登録日:2025/09/20 Sat 23:35:03
更新日:2025/09/21 Sun 00:29:32NEW!
所要時間:約 12 分で読めます
概要
王道篇では様々なリメイククリーチャーが登場しているのだが、
それぞれリメイク前と後のテキストは以下のようになる。
腐敗電脳アクアポインター UC 水/闇文明 (5) |
クリーチャー:リキッド・ピープル/ゴースト 2000 |
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手のシールドを1枚見てそれを元の場所に戻し、相手の手札を1枚見ないで選び、捨てさせる。 |
アクア・ギャクテンポインター R 水文明 (10) |
クリーチャー:リキッド・ピープル 5000 |
S・トリガー |
ブロッカー |
このクリーチャーが出た時、各プレイヤーのクリーチャーを最大1体ずつ選び、持ち主の山札の下に置く。このようにして自身のクリーチャーが選ばれたプレイヤーは、自身の山札の上から、クリーチャーが出るまで表向きにし、そのクリーチャーを出す。その後、そのプレイヤーは、自身の山札をシャッフルする。 |
元々のリメイク元であるアクアポインターとはほぼ原形を留めていないが、いわゆるガチャカードであり、自分と相手に《斬隠オロチ》のような登場時効果を放つことが出来る。
自分だけでなく、相手もこのクリーチャーの恩恵に与ることが出来るので、相手の山札から凶悪なフィニッシャーが出てきた場合、こちらの戦況が悪化する可能性もある。
自分と相手の場に出たクリーチャー次第で戦況が激変しうる、まさに「逆転」を引き起こしうるカードと言えるだろう。
開発陣の一人であるDeadmanの公式Xによれば、このカードを使って、斬隠オロチが活躍していたデッキである
【不滅オロチ】のような構築のデッキを復活させたいと思っていたようである。
果たしてインフレが進んだ現在、不滅オロチ系統のデッキ活躍の足掛かりになり得るのだろうか……。
真の概要
さて、効果テキストを今一度読んでほしい。
このクリーチャーが出た時、各プレイヤーのクリーチャーを最大1体ずつ選び、持ち主の山札の下に置く。
cip効果時に山札の下に送るカードに、霧隠オロチにあったような「他のクリーチャー」といった指定が存在しない。
つまり、山札の一番下に送れるのはバトルゾーンに出した《アクア・ギャクテンポインター》でもOK。
バトルゾーンに出たクリーチャーが何かしらの踏み倒しcip能力持ちなら、そのまま連鎖させて更にクリーチャーを場に出すことが出来る。たとえそれが、今しがた山札送りにした《アクア・ギャクテンポインター》であっても…
あれ、ちょっと待って?
この流れ、前にもあったような……
そう、最初からデッキに入っているクリーチャーをこの《アクア・ギャクテンポインター》だけにしておけば、必然的にバトルゾーンに出るのはこの《アクア・ギャクテンポインター》のみ。
この効果にターン1制限なんてもんはない。
つまり、極論このカード1枚だけで無限ループを引き起こせる。
なんと、あの悪名高き《絶望神サガ》と殆ど同じような…寧ろそれ以上の動きでループ出来るようになっている。
しかも、サガの発売から1年半ちょい(サガの殿堂入り後であれば約1年)で、である。
とはいえサガのように手札交換能力を持たない上、表向きにされたカードはデッキに戻してシャッフルされるため、自分の山札は減らないし墓地も増えない。その為墓地肥やしは出来ず、使用感としてはサガとだいぶ異なる。
最初に考案されたのは、相手のcipを使い回す使用法。
相手がバトルゾーンに出すクリーチャーのcipが強制的にマナチャージする《青銅の鎧》やドローする《アクア・ハルカス》といったカードの場合、それを延々と繰り返すことで、自分のデッキは減らないまま相手のデッキは削れ続けるため、ライブラリアウトに持ち込むことが出来る。
その為、相手依存になるが擬似的にカリヤドネループと似たような挙動を引き起こせる。
ただやはり相手のcip頼みというのは不安定なため、相手に依存せずとも凶悪なコンボを見舞う使用法が考案された。
空間型無限収納ストラトバッグ UC 自然文明 (2) |
タマシード |
各ターンはじめて、カードが自分のマナゾーンを離れた時、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置いてもよい。 |
バトルゾーンにある相手のカードが離れる時、かわりに持ち主のマナゾーンに置いてもよい。 |
ストラトバッグが存在している状態でループが始まると、相手のカードが離れた際に代わりにマナゾーンに置かれてしまう能力により、デッキ内のクリーチャーを全てマナゾーン送りにするという超極悪コンボ。こうなると、サイキック・クリーチャーやGRクリーチャーを出せる呪文や、母なる系呪文やマナ爆誕などのマナからクリーチャーを召喚する手段を使わない限りフィニッシュが狙えなくなり、事実上の詰みにすることが可能。
このストラトバッグ自体はタマシードなので、ギャクテンポインターのループを邪魔させることがないという点もメリット。
このように極悪な運用法が次々と考案され、「絶望神サガの再来」とも称されたこのカードは環境を蹂躙していく……と思われた。
が……実際にはこの《アクア・ギャクテンポインター》は絶望神サガや無双竜機ボルバルザーク、ボルメテウス・サファイア・ドラゴン……サガマスターズ、ボルバルマスターズ、サファイアマスターズと揶揄されるような暗黒環境を生み出したカードたちと同等、もしくはそれ以上に悪名高い、物議を醸した一枚と相成った。
