりの長さに場内は騒然。
コスタリカの選手が曲の途中でアップを始めるという前代未聞の事態に陥った。
ようつべやニコ動にあがっているので興味がある人は見てみてはどうだろう。

ちなみに歌詞が長くなった理由は、対立関係にあった隣国アルゼンチンと歌詞の長さを競い合い、お互いどんどん付け足していったからだという。


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最終更新:2024年09月07日 20:23

*1 独立国として承認しているのはトルコのみ。

*2 イタリア統一運動