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きくお

登録日:2026/10/18 Sun 16:57:41
更新日:2026/10/18 Sun 16:59:46NEW!
所要時間:約 15 分で読めます


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VOCALOID ボカロP


きくお(Kikuo)とは、日本のボカロP/作曲家/DJである。
事務所やレーベルには所属しておらず、自主制作した音源の販売と支援サイトの収益で生計を立てているとのこと*1。

キャリアの出発点は同人音楽やゲーム音楽の裏方仕事で、ボカロPとしての顔はその後に生まれたもの。
2020年代に入ってからは「日本より海外でよく聴かれているボカロP」の筆頭格となり、近年は海外公演が活動の大きな柱になっている。
また、高校の指定教科書に歴史上初めて載ったボカロPでもある。*2



目次



プロフィール

名義 きくお(Kikuo)
生年 1988年
音楽制作の開始 2003年
ボカロ曲の初投稿 2010年
主な使用音源 初音ミク
別名義・ユニット Asian melancholic(インスト名義)
きくおはな(シンガー・花たんとのユニット)



経歴


◆デビュー以前

幼稚園の頃からいじめられっ子だった。
小学生のとき、ひとり遊びの延長で作ったゲームブックのようなものを見せたところ、それを遊ばせている間だけいじめが止んだという。
この体験から「何かを創作して人を喜ばせることでしか、社会で身を立てられないのでは」と考えるようになり、中学時代には音楽・絵・漫画・ゲーム制作などを片っ端から試した。その中で唯一飽きずに続いたのがDTMで、2003年に音楽制作を始めている。
本人いわく「何かきっかけがあったというよりは、生きていくために音楽を仕事にした」。

当時はCDを1枚も持っておらず、ラジオで曲を聴いたこともなかったという。
作った曲を聴かせる相手もいなかったため、2ちゃんねるの初心者向けの作曲スレに曲を上げてはアドバイスをもらう、ということを繰り返して腕を磨いた。
お金がなかったこともあって、聴いていた音楽もmuzie*3やBMS*4など、ネット上で無料で聴けるものがほとんど。商業音楽からは出てこないような「なんだこれ」という曲がゴロゴロしていたこのシーンが、現在の音楽性の土台になっている。
また、ゲーム『聖剣伝説3』のサウンドトラックのブックレットに作曲者本人が書いていた「オリジナリティこそが最高」という趣旨のライナーノーツは、いまも活動の芯になっているそうだ。

2000年代半ば以降は東方Projectのアレンジ、美少女ゲームの主題歌やBGM、モバイルコンテンツの音楽など、裏方としての楽曲提供を中心に活動。
2010年にはアークシステムワークスの格闘ゲーム『BLAZBLUE CONTINUUM SHIFT』のBGMや、同人ゲーム『東方蒼神縁起』のBGM計47曲も手がけている*5。
ところが、本人によるとこの時期は「信じられないぐらいファンがつかなかった」。大学は中退し、入社した音楽制作会社も半年ほどで潰れてしまうなど、かなり追い詰められていたらしい。


◆ボカロP「きくお」の誕生

そうしてもがいていた中で、手段のひとつとして手を出したのがVOCALOIDだった。
2010年9月14日、ニコニコ動画に初音ミクのオリジナル曲『ボクを忘れた空想紀行』を投稿。*6

この頃のきくおが目指していたのは、本人の言葉を借りれば「みんなに喜んでもらえるかわいくてポップで派手なやつを作るクリエーター」。
ところが何曲か出したあとでボカロシーンを見渡すと、暗い曲やグロテスクな曲がやたら人気を集めている。だったら、と暗い路線を試してみたところ、とたんに反応が変わった。
後述の『僕をそんな目で見ないで』も、この流れの中で生まれた一曲である。
振り返ってみれば、ネットの奥底にあった暗い表現や、心の闇をそのまま吐き出したような創作はもともと大好物だった。本人も「そんな感性しててポップなもの作れるはずがなかった」と振り返っている。

2011年には1stボカロアルバム『きくおミク』を発表。
2012~2013年にかけては、以下のような音声合成ソフトの公式デモソングも立て続けに担当した。
  • VOCALOID「IA」公式デモソング『塵塵呪詛』
  • VOCALOID「兎眠りおん」公式デモソング『ぽっかんカラー』
  • 「初音ミク V3」公式デモソング『Six Greetings』(Short ver./Long ver.)

