ドールハウス(2025年の映画)

登録日:2025/06/22 Sun 15:04:41
更新日:2025/07/14 Mon 07:40:45
所要時間:約 10 分で読めます





だれにもわたさない



この人形、なんか変。ゾク×ゾクのドールミステリー。





『ドールハウス』とは、2025年6月13日に公開された日本映画。
監督・脚本は『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』『サバイバルファミリー』の矢口史靖。
矢口監督はコメディ映画の名手として知られているが、本作は彼の長編映画監督作品としては初のホラー映画である。
宣伝では「ドールミステリー」と呼称されているが、映画のジャンルとしては思いっきり超常の怪奇現象が起こる「ホラー」として解釈した方が無難である。
主題歌はずっと真夜中でいいのに。の「形」。


概要

本作は娘を不幸な事故で亡くして悲しみに沈んだ夫婦が、ある古い人形を手にしたことから始まる。
悲しみを癒すために人形を実の娘のように可愛がる夫婦だったが、2人目の子供が産まれたことで人形は忘れられてしまう。
やがて、娘の手により人形が再び見つけられ、遊び相手になるが、次第に奇怪な現象が続発していく。
そして、人形にまつわる恐ろしい秘密が明らかとなる。

この人形にまつわる描写はかなり不気味なものとなっており、「人形の髪や爪が伸びる」という古典的怪談は序の口で、中盤から続発する怪奇現象に関しては非常に邪悪である。
主演の長澤まさみや瀬戸康史の高い演技力も組み合わさって、非常に臨場感の高い恐怖演出がなされている。
また人形のみならず、「幼い子供を持つ親が陥るかもしれない普遍的な恐怖」も入念に描写されており、特に冒頭のシーンは生理的嫌悪感を催すことは必至。
このように、全体的に不穏かつ陰湿な雰囲気が終始漂うホラー映画であり、「厭」な感じが漂う日本製ホラー(Jホラー)の王道とも言うべき作品である。

前述のように、矢口監督はコメディ映画の印象が強いが、実はドラマ『学校の怪談』のホラー短編を監督した経験があり、そのうちの一本『恐怖心理学入門』はホラーファンの中でも非常に評価が高い。
長編デビュー作『裸足のピクニック』も、「限りなくホラーに近い」ブラックコメディ映画であり、そうしたホラー演出へのノウハウもある人物である。
この経験を活かした本作は、世界各地のホラーファンに絶賛され、ホラー&ファンタジー映画を取り扱う第45回ポルト映画祭ではグランプリを受賞した。

なお、本作のサイドストーリーも収録したノベライズ版も刊行されている。
QRコードを読み取ることで特別映像も見れるので、気になる人はチェックしてみるのもいいだろう。


ストーリー

看護師の夫を持つ主婦・佳恵は一人娘の芽衣と一緒に、3人家族で幸せに暮らしていた。
だがある日、佳恵が買い物に出かけ、芽衣を友達と一緒に自宅で遊ばせて帰宅すると、芽衣の姿がなかった。
夫の忠彦やママ友と一緒に自宅周辺を捜索するが発見できず、途方に暮れて洗濯機の蓋を開ける佳恵。
……そこに芽衣は「いた」。変わり果てた姿となって。

それから1年、芽衣を失ったショックで、佳恵は精神を衰弱させ毎日を抜け殻のように生きていた。
だがそんなある日、彼女は骨董市で古い日本人形を目にし、購入する。
佳恵は人形を芽衣の代わりのように可愛がり、忠彦は呆れつつも、セラピーの一環と思い彼女に付き合って「3人家族」の真似事をし続けた。
そして、やがて佳恵は2人目の子供を妊娠し、出産。
新しい子供の真衣に人形を玩具として与えたものの気に入らなかったようで、人形はクローゼットの奥にしまわれることとなった。

それから5年後。
佳恵と忠彦は5歳になった真衣と一緒に平凡な家庭を築き上げていた。
しかし、ある日真衣は、クローゼットの奥の人形を見つけ、持ち出してしまう。
真衣は人形を「アヤ」と名づけ、本当の友達のように振る舞い始めるが、やがてその言動は日に日に異常になっていく。
不自然な足音、不気味な噛み痕、捨てても捨てても戻ってくる人形……

佳恵は人形の存在に恐怖するが、周囲は心の病だと思い、彼女を入院させる。
だが、忠彦は人形のルーツについて調べるうちに、衝撃の事実を目の当たりにする。

そして、更なる悪夢が一家に襲い掛かろうとしていた……
+ ※ネタバレ注意
実の所作中での怪奇現象や「それっぽい」現象は全て作中では礼の仕業扱いになっていたが実際のところは巧妙に全て礼の仕業のように見えるように作品が作られており、よく場面場面を考えれば疑問に思うシーンが多く見られる。

