チリンの鈴(映画)

登録日:2025/06/24 Tue 12:49:36
更新日:2025/07/06 Sun 13:48:30
所要時間:約 7 分で読めます





『チリンの鈴』とは、1978年3月18日に公開された日本のアニメ映画。
製作はサンリオ。配給は日本ヘラルド。同時上映は『親子ねずみの不思議な旅』。



概要

原作は、『あんぱんまん』シリーズでお馴染みのやなせたかし。原作の絵本のタイトルは『チリンのすず』表記である。
原作絵本や映画ポスターでは、可愛らしい子羊のチリンが笑顔を浮かべており、やなせ先生特有のメルヘンチックな画風を思わせる。

……しかし、本作の物語は、非常にダークなのが特徴。
子羊としてのチリンの牧歌的な日常は冒頭僅か12分で母親の無惨な死と共に終わり、以降チリンは母の命を奪った狼・ウォーへの復讐に邁進し始める。
チリンは単身牧場からウォーの棲む険しい山に向かい、当然ながらウォーにはか弱い子羊の身で敵うわけもなく「羊として牧場で丸々と太れ、そうしたら食べに行ってやる」と足蹴にされてしまう。己の無力を嘆いた果て、チリンは再度ウォーの下を訪れ、「羊のような弱い者の一生はいやだ、狼になりたい、あなたのように強くなりたい」という復讐心を隠した幼いながらの出まかせの弟子入り志願を乞う。ウォーも「羊が狼として生きられるわけがない」と突き放していたところを何度も志願してくるチリンに何を思ったのか弟子入りを許可する。ウォーに仕込まれチリンは「狼の生き方」の修行をして凄まじい力を得るのだが、その先には悲劇が待ち受けていた。

このように、本作のテーマとしては「復讐」「師弟愛」「弱肉強食」「居場所」が挙げられ、「野生生物の掟とその残酷さ、そしてその先に待ち受ける死」を真っ向から描いており、多くの観客に強烈なインパクトを与えた。
殊に、対象年齢とされた子供には、その過酷な物語が「トラウマになった」「刺激が強すぎるのでは」との意見もあったと言う。
しかし、見方を変えると、
「なぜ暴力を手段にしてはいけないのか」
「なぜ憎しみに囚われてはいけないのか」
「本当の自由とはなんなのか」
という子供にとって大切な道徳観念を伝えるためにはこれ以上ない表現と言える。

また、アニメ映画としても極めて質が高い。
動物のキャラクター達の表情や動き、ディティールの細かい自然の背景は70年代後半のアニメとしてハイクオリティとなっている。
特に、チリンが悍ましく成長する過程やクライマックスの圧倒的な画力に関しては目を見張るものがある。

ストーリー

子羊のチリンは、首に大きな鈴がついた優しい男の子。
彼は、大好きなお母さんや羊の仲間達と一緒に、牧場で平和に暮らしていた。

だがある日、牧場に一匹の狼が侵入する。
それは、山奥で恐れられている狩人のウォーであった。
転んだチリンを庇って母は覆い被さるが、そこをウォーに噛まれた母は死んでしまう。

深い悲しみに沈んだチリンは、牧場を飛び出して山奥のウォーに叫ぶ。

「僕を弟子にしてくれ!僕はウォーみたいに強くなりたいんだ!」

その言葉を一笑し、チリンを追い返すウォーであったが、チリンは諦めず、ウォーに負けないくらいの強さを手に入れたいと懇願する。
執念で自分に食らいつくチリンを放っておけなくなったウォーは、彼に野生の掟と狩りの方法を伝授し始めた。

必死に修行に勤しむチリン。彼はもはや、かつての「弱い羊」から抜け出そうとしていた。

やがて、3年の時が過ぎようとしていた……。

登場人物

  • チリン
声:松島みのり(少年)、神谷明(青年)
主人公。生まれたばかりの羊の少年。
母に甘えん坊な一方、わんぱく盛りで探検が大好きな好奇心旺盛な性格。
首に大きな鈴がつけられているのが特徴で、迷子になっても鈴の音で母に見つけられていた。
だがある夜、自分を庇った母がウォーに殺され、悲しみのあまり牧場を飛び出し、ウォーに仇討ちを宣言する。
それからは、ウォーに負けない強さを手に入れるために彼に弟子入りを頼むも、けんもほろろにされる日々が続く。
だが、独学で狩りをし、何が何でもウォーについて行こうとする姿勢を彼に認められ、強くなるための修行を受ける。
牙はないため突進と頭突きを武器にし、必死に修行を続けた結果、頭には角が生え、それで敵を刺し殺せるようになる。