ここで、もう一度テキストを参照。
このようにして自身のクリーチャーが選ばれたプレイヤーは、自身の山札の上から、クリーチャーが出るまで表向きにし、そのクリーチャーを出す。その後、そのプレイヤーは、自身の山札をシャッフルする。
この、効果の最後で各プレイヤーの山札をシャッフルするという操作が曲者だった。
効果でクリーチャーが出た時点でカードを表向きにするのを止めてシャッフルするため、捲らなかった残りの山札に何が入っているのか確認できない。
これがギャクテンポインターループ最大の問題である。
まず、まだ捲れていない自身の山札にギャクテンポインター以外のクリーチャーが入っていないということを証明するのが困難であるということ。
そのため、ループ証明するためには自分のデッキを公開する必要があるのだが、求められてもいないのにデッキ公開した場合、残りの山札から逆算してまだブレイクされていない自分のシールドが何なのか確認できてしまうことにも繋がりかねないため、ゲームを進行する上で情報の不正取得に抵触する恐れがある。
次に、相手の山札に、
- ループ中のギャクテンポインターを除去できる《飛翔龍 5000VT》
- cip能力を不発させる常在型能力を持つ《終末縫合王 ザ=キラー・キーナリー》
- 置換効果でギャクテンポインターをマナ送りにする《とこしえの超人》や《地封龍 ギャイア》
- ターンの残りを飛ばせるcip能力を持つ《終末の時計 ザ・クロック》
といったカードが入っている場合、ループが停止してしまう。ギャクテンポインターループの成否は殆ど相手のデッキに依存しているためにループコンボが決まるかどうかは少なからず不安定なのだが、ギャクテンポインターの場合は不安定であること自体が足を引っ張ってしまっているのである。
相手もギャクポループミラーだったら……もう何も言うまい。
前述の通り、デッキをシャッフルしてしまうと捲らなかった残りの山札にどんなカードが入っているのかは確認できなくなってしまう。つまり、実際にギャクテンポインターループを止めうるカードが入っているにしろいないにしろ、シャッフルという一番面倒な工程を省略できない以上、その証明が出来ないのである。
つまり、ループ省略には相手のデッキにそういったカードが存在していないことを証明する必要性が生じるのだが、これまたその証明ができないため、デッキ情報の不正取得に抵触する。
相手のデッキ確認をさせてもらうことは相手のデッキ情報の不正取得に繋がるので、相手が許可してくれない可能性が高い。
というか、相手にそういったカードが入っているかどうか確認するのは、ぶっちゃけやっていることがほぼ《ロスト・チャージャー》と何ら変わらなくなってしまう。
こういった諸々の問題により初期盤面に戻る保証が無い以上、シャッフルを絶対に飛ばせないため、ループ省略が出来ない。
また、相手にもシャッフルを何度も繰り返させるという挙動自体にも問題がある。
自分だけでなく、相手にも面倒なシャッフルを何度もさせる必要がある都合上、ループの証明に相手プレイヤーをわざわざ巻き込む形になる上にカードを痛めかねないため、これまで登場してきたソリティアデッキと比較しても、対戦相手に与える不快感は相当大きい。
結果として、《アクア・ギャクテンポインター》は現在殿堂入りの《絶望神サガ》《魔導管理室 カリヤドネ/ハーミット・サークル》・プレミアム殿堂入りの《ロスト・チャージャー》《フューチャー・スラッシュ》《ヘル・スラッシュ》等の山札破壊呪文のダメなところを全部ぶち込んだカードになってしまったのである。
とはいえ、カジュアルなど割と緩く対戦する上ではそこまで問題にはならなかった。
問題は競技ルール等、制限時間や違反行為に厳しい場面における使用時。
大会などの競技ルールにおいては1ゲームあたりの制限時間は概ね20分となっている。
まず、ループコンボは同じプレイングを何度も繰り返す都合上、競技イベントの運営ルールの規定で「ループの結果、初期状態に戻ったことが確認された」ならば、その繰り返される一連の工程(サブルーチン)を省略することが認められているのだが、このデッキはその無限ループ構築の証明が実質的に不可能であるため、どうあっても省略できず時間がかかるこのコンボは確実にタイムアウトになる。ダメじゃん
更に、「ターン・プレイヤー→非ターン・プレイヤー」の順でクリーチャーの踏み倒し、効果の解決が行われる。ので、相手ターンにシールドブレイクによるシールド・トリガーでバトルゾーンに出た時、相手のcipから解決する事となるため、相手主導となりどうあっても省略できない。
自分のターンでバトルゾーンに出せた時も、効果処理のため発動した効果をいちいちメモしなくてはならないが、競技ルール上メモを取ることは許されていないので、自分で覚えておくしかない。両プレイヤー間で効果の回数などで齟齬が発生した場合、トラブルの種になる可能性が非常に高い。
このように、何から何まで大会の規則と噛み合わない上にジャッジを立ち会わせて無用に拘束するという大会を運営する上で問題しか発生しないこの有様に、会場では緊急でプレミアム殿堂でもないのにこのカードを使用禁止に指定する事態が多発した。
あまりにも問題児に過ぎるカードとなってしまった《アクア・ギャクテンポインター》だったが、多くのDMPから山札破壊呪文や《レアリティ・レジスタンス》のように、プレミアム殿堂するなりなんなりして規制されるだろう、という予想をされていた。
だが、そうはならなかった。
何故か?