同じ時期には、アークシステムワークスの『マジカルビート』の楽曲や『XBLAZE - CODE : EMBRYO -』のBGMを全面的に担当するなど、ゲーム音楽の仕事も並行していた。

2016年には「ニコニコ超パーティー2016」(さいたまスーパーアリーナ)に出演。
2017年には高等学校用の音楽教科書『高校生の音楽1』(教育芸術社)に、「きくお feat.初音ミク」として楽譜と顔写真が掲載された。


◆海外での大ブレイク

大きな転機は2020年前後。
『愛して愛して愛して』(後述)がTikTokで突然バズり始め、そこからほかの曲やアルバムまで聴かれるようになった。本人いわく、これを境に国外のリスナー数が国内を上回ったという。
2022年時点で、Spotifyのリスナーは多い順にアメリカ、メキシコ、ブラジル。YouTubeの直近28日間のデータでは日本が約20%、アメリカが約24%だったそうだ*7。
バズ自体は「たぶん偶然」としつつ、人気が長続きしている理由としては、ほかの曲のバリエーションが多彩で曲数も多かったこと、そして何よりリスナーの応援を挙げている。

2022年、『愛して愛して愛して』がSpotifyのVOCALOID楽曲再生数で世界1位に。
同年3月1日放送のNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』「究極の歌姫 バーチャル・シンガー 初音ミク」の回では、長期の密着取材を経て制作風景がガッツリ映された。
2023年にはYouTubeのチャンネル登録者数が100万人を突破。Rolling Stone Japanの「世界で活躍する日本のアーティスト10組」にも選ばれた。
そして『愛して愛して愛して』は、ボカロ曲として史上初めてSpotifyで1億回再生を記録している。


◆世界を回るボカロPへ

2024年、ボカロPとしては史上初となるアメリカツアーを完遂。
勢いそのままにワールドツアー『Kikuoland Go-Round』を開始し、2025年までに19カ国・41公演を回りきった。動員数は3万5000人以上とされる*8。
ツアーの様子は、2025年放送の『NHKスペシャル 新ジャポニズム 第2集 J-POP“ボカロ”が世界を満たす』でも現地取材されている。

2026年からは2度目のワールドツアー『Kikuoland Above All Bounds』がスタート。
2月21日のZepp Shinjukuを皮切りに、ロンドン、パリ、ベルリン、ワルシャワなどイギリス・ヨーロッパの16都市を回り、日本と合わせて17都市を完走した。
一方、3月末から4月初めに予定していたメキシコ公演は、現地の情勢を踏まえると少人数のチームで回るツアーでは十分な安全対策がとれないとして、中止になっている。


◆音楽以外の活動

  • 小説
2023年8月23日、河出書房新社から『Kikuostories 愛して愛して愛して』が刊行された。『愛して愛して愛して』と『君はできない子』の2曲をノベライズしたもので、版元の紹介文いわく「少年と少女のいびつな愛、母と息子の悲劇」が描かれる。
きくおは原作・原案・プロデュースを担当し、本文は髙松良次が執筆している。
  • VRChatワールド
2024年10月14日、きくおの楽曲の世界をVR空間で体験できるVRChatワールド『よるとうげ』を公開した。
  • 作曲教則動画
オンライン講座サービス「Coloso」で、作曲の教則動画を販売している。



作風



3拍子系のリズム*9、おもちゃの効果音、アコーディオン……といった、一般的なポップスではあまり主役にならない要素をよく使うのが特徴。
そしてその甘く柔らかなメロディの上に、子どもの死、歪んだ親子関係、呪い、壊れていく自分といったホラー要素を歌詞として乗せた、聴けば聴くほど不穏になる劇場型音楽とでも言うべき作風を特徴とする。
ニコニコ動画では「VOCALOID幻想狂気曲リンク」というタグがよく付けられており、「かわいいのに怖い」という聴き心地をよく表している。
全部が全部メルヘン一色というわけではなく、ガムラン等の民族音楽、ダブステップ、EDM、ジャズ、変拍子など、音楽として使える要素は片っ端から取り入れており、音楽的な意味での作風は作品ごとにがらりと変わる。