登場人物

  • 鈴木佳恵
演:長澤まさみ
主人公の平凡な主婦。やや粗忽な性格であり、作中何度も飲み物をこぼすシーンにそれが表れている。この性格が仇となり、娘の事故死という本作の発端となる最悪の事態を招いてしまった。
自身の不注意で娘の芽衣を死なせてしまったことで、精神疾患にかかってしまい1年以上毎日呆然と過ごしていた。
そんな中、骨董市で出会った人形に惹かれ、人形を娘のように可愛がって心を癒していく。
しかし、第2子の真衣の出産によりすっかり人形への愛情を忘れ、用済みとばかりにクローゼットにしまって存在も忘れてしまった。
だがその5年後、真衣が持ち出した人形に驚き、以来人形にまつわる不可解な出来事の数々に恐怖し、捨てようとするも失敗し、おまけに真衣への虐待疑惑をかけられ入院させられる。
その後、人形の除霊をする段階になって退院し、今後の安心のためにも、神田の制止を振り切って最後まで付き合うことにするが……。
+ ※ネタバレ注意
礼も真衣も実際のところ芽衣の代わりとしか見ていない節があったり、
虐待疑惑も礼の仕業だということになったが、実際のところ無意識であるが虐待していた事を示唆するシーンもあるため、真衣を日常的に虐待してた可能性がある*1

  • 鈴木忠彦
演:瀬戸康史
佳恵の夫。職業は看護師。
芽衣が死んで取り乱す妻の心を慰め、支え続けるが、一向に回復しない様子に心を痛めていた。
佳恵が人形を実の娘のように可愛がった際、最初は引いていたが、「ドールセラピー」の一環だという竹内のアドバイスを聞き入れ妻と一緒に表面上は愛情を注いだ。
だが結局、真衣の出産以降はすっかり人形をほったらかしにしていた。
悪人ではないものの、人形の異常性を主張する佳恵の真剣な訴えを(常識的に考えてあり得ないとはいえ)一笑に付して仕事を優先し、妻には投薬や入院といった見当違いの対応を勧めるという、この手の映画では決してやってはならないダメムーブを連発してしまう。しかし母が謎の少女に襲われたことや、人形の不気味なルーツが発覚してからは事態の深刻さに気づき、人形を祓うよう手配を進める。

  • 鈴木芽衣
演:本田都々花
鈴木家の第一子。
両親から大切に可愛がられていた。
佳恵が買い物に出かけている間、自宅で友達とかくれんぼをしていたが、その際に古い洗濯機の中に隠れて誰にも見つからなかった結果、窒息死してしまった。
その後、変わり果てた芽衣の姿を発見した佳恵と視聴者に強烈なショックを与えた。
+ ※ネタバレ注意
最終盤に最後の悪あがきなのか、礼の幻覚(?)に襲われる両親を助ける形で登場し、礼を連れていく形で両親を救い、無事呪いの人形の騒動は終了した……
+ ※超重要ネタバレ注意※ただし、あくまで推測が多め
にもかかわらず、肝心の両親は全く救われてない末路を迎えたことから、実はラストシーンの元凶の一人であるという考察が一部でされている。
劇中の極一部の怪奇現象(牛乳や仏壇の花が急速に腐敗するなど)も、実は礼ではなく悪霊化した彼女が起こしたものだと推測されており、ラストに関しては主に「礼を追い出して人形に入った」または「礼と共謀して人形内で共存し始めた」などの考察が見られる。ただし下記の礼の行動を見るにあくまで成り代わるのではなく真衣を含め家族と一緒に居ることの為共謀は可能性は若干低い。

  • 鈴木真衣
演:池村碧彩
鈴木家の第二子。
愛情深く育ったが、少しわがままな性格。なお、「姉」である芽衣のことは写真でしか見たことがないからか認めていない様子。
ある日クローゼットから出した人形を「アヤ」と呼び、新しい友達としてお気に入りになる。
しかし、日に日にアヤへの入れ込みは深くなっていき、本当に会話をしているかのような様子や、友達が傷を負う事件が発生するなど、異常な姿が目撃されるようになる。
ある意味本作最大の被害者

  • 鈴木敏子
演:風吹ジュン
忠彦の母。
芽衣を亡くして心を病んだ佳恵の心配をしており、良好な嫁姑関係を築いている。
真衣が産まれた際は、おばあちゃんとして彼女を溺愛した。
人形の事件で一時的に真衣を預かった際、夜中に人形と一緒に飛び出した真衣を追いかけるが、そこで真衣とは別の謎の少女に腕時計のベルトが切れるほど強く手首を噛まれてしまう。
+ ※ネタバレ注意
恐らく礼に噛まれたと考えられる*2が、その後家に帰ってきた真衣の口周りが酷く血のようなもので汚れていたことから真衣が襲った可能性もあり、真相は謎のままである。


