登録日:2011/06/06 Mon 07:44:10
更新日:2024/09/03 Tue 23:31:18
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◆百器徒然袋◎雨
京極夏彦の小説作品。
氏の代表作である「
妖怪シリーズ(百鬼夜行シリーズ)」の外伝作品で、
本邦ミステリー史に於て最も探偵らしくない探偵と讃えられたる薔薇十字探偵 榎木津礼二郎を世界の中心に据えたスピンオフ作品である。
八方塞がりの状況を力ずくで粉砕する「探偵」による「探偵」の為の破天荒な「探偵小説」であり、
物語の構成は本筋の長編シリーズに似るものの、レギュラーキャラクターのドタバタを描くのが主筋となっており、所謂“昏い”事件は描かれていないのが特徴。
小説現代増刊号「メフィスト」への掲載を経て、99年に「講談社ノベルス」から新書版が刊行。
現在は文庫版も存在する。
また、本作を題材にしたラジオドラマも製作されているが、ここでは原作となる小説版の解説のみをしていく。
【概要】
語り部である「僕」が、如何にして探偵 榎木津礼二郎の依頼人となり、依頼人転じて「下僕」の一人となったのか……を、
回想と云う形で「事件」を振り返り乍ら語ると云うスタイルが取られている。
尚、語り部である「僕」は年齢や職業こそ冒頭で明かされるものの、肝心の名前に就いては最後の最後まで曖昧なままにされており、
所謂「オチ」として扱われているのも特徴。
また、この時点では予告すらされていなかった『
邪魅の雫』や『
陰摩羅鬼の瑕』の話題が登場している事からも判る様に、
レギュラーシリーズの時系列としては、かなり後発にある事が判る。
【三つの物語】
◎鳴釜 薔薇十字探偵の憂鬱
●鳴釜
「それじゃあ探偵を紹介しましょう」
……世間では「通産官僚の汚職脱税事件」……そう呼ばれている「鳴釜」事件に「僕」が関わったのは妹の様な存在だった姪の早苗が、
奉公に出ていた先の御曹司らに暴行され、父親不明の赤ん坊を産んだ事が契機だった……。
知己の大河内康治に件の懸案を相談した「僕」が言われたのは、そんな意外な一言だった……。
「僕」が如何に榎木津礼二郎の依頼人となったのか。
また、榎木津とその「下僕」達が如何に「事件」を粉砕したのかを描く。
後、美弥子様が素敵。
……薔薇十字探偵の意外な優しさが垣間見える、「カマ」尽くしの一編!!
◎瓶長 薔薇十字探偵の鬱憤
●瓶長
「僕が……明日にでも行ってみましょうか」
……探偵 榎木津礼二郎の回復の報せを聞いた「僕」は「鳴釜」事件を解決してくれた御礼をするべく、再び「薔薇十字探偵事務所」に向かった。
そこでは、奇妙な顔をした古物商 今川雅澄が榎木津に幼稚な発言でバカにされていた真っ最中であり、
例の如く榎木津らは「面倒」な事件……世間では「茶道具屋の書画骨董贋作」事件こと「瓶長」事件に関わっていたのであった。
……気付くと、「僕」もまた、榎木津の「下僕」達に交じり、半ば能動的に……事件に深く関わっていた……。
竈馬と並ぶ天敵、最中に挑む薔薇十字探偵とまたもや担ぎ出される京極堂に、暴走刑事 木場!
……破壊神の如き薔薇十字探偵の超人的な強さが光る「カメ」尽くしの一編!!
◎山颪 薔薇十字探偵の憤慨
●山颪
「事件のあらましを聞いて来てくれないか」
……そんな事は不可能なのに、隣に住む幼馴染みの紙芝居描き 近藤の云う事を聞いてしまった「僕」は、
「一味」の中では最も話の判りそうな中野「京極堂」の主人 中禅寺秋彦に榎木津の解決した大磯海岸の話を聞きに赴いてしまう……。
そして、「下僕」の中の「下僕」たる「下僕王」関口巽と遂に邂逅を果たすのだった。
挙句……三度能動的に「高級茶寮を舞台にした大規模美術品盗難事件」こと「山颪」事件に、榎木津の「下僕」達の一人……自らが名付けた「一味」の一人として、
どっぷりと嵌まってしまっていたのだった。
山嵐探しに奔走する薔薇十字探偵の快刀乱麻の審判が炸裂する、「トゲ」に焦がれて、「生き埋め」に彩られた一編!!