ルーツについては本人がかなり具体的に語っており、詳細な点まで明らかになっている。
  • アコーディオンや3拍子系のリズム:基本的には、バンド・たまの影響。アコーディオンではバンドネオン奏者の小松亮太や、チャラン・ポ・ランタンの名前も挙げている
  • ガムラン:子どもの頃に『聖剣伝説2』の曲「呪術師」(作曲:菊田裕樹)を聴いて「なんだこれ」と驚いたのが原体験
  • 民族音楽っぽい音作り:muzieで見つけた、民族音楽を得意とする作曲者・Bitplane
  • いろんな音がぽんぽん飛び出す「音のおもちゃ箱」的な作り:膨大なサンプリングだけで曲を作るアーティスト・Plus-Tech Squeeze Box


◆世界観

曲作りは、まず表現したい世界観をガチッと固定し、それに合った音を自分の引き出しから選んでいくスタイル。
もともとゲームBGMの作曲家志望で、どんなジャンルでも広く浅く作れる「器用貧乏タイプ」だったため、先に世界を決めておかないと、変拍子を連発したりロックからジャズ、テクノ、ノイズへと展開したりと、際限なくぐちゃぐちゃな曲になってしまうのだという。
ただし実際に手を動かす段階では「ほぼ何も考えてない」そうで、最初に決めたコンセプトどおりにはまず進まない。むしろその方がいい曲になるとか。

効果音の選び方はかなり直球。
物をテーマにした曲なら物が壊れる音、子どもが死ぬような曲ならおもちゃの音、グロテスクな曲ならホラー映画の果物を握りつぶす音……と、テーマに合う生々しい音をためらわず放り込む。理由は「その方が曲の強度が上がるから」。


◆制作環境

ラップトップ1台で、ソフトウェアだけで完結させる制作スタイル。DAWはStudio One。
公式サイトの説明によれば、MIDI鍵盤もタッチパッドも弾けず、人に演奏を頼むコミュニケーション能力もないため、消去法で「クリック一筋」の打ち込みにたどり着いたとのこと。シンセやサンプラーからはあえて凡庸な音を出し、エフェクトのプラグインで妙な音に変えていくのが基本である。

打ち込みでは生々しさにこだわっており、高速のピアノフレーズにわざとミスタッチを混ぜたり、アコーディオンを誤って叩いてしまったような音を入れたりしている。『KIKUOWORLD3』の冒頭のピアノがその顕著な例。
……そのわりに、完成の基準を聞かれたときの答えは「雑な性格なので、こんなもんだろうと思ったら完成ですね(笑)」。

ミクの調声には「VOCALOID5 Editor」を使い、ライブラリはORIGINALとSWEETの2つが中心。ミクについては「ボカロの中で一番声が可愛いと思っている」とのことで、その可愛さを強調するようにパラメータを調整している。



主な楽曲


  • 僕をそんな目で見ないで
作詞・作曲・編曲 きくお
PV 黄菊しーく(si_ku)
2011年2月21日投稿。ボカロ曲としては6作目にあたる。
オルゴールを用いた柔らかな音色・MVと、普通に読むと意味の通らない不可解な歌詞が特徴の楽曲。
おおまかに要約すると「いなくなってしまった「僕」がパパとママに語りかける」という内容なのだが、不穏極まりない内容から殺人や堕胎といったバックストーリーを想像する人も。一時期は「検索してはいけない言葉」の一つに数えられたこともあった。
のちの「きくおらしさ」がほぼ出そろった一曲で、きくおの名前を広める出世作になった。ニコニコ動画の再生数は、のちに100万回を突破している。


  • ごめんね ごめんね
作詞・作曲・編曲 きくお
2ndアルバム『きくおミク2』収録。Brostepなど、その時々に流行していたクラブミュージックの要素を取り入れた曲のひとつ。
本人は流行のジャンルを取り入れる場合でも、単に「流行りのジャンルを作ってみた」で終わらせず、「その音を参考にしたきくお曲」になるよう気をつけていると語っている。ジャンルの流行り廃りに巻き込まれて、曲ごと忘れられてしまうのを避けるためだという。


  • 君はできない子
作詞・作曲・編曲 きくお
3rdアルバム『きくおミク3』収録。
アコースティックギターの伴奏に乗せ、優しい口調で「君はできない子」と繰り返し責め立ててくるパワハラ曲。
ひねりなしに読めば「毒親が子供を教育虐待する曲」とも読める曲だが、二人称視点で語りかけてくることで虐待に遭う様子を体感(?)できる、きくお屈指のブラック度を誇る作品。