  • 竹内良子
演:西田尚美
佳恵の主治医の精神科医。
芽衣を亡くして衰弱していく佳恵のケアをしていたが、ドールセラピーですっかり回復した彼女に一安心する。
だが、今度は人形による怪異を主張する彼女に、虐待の可能性を疑う。

  • 山本
演:安田顕
刑事。敏子が襲われた事件で鈴木家に事情を探る。
人形にある「秘密」が隠されていたことを知り、神田が止めるのも聞かずに人形を押収して科捜研に持ち込もうとするが……

  • 神田
演:田中哲司
歴史研究家で、人形専門の呪禁師*3
中の人がSPEC HOLDERだったせいか若干胡散臭いものの、その道のプロであり、冷静沈着に人形の呪いを祓う術に長けている。
安本浩吉の「娘人形」にまつわる怪異を長らく追い続けており、人形「アヤ」を発見して祓うことに執念を抱いていた。
鈴木家からアヤの存在を聞き、その呪いを解くために彼らに接触し、神無島で儀式を行おうとするが、アクシデントが発生してしまい……。

  • 寺嶋
演:今野浩喜
当初鈴木家からアヤ人形のお焚き上げを依頼された寺の住職。
人形を預かり、他の人形と一緒に燃やしたように見せかけたが、実は安本浩吉の人形だと知って人形をすり替え、高値で売ろうとしていた。
だが、直後に人形の呪いによって重傷を負い、呪符のケースを割ってしまう。

  • 池谷宗治
演:品川徹
人形博物館の館長。
神田の伝手で安本浩吉の証言をしてくれた老人。
元警察官であり、自首してきた安本浩吉の犯した「本当の罪」を知っており、それ以来、該当の娘人形を探し続けていた。

  • オカルトレンジャー
演:はんくん、ガチヤマ、ひろと、野咲美優、真弓
オカルト系の都市伝説を面白半分に調査する5人組のYouTuberグループ。
生き人形が実在するという神無島に無断で立ち入るも、収穫なしで帰っていった。
しかし、その動画にはある不可解な映像が残っていた。
小説版では彼らの末路を仄めかす動画URLが掲載されている。
ちなみに演者のうち男性3人は「エスポワールトライブ」の名で活動する実際のYoutuber。また、アヤ人形を回収する清掃車の作業員役2人もそのメンバーである。

  • 安本浩吉
演:星野卓誠
昭和初期に活躍した人形師。
娘の「礼」をモデルにした和風人形「娘人形」を作り続け、名を馳せた。
+ ※ネタバレ注意
全ての元凶その1
死んだ娘を熱湯で溶かし*4骨と髪の毛や爪を使いアヤの娘人形を作った。また小説版では妻による虐待を見て見ぬフリをしてたと示唆されている。
また礼以外にも故人の遺骸を材料にした呪われた人形をいくつか作っているようで、呪禁師界隈では完全に厄ネタ扱いされている模様。

  • 安本妙子
演:河野知美
浩吉の妻。
病弱な娘の礼の看病につきっきりだったが、ある日苦悩のあまり娘と無理心中をしようとして失敗し、娘だけが死んでしまう。
その後、浩吉の作った娘人形を礼と思い込み、人形に入れ込んで衰弱死した後、墓に人形を入れるよう頼んだ。
墓は新潟県の神無島にあるという。
+ ※ネタバレ注意
全ての元凶その2
実は病弱な娘を日常的に虐待しており、一種の代理ミュンヒハウゼン症候群に陥ってた模様。当然自分を虐待したり殺したりする母親とは一緒にいたくない礼は新潟に連れてきた頃に全力で呪いや怪奇現象を振りまくなどの抵抗をする。


  • アヤ
佳恵が骨董市で購入した少女の日本人形。
箱には無数のお札が貼られてあり、まるで生きた少女のような顔つきをしている。
芽衣を失った鈴木夫婦に可愛がられるが、真衣の誕生と共に存在感は薄くなり、やがてクローゼットの奥に押し込まれてしまった。
だが、真衣によって発見されてからは彼女の遊び相手になり、まるで本当に生きているかのように自律的に歩き、怪奇現象を起こし始める。
その髪や爪は購入した段階で不可解に伸び始めており、時が経つと歯が生え変わるようになる。
更に捨てようとした人間には容赦ない呪いを振り撒き、鈴木家の元に戻るようになる。
その正体はあまりに醜悪なものであった……
+ ※ネタバレ注意
予告編でも流れた「人形をCTスキャンする」という異様な絵面に嫌な予感を覚えた観客も多いと思われるが、果たしてその実態は人間の少女の亡骸を用いて作られた人形。
生前の名前は「安本(あや)」といい、その魂は依然として人形の内に宿っていたのだ……。