やがて3年後、彼の体はウォーと同格に成長し、頭の角は巨大になり、もはや子供の頃の面影がないほどの禍々しい姿をした、羊とは言い難い獣と化してしまう。
復讐のために弟子入りしたものの、ウォーにはいつしか情が芽生え、彼を父として慕うまでになり、2人揃って周囲で恐れられる殺し屋にまでなった。
しかし、かつて住んでいた牧場を襲えとウォーに命令され、最初は躊躇なく襲おうとしたが、羊の親子を見てかつての自分が重なってしまう。
混乱した彼は「仇」であるウォーにその角を向けるのだが、そのあまりの異様な容姿や強さから、仲間の羊からは受け入れられることはなかった。
皮肉にも、復讐をした瞬間に、彼は「羊であったこと」を思い出したものの、もう羊としては手遅れであり、更に父として愛してさえいたウォーを殺し、 居場所すら無くした得体の知れない怪物に成り下がった。
後悔と絶望に打ちひしがれ、雪の降る山に1人消えた彼の姿を、その後見た者は誰もいなかった。
今でも激しい吹雪の夜には、風に混じって微かに寂しく、鈴の音が鳴り響くだけである……。

  • ウォー
声:加藤精三
山奥に潜んでいる凶暴な狼。
数々の動物を食い殺し、周囲の動物達に恐れられている。
典型的な一匹狼そのもので、群れを嫌い、孤独に生きることを受け入れている。
チリンの牧場を襲って彼の母を殺し、チリンから仇討ちを申し込まれるが、弱々しい子羊である彼をまともに相手にせず、追い返し続けていた。
だが、何をしても諦めず、食らいつくチリンの姿に感心し、彼に野生の掟や狩りの方法を教え、師と呼べる存在になっていく。
その後は狩人として成長したチリンを相棒として認め、慕情まで抱くようになった。
チリンに対して具体的にどのような感情を抱いていたかは不明だが、野生生物としての刹那的価値観から、「チリンの親の仇である自分をあえて討たせるためにチリンを育てた」「チリンほどの狩人に殺されるなら本望」と思っていたのは本当のようである。
しかし、それもまた彼のエゴに過ぎず、結果、自分の理解者を失ったチリンは二度と復帰出来ない程の深い絶望に堕ちたことは皮肉と言わざるを得ない。

なお、原作では「チリンに弟子入りを志願された際になぜか温かな心持ちになる」という、チリンに対するウォーの感情の一端が垣間見える描写がある。

  • チリンの母
声:中西妙子
チリンが一番大切にしていた母羊。
優しい性格で、チリンの姿が見えなくなると辺りを探し回るほど彼を気にかけている。
羊小屋がウォーに襲われた際、転んだチリンを庇って覆い被さり、ウォーの牙を受けて死んでしまう。

  • 羊達
チリンの仲間の羊。
小さい頃は友達も大勢いたが、母の死以来失踪してからは関係が途絶えてしまう。
その後再会した彼は、首の鈴があったにもかかわらず、その異形の姿でチリンとはわからず、怯えるだけであった。

  • ナレーション
声:高木均

余談

原作との違い

アニメは原作から脚色が施されており、大筋は忠実ながら微妙に異なる流れとなっている。

  • 原作では、チリンは大人になり化け物化した描写の次のページで既にウォーとつるんでオオカミとして生きているという描写になっているが、実は最後の最後でウォーに復讐心をむき出してウォーに挑むという展開になっている。すなわち復讐心を最後まで捨てず復讐の機をうかがうためにウォーとつるむふりをしていたという流れで、ウォーを殺して初めて、ウォーに対する自分の心情を自覚して後悔するという結末であった。

  • それに対し、アニメでのチリンは大人になった時点で既にウォーに対する心情を自覚しており、ウォーへの復讐がかなわぬと悟ったことで自らウォーの体現する一匹狼の生き方に身を委ねることを決心する。あれほど憤っていたはずの弱いものを食い物にする強者の生き方に身を委ねてしまう。復讐心を忘れ、羊であることを自ら捨て去った結果、身も心も正真正銘のけだものになってしまうのである(故郷の襲撃を提案されても顔色一つ変えずに承諾し、突撃していった結果、彼はとある衝撃的な、かつて自らも経験したある光景を目の当たりにしたことで、皮肉にも理性と復讐心を取り戻すのである)。

原作ではウォーを殺して初めて彼への親愛の情を自覚するが、アニメではチリンは大人になった時点で既にウォーへの親愛の情を自覚しているため、ラストシーンで見せる後悔は「オオカミになりきれなかったことへの後悔とウォーへの罪悪感」という何ともやるせないものになっている。

記事作成日

この「チリンの鈴」の項目が出来た2025年6月24日には、NHKEテレにて24時(つまり25日0:00)の放送が決定していた。当時の連続テレビ小説が故やなせ氏を題材にした「あんぱん」で、直近で作中に「チリンの鈴」をオマージュした展開*1があるためその影響ゆえと思われる。
やはり「現在としては相応しくない描写がありますが、作品のオリジナリティーと制作者の意図を尊重して当時のままお送りします」と出たが。










「分かっているな、チリン。このWikiはいつも荒らしが付き纏う地獄だ。覚悟は出来ているな?」
「全消しされても構わない。IDだって惜しくない!僕はウォーみたいに強いWiki籠りになって、お前を追記・修正してやる!」

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最終更新:2025年07月06日 13:48

*1 日清戦争のゲリラ掃討で日本兵に母親を殺害された中国人の少年が、その日本兵と肉親のような関係を築いたのちに射殺する、というもの。その後のセリフもチリンの鈴そのまんま