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SCP-9944

登録日:2026/11/01 Sun 12:05:17
更新日:2026/11/02 Mon 00:48:12NEW!
所要時間:約 13 分で読めます




SCP-9944とは、ソーシャル・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクトの一つである。



概要

SCP-9944とは世界中で発生する「人口が実際の値よりも大きく報告される現象」である。

随分とシンプルというか漠然とした異常性だがそのズレは大きく、財団世界における世界人口が『およそ90億人』と認識されているのに対し財団が実際に調べた結果は『多くて40億人、おそらくソレよりも少ない』だったという。
確かに住民票の移し忘れだったり重複した計上によって多少報告数が上振れることはあるだろう。しかし数十億レベルのズレとなると明らかに異常事態だ。

このような事態にもかかわらず国際上の商取引は全てSCP-9944の示す人口の方が正確かのように滞りなく行われているのだという。
例えば各国から報告されるGDP *1 はSCP-9944によって改竄された人口を基準にしたかのような数値として発表されており、それに伴って地球上の資源も本来の人口から予測される消費ペースを大幅に上回る勢いで消費されている。
本来の人口の2倍スケールで経済活動なんて行ってればそりゃ消費ペースも早まるでしょうね。

財団世界では存在しない残りの50億人のための住居が今も続々と建設されており、報告される雇用率もSCP-9944によって発生する人口基準。選挙にいたっては実在の有権者の不足を埋めるように投票数に対し更なるSCP-9944が発生しているとのこと。増えた投票用紙に『サトウサイトウ』とか書かれてないだろうな…

報告書曰くこうしたSCP-9944の影響は特定の人物あるいは団体による不手際や偽装に由来するものではないそうで、各国はSCP-9944によって発表される数値が本物であると信じ込んでいる。なんならSCP-9944による数値が正確であると裏付けるようなデータまで提出していたり。

まあ普通に考えて

『話は聞かせてもらった!全ての人口関連書類は何らかの超常現象によって数値がイジられてる』ΩΩΩ<ナ…ナンダッテー!!!

なんて荒唐無稽な妄想などヴェールの内側で浮かぶわけもなく、仮に浮かんだとして実際に一人ずつ人口を計測していこうなどとする人間は更に少ないだろう。

説明パートはもう少し続くが概要もある程度把握できたところで一旦特別収容プロトコルに移ろう。


特別収容プロトコル

SCP-9944の特別収容プロトコルは

  • 財団は公開されている人口統計データをSCP-9944に沿うよう改竄するよ
  • SCP-9944に気づいた民間人には事情聴取したあと記憶処理してね
  • 実際の世界人口を反映した学術的文献が出たら信憑性を削ぐよう偽装工作しといて

と言ったようにSCP-9944の影響を後押しするかのような活動が目立つ。

これは何も財団がSCP-9944の収容を諦め異常存在を野放しにしているというわけではなく、「(一般社会に不安が広がることを防ぐため)」の対応であるとハッキリ明言されている。確かに全世界を相手に煙に巻く伝家の宝刀アンニュイ・プロトコルを使えばSCP-9944の影響を受けていない「真の人口」を広めることもできるだろうがSCP-9944の発生条件・対処方が分からない以上それをしたところでまたデータが書き換えられ同じような誤認を広められるだけという判断の上での方針だろう。

なお特別収容プロトコルには続けて

可能であれば、SCP-9944に配属される職員は親密な人物が少なく、内向的であるか自己中心的な傾向が強い人格特性を有する者に限るものとします。

との文言が記載されている。なんでそんな非道いこと言うんだ
これも別に「SCP-9944は現時点で対処不能だし面倒な奴の最終窓際処分場にしとこう」みたいな意図があるわけではなく後述するSCP-9944の性質を考慮した結果の裁定であるためあしからず。


SCP-9944の帳尻合わせ

先程「財団世界では本来の人口の2倍、世界人口90億人スケールでの経済活動が行われている」と述べたが、もしSCP-9944がデータ上にしか効果を及ぼせないのであればとっくに何処かで経済活動が破綻しているはずとは思わないだろうか。「いや別にそういうモンかと……」って? ククク……