しかし実のところ、劇中において人に危害を加える呪いに関しては、自身を鈴木一家から遠く離されかけた際に限ると殆ど自己防衛にしか使っておらず、放置されたり、少しぞんざいに扱ってもそれを原因で呪ったり、危害を加えたりしていない。ついでに鈴木家に戻る方法も多少干渉してると思われるがかなり運に頼る形になっている。

形だけの両親にあたる佳恵や忠彦、祖母の敏子に対して序盤で起こした怪奇現象の多くも、よくよく見れば「お母さんとかくれんぼしたい」「両親と一緒のベッドで寝たい」「お婆ちゃんにおんぶしてもらいたい」等といった、子供として当たり前の願望によるものであることが推測できる。
真衣に対しても初対面の赤ん坊時代以外には危害という危害もあまり加えておらず、噛み付いたりもしたがそれも「年相応」の喧嘩だったり、幼い妹と遊びたがる幼い姉そのもの。
また真衣にだけ自身の名前をはじめとして、住んでいたところや最期を隠さず明かすなど素直な一面が見られ、また時には何かから守っているような節もあったりと、本当に「成り代わろう」とするなら最低限外に出ている間にできたはずだが、それもしなかった辺り真衣に関しては少なくとも終盤までは本当に妹だと思っている模様。

また劇中では数人に重傷を負わせているが、どれも殺すまではいってないなど本当に悪霊なのかは疑問が残る。
加えてお焚き上げされる事を分かっていたはずだが、新潟に行くまでは山本に軽めの幻覚をかけたくらいで大人しくはしていたため*5、行動の真意はやや曖昧なところがある。それはそうと、金目当てで自分を転売しようとした坊主にはきっちり制裁する。
しかしいざ神無島の埋葬地を探られると激しく暴れまわったり、40年以上前に自身を祓おうとした呪禁師を返り討ちにして一生ものの傷を負わせたりした*6ことから、少なくとも家族の輪に入れずに成仏されることは全く望んでいない模様。
簡単に言えば怪奇現象を振りまく恐怖の人形でありながら庇護欲をそそられるという嫌すぎる二面性を持つ。
また主題歌の「形」の歌詞はアヤの本当の想いが込められてる節がありこれが本当ならば悪霊どころかどこまでも健気な子だとわかる。


キーワード

  • 洗濯機
一家に一台はあるだろう洗濯用の家電。
中は密閉されているので、子供が入った場合窒息死の危険がある。

  • 骨董市
佳恵がアヤ人形を購入した場所。なお、出品者は劇中では明かされていない。

  • ベビーモニター
小さい子供の監視用に付けたカメラの映像を観測するためのモニター。
真衣がアヤ人形と「会話」する様子もバッチリ記録されていた。

  • 真衣の絵
アヤと友達になった真衣が描いた絵。
「2人の人物が首を吊る様子」と「釜茹でにされる少女」の2枚が描かれた。

  • お焚き上げ
持ち主がいなくなった人形を供養するために寺社が行う行事。
普通の人形であればこれで供養は完了するが、アヤ人形には行われなかった。

  • CTスキャン検査
全身にX線を当てて体内を観察する検査。
忠彦がアヤ人形に行った結果、人形に「あってはならないもの」が全身に入っていることが判明する。

  • ポラロイドカメラ
神田が所持しているアナログのインスタントカメラ。
アヤ人形を撮影した結果、「彼女」の恐ろしい本性が写っていた。

  • 神無島
新潟県に存在する無人島。
干潮時にのみ通り道が浮上し、2時間の間だけ本土の人間が行き来できる。
江戸時代から戦前まで罪人の亡骸を埋葬する墓地として利用されており、多数の放置された甕形の墓がある。






追記・修正は神無島から**と一緒に帰ってからお願いします。

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最終更新:2025年07月14日 07:40

*1 原因となったきっかけは芽衣を姉として認めない真衣への苛立ちだと思われる。

*2 千切れたベルトについた歯形が永久歯大のサイズで明らかに真衣の歯と合っていないため。

*3 「呪禁師」は奈良時代~平安時代初期に実在した職業。映画公式Xによれば、表向きは廃止された呪禁師の技術は秘かに継承されており、神田はその最後の一人とされている。

*4 死んでるとはいえ真衣に描かせた絵を見る限り、礼自身はかなり苦痛だった模様

*5 中盤、敏子のもとに一緒に預けられた真衣を操って逃亡しようとしたと思われがちだが、「話をこっそり聞いた真衣が礼を助けるために連れ出した」という考察がある。

*6 この時にケースに呪詛返しの札を先人のものと重ねて貼って再び礼を封印した。