発売からわずか10日で、カードテキストを修正してエラッタされたからである。
誤植やルール・裁定変更、再録時のテキスト整備により結果的に弱体化した、という例は数あれど、なんとデュエル・マスターズ史上、直接的にカードテキストを修正して弱体化させられた初のカードになってしまったのである。
エラッタ版のカードは後段となるDM24-EX3「刺激爆発デュエナマイトパック」にて収録された。
エラッタ後のテキストがこちら。
アクア・ギャクテンポインター R 水文明 (10) |
クリーチャー:リキッド・ピープル 5000 |
S・トリガー |
ブロッカー |
このクリーチャーが召喚によって出た時、各プレイヤーのクリーチャーを最大1体ずつ選び、持ち主の山札の下に置く。このようにして自身のクリーチャーが選ばれたプレイヤーは、自身の山札の上から、クリーチャーが出るまで表向きにし、そのクリーチャーを出す。その後、そのプレイヤーは、自身の山札をシャッフルする。 |
召喚する事でしか登場時効果が発動しなくなった。
これにより、ギャクテンポインター同士を連鎖させて使い回す、といったことは出来なくなった。
一応S・トリガーでの使用は召喚扱いなので、コストを支払わなければ効果を使えないということはなく、普通に使ってクリーチャーを1体入れ替えて踏み倒す、という運用をする分には問題ない。
このエラッタによりループ運用は完全に破綻したが、それ以外にフィニッシャーの確定リクルートなどの無限ループしない運用も巻き添えを食って破綻したことから、エラッタの内容についても賛否の声は大きい。
しかし、この使用法でも実質的にあらゆるクリーチャーに山札送り除去効果付きのシールドトリガーを付与するのと大して変わらないため、今後のカードデザイン幅を著しく狭める可能性が生じる。その為、今後の影響を考えてリクルート運用も制限した可能性が考えられ、一長一短である。
勘違いされがちだが、このカードがエラッタされた理由の根本はボルバルザークやサガのように環境を一色に染め上げるような「強さ」ではない。実際当時の環境は、【マーシャルループ】や【赤黒白ファイアーバード】など、火力および安定感共にギャクテンポインターを遥かに上回るデッキは存在していた。
純粋に「ゲーム進行、特に大会の運営に大きく支障が出る」という問題の方があまりに大きく、それを考えるとエラッタは概ね妥当であったと考えられる。
エラッタされたことでひとまず大会で生じる問題については概ね解決したが、運営のこの対応に関するDMPの反応は、総じて否強め寄りの賛否両論である。
というのも、テキスト修正の際に以下のような内容で理由を説明されたのだが、
《アクア・ギャクテンポインター》のカードテキストが、ゲームプレイにおいて想定外の挙動を引き起こすことが発覚しました。そのため、該当カードのテキストを訂正いたします。
このようにギャクテンポインターを用いたループを「想定外の挙動」と言っているが、多くのプレイヤーが発売前のカードリスト公開後、速攻でこのカード1枚のみの単独ループの挙動については気付いていた。こんなところまでサガに似なくても…
このあまりにも取って付けたような言い訳に「そんなもん刷る前に気付け」「サガはギリギリ許すがこれは流石に許せない」「絶対テストプレイ不足」「半年で殿堂入りしたサガはエラッタしないと堂々宣言した癖にこの言い訳は通らない」といったような開発陣への批判の声が多く上がった。
そもそもこういったカードを作成する場合、自分自身を出してしまうというのは真っ先に想定すべき事態である。
にもかかわらず、サガの時の反省が全く活かされていない有様に、開発側の製作体制を不安視する声も大きい。
筆者個人の考えになるが、一概にループデッキが全部悪い訳では無いが、それを助長しかねないような体制は健全なゲーム環境とは言えないのではないだろうか。
総評として、何もかも間違え過ぎたカードと言えるだろう。
余談
イラストの構図が少し卑猥と話題になっていた、というか発売前は効果にはあまり注目されず専らイラストの方に話題を持っていかれてしまった構図になっている。
追記・修正こそ良項目の本質。
最終更新:2025年09月21日 00:29