その疑問に答えるように報告書ではSCP-9944によって嵩増しされた人間とやり取りされた資産は事実上の経済活動から“消失”するとの説明が記されている。住宅・田畑などの不動産の場合は一般大衆に利用不可能となるかそもそも存在を無視されるようになるらしい。
おそらく本来存在しないはずの人物と売買を行うことで『所有権が"無"に移った』という結果だけが残ってこうなるのだろう。

この偽装能力は時に人の記憶にも干渉し始め、「極端な例」と前置き付きではあるもの自身の関係者について事実を脚色する、あるいは完全に架空の人物を捏造する事例もあるとのこと。
財団の調べによると全人類のおよそ50%が実際には存在しない人物との友人関係を報告し、20%が実在しない遠縁の親戚の存在を、そして子供を持つ人物の5%が実際よりも子供の数を多く記憶しているという。
これらの本来存在しない人物について問い質すと影響者は大抵「単純に疎遠になって最近会ってないだけ」と返すそうだ。

総括するとSCP-9944とは

  • 人口を本来よりも多く報告させ、
  • それに違和感を持つ者がいないよう増えた人間の記憶を一般大衆に挟み込んだり、売買契約を再現したりする
  • 世界規模のKeterクラス現象型オブジェクト

ということになる。人口を誤魔化すと言えばSCP-4946、通称『あなたは "赤痢" で死にました』がよぎるがアチラが「財団が人口数を誤魔化し、それにオブジェクト側が追随する」という内容なのに対しコチラは「オブジェクトが人口数を誤魔化し、それに人類側が合わせる」と立場がちょうど逆転したような構図なわけだ。


発見経緯

SCP-9944は要注意団体の拠点を探るため行われた世界規模の隠密作戦の折に発見されている。
長期にわたる作戦で収集された情報が如何程の効果をもたらしたのかは不明だが少なくとも『既存の人口データがSCP-9944によって大きく歪められていたこと』はこれにより炙り出されたようだ。

しかし問題はここからであった。なんとSCP-9944に関する初期記録と収容プロトコルの実施を任命されたチームがプロジェクトへの従事を拒否したのである。
理由は明確で『チームのほぼ全員が少なくとも1名の実在しない人物との関わりを有していたことが判明したため』。突如「お前の知り合いは実際には存在していない」と突きつけられた職員たちは作戦に非協力的になり一部のケースでは暴力に走る者まで出たそうである。
こうした行動はSCP-9944による精神影響ではなく『SCP-9944の性質を理解したことによる非異常のもの』、ようはSAN値減少により発生した普通の発狂状態とみなされている。

そこで施されたのが特別収容プロトコルにもある

SCP-9944に配属される職員は親密な人物が少なく、内向的であるか自己中心的な傾向が強い人格特性を有する者に限る

という手法である。なるほど最初から友人の少なそうな人間をSCP-9944の担当にあてがえば『存在しない友人』という真実を知って発狂することもないというわけだ。


インシデントログ

SCP-9944は世界規模であるため時折一般人が意図せず『自分の知り合いが本当は存在していない』という真実に辿り着いてしまうことがある。
補遺1に該当するインシデントログではそのなかでも特筆すべき事例をいくつか挙げているため、ここからはそれを見ていこう。

1990/12/25 — 米国 ユタ州 ソルトレイクシティ

一人暮らしの寡夫、ヘンリー・ジョンソンさんが自宅の窓ガラスを破壊していた事例。
調査の結果ジョンソンさんは「娘が自宅に現れず連絡も取れないことに強いストレスを感じて窓を破壊した」と説明したそうだが、財団が後に調査したところジョンソンさんには娘どころかそもそも子供すらいなかったそうである。
ジョンソン「確かに写ってたんだ……俺の娘……まるで天使みたいに笑って……」

なおジョンソンさんは2ヶ月後に自然死したと報告されている。

2000/01/10 — カナダ国 トロント

ジョーダン・ユーさんが1週間以上職場に姿を見せなかったため行方不明者として届け出を出された事例。
届け出提出時点で判明していたジョーダンさんの最後の所在は友人宅での年越しパーティーだったそうで、後にジョーダンさんは廃墟となった倉庫の中、空の酒瓶に囲まれた状態で発見されている。なおジョーダンさんが事前に周囲へ伝えていたパーティー会場の住所および友人は実際には存在しないことが確認された。

