まず一つ、シルフィーヌ二世との契約を果たせないのではないかと相手に思われかねない状況であること。
実際のところガスペリ銀行は各支店にも様々なものを保管しており、その財貨を使えば資金や物資の供出は十分可能だった。しかし当のシルフィーヌ本人がトリア市の炎上とフローレンシア市からの移送により契約履行は不可能と判断してしまえば、それは無意味になる。それはリリアーナとしては不本意である。
ここでシルフィーヌ二世との約束を違わなければ、ガスペリ銀行への信用が回復できる――そういう算段でもあるからだ。
実際のところガスペリ銀行は各支店にも様々なものを保管しており、その財貨を使えば資金や物資の供出は十分可能だった。しかし当のシルフィーヌ本人がトリア市の炎上とフローレンシア市からの移送により契約履行は不可能と判断してしまえば、それは無意味になる。それはリリアーナとしては不本意である。
ここでシルフィーヌ二世との約束を違わなければ、ガスペリ銀行への信用が回復できる――そういう算段でもあるからだ。
二つ目は戦線。いくら共和国同盟の政治を裏で動かせるといえど、表向きはガスペリ家の本来の家業を任されただけの女。それ故に彼女に入ってくる情報は叔父より少ないものなれど――なんとなく状況は理解できる。
共和国同盟の即応戦力と傭兵では、戦線の維持がやっと。下手に本腰を入れられた攻勢では耐えられない可能性すらアリ。
ただし、海に関しては部分的に優勢。(テルミドール側が飛べることと現地からの略奪重視なので、水運に力を入れていないこともあるが)
未完成の国家の未完成の軍隊でここまでやれている、とも言えるが。それでもテルミドールの本軍すら出ていないだろうこの状況で維持がやっとというのは心苦しい。
共和国同盟の即応戦力と傭兵では、戦線の維持がやっと。下手に本腰を入れられた攻勢では耐えられない可能性すらアリ。
ただし、海に関しては部分的に優勢。(テルミドール側が飛べることと現地からの略奪重視なので、水運に力を入れていないこともあるが)
未完成の国家の未完成の軍隊でここまでやれている、とも言えるが。それでもテルミドールの本軍すら出ていないだろうこの状況で維持がやっとというのは心苦しい。
三つ目は彼女の駒、大海蛇の毒弾の指揮系統の麻痺。
トリア市の者は今になってメリーザ指揮下である程度まとまっているが、何人か中間役が魔族に殺されたようで再編が必要になっていた。これも多少時間がかかる。
トリア市の者は今になってメリーザ指揮下である程度まとまっているが、何人か中間役が魔族に殺されたようで再編が必要になっていた。これも多少時間がかかる。
そして四つ目、アメーリアの安否とその後。
無事であることはわかったが、それでもリリアーナにとっては懸案事項であり、考えることの一つ。
勿論グラジオが隣にいれば最悪は避けられるし、何ならアメーリアの身辺保護の功績を理由に己の養子にしてしまえば、アメーリアと対等な身分として婚姻させられるかもしれないとすら考えていたが。そんなことを考える下世話さというか己のろくでもなさに流石に嫌気が差して、甘いフォーティファイド・ワイン(酒精協会ワイン、我々の世界で言うところのポートワインやシェリーなど)を煽った。
無事であることはわかったが、それでもリリアーナにとっては懸案事項であり、考えることの一つ。
勿論グラジオが隣にいれば最悪は避けられるし、何ならアメーリアの身辺保護の功績を理由に己の養子にしてしまえば、アメーリアと対等な身分として婚姻させられるかもしれないとすら考えていたが。そんなことを考える下世話さというか己のろくでもなさに流石に嫌気が差して、甘いフォーティファイド・ワイン(酒精協会ワイン、我々の世界で言うところのポートワインやシェリーなど)を煽った。
最大の懸案もある。
それは、もし己の代でガスペリ家の商業が終わるのであれば、きっとリリアーナこそが無能として歴史に残るのではないか、権力欲に飢えていて謀略が趣味でその癖運はないから家を傾けた――そんな評価だけは避けたかった。
無能と歴史に遺されること、そんなことは必要なら泥水でも毒でもなんならテルミドールやニコラス三世の小便でも飲んでやると覚悟しているリリアーナにとって、本当に避けたい最後の砦だった。
有能とされながら早世した父と並ぶくらいには扱われたい、もし同時代の何人かが偉大な君主として名を遺すのであればそれに並ぶ『偉大な頭取』でありたい、そして『無能な頭取』の部下となってしまうことで着いてきてくれている無数の部下の名誉を汚したくない。
そんなことも考えてしまい、またフォーティファイド・ワインを煽る。
とはいえ流石に瓶1本を数日で飲み干したところで止められたが。
それは、もし己の代でガスペリ家の商業が終わるのであれば、きっとリリアーナこそが無能として歴史に残るのではないか、権力欲に飢えていて謀略が趣味でその癖運はないから家を傾けた――そんな評価だけは避けたかった。
無能と歴史に遺されること、そんなことは必要なら泥水でも毒でもなんならテルミドールやニコラス三世の小便でも飲んでやると覚悟しているリリアーナにとって、本当に避けたい最後の砦だった。
有能とされながら早世した父と並ぶくらいには扱われたい、もし同時代の何人かが偉大な君主として名を遺すのであればそれに並ぶ『偉大な頭取』でありたい、そして『無能な頭取』の部下となってしまうことで着いてきてくれている無数の部下の名誉を汚したくない。
そんなことも考えてしまい、またフォーティファイド・ワインを煽る。
とはいえ流石に瓶1本を数日で飲み干したところで止められたが。
他にも無数の懸案があった。忠誠心の低い支店長の離反の阻止、顧客離れや信用低下への対策、発行した債権の信用低下に伴う価値の下落とその対策――一つ一つ潰し、なんとかしなければならない。
億劫だが、それも仕事。
億劫だが、それも仕事。
ただ、わかっていても――
「銀の弾丸には、全てを解決する一発という意味を持たせる者も居たそうですが。今の私に必要なのは毒弾ではなく銀弾ですね。まあ、ガスペリ家にとっては私こそがそうなのかもしれませんが」
どうしても、多少の気落ちくらいするのだった。