  • 愛して愛して愛して
作詞・作曲・編曲 きくお
MV さしたま
きくおの代名詞といえる曲で、首輪に締めつけられるように、ひたすら愛されることを求め続ける主人公を描いた楽曲。
もとは2013年、雑誌のコンピレーション企画のために作った曲で、本人も当時はそんなに伸びるとは思っていなかったという。2015年3月6日、赤卵が勝手に作ってくれたというMVとともに動画を公開したものの、そのときの伸びも「案の定」そこそこだったらしい。
『プロジェクトセカイ』には、25時、ナイトコードで。が歌うセカイver.で収録されている。
この曲を作っていた頃は1曲を3日前後で仕上げていたそうで、今は1ヶ月ほどかけているとのこと。


  • あなぐらぐらし
作詞・作曲・編曲 きくお
6thアルバム『きくおミク6』(2019年)収録。
それまでのきくおは、自分が歌が苦手なこともあってボカロを楽器寄りに扱っており、ベタ打ちも多かった。この曲の前後から自分でも歌の練習を始め、ボカロに「歌わせる」ことを意識するようになったという節目の曲でもある。
とはいえ目指しているのは人間らしく歌わせる方向ではなく、人間には出せない「こんな歌い方ができたらいいな」を歌わせる方向性とのこと。


  • ソワカの声
作詞・作曲・編曲 きくお
2021年の作品で、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも取り上げられた。
ギター用のエフェクト「Guitar Rig」のプリセットをかなり使っているそうで、本人いわく「ギターには使えないんですけど、ギター以外の楽器にはめちゃくちゃ使える」。



ディスコグラフィ(抜粋)

ボカロアルバムの看板シリーズは『きくおミク』。
このほかにインストアルバムの『KIKUOWORLD』シリーズ、Asian melancholic名義の『at first』、花たんとのユニット・きくおはなの作品などがある。

+ ▽『きくおミク』シリーズ
タイトル 発表年
きくおミク 2011年
きくおミク2 2012年
きくおミク3 2013年
きくおミク4 2015年
きくおミク5 2018年
きくおミク6 2019年
きくおミク7 2023年



余談

  • 楽曲の二次利用にはかなり寛容。
公式サイトではカラオケ音源とアカペラ音源をまとめて配布しており、ほぼすべての曲について、歌ってみたやリミックスなどを使ったYouTube動画の公開を「許可不要・収益化も可」としている。生成AIを使ったリミックスも歓迎とのこと。
例外は『テクノロジーに夢乗せて』の1曲だけで、こちらはレーベルの意向で使用禁止。
同人やアングラな形での利用については、「そうした活動に支えられているのは事実です。」に続けて「うまくやってください。」とだけ書かれている。

  • 公式サイトのFAQによれば、2026年10月2日時点で楽曲制作の新規依頼や取材・インタビューはすべて断っている。
ライブ出演は一定以上の規模のイベントに限って受けており、数多くのライブをこなせる活動形態ではないので、多くても3ヶ月か半年に1度ぐらいのペースとのこと。

  • 好きなボカロPとして、Treow、whoo、10代の頃からファンだというATOLSを挙げている。2022年時点で注目していたのはフロクロで、音楽を歌やリズムではなくパズルとして捉えているような独特さに惹かれているそうだ。



追記・修正は、こんなもんだろうと思える範囲でお願いします。

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最終更新:2026年10月18日 16:59

*1 2022年公開のSoundmainのインタビューでの本人談。

*2 参考書も含めるなら「ボカロで覚える中学歴史」に載った黒うさP等が初となる

*3 アマチュアが自作曲を公開・配布していた音楽投稿サイト。

*4 音楽ゲーム用の譜面データ形式と、それを使ったゲームの総称。アマチュアのオリジナル曲が多数作られた。

*5 本人のサイト「kikuo sound works」の実績一覧による。

*6 もともとはサークル・ぐうのねサウンズのCD『ぼかろってなぁに?』に収録された曲。

*7 いずれも前述のSoundmainのインタビューでの本人談。

*8 2026年4月29日付のThe Orchard Japanのプレスリリースより。

*9 ワルツなどクラシック楽曲で用いられることの多いリズム