保護されたジョーダンさんは一連の出来事に関する記憶を持っていなかったため応急的な処置を受けた後、解放されたそうだ。

2021/08/03 — 英国 ████████

高層住宅の階段で身元不明の死体が発見された事例。
発見された死体は腐敗が進んでおり、死後数週間にわたって放置されたことが推察されている。また死体は「まま」と表記される人物に宛てて書かれたカードを所持しており、その内容は「はやくよくなってね」というものだったという。

先述の通りこの死体は身元不明かつ既に放置されたものだったためその後の処置は死体を回収するのみに留められている。


補遺9944-2

SCP-9944の報告書の末尾には「以降の内容を閲覧する場合はレベル5/9944クリアランスを入力してください」という物々しい一文と共に補遺2にあたる内容が折り畳まれている。

セキュリティクリアランスのレベル5となると財団内でも最高位の管理職員、それこそO5級の職員にしか与えられない超重要機密である。

肝心の内容は「直近の推計値」と冠されるもので現在の正確な世界人口は9億9000万人前後、SCP-9944が示す世界人口の8分の1にも満たないことが報告されている。
要するに知り合いを8人思い浮かべた時、その内の7人は実際には存在しないという計算になる。

これについて財団は「人口をSCP-9944の示す数値に可能な限り近づけ、実感と現実の齟齬を緩和する」という目的のもと人口再建計画を企てており、この計画は現在倫理委員会の承認待ちとなっていることを明かして報告書は締めくくられている。


余談

それ自体が単なる異常現象としても色々と謎の残るSCP-9944だが当記事にスポイラー*2のようなものはなく、原語版のコメント欄もといディスカッション欄にも「最近、一部の国が国力を大きく見せるために人口を偽っているという陰謀論を読んだ」という執筆経緯が示されるのみで具体的な回答は記されていない。

しかし「明確な公式回答は出ていません」で締めるのは面白くないためあくまで非公式の余談と割り切ったうえで少しSCP-9944に対する考察をさせていただこう。

話中に出てきた3件のインシデントログだが、娘が帰らないことに腹を立てて暴れたジョンソンさんはともかく十日余り廃墟で呆けていたジョーダンさんの事例と最後の身元不明死体の事例は『実際には存在しない人間の記憶を挟み込む』というSCP-9944の異常生と照らし合わせても明らかに不自然である。

まず身元不明死体の方だが手紙にある「まま」「はやくよくなってね」といった拙い表現を見るに年齢が書かれずとも恐らくこの死体は子供であることが察せられる *3 。しかし『人口を実際よりも多く見せる』というSCP-9944の性質に対し『戸籍も個人情報も一切ない(=人口としてカウントされにくい)死体を出現させる』というのはどうにも食合せが悪い。

またジョーダンさんの事例にしても『友人と新年祝いをした』という記憶を挟めば『存在しない人間との交流』という実感など一瞬で植え付けられるものを、わざわざ無人倉庫におびき寄せ十数日拘束し、空の酒瓶で囲んでその上ジョーダンさんからパーティーの記憶を無くすといった形が取られている。

これらから察するにSCP-9944の異常性は

偽の記憶や取引を作り、人口が多いように見せる

ではなく

実感や物証だけを残して現実と記憶から人間を無かったことにする

あるいは

なんらかの要因で世界から消えた人間の情報を保存する

というものなのではないだろうか。
つまり身元不明の死体は「母親を思うどこかの子供」が記憶・記録上から消された痕跡。ジョーダンさんの事例は実際に友人達と新年祝いをしていた所で「ジョーダンさんの友人」が消され、その結果友人宅が「持ち主不詳の放置された空き家」と認識されたというわけである。

そうなってくると最後に登場した実際の世界人口と実感の上での世界人口の差を埋める人口再建計画は根本的対処にはなり得ず、仮に人間を増やしたところでまた消されるだけという未来が簡単に予想できる。


このままSCP-9944の規模が大きくなり実際の世界人口がどんどん減っていった先、そこに待っているのはおそらく………


SCP-9944

孤独の星(A Lonely Planet)


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最終更新:2026年11月02日 00:48

*1 その国が一定期間中に生み出した付加価値の合計。

*2 記事内に載せられなかった、敢えて載せなかった情報などをまとめたもの。

*3 なお原語版でのこの部分はそれぞれ「mum」「Get will soon」と表現されているため必ずしもこの死体が子供であるという保証は無い。