【主要登場人物】
「死んでも無理だと云う意味だ。いいか良く聞け。僕が許すものが善で、許さないものが悪だ。他に基準はない!」
この世界の中心たる薔薇十字探偵。
元華族にして財閥の御曹司、容姿端麗頭脳明晰にして、あらゆる物を粉砕する破壊神の如き男。
水気の無い菓子と竈馬が大嫌い。でも赤ちゃんと小動物には優しい…かも知れない。
「意外に執ッ拗いんですよあのオジさん」
すっかり「地」が出た探偵助手。
前髪を伸ばしているのは「弱さ」をアピールする為。
他の「下僕」をバカにするが、一番苦労しているのは他ならぬ彼である。
「益カマ」と云う屈辱的なあだ名を拝領する。
榎木津の身の回りの世話を焼く、給仕兼探偵助手の青年で、父親の代から榎木津家に仕える。
事務所を切り盛りするお調子者。
「うへえ」
眼の間が若干狭まった撮影用の「下僕」の一人。
「何口です?」
榎木津の軍隊時代の部下にして、古い蒔絵職人の家系に生まれた古物商「待古庵」主人で「下僕」の一人。
「……美味しい」
榎木津の軍隊時代の部下で、戦災で焼けた割烹旅館の息子にして釣り堀「いさま屋」の主人。
代表的「下僕」の一人。
「神であります」
愛称はボロ松とかトド松。
前回の伊豆の事件で目黒署の刑事から八王子の駐在へと降格になったが、榎木津と云う「神」を得た依頼下僕。
……かなり有能。
「……推理はしないんです。彼は」
中禅寺や関口とは同窓。
榎木津を紹介する。
「返事をしやがれこの馬鹿探偵がッ!寝惚けてやがると土手っ腹に風穴開けて紐通すぞコラ!」
伊豆での暴走で所轄に降格になってた暴走刑事。
榎木津の幼馴染みで親友。
榎木津と榎木津に関わる人間を馬鹿呼ばわりするが、つまりは自らも馬鹿の一人である。
「何年経っても……変わりませんよ、あの連中は」
「下僕」の中の「下僕」と讃えられる「下僕王」……つまりは意外にも扱いは良い。
「
塗仏の宴」の後の話だけに、無事な姿にファンは一安心か?
長編シリーズでは多く、語り部、主人公として扱われる為に他人から客観的に見られた関口が描写されるのは実は珍しい。
「あ……悪趣味なことを考えてしまった」
古書肆「京極堂」の主人で、本作では彼の通常業務がサブで描かれている。
文句を云い乍らも「仕掛け」の大半は彼が行う辺り、どう考えても楽しんでいる様な……。
精緻な筆で客層の幼子が泣く様な絵とリアリティを重視し過ぎて救いの無いエログロ満載の物語を描き上げる、当然よいこも普通の読者もドン引きな話は受けす路線変更を迫られた幼馴染みの紙芝居描き。
……調査中に覗き見た益田には女性から漂う色気が好評だった。
「解っただろう。あの人達は友達じゃない。一味なんだよ」
若い図面引きで、榎木津の依頼人になった後に依頼下僕となる。
同シリーズの語り部。
名前が明かされるのは最後で、それまでは
偽名やら適当に呼び掛けられる。
※因みに正解は
【余談】
続刊として「
百器徒然袋 風」が存在する。
タイトルの「百器徒然袋」とは鳥山石燕の「画図百鬼夜行」のシリーズ本のタイトルから取られた物。
器物の妖怪が多く記載されている夢心に思いぬ。
神天の露と地の腴、及びアニヲタの妄想と慾を項目に賜え……。
榎「さァ項目が立ったぞ箱人間!!追記をする者は僕に申し出るが良い……勧榎木津懲悪だ!!」
- 是非実写化して欲しい。 -- 名無しさん (2014-09-13 17:32:11)
- 確かにそうだが映画の配役は変えて貰いたい -- 名無しさん (2014-09-13 19:22:13)
- 私は役者では無いが、もしやらせてもらえるなら、おかまの金ちゃん役をやってみたい。 -- 名無しさん (2014-09-16 07:52:16)
- 今やるなら小栗旬になるんだろうなあ、榎さん。 -- 名無しさん (2017-04-24 10:52:45)
- その後の美弥子お嬢様早苗さんや金ちゃんと友達になってて草 -- 名無しさん (2019-06-27 10:54:15)
最終更新:2024年09月03